表示件数
0

幺妖造物茶会 Act 13

精霊はこちらを睨みながら静かに唸っている。
「きーちゃん、とにかくその子を返してみたら?」
かすみにそう言われて、キヲンは腕の中の精霊に目を落とす。
「…」
キヲンは暫く小さな精霊を見つめていたが、やがて分かったと小さな精霊を地面に置いた。
「ばいばい」
小さな精霊はぽてぽてと親と思しき精霊に駆け寄って行く。
親と思しき精霊は唸るのをやめて、小さな精霊に擦り寄った。
「…親子だったみたいだね」
その様子を見て、かすみはポツリと呟く。
「なんだ、そういうことだったのか」
慌てて損した、とナツィはため息をつく。
「あら、お前あの2体が親子だってことに気付いてなかったの?」
ピスケスはナツィに嫌味っぽく言う。
「そう言うお前だって気付いてなかったじゃないか」
1世紀くらい生きてるクセに、とナツィは言い返す。
ピスケスはうふふと笑った。
「よかったね、親の元に帰れて」
キヲンは1人ポツリと呟いた。
「…じゃ、そろそろ戻ろっか」
精霊を元の場所に返したし、とかすみはキヲンに話しかける。
「うん!」
キヲンは大きく頷いた。

〈幺妖造物茶会 おわり〉

0

時間

気がついたら今日が終わってた
気がついたら五月が終わってた

気がついたら六月が終わりそう

どうしようもないこと
あたりまえなこと

なんでもないこと

なのに
涙が出た

0

雨傘造物帰路 下

「あ、あと」
かすみは思い出したように続ける。
「そんなにずぶ濡れだと“あの人”が心配するよ」
「…なっ」
かすみにそう言われて、ナツィは思わず恥ずかしそうな顔をする。
「…ふふふ」
かすみはそう笑ったが、ナツィはそっぽを向いて顔を赤くしていた。
「あ、あんまりそう言うこと言われたくないんだけど」
特に“アイツ“のことは…とナツィは呟く。
「やっぱり好きなの?」
”あの人”のこと、とかすみは首を傾げる。
「好きって訳じゃないけど…」
大事って言うか、とナツィはしどろもどろになりながら言う。
「そっか」
かすみはそう言って笑みを浮かべる。
「…行こう、ナツィ」
いつまでも雨の中で突っ立ってる訳にはいかないし、とかすみはナツィの手を取る。
「…うん」
ナツィはそう頷いて、かすみがさす折り畳み傘の中に入っていった。

〈雨傘造物帰路 おわり〉