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Daemonium Bellum RE:堕ちた明星と狼 Act 4

「知り合い、かな」
そう言ってサタンは天使の腕を掴むと後ろに向かって引き倒した。
「⁈」
倒された天使は突然のことに困惑する。他の2人の天使はコイツ‼︎と飛びかかったが見事に避けられて地面に倒れ込む。あっという間に天使3人を倒してしまったサタンは後ろで呆然とその様子を見ている帽子の人物に目を向けた。
「…おや、まだ逃げてなかったの?」
君追われてるんじゃなかったっけ〜とサタンは外套の頭巾を外しながら帽子の人物に近付く。その顔を見て帽子の人物は驚いたような顔をした。
「…お前は」
「あ、気付いた〜?」
帽子の人物の言葉に対しサタンはそう言って笑う。
「いつか一緒に戦ったでしょう…“アモン”」
サタンがそう言った所で背後から…お前と声がした。2人が振り向くと先程倒した天使たちが立ち上がっていた。
「悪魔に協力しているなんて、許せん…」
悪魔もろとも倒して…と呟きながらふらふらと天使たちはサタンたちの方に近寄ろうとする。に、逃げるぞ!とアモンはサタンの手を引いて走り出す。サタンはえ、ちょっと〜と言いつつもその場を離れた。

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視える世界を超えて エピソード6:月夜 その⑩

「勝っ…………た……?」
少女は放心しつつ呟いてから、緊張の糸が切れたかのように倒れ込んだ。
風化を解除した鎌鼬が少女に近寄り、その背中をつついたが、反応は皆無であった。
「わー……完全に気ぃ失っちゃってますよこの子。師匠ぉー?」
怪異の死骸の方に呼びかけると、その後ろから先ほどまで怪異を捕えて動かないよう止め続けていた種枚が顔を出した。
「まァ、こんなデカい仕事終わらせたんだ。ゆっくり休みゃ良い」
種枚は死骸に刺さっていた刀を抜き、少女の前に放り投げ、少女の髪を掴んで顔を覗き込んだ。
「…………師匠? まさかその子、食ったりしませんよね?」
数分、微動だにせず少女の顔を眺め続けていた種枚に、鎌鼬が恐る恐る尋ねた。
「あァ? 馬鹿言え、お前じゃ無いんだぞ?」
「いや別に俺も人間獲って食うような真似した覚えは無いッス」
「お前が覚えてないだけだよ馬鹿息子め」
「……え? いや待って師匠? 俺、何かやらかしてたんですか?」
動揺する鎌鼬には反応を返さず、種枚は少女の頬や頭を軽く叩き、身体を揺すり、起こそうとしていた。
「…………ん……?」
しばらく揺さぶられ続け、ようやく少女が目を覚ました。
「起きたかイ。おはよう、お疲れ様」
歯を見せるように笑いかけた種枚に、少女は一瞬怯えたような視線を投げた。髪を乱暴に掴まれ頭を持ち上げられている状態では、致し方ないことであろう。

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Daemonium Bellum RE:ふぉーるんらぼらとり キャラクター集

・堕天使
追放組の堕天使。反逆については自分馬鹿なことやったよなー……くらいの認識。何かもう色々とどうでも良くなって現在は孤独に天使と悪魔の研究をしている。権能は『武器使用の最効率化』。片翼を失って尚その力は衰えず、というか元々そこまで強くない権能であり、雑に言うと武器扱いの品物で発揮する威力が結構高くなり、扱う腕前も強化されるというもの。

・悪魔氏
異形態は鼠色の不定形の物体。スライムみたいな見た目で『首』という概念が無い。また、心臓の代わりに全身の体組織と血管が直接血流を発生させており、『心臓』も存在しない。人間のことは混沌発生器だと思ってるから割と好き。好きだから天使や悪魔のせいで死ぬところはあまり見たくない。天使のことは悪魔を攻撃する分には特に何とも思わない派。でも陣営単位では対立してるから遭遇したら死ぬほど煽り散らす。権能は『人間の死の奪取』。何、大切な人に死んでほしくない? 良いね、優しい願いだ。叶えてあげよう、『死なないだけ』で良いなら。

・天使氏
不幸にも巻き込まれたちょっとかわいそうな天使のひと。対立過激派で堕天使や悪魔を見下し嫌っている節がある。人間のことは守らなきゃいけない存在だと思っているので、人質にされると弱い。権能は『電撃の操作』。ビリビリのバチバチ。

・人間さん
天使氏がいなければ巻き込まれなかったであろうガチでかわいそうなホモサピ。

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革命のレイ〜第2話 惨状〜

言葉を飲み込んで沈黙を破った。
「残念だが平行線だな」
「だからこうして足繁く通う価値がある」
そう言いきると、彼は皮肉がちに笑った。
「物好きだな」
レイは呆れたように歩き出した。
「お前に言われたくはない」
ムーラがレイの後ろ姿に向かって言うがレイは振り返ることなくそのまま馬車の中へ消えていった。
「ムーラ…お前はなぜ…あいつの後を追う?」
馬車の窓からは戦火の跡と追いやられた人間の泥臭い作業の姿が見えた。
『惨く醜いな、これが辞め方を失った物の末路だ。だからお前は始めるな、お前の戦争を』
「父の言葉なんか…」
その景色の凄惨さにレイは先のムーラとの会話と父と最後に交わした会話が重なった。
「…イさん、レイさん!」
そんな考え事をしている間に到着したようで馬を走らせていた付き人のケイが客車の扉を開けた。
「あ、すまない」
「珍しいですね、いつもは着いたらすぐに降りるのに」
「ストーカーを躱すのに疲れてるだけさ」
そう言ってレイは少し笑って馬車を降り、目的地であるファーム(人間の居住地)の出口の扉を通った。

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Daemonium Bellum RE:ふぉーるんらぼらとり その⑨

青年が片手剣を構え、悪魔氏に突撃する。悪魔氏はすぐに不定形の物質に姿を変え、回避を試みる。けれどあまりにも素早い斬撃の連続に変形が間に合っておらず、みるみるうちに床と壁、天井が悪魔氏の血飛沫に染まっていく。
「こ、これはやべェ……再生が追い付いてねェや。ガチで強いなこれ。お前なんでロングソードなんか使ってンだよ」
少し小さくなった鼠色の物質が震えながら言う。
「射程はあった方が得でしょうよ」
「たしかに」
短い会話の後、また青年が斬りつける。鼠色の物質は変形による回避を止め、部屋全体を飛び跳ねるようにして回避を試み始めた。これによって悪魔氏の回避率はだいぶ向上したように見えるが、それでも先ほどの7割程度の攻撃は継続して直撃しているように見える。
「あッ」
しばらく跳ね回っていると、悪魔氏が素っ頓狂な声をあげて扉に激突した。そこに青年が斬撃を加えたことで、勢いで扉が吹き飛び、悪魔氏が室外に押し出された。
「あっ」
「お前……鍵くらい掛けとけよなァ」
「してたのに壊れたんですけど」
「そっかー。ンじゃ、開いたから取り敢えずそこのカワイソーなヒトカスは追い出して良いか?」
「天使さんごと放り出しといてください」
「アイよ。危ねーから天使の方の拘束は放置で良いか」
「そうですねー」
青年が私に近寄って来て、手足の拘束を片手剣で切ってくれた。
「それじゃ、お帰りくださーい。あなたの住んでる町は東に歩いて半日ほどなので」
青年と悪魔氏に見送られながら、その部屋……というか小屋を後にした。

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逃鷲造物茶会 Act 3

「昼間にここの喫茶店に来た者よ」
柵にもたれる少女がそう言うと、かすみはえ、なんでここに?と尋ねる。
しかし少女はそれを遮るように続けた。
「突然だけどあなたにちょっとお願いがあるの」
少女はそう言いながらかすみに向かって歩き出す。
え、何…とかすみが困惑する中、少女は続ける。
「実は、詳しいことは言えないけどわたし今追われているの」
「へ?」
ポカンとするかすみをよそに少女はかすみに近付く。
「このまま逃げ続けるのも体力に限界があるわ」
という訳で、と少女はかすみの目の前で立ち止まる。
「わたしをちょっとばかしここで匿ってくれない?」
「…はぁ」
思わぬ言葉にかすみははぁ、と返す。
「もちろん長期間居座るつもりはないわ」
1日ほど隠れさせてもらうだけ、と少女はかすみの顔を覗き込む。

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※カスタードの元素記号

クリームパンが今日もおいしい。
愛している、など 虚言に等しい。

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厄災どおる:設定④

・“疱瘡神”イユ
性別:女性  外見年齢:10歳  身長:136㎝
人形の材質:純鉄  悪意:殺意
災害:とある伝染病  能力:動物を対象とした病的ダメージ
説明:最古の“厄災どおる”。今はもう撲滅されたとある伝染病が国内に蔓延していた頃に生み出され、それからずっと人間のために働いてくれている。彼女を生み出した呪術師は既に死んでいるが、その人が「これからは人間のために生きなさい」って最初に言ってきたので、自分が死ぬまでは人間のために尽くす。
頑固だが融通は割と利き、そして飽きっぽいという何とも言えない性格。しょっちゅう「殺す!」って言うし言った以上は殺そうとするけど、基本的にプラスチック製の玩具のバットで背中とかを引っ叩いてくるだけなのでそこまで危険ではない。
戦闘面においては耐久力に優れ、能力を発動すると周囲の動物(ホモサピはサル目ヒト科やぞ)やどおるは全身から血を噴き出して衰弱し動けなくなる。別に病気になるわけでは無く、単純にその症状に襲われるというだけ。件の伝染病の治療薬と同じ成分で症状の治療自体はできるので、彼女の為だけに治療薬が今も少量製造され続けている。
ちなみに愛称の「イユ」は「癒ゆ(いゆ)」が由来。

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厄災どおる:設定③

・国定呪術師
封人形を用いて“厄災どおる”を生み出し、どおる達を世話したり災害に対処したりする職業。そこそこ難易度の高い試験とそこそこ長い研修期間を経てようやく就くことができる国家公務員。定年は無い。死ぬまで働いてもらわないと困るので。年1ペースで募集され、1度に10人弱が入ってくる。現在の職業人口はギリギリ4桁に届かないくらい。

・国定人形技師
封人形を制作する職業及びそのために必要な資格。呪術的な素養と単純な人形制作の腕が必要な職人系ジョブ。国から補助金も出るので、結構稼げる。公務員では無い。呪術パートが結構危険なので、なりたがる人はあまり多くない。だからこそ国が金出して人員確保しようとしてるわけで。ちなみに呪術の行使は法律で資格が必要と定められている。国定呪術師の中にはこの資格を持っている者も少なからずいる。

・防災省/呪術対策課
“厄災どおる”関係のお仕事をしているお役人さん達の勤め先。防災省は普通に防災対策やらアフターケアやらに尽力し、その中の呪術対策課が“厄災どおる”についての大体の業務を担当している。『発生している』災害しか対象にできない都合上、初動に対してどおるや呪術師の皆さんは無力なので、防災省のお仕事は結構責任重大。彼らが初手で踏ん張ってくれれば呪術対策課とどおる達が全て何とかしてくれます。壊れた国は防災省が何とかしてくれる。

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Daemonium Bellum RE:堕ちた明星と狼 Act 3

人々で混み合う市の通りを帽子を目深に被った人物が走っていく。道行く人々は突然人混みをかき分けていく人物に驚きながらそれを避けたり、ぶつかってしまったりする。上空からの天使の追跡を逃れるように逃げていくその人物はいつの間にか人気のない街の外れまで来ていた。
「…」
帽子の人物は周囲に人がいないことを確認すると、ホッとしたように近くの壁に寄りかかる。しかし突然、ねぇと話しかけられて帽子の人物はビクッと飛び跳ねる。
帽子の人物が声のする方を見ると、地上では中々見られないような白い外套を着て頭巾を目深に被った人物が立っていた。
「やぁ」
「て、テメェ」
何者だと帽子の人物は後ずさる。白い外套の人物はふふふと笑みを浮かべる。
「ぼくは“サタン”」
見ての通りただの堕天使、と白い外套の人物は右手を胸に当てる。
「なんだよ」
一体堕天使サマが何の用、と帽子の人物が言いかけるとサタンは帽子の人物の口に右の人差し指を突きつける。
「今からぼくが君を助けてあげよう」
「は?」
なんで俺がテメェなんかに…と帽子の人物が言いかけた所で不意に上空から声が聞こえた。
「見つけたぞ‼︎」
この悪魔め!と3人の天使が舞い降りてくる。
「うぉやっべ!」
帽子の人物はそう言って駆け出した。サタンはちょっと待ってよ〜と引き留めようとしたが、おいと後ろから声をかけられて振り向く。そこには上空から舞い降りてきた天使たちがいた。
「そこのお前、アイツを知っているのか」
白い制服を着た天使の1人がそう尋ねる。サタンはあーえっとね〜とにやにやする。

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厄災どおる:設定②

・封人形
“厄災どおる”を生み出すための人形。竹の地下茎を切り出し加工した心臓のような形状のパーツに、様々な素材を材料にした人型の人形が抱き着いたような外見をした、凡そてのひらサイズ程度の人形。
人型部分の材質は、生み出された“厄災どおる”の強さに影響する。具体的には身体能力と防御力、精神性あたり。どう影響するかと問われるとちょっと困る。割と色んな影響の仕方をする。
特別な名称があるわけではないが、説明時に呼称は必要なので取り敢えず『封人形』『封印人形』と呼ばれることが多い。

使い方は簡単。災害が起きた時に災害の中心あるいは元凶に投げつけたり押し付けたりするとあら不思議、災害は収まりそこには幼い少年少女が。この行程は道具などを用いて間接的に行っても良いです。
生み出された直後、“厄災どおる”は大抵の場合自我が十分に発達していないので、人型になる前と変わらず暴れようとします。封人形を使用した呪術師が直々に追加で呪術的エネルギーを注ぎ込むか、既に人類の味方をしているどおるがボコボコにして(大抵の場合相手が強すぎて人間には太刀打ちできないので)どっちが上か分からせてから追加で呪術的エネルギーを注ぎ込んで仲間にしましょう。封人形に込められた呪術によって、どおるは大人しくなって呪術師の言うことを聞くようになります。

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厄災どおる:設定①

・“厄災どおる”
様々な災害(天災、地災、人災すべて含む)を、専用の人形を核として人型に凝縮した存在。
基本的には小学生~大きくても中学1、2年程度の幼い子どもの姿をしており、その男女比はおおよそ男3:女97(1d100で決めた。思った以上に女の子ばっかりで草)。
大規模な災害によって生じるエネルギーが小さな身体に封じ込められているので、体温は高い。最低でも37度台はある。ぽかぽか。
心臓部分には封人形(後述)が入っており、血液の代わりに微妙に粘度の高い透明な液体が体内を流れている。心臓型のパーツが特に意味も無く拍動しているため、脈拍もある。
肉体の成長は起きず、呼吸や食事や睡眠は必要はないが気分で摂る。でも発声のためには必須だから呼吸は大体してる。
ダメージは封人形にも反映され、一度体内から封人形を取り出し人型部分を修繕してから元の位置に戻せば身体もまた治る。それ以外の方法では回復せず(一応体内液の粘度のお陰で時間経過で出血は勝手に止まる)、体内液が切れたり封人形の心臓部分が破壊されたりすると死ぬ。
己の元になった災害を特殊能力として利用することができる。
また、元々人類(それ以外も)を害する存在だったのが無理やり封じられている状態なので、その表れか口が悪い。具体的には言葉遣いに悪意だったり殺意だったり見下していたりの悪感情が含まれているように感じられる。でも呪術的に制限されているので人間のために働いてくれるし人間に悪さすることは無い。能力発動中に偶然範囲内にいた奴の事は知らん。戦闘前に退避しろ。

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ほーりーふぁいと あくと2

向こうから来たのは僕のご主人様、リリィ様!この辺では本当に稀有な四枚羽の天使様で、柔らかい長髪と大きな青い瞳が特徴だ。
「げぇ…」
悪魔は露骨に嫌な顔をする。
「うげえっ」
リリィ様も嫌な顔をする。暫く沈黙する。

「…四枚羽…ここお前ん家かよ…」
「アーサー!?なんでいんのよ!帰れ!」
リリィ様が取り乱している。め、珍しい…。というか、知り合いだったのか。僕はなんか妙に冷静になってしまった。
「嫌だね!つかこいつ、お前の?」
リリィ様にアーサー、と呼ばれた悪魔は僕の肩を抱き寄せてきた。
「所有物みたいに言わないで頂戴!…まあ、私の召使いだけど…」
「ふぅん、片羽を採用したわけか」
「ていうかその子に触らないで?あと私の家で息をしないで。動いたら殴るわよ」
「はぁ?黙れよその口縫うぞ」
「私のような麗しい天使になんてこと言うのよこの二又悪魔!」
「表でろメスゴリラァ!!」
四枚羽のリリィ様と、尻尾が二又のアーサーさんが睨み合っている。ああ、喧嘩になりそう…。

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厄災どおる:世界観

よりにもよって3月11日になる3時間前に思いついてしまったため、流石に投稿はどうなんやってなったやつ。別に企画って訳じゃないけど取り敢えず設定だけ書こうね。使える人がいたら勝手に使っても良いよ。

舞台は現代、とある災害大国。現実で言うところの日本語と全く同じ言語文化をしているだけの架空の国家です。小さな島国でありながら複数のプレートの境界上に存在し、気流・海流・周辺地形も複雑に絡み合った結果である、『我が国の特産品は災害である。唯一の欠点は輸出できないことだ』というブラックジョークがあるほどの多種多様な災害件数と、それへの備え、対災害技術は世界でも有名である。
さて、この国において主流のアニミズム的多神信仰において、疱瘡神、疫病神、貧乏神等をはじめとした『人間にとって害になる現象』を擬人化・神格化し、鎮めることでその影響を受けないことを間接的な『利益』として享受してきた歴史がある。
ここに注目し、様々な災害を子供の姿に封じ込め、大規模被害の防止及び人間のために活用しようと確立された半呪術的存在が、“厄災どおる”である(残り半分は防災科学)。
※ちなみにどうでも良いことだけど、どおるによって例のジョークにある「輸出できない」という問題が消えました。国力とか戦力(実力)とか外交とかそういう問題がヤバい。外交関係のお役人さんは頑張ってください。

ところで話は変わるんだが、福島土産に「ままどおる」ってお菓子があるじゃないですか。あれ美味しいですよね。いや特に意味は無いんだが。

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Daemonium Bellum RE:ふぉーるんらぼらとり その⑧

「マジかー……刃の内側まで潜れば安全圏だと思ったんだがなァ」
床に落ち、断面を接ごうと蠢く鼠色の物質。鳩尾の辺りまで食い込んだ刃を抜き、大きくよろめく青年。私は改めて、彼らが人外の怪物であることを認識した。
「……これだけ斬っても死なないとなると、ちょっぴり傷つきますねぇ……。俺、これでも両翼揃ってた頃は優秀な戦士で売ってたんですよ?」
「へェ。そいつァ素敵な売り文句だ。しかしこちらも“死神”で売ってんでねェ……。そうそう『死』を押し付けられるような真似しねェさ」
「えっ何それ初めて聞いた」
「ウン言ってねーもん」
「さて……話しているうちに傷もだいぶん塞がりました」
青年は長剣をまた放り捨て、代わりに全長50㎝足らずの片手剣を手にした。
「『長くて重い』はたしかに『強さ』ですけど、同時に速さを邪魔する『枷』でもありますから。解決法は簡単な話、『短くて軽い』で代用すれば良い。どうせ刃が当たれば斬れるんだから」
「わぁお強ェ奴の言葉って感じだ。その調子で頑張って、削り切ってもろて」

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続編

勝手に消えていった作品の続きを書こうと思います。全部の作品は時間の関係上難しいので、(多分)1つに決めます。どれも読んでくれていた人がいたから、選んでほしいです。
・music on the way
中学校に入学した咲風と花見は不安や葛藤を抱えながら自分で道を歩んでいく青春コメディ。
・鬼の類 本文より抜粋↓
ここは東京都郊外。ある一軒家に住む7人と知人たちが繰り広げた話である。
・学校のトモダチ 本文より抜粋↓
踏んだとき、ねちょっと音がした。
正体なんか分からない。
分かりたくもない。
(「休み時間」というタイトルで書き込んでいる)
本文はまとめ「過去作品」で作っているので、読んでみてください。ただ、僕のページから書き込みを見る、で見た方が上記3作品以外にあるから、そっちで見てもらえた方が嬉しいです。music on the wayが良いと思う人は最高!スタンプ、鬼の類が良いと思う人はおつかれさまスタンプ、学校のトモダチが良いと思う人はうんうんスタンプを押してください。その他の作品が良いと思う人はレスで教えてください。お願いします。

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逃鷲造物茶会 Act 2

人々が寝静まる深夜遅く。
「今日もいつも通りだったなぁ」
そう呟きながら、寝巻きに着替えたかすみが2階から屋上に向かう階段を上っていく。
…かすみにとっては、寝る前に屋上を見にいくのが習慣だ。
何せここには屋上から出入りする者もいるからである。
面子によっては夜中でもしれっとやって来ることがあるため、かすみはそれを気にして屋上へ上がるのだ。
そうこうしている内にかすみは屋上に繋がる塔屋まで来て、扉を開けた。
その時だった。
「?」
かすみは屋上の柵にもたれている“誰か”がいることに気付いた。
しかもその姿は見覚えのあるものだった。
「…」
かすみが扉を閉めつつその人物の様子を見ていると、柵にもたれる人物はふふふと微笑んだ。
「昼間ぶりね」
店員さん、とその人物は小さく手を振る。
かすみは最初誰だかよく分かっていなかったが、その言葉で誰か気付いた。
「…えーっと、あ、昼間のお客さん」
かすみがそう言うと、相手はそうそうと笑う。

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Daemonium Bellum RE:堕ちた明星と狼 Act 2

昼、日が1番高い所へ昇り切った頃。
日干し煉瓦でできた建物が立ち並ぶ、小さな街の広場で開かれている市で、外套を身に纏い頭巾で顔を隠した2人組が人混みをかき分けつつ歩いている。
「人、多いね」
天界の天使より多そうと紫髪の堕天使が呟く。
「そりゃそうだよ」
この世界は天使より人間の方が多いんだから、と隣を歩く金髪の天使が答える。ふーんと頷きつつ紫髪の堕天使は辺りを見回す。市を行き交う人々は天界の天使や地上の悪魔たちに比べるとみすぼらしい姿をしているが、どこか力強さを感じさせる雰囲気を纏っており、市は活気に溢れていた。
「…意外と、天使が秩序で地上を平定しなくてもみんな幸せそうだね」
紫髪の堕天使が何気なくそう言うと、金髪の天使はもちろん!と笑う。
「案外人間っていうのは強いから…」
金髪の天使がそう言った所で、2人の間を無理やり通るように帽子を目深に被った人物が駆け抜けていく。2人が思わず通り過ぎていった人物が向かった方を見た時、いたぞ‼︎と上から声が飛んできた。見上げると、3人の白い制服を着た天使たちが市の通り上空を飛んでいった。
「今のって…」
金髪の天使が紫髪の堕天使の方を見ると、紫髪の堕天使は先程の帽子の人物が駆けていった方を見ていた。
「ぼす?」
「ねぇ“べべ”」
金髪の天使が紫髪の堕天使のことを呼ぶと、紫髪の堕天使は振り向かずに呟く。
「ぼく、ちょっと行ってくる」
「え?」
べべと呼ばれた金髪の天使がポカンとする中、紫髪の堕天使は帽子の人物が走っていった方に向かって駆け出す。
「ちょ、ちょっとぼす〜」
べべもその後を追いかけ始めた。

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少年少女色彩都市・某Edit. Modeling Master Amenonuboko その③

「おい、離れろエベルソル!」
新人くんがエベルソルに叫び、チャリオットから飛び降りながらガラスペンで何かを描き始めた。奴がアパートに半分入り込んでいる状態だから、馬や戦車は使いにくいんだろう。私の戦闘スタイルも広範囲を巻き込みやすいから狙いにくいな……。
「……でも、急がなくちゃ駄目だもんなー」
ガラスペンで小さな立方体をモデリングし、エベルソルにぶつける。表面が硬そうだったから反応するかは微妙なところだったけど、幸運にも奴は屋内に侵入しようともがくのを止めて、こちらを向くためにその首を引っ張り出した。
眼も鼻も耳も無い、大顎だけの爬虫類みたいな頭部がこちらに向けられる。それとほぼ同時に、新人くんが描いたのであろう可愛らしいうさぎさんがその頭部に飛びついた。
「あっうさぎー」
「ウサギは小さくても脚力に優れたパワフルな草食獣です!」
「そっか……お、これは都合が良い」
エベルソルがうさぎさんを振り解くために暴れ、アパートから離れて地面に下りた。
「新人くん、君はまず中の様子を確認して。要救助者がいないかとか」
「え、あっはい。そうだ、今なら軍馬も戦える!」
新人くんがそう言うと、チャリオットに繋がれていたままの馬たちから馬具が消え、エベルソルに一斉に突撃していった。
「では、ちょっと離れます!」
「うん、こっちは任せてー」
馬たちと協力してエベルソルの気を引いている隙に、新人くんは奴の脇をすり抜けて件の部屋に行くために階段を駆け上っていった。

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Daemonium Bellum RE:ふぉーるんらぼらとり その⑦

青年が悪魔氏に斬りかかる。悪魔氏はまたあの鼠色の不定形に姿を変えて回避しようとしたが、青年の斬撃はあまりにも素早く、不定形の物質を真っ二つにしてしまった。
断面から、真っ赤な血のような液体があふれ出る。悪魔も血は赤いのか。
「あがぁ……おい片羽根ェ、テメェ強いな」
「お褒めに与り光栄です。どうです? 死ねそうですか?」
「生憎と首も心臓も斬られてねェからなァ……どっちか消し飛ばしてから言え」
「どちらかと言わず、全身消し飛ばされたらどうでしょう」
「アー、死ぬかも。やってみろ……ッとその前に」
物質が一度悪魔氏の姿に戻り、椅子ごと私を蹴り倒してしまった。
「流石に巻き込まれて死なれても寝覚めが悪りィ」
「天使さんはどうします?」
「それは運が悪かったということで」
「了解です」
2人は戦闘を再開させた。決して広くはないこの部屋の容積、それをほぼ目一杯に使って、壁や天井すら足場として蹴りながら乱闘している。
時折彼らの戦闘の余波が天使氏に向かい、その身体を少しずつすり減らしていくが、天使氏もすぐに再生していくから、短剣が刺さったままの口以外に外傷は残らない。
もう何十度目かという青年の放った斬撃が壁に深く痕を残し、悪魔氏がその傷を足掛かりに壁を駆け、彼我の距離を詰める。眼前に迫った悪魔氏を、青年の長剣は既に捉えられない。
不定形の物質が青年の顔に迫ったその時、青年は長剣を手元で回転させ、自分の肩口に刃が食い込むのも構わず異形の悪魔氏を切り裂いた。

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逃鷲造物茶会 Act 1

昼下がり、とある小さな喫茶店の店内にて。
カウンターからエプロン姿のコドモがティーセットを載せたお盆を持ち上げる。
そしてそれを持ったまま窓際のテーブルに向かった。
「ご注文の…」
エプロン姿のコドモことかすみがそう言いつつティーセットをテーブルの上に置いた所で、目の前のイスに座る明るい茶髪の少女がこう言った。
「ここ、いい店じゃない」
突然の言葉にかすみはへ?と拍子抜けする。
「内装といい、雰囲気といい、わたしは好きよ」
少女はそう言うが、かすみははぁ、と返すだけだ。
「あらあなた、ここの店員さんなのに良さが分からないって言うの?」
もったいないわね、と少女は溢す。
「何年ここで働いてるの?」
少女に尋ねられ、かすみはふと宙を見上げる。
「えーと…1年半、くらい?」
かすみは首を傾げながら言った。
「ふーん」
結構長いじゃない、と少女はティーカップに紅茶を注ぎながら呟く。
「まぁ、自分はアルバイトじゃなくてマスターのお手伝いみたいなものだから…」
あんまりここの良さとか考えたことなかったなぁ、とかすみは笑う。
「そう」
少女は窓の外を見ながら頷いた。
するとここで店内のカウンターの向こうに座る店主の老人がかすみの名を呼んだ。
はい?とかすみが振り向くと、店主は2階のあの子たちが呼んでる、と店の奥を指さした。
「あ、分かりました〜」
かすみはそう言うと、じゃあ自分はこれでと少女に一礼してカウンターの方に向かった。

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Daemonium Bellum RE:ふぉーるんらぼらとり その⑥

来たる痛みと死に備え、反射的に目を瞑り身体を強張らせる。しかし、肉の潰れるような気持ち悪い音が聞こえるばかりで、恐れていたものはいつまでも襲ってこなかった。疑問に感じおそるおそる目を開くと、私から見て右側、悪魔氏がいた方から伸びてきた鼠色の物体が、青年の長剣を受け止めていた。
「……ッたくよォ…………俺らを『悪魔』と呼んでるのはテメエらだぜ? それをお前、人命救助なんかに使わせやがってよォ……!」
「ようやく出てきたか。それを待っていたんだ。俺の知る限り唯一無二の、『首も心臓も無い悪魔』!」
拘束を易々とすり抜けた鼠色の不定形の物質は、私の前で伸び上がり人型に、あの悪魔氏の姿に戻った。
「なるほどねェ……弱点皆無最強無敵の俺サマをご所望かい。で、その俺をどうするつもりだ?」
「勿論、殺します! あんたを殺せたとなれば、恐れるものはもう無いでしょう?」
「なるほど正論。それじゃ、恐れるものの無くなったテメェは何をするんだ?」
「いや別に……。普通に不可能を可能にする浪漫を追いたいだけですが」
「……そっかー…………。んじゃ、ヒトカスは解放してやれよ。本題は今、テメエの目の前に立ってるぜ?」
「あー、天使のひとの方は気にしない感じです?」
「まあ、うん……天使だし…………」
「了解。それじゃ、本気で殺し合いましょう!」

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いつもが戻らなくても
いつか幸せであるように
笑えるように
泣けるように
愛せるように
いきるように

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少年少女色彩都市・某Edit. Modeling Master Amenonuboko その②

「や、新人くん」
先に待っていた新人くんに挨拶する。新人くんはまだ13歳か14歳程度の細っこい男の子で、濃紺のロングコートを纏っていた。
「ぬぼ子さん、急に手伝いなんか頼んじゃってすいません。今日はよろしくお願いします」
「良いんだよぉそんなに恐縮しなくて。後輩のお世話も私たち先輩の仕事だからね。君も成長したら、自分より後輩の子を助けてあげるんだよ?」
「はい、それじゃあ急ぎましょう。俺が乗り物を用意します」
そう言って、新人くんは素早く空中に何かを描き始めた。流れるような動作で、迷いなくぐいぐいと描き進め、みるみるうちに2頭引きのチャリオットを完成させてしまった。
「ほら、乗ってください」
「うん……動物描くの上手いねぇ」
言いながら、恐る恐るその戦車に乗り込む。初めて乗るチャリオットはなかなかアンバランスで乗り心地が悪かった。もちろん、口にはしないのだけど。
「では、行きますよ!」
新人くんが手綱を振るうと、2頭の馬が駆け出し、チャリオットは空を走り始めた。
「うわぁ! 飛んだ⁉」
「ほら、天高く、って言うでしょう?」
「越ゆるのかー」
そもそも今の季節は春では……? まあ良いや。
彼の駆るチャリオットは彩市上空をすごい速度で飛んでいき、あっという間に目的地へ到着した。
外見上はただのアパート。しかしてその実態は、ほぼ全室に腕利きのアーティストが居住、あるいはアトリエとして利用しているという、彩市民の間ではそこそこ有名な芸術家の集まるアパートだ。
そしてその一室に首を突っ込んでいる、大理石みたいな質感のエベルソルが1体。新人くんに任されているだけあってか、そこまで大きいサイズではないみたい。

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Daemonium Bellum RE:堕ちた明星と狼 Act 1

「この者を堕天の刑に処す‼︎」
「お前のせいであんなことになったんだぞ」
「やっぱり堕ちて当然よねぇ」
「さっさとここから失せろ」
「消えやがれ」
「…」
朝、日がそこそこに昇った頃、森の中の古びた屋敷の片隅の部屋にある寝台で、片翼で紫髪の堕天使が目を覚ます。横を向いて寝ていたその人物は、隣に横になってこちらを見ている1対の翼を持つ金髪の天使と目が合った。
「⁈」
紫髪の堕天使は驚いたように飛び起きる。しかし相手はえへへ〜と笑う。
「おはようぼす〜」
金髪の天使は笑顔で小さく手を振ったので、紫髪の人物は気まずそうな顔をする。
「添い寝は恥ずかしいからやめてと言ったのに」
紫髪の堕天使は呆れたように呟くが、金髪の天使はいいじゃーんと続ける。
「ぼすったらすごくうなされてたみたいだし」
傍にいてあげようかな〜と思って、と金髪の人物は起き上がる。紫髪の堕天使は恥ずかしそうにそっぽを向いた。
「…うなされてたってことは、やっぱり処刑される時の夢を見てたの?」
金髪の天使がふと真顔に戻って尋ねると、紫髪の堕天使は静かに俯く。
「やっぱり」
金髪の人物はそう呟くと寝台から降りる。
「あの一件はよく分からないよね」
ぼすなら反乱なんて起こしたりしないはずなのに、と金髪の天使は呟く。
「だからボクは何かの手違いだと思ってるんだけど…」
金髪の天使はそう言いながら紫髪の人物の方を振り向く。
「ぼす⁇」
金髪の天使は紫髪の堕天使がぼんやりしていることに気付いて、思わず声をかける。紫髪の堕天使はハッと顔を上げた。

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立ち向かう

穢れるな
この魂

恐れるな
響き渡る虚空

拒まむな
たくさんの愛情

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月の魔術師【8】

翌日。
「うおーー!すげーな!ロケットだー!」
ロマはニトが錬成したロケットにいたく感動したようで、しばらくロケットのまわりをくるくるしていた。

「我ながらすごいのできたな…」
「錬金術は習ってらっしゃったんですか?」
「一応は。師匠にお前のそれは錬金術じゃねぇと怒られましたけど」
「私はそちら方面には疎いのでなんとも言えませんが…すごいと思います」
「それはどうも」

ロザリーは怪我をした足をさすった。
「足、治ったみたいです」
「早いですね」
「ちぎれてたらどうか分かりませんが、ただの傷だったので…」
二人が話しているところに、ロマがとことこやって来た。
「ニトー!はやくいきたいぞー!」
「はいはい…」
そうして、三人と一匹(番犬をしている斑も乗せた)はロケットに乗った。

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忘れぬように、避けないように
壊れぬように、大切に。
頭のどっかで転寝していた
近い昔のあの日を起こして
ちゃんとみんなで話をしよう
ちゃんとみんなで分かち合おう
いつか近い将来に
全員出席できるようにね。

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ピッタリ十数字・勝手に表彰

どうもナニガシさんです。好き勝手やるならしばらく更新されない週末がチャンスだぜってことで、ナニガシさんが以前開いた企画『ピッタリ十数字』で個人的に惚れた作品を勝手に紹介していきます。


・『ピッタリ10文字』byTohofantasy
貴方に出会えた十文字

習作の時点で遭遇した何か滅茶苦茶気に入ったやつ。レスで会話した内容を引用するに、「僕自身が滅多に浮上しないアカウントであることと、あとは第三者視点でも交わらなかったはずの2人が十文字(=交差点)で交差する感じを両方10文字で表してみました」だそうです。これがエモいってやつなのか? 僕には若者語が分からねえ。

・『朝』by晴結
井の中の蛙は、空がみたい。

何かよく分からないけど何故か異様にというか奇妙にというか何か印象に残って気が付いたらお気に入り登録してたやつ。そういえばお気に入り登録って個数上限あるんすね。

・『ピッタリ十数字』byぞろりく
       昨日

         おはよ >  ●
              ⒎⒛
       今日

  〇 < さよなら
  ⒗⒓

ルールを最大限悪用してくださった作品。すげー!ってなった後に「本当にセーフかこれ?」って冷静になったけど、1回納得させた時点で彼の勝ちです。この企画において恐らく唯一『勝者』を名乗って良い。

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廻るは因果、故に舞い散る桜の刃 十一

「とりあえず大人しくしてて。話は放課後ゆっくり聴くから。」
「はい...。」

あれだけ騒いだ割にあっさり撃沈する葉月。
あくまでも桜音の指示には従うつもりの様だ。

桜音は教室に入ってからも、
気が気でない、という様子だった。

「今日から転校生が来るからな、仲良くする様に!」

担任の言葉に沸き立つクラス。

(今すぐ帰りたい!!!)

あの少女に今日一日付き纏われたとあれば、
注目されるのは確実だ。
目立つ事。
それだけは避けたかった。
「目立つ」それは、今まで桜音が最も忌避してきたものである。
しかし、

「初めまして、成斗市立第3中学校から来ました、
秋山葉月です。宜しくお願いします。」

思わず口が開く程あっさりとした挨拶だった。
口調も、先刻の武士の様な堅い口調から一転、
何処にでも居るであろう「普通の中学生」そのものだった。

「席は...狐灯(ことう)の隣りだな、分からない事あったら聞けよー。」
(隣り⁉︎)

おそらく、側から見てもわかる程驚いた顔をしたのだろう。
担任は苦笑し、
そこしか空いてないからな、と付け加えた。
そこしか空いてない、と言うよりかはそもそも隣りの席など無かった。
桜音の席だけ、長方形に小さな正方形をくっつけた場所の様に孤立していたのだ。

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視える世界を超えて エピソード6:月夜 その⑨

少女は既に数十度目に達していた攻撃を終え、再び怪異から距離を取ろうとした。しかし疲労の蓄積は少女自身の想定以上に大きく、後退ろうとした両足から力が抜け、その場に尻もちをついてしまう。
「っ……!」
刀で身体を支え立とうとしたが、肉塊怪異は既に眼前まで迫っており、彼女の足の状態で回避できる段階は過ぎ去っていた。
せめて直接の衝突は避けようと、刀を盾として目の前に突き出し、無意識に両目をきつく閉じ、身体を強張らせる。
しかし怪異が衝突する直前、少女の目の前、まさに怪異が迫って来ていた方向から突風が吹き付け、彼女は吹き飛ばされるままに地面を転がった。
予想していたのと異なる挙動に、少女が恐る恐る目を開くと、肉塊怪異は移動に用いていた短い手足を忙しなく動かし続けていたものの、その移動は完全に止まっていた。
「あ……あれ……? なんで、止まって……」
呆然と怪異の様子を眺めていた少女だったが、すぐ思い出したように周囲を見回す。突風に巻かれた際に取り落とした日本刀は、手を伸ばして届く程度の距離に転がっており、すぐに回収してよろよろと立ち上がる。両脚には既に力が殆ど入らない状態ではあったが、アスファルトに突き立てた刀に寄りかかるようにして、辛うじて怪異の前に立ちはだかる。
(……なんでか分からないけど、アイツの動きは止まったし、私の脚もまだ、ギリギリ動く)
頽れそうになる脚を気力で無理やり動かし、数歩、怪異に近付く。
瞑目し、深く息を吐き、短く息を吸い、再び目を見開く。そして杖にしていた刀の柄を両手で握りしめ、大きく振り上げ、怪異に突き刺そうとした。
「……ッ⁉」
しかし、支えを失ったことで膝の力が抜け、姿勢が大きく崩れる。そのまま倒れ込むかというその時、斜め下後方から吹き上げた突風が、少女の身体を強引に立ち上がらせた。
結果、刺突の勢いは衰える事無く、肉塊怪異に深々と刃が突き刺さった。
怪異は悲鳴を上げるかのように全身を震わせ、身体を激しく上下左右に振り、一度大きく仰け反ってから、再び地面に突っ伏し、動かなくなった。

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少年少女色彩都市・某Edit. Modeling Master Amenonuboko その①

徹夜までして丸二日かけて制作した動画を動画投稿サイトにアップロードし、一仕事終えた達成感で大きく溜息を吐いた。
すっかり冷たくなった缶のカフェオレを飲み干し、大きく伸びをして、何となく辺りを見回す。フォールム本部の休憩室の一つを借りて、第二の作業場として使わせてもらっている、自室以外ではほとんど唯一と言って良い、安心できる居場所だ。
別に対人トラブルがあるわけじゃない。そんな物が無くたって、身内以外の人がいる場所が何となく苦手だってことはあるでしょう?
……そういえば名乗っていなかったっけ。ネット上では『雨野ぬぼ子』の名前で3Dアニメーションの動画を投稿していたりする、彩市在住1X歳のリプリゼントルです。同業のみんなからは『ぬぼ子』の名前で呼んでもらっています。本名っていう個人情報を明かさなくて済むのは有難い。
安心して少しずつ眠気を思い出しつつある頭でぼんやりとスマホのSNSアプリをチェックしていると、メッセージアプリの通知が出てきた。
『ぬぼ子さん、今本部にいますよね?』
同業者……リプリゼントルの1人だ。たしかこの子は少し前になったばかりの割と新人さんだったっけ。
『いるよー』
手短に返信する。
『これからエベルソル退治なんですけど、サポートお願いしたいんですが』
これは困った。今、眠くて仮眠取ろうとしてたところなんだけど……。
まあ、新人さんが力を付けるまでのお世話も、先輩の仕事の一つだし。電源マークをちょっぴり豪華にしたような魔法陣をぱぱっと描き上げ、変身した。
『OK!』というスタンプを送り、休憩室を出る。途中、自販機でエナジードリンクを購入し、飲みながら本部を出た。

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ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 連載開始5周年記念! 作者からのごあいさつ

どうも、テトモンよ永遠に!です。
先日、3月4日をもちまして、「ハブ ア ウィル ―異能力者たち―」は連載開始5周年を迎えました~!
いやーめでたい(?)ですねー。
これもひとえに皆さんのスタンプやレスのお陰です。
いつもありがとう。

さて、今回はまたですが近況報告をしようと思います。
とにかく最近はてんやわんやでした。
「連載再開2周年記念! 作者からのごあいさつ」でも言った通り、ウチのばーちゃんが生死の境をさまよってたりしましたが、2週間くらい前の日曜日にとうとう亡くなってしまいました。
それで今週の月曜日は葬儀でして、「ごあいさつ」を書き込むことをすっかり忘れてたんですよね…
まぁ無事に見送れたし、「ごあいさつ」も書き込めてるのでよしとしましょう。
あと歳の近い妹が某藝大の受験のため頑張っています。
とりあえずこの間一次試験を突破したので明日あさってで二次試験に挑むそうです。
ぼくは隣で美術予備校や藝大受験の話を聞いてやることしかできないけど、本番の空気に飲まれないでほしいなぁと思ってます(彼女のことだから大丈夫とは思うけど)。

…と、いう訳で今回の「ごあいさつ」はここまで。
次は「20個目のエピソード記念! 作者からのごあいさつ」でお会いしましょう。
ちなみに今はその20個目のエピソードを作りかけで放置してます(笑)
実は「よその小説投稿サイトみたいな所にも自作の物語を載せてみたい!」と最近思ってそっち用に物語を書いてる内に「ハブ ア ウィル」とか「造物茶会シリーズ」の執筆作業がちょっとおざなりになってたんですよ。
「造物茶会シリーズ」は1エピソード分の書き溜めがあるので大丈夫なのですが、「ハブ ア ウィル」の新エピソードは途中で止まっているのです。
一応新エピソードの話の流れはできてるので、あとはそれをアウトプットするだけなんですけどね。
まぁ無理せず頑張ります。
ではこの辺で。
テトモンよ永遠に!でした~

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Daemonium Bellum RE:ふぉーるんらぼらとり その⑤

「あんまり待たせないでほしいなぁ……そうだ」
青年は長剣を床の上に放り出し、別のものを手に取った。干からびた枯れ枝のようで、先端は4つに分かれ尖った白い何かが貼り付いている。
「これ、この間あなたの同類から貰ってきたんですよ」
「『奪ってきた』の間違いじゃねえか?」
悪魔氏の返事に彼の方を見ると、頭も両脚も既に完全に再生していた。
「もしかしたらそうかも。まあそんなことはどうでも良くって。同類の腕に切り刻まれるのって屈辱的な気分じゃありません?」
「……いやァ? 俺は別にそーいうの気にしないタイプだしなァ」
「そうですか。じゃ、やりますね」
「バッチ来ぉい」
青年はその枯れ枝……悪魔の腕の爪を用いて、悪魔氏の頭、肩、腹、腿、腕と次々斬りつけていった。血飛沫と内臓が悪魔氏の身体から飛び出していくにも拘わらず、悪魔氏は平然として笑っていた。
「ふーむ……天使の武器も駄目。悪魔の爪も駄目」
「ソラお前、首も心臓も丁寧に外すんだからこっちも何の心配も無く受けられらァな」
「どうすれば本性表してくれます?」
「これもまた俺の本性だよ」
「そう言うの良いんで。……けど困ったなぁ…………あ、そうだ」
青年が腕から長剣に持ち替え、こちらに顔を向けた。
「同じ地上に住む者同士、仲良くしておくれ」
彼の考えに気付く前に、長剣の刃が私の首に迫っていた。

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私の笑顔は醜い

父親から言われた言葉があります
面白い話を聞いてて『なに笑ってんだ?』と罵られました

・・・またやっちゃった私は

そうだった私の笑顔は醜かったんだ
笑うから怒られるんだ

醜いから怒られるんだ

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革命のレイ〜第1話 勧誘〜

「本日の審議はこれまでとする」
議長のその一言に異を唱える者はいない。誰もこの議会に意味を求めていないことはとっくに明確だ。
「今日はどこだったっけ?」
「知るかよ軍部の話なんか」
議事堂の廊下は三股に分岐していて、議会が終わると種族に別れてそれぞれの方向へ帰るのがお決まりだ。
「先日の負傷者は?」
「既に3桁を越えたとの報告が、MIAも含めるとさらに…」
この分岐点は机上の空論を絵に描いたように現場とはかけ離れた会話が飛び交っている。
「1次避難所の首尾は?」
「野良の装甲ですが、奴らの権能には十分耐えうるものになっています」
世界では天使と悪魔の戦争が続いている。人間は両種族の奴隷として軍備や援護をさせられ、いつしかそれに疑問も持たなくなっていた。
「レイ、いつまでこんな議会にこだわるつもりだ」
議事堂を出たところで声をかけてきた男の名ははムーラ。彼はレイの幼なじみであり先代の議員の息子だ。
「さぁな、せめてこの戦争が終わるまでかな」
「それが俺たちにどうこうできることじゃないのはお前の方がよく知ってるだろ」
確かに彼の言うことは事実だ。議会にいる立場では軍部に物を言うことは出来ないし、世界の実情が戦争によって多くを決しているのは否定できない。
「そうだな、でも全く変わらないってわけでもない」
「だからぁ!小さな変化じゃダメなんだよ!」
はぐらかすように軽く返したレイに対してムーラは血相を変えてレイの胸倉を掴んだ。
「離せよ…」
レイの声色は先程と違い重いものだった。ムーラも思わず手を離してしまう。
「とにかく、レイもそろそろこっちに合流してくれ」
彼がココ最近来る理由はこればかりだ。独立した人間の蜂起軍を結成するとの事らしい。
「すまないがそれは出来ない」
「何故だ?なぜそこまで議会にこだわる?」
「ムーラこそなぜ武力にこだわる?武力で抑え込んだところで同じことの繰り返しだ。たとえ今人間の手で戦争を終わらせられたとて、この軋轢はそう変わりはしない」
「それでも…このままよりはいい」
その言葉は人間の苦痛、怒りを込めたようでレイも返すことが出来なかった。

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なんか書きたいけど思いつかなかった

季節外れの雪が降った

いつもならこんな時期に雪なんて降らない

なんで そう思ったけど何となく意味が分かったよ

雪を落とす重く、暗い雲の隙間からさす一筋の光

この景色を私に見せたかったんだよね

この光がどんな意味であれ“楽にする”には変わりない

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円環魔術師録図鑑 ワールドNo.1

『魔術』
人間又は人間に近い種族が使う。魔力を有している人間の強い想いや夢、想像などを魔力によって現実世界に現し、干渉させることを「魔術を使う」と言う。

『魔法』
魔術と同じだが、人間以外の生物が使う。
大抵はワンパターンで単純なものばかりの為、魔術を使う人物に「魔法使い」と言うのは「単純でワンパターンな動物レベルの魔術を使っている」又は「動物レベルにまで堕ちた魔術師」と言っているのと同じであり、誰に言っても大体激怒される。

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Daemonium Bellum RE:ふぉーるんらぼらとり その④

「それじゃ、本題に入りましょうか」
青年は眩しいほどの笑顔で私達の方に向き直った。その手には先ほどまで見ていた長剣とは違う、刃渡り20㎝ほどの沿った片刃の短剣を携えている。
「まぁその前に」
言葉を続けながら青年は天使氏の方に歩み寄り、短剣をその口内に向けて深く突き刺した。
「このひとは煩いから黙らせときましょう。どうせこの程度じゃ死なないんだし。……では悪魔さん?」
「ンだよ」
「その偽物の身体、さっさと捨ててください。俺が用があるのはそんな小さい紛い物じゃなく、禍々しい化け物の姿の方なんですから」
長剣の刃を向け、青年は悪魔氏に言い放った。
「……『偽物』? 『紛い物』? 心外な言い方してくれんじゃねえか。この姿もまとめてひっくるめて俺なんだぜ?」
「ああごめんなさい、あなたの理屈は割とどうでも良いんです」
言いながら、青年は悪魔氏の足下に向けて長剣を振るった。殆ど何の抵抗も無く、悪魔氏の両の脛が切断される。
「俺が興味あるのは、あなたの“異形態”だけなんで」
「……そいつァアあんまりな言い分じゃねーの? 俺、自分の全てを愛してもらいたいタイプなんだk」
彼の言葉は途中で遮られた。青年が悪魔氏の上顎より上を斬り飛ばしたのだ。

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少年少女色彩都市某Edit. Passive Notes Walker その⑦

タマモは追加で新たに小さなインキ弾を数十個、やや大きめのインキ弾を数個生成し、理宇の身体が僅かに傾いた隙を通してエベルソルに叩き込む。まず腕を叩き落とし、頭や肩を重点的に狙うことで動きを制限する。
「ん! ありがとうございます!」
理宇が飛び退くのとほぼ同時に、タマモは予め用意していたインキ砲弾を蹴飛ばし、エベルソルに向けて転がした。
「俺の弾幕の残りは十分、つまり攻撃はもう来ない。対するこちら、この砲弾。コイツはまさに『破壊力』。スローで確かにテメエに向かい、防ぎようも無く轢き潰す! っつーわけで……さらばクソ文化破壊者!」
動きを止めるための弾幕が止むのと、砲弾がエベルソルに直撃したのはほぼ同時だった。
砲弾はエベルソルに当たった順に腕、頭、胴、脚、尾と消し飛ばした。
「わー……あんな恐ろしい攻撃できたんですね」
「俺としては、お前のインキの使い方に驚いたよ。ああいうの、アリなんだな」
「できてるしアリっぽいです。……ところでタマモ先輩?」
へたり込んだままの理宇が尋ねる。
「何だ?」
「その……運んでいただけると」
「……まあ、そりゃ内臓損傷してるだろうからな」
タマモは理宇を抱き上げ、肩に担いだ。
「あ、そう運ぶんです?」
「ん、流石に腹押す形はマズかったか? 負ぶってやった方が良いか」
「いやぁ…………そうですね、それでお願いします」
「了解」
背負い直し、歩き始める。
「……お疲れ、後輩。よく頑張った。寝てて良いぞ」
「光栄です……すみません、ご迷惑おかけします」
その言葉を最後に、理宇は意識を手放した。

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円環魔術師録 外伝8

魔法使い。
マスターは先刻そう言った。
つまり、相手...アリスが、魔術師の風上にもおけない様な輩である可能性が非常に高い。
マスターが、自分の感情だけで相手に暴言を吐くような人物でないだけに、より信憑性がある。

「多分...この辺りかな?」

近くの木に魔力探知をかけるマスター。
魔力探知にかかった相手は、金縛の様になる...筈だが。

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ほーりーふぁいと あくと1

「お?堕天使か」
背後からの声かけに、僕は思わずびくりとした。この地域での堕天使…もとい片羽は差別の対象だからだ。片羽呼ばわりされなかっただけでもましだ。何をされるかも分からないし、怖いけど…しぶしぶ振り向いて応答する。
「は…はい…」
「悪ぃ、呼び止める気はなかったんだけどよ」
…思ってた反応と違う。上目に声の降ってきた方を窺うと、つんつんした癖っ毛や吊り目が特徴的な…悪魔がいた。
「!?!?あ、悪魔だーーー!?」
「お、おいおい、そんなびっくりすることじゃねぇって…なっ泣くんじゃねぇよ!あーもううるせぇな…」
僕が混乱で泣きだしたことに驚いたのか、彼(見た目で勝手に性別を判断した)は眉を下げて僕の背中をさすってくれた。
「ちょっと!うちに悪魔ってどういうことよ!」

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Daemonium Bellum RE:ふぉーるんらぼらとり その③

「……で。なんでだ?」
あの男性……彼の言葉から察するに、悪魔氏は、先ほどまでの軽い口調とは打って変わった真剣な口調で青年に問いかけた。
「俺に用があるなら、俺だけラチりゃ良いだろ。……ぁいや俺ラチってきたのも許してねーけど。羽根カスとヒトカスはなんでここに居る? 言っとくが悪魔にだって知識として『常識』はあンだよ」
長剣の刃を見ていた青年は身体の動きをぴたりと止め、ゆっくりと悪魔氏の方に向き直った。
「えっと、そうですね……見ての通り俺は片翼の“堕天使”なわけですが」
「あァ、そうだな」
「やっぱ俺って、追放された側なわけじゃないすか」
「そりゃテメェで反旗翻してンだからな」
「普通恨みません?」
「お前個人は?」
「いや特に……俺も馬鹿な事したなーって。けどせっかく見つけたんで、物のついでってことで」
「ヒヒヒ! お前良い性格してンねェ!」
「おい貴様! 誰が物のついでだと⁉」
天使氏の言葉には2人とも無視を決め込んでいた。
「あ、ついでにそっちの“かよわきいきもの”は?」
「それはほら、天使って暴力的なところあるじゃないですか」
「ウン」
「だからほら、無力な人間が一人いれば、無法出来なくなるなって」

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あなたの手は人を傷つける為にあるんじゃない

その手は人を守る為にあるのです
そう言われたとき涙が溢れました

私のつたない文章でも人を救えたなら
これほど嬉しいことはない

あなたの手もきっと誰かを救う為にある

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無から無限

無ってなんだろう。無限ってなんだろう。

無から宇宙は生まれて、宇宙には無限の可能性がある。

無知で生まれてきた僕たちの未来は無限大。

無限って 無+限?それとも無×限?

ぼーっと頭を無にすると、無限の力を持つアイデアが降ってくる。

無ってなんだろう。無限ってなんだろう

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常勝のダイヤ#8   

季節が過ぎるのはいかに早いことか。雨上がりで、息をするたびに蒸し苦しい空気が体のなかに入ってくる微妙な朝。ここから、華やかな大声援団のなかドラマが生まれるまで、1か月。俺たちは県大会の初戦を迎えた。
昨秋の余裕ぶった表情はない。この一年の苦しさ。悔しさ。自分達の弱さが目に見えて、いやになった日々。全てはこの夏のために。
メンバーを見渡す俺。キャプテンの俺は声をかける。
「皆。ここまで本当に苦しかった。あの日負けて常勝が崩れて、ここにいる全員が悔しい思いをした。俺らにかけられてきた信念と誇り。それがどんなに重いかを知って、打ちのめされた。その思いを、全国の。甲子園の。黒土に埋めて、幸せを誇りを持って帰ってこよう。ここから、ベストをつくそう。俺たちが一番、強いチームになるんだ。いいな!」       『おし!!!』
このチームなら、やれる。ここから、俺らの。一回しかない夏が始まった。

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翼があってもあなたはかわいい

『あなたに愛してもらうために、
 かたちを少し似せたのです』

わけわからないこと言うきみの 両翼の 白さの

「きみが『かわいい』と言うなら、
 この背中もかわいいの?」

もちろん、だなんて 微笑まないで。

『翼があったら、あなたの震える肩を支えることなんてできないでしょう?』

『ほら、こんなふうに』じゃないの!
泣かないで とか言いなよ、強くなれ とか言えばいいのに

「なんなのさ、」

でも、わたしのこの耳が
きみのやさしい言葉を聞くために大きくなっているのなら
その神様ってやつと きみを 今は信じてみてもいいかもしれない

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視える世界を超えて エピソード6:月夜 その⑧

「あの子、思ったよりタフだよ。…………いやしかし、下手とは言ったが案外悪くないぜ、あの子のやり方」
「え」
「あの滅茶苦茶な振り回し方、ロクに刃を入れられてないモンだから全然斬れてないが……」
「刀使ってるのに斬れないんじゃ意味無いんじゃ?」
「お前想像してみろ。たしか真剣の重さは1㎏くらいって聞いたことがあるが、それだけの重量がある金属の塊を叩きつけられるのを」
鎌鼬は顎に手を当てて少し考え、得心したように手を打った。
「当たっても硬度で弾かれる可能性のある斬撃と違って、打撃は当たりさえすれば絶対に、中身を揺さぶって影響を残すんだ。最低限得物を振り回せるだけのパワー、最大威力の先端をぶつけられるだけのテクニック、相手に捉えさせないだけのスピード、相手が死ぬまで戦い続けられるだけのスタミナ。全部あれば『無い』戦法じゃあないのよ」
種枚の言葉を聞きながら、鎌鼬は少女の方を見下ろす。少女は両膝をつき、肩で息をしていた。
「……全部あります?」
「……少なくともスタミナには不安があるかな」
種枚がのろのろと立ち上がる。
「おい馬鹿息子」
「……何すか」
「ちょいと転ばしてやって来な」
「師匠はどうするんです?」
「何、殺しゃあしないよ。あの子の獲物だ」
鎌鼬に目を向ける事も無く指示を出し、種枚は屋根から飛び降りた。