寿々谷市では8月になると大きな祭が開催される。
その名も”寿々谷市大花火大会”。
夜7時頃から打ち上がる数千発の花火が夜空を彩る、寿々谷の夏の風物詩だ。
また、花火大会に合わせて公園や街のあちこちに屋台が出店する。
そのため、メイン会場の寿々谷公園や近くの河川敷、ショッピングモールは寿々谷の内外から集まった人々でごった返すのだ。
わたし達は今、ショッピングモールの休憩スペースでそんな祭の話をしていた。
「ねぇ、今夜の花火大会どうする?」
「屋台回ろうぜ屋台」
「ハハハ、食い意地張ってんな~」
そうやって皆でわいわいしていると、不意にネロがわたしに話を振ってきた。
「そー言えばアンタはどうするの?」
花火大会、とネロは尋ねる。
「うーん」
わたしはその場で少し考える。
「特に誰かと行く予定は立ってないけど…」
欲を言えば、ここにいる皆と一緒に行きたいなとわたしは言った。
「え~面倒くさーい」
「ふーん」
皆がそれぞれ色々な反応をする。
「…まぁ、良いよ」
付いて行きたいなら付いて来いよ、とネロはぶっきらぼうに言った。
「え、良いの?」
ありがとう、とわたしは返した。
「…」
…と、わたしは黎の視線に気付いた。
「…どうかしたの?」
わたしがふと尋ねると、黎は静かにわたしの方を指さす。
「へ…?」
後ろに何かいるのかと、わたしは恐る恐る振り向く。
そこには、見慣れない小柄な少女がいた。
「えへへへ」
少女はわたしと目が合うと、楽しそうに笑みを浮かべる。
リャナンシー!
人族社会に紛れて潜入して有力者を吸血してくるタイプのそこそこレベル高い蛮族だ!(SW知識しか無い)
調べてみたらケルト系のちょっとやばい妖精なのか。
今回現れた謎の少女、なかなか不穏な雰囲気で面白そうです。
レスありがとうございます。
不穏な雰囲気がしますか。
それなら嬉しいです。
これからの展開をお楽しみに。
「楽しそうだね」
少女は突然そう言った。
「え?」
わたしは思わずポカンとする。
「ど、どちら様…?」
ついそう尋ねると、少女はにこにこしながらこう答えた。
「りいら、柳原 りいら(やなぎはら りいら)」
よろしくね、おねぇちゃんと少女は笑いかける。
「は、はぁ…」
急に何なんだとわたしは困惑する。
他の皆も戸惑っているみたいで、沈黙しきっていた。
「ねぇ、おねぇちゃん達、何の話してたの?」
花火がどうとか言ってたけど、とりいらちゃんは尋ねる。
「あ、あー」
急に聞かれてわたしは慌てる。
「おれ達は今日の花火大会の話をしてたんだ」
答えられなかったわたしの代わりに、耀平がそう返す。
「花火大会?」
りいらちゃんは不思議そうに聞き返す。
「そう、花火大会」
知らないのかい?と師郎が尋ねる。
「うーん、知らない」
りいら、この街に引っ越してきたばかりだから…とりいらちゃんは答える。
「そうなんだ」
わたしがそう言うと、りいらちゃんはそうだよ、と返事した。
「ね、おねぇちゃん達、花火大会ってどんななの?」
教えて!とりいらちゃんは聞く。
「うーん、教えてと言われても…」
どう説明すれば良いのか…とわたしは宙を見上げる。
「花火に合わせてたくさんの屋台が寿々谷公園や街中に出るんだよな」
ふと師郎が説明を始めた。
「あと路上パフォーマンスの人も集まってくるから、すごく賑やかな祭りになるんだぜ」
寿々谷二大祭の1つとも言われる位さ、と師郎は得意気に言った。
「へぇ〜、詳しいんだね」
りいらちゃんがそう言うと、だろ?と師郎は返した。
「師郎は生粋の地元民だからな」
詳しいのも当然さ、と耀平は補足する。
「あと花火は寿々谷公園だけじゃなくてショッピングモールからもよく見えるんだぜ」
あと…と師郎が言いかけた時、向こうから女の人の声が飛んできた。
「りいらー」
行くわよーとりいらちゃんの母親らしき人物がこちらに近づいて来る。
「あ、ママ」
行かなきゃ、とりいらちゃんは母親の元へ駆け出す。
「何してたの?」
「秘密〜」
りいらはそんな会話を母親と交わしてから、こちらを見る。
「じゃあね、おねぇちゃん達!」
バイバーイと手を振りながら、りいらちゃんは母親と共に去っていった。
「何だったんだ」
アイツ、とネロは呟く。
「まぁ良いじゃないの」
師郎はそう返した。
わたし達は去りゆく謎の少女を静かに眺めていた。
謎の少女…めちゃくちゃ気になります…次が楽しみです!
すごく想像できる作品ですね!こう言うの書くの苦手なので、参考にさせていただきます!
レスありがとうございます。
楽しみにしてくれてありがとうね。
夕方、午後6時頃。
日が暮れかけた寿々谷公園は、たくさんの人でごった返していた。
「なぁ、何で着物なんだ?」
「え」
わたし達はちょうど寿々谷公園の片隅で合流した所だった。
「別に良いじゃん浴衣でも…」
1人だけ浴衣姿のわたしは、師郎に突っ込まれてそう返す。
「うーん屋台ガンガン回るなら普段着の方が良いと思うぜ」
「うんうん」
耀平とネロはそう言ってうなずく。
黎はわたしに冷ややかな視線を送っていた。
「えぇ…」
言われてショックを受けていると、背後から聞き覚えがある声が飛んできた。
「あら、皆お揃い?」
振り向くと、ミツルと浴衣姿の唯似が立っていた。
「あ、浴衣!」
わたしが思わず声を上げると、唯似はうふふと笑った。
「まぁ、被っちゃったわね」
「うっ」
言われてわたしはうろたえる。
「ハハハ、まさかもう1人浴衣を着て来る奴がいるなんて」
気合い入れ過ぎだろ、とミツルは笑う。
「べ、別に良いじゃん」
折角の花火大会なんだし、とわたしは言い返す。
「まぁ良いからさ」
そろそろ行こうぜ、と師郎がわたし達に言った。
「そうだね」
「そうするか」
「行こう行こう」
そう言ってわたし達は歩き出した。
…と、わたしは人混みの中である人物に目が留まった。
見覚えのあるウサギの耳が付いたパーカー。
昼間わたし達に話しかけてきたりいらちゃんだろうか。
家族と思しき男の人と手を繋いで歩いている。
「…どうかした?」
いつの間にか立ち止まっていたわたしに、耀平が声をかける。
「…あ、ううん」
何でもない、と言ってわたしはまた歩みを進めた。
ミツル達と合流してから暫く。
わたしと耀平とネロは、たこ焼きの屋台に並んでいた。
あの後、とりあえず腹ごしらえしようぜ、という話になって、各々好きな屋台に並んでいる所なのだ。
「はい、どーぞ」
「ありがとうございまーす」
わたしは屋台の人からたこ焼きの入った袋を受け取ると、そのまま皆の集合場所に向かった。
「師郎と黎はお好み焼き、ミツルと唯似は焼きそばって言ってたっけ…」
そう独り言を呟きながら歩いていると、こんな会話が耳に入ってきた。
「娘さんが迷子?」
「えぇ、さっきまで一緒にいたんですけど…」
お巡りさんと子どもが迷子になった母親だろうか。
公園の片隅で何やら話し合っている。
この混雑じゃ迷子が出るのも仕方ないよね…とわたしが眺めていると、お巡りさんがこう尋ねた。
「娘さんのお名前は?」
「柳原 りいらと言います」
母親と思しき女性はそう答える。
わたしはえ、と絶句した。
りいらって…昼間話しかけてきたあの子だよね?
でもさっき誰か家族っぽい人と一緒にいなかったっけ。
わたしが色々と考えていると、2人は話し終えたのかお巡りさんはその場から去って行った。
「…あら?」
女の人はわたしの方を見てポツリと呟く。
「あなた確かりいらと一緒にいた…」
「あ、どうも」
そう言えば、この人昼間にりいらちゃんと一緒にいたな、と思いながらわたしは答える。
「りいらちゃんがどうかしたんですか?」
わたしが尋ねると、女の人は心配そうに答える。
「…それが、娘が急にどこかへ行ってしまって」
さっきまで一緒にいたんですけど、と女の人は言う。
「娘を見ませんでしたか?」
「えーと」
そう聞かれて、わたしは少し考える。
「りいらちゃんならさっき見ましたよ」
男の人と一緒にいました、とわたしは付け足す。
「男の人?」
女の人は首を傾げる。
「えぇ、家族か誰かだったり…」
「りいらはわたしとしか来てませんよ」
そう言われて、わたしはえ、と言葉を失う。
「そ、それはどういう…」
「どうもこうも、りいらは私とだけで花火大会に来てるんです」
女の人は深刻そうな顔で言った。
わたしはまさか、と思った。
脳裏に“誘拐"の2文字が浮かぶ。
「…嘘」
わたしがついそう呟いた時、後ろから聞き馴染みのある声が聞こえてきた。
「あ、いたいた〜」
アンタどこ行ってたんだよ〜とネロ達が駆け寄って来る。
「あ、いたいた〜!」
アンタどこ行ってたんだよ〜とネロ達が駆け寄って来る。
「あれ、知り合い?」
誰この人、と耀平が尋ねてくる。
「あ、えーとね、この人は…」
「あの! 娘を探すのを手伝ってくれませんか?」
わたしが言いかけた所で、女の人が突然そう言った。
「…は?」
「待ってどういう事か分からん」
ネロと耀平は困惑する。
「…なぁ、これはどういう事だ?」
説明してくれるかい?とミツルがわたしに聞く。
「え、えーとね」
昼間会ったりいらちゃんって子が行方不明になったみたいでね…とわたしが説明する。
「…なるほど」
それでお前さんが捜索に協力する事になったと、と師郎が言う。
「いやアンタお人好しかよ」
「お前らしっ」
ネロと耀平はわたしにジト目を向ける。
「まだ協力するとは言ってないから…」
わたしは呆れ気味に言った。
「すみません、急にわたしがこんな事言って…」
迷惑でしたよね、と女の人は申し訳なさそうにする。
「あ、いえいえ!」
大丈夫ですよ、とわたしは返した。
「まー良いんだけどさー」
ふと耀平が呟いた。
「人探し位なら手伝ってやるし」
な、と耀平はネロに目を向ける。
「まぁね」
ネロは得意気に言った。
「ありがとうございます!」
女の人はそう言って頭を下げた。
「じゃあ探しますかね」
でもその前に…と耀平は女の人に視線を向けた。
「娘さんが持っていた物って何かあります?」
耀平が尋ねると、女の人はえぇ、と手に持っている小さめの鞄を見せる。
「うちの子の鞄です」
耀平はどうもと言ってそれを受け取った。
そしてそれを、パーカーを目深に被り両目を赤紫色に光らせたネロに見せた。
「あの、娘は本当に見つかるのでしょうか…?」
女の人は心配そうに呟く。
「あー大丈夫ですよ」
俺達には裏技があるんで、と師郎は得意気に言った。
「見つけられそうか?」
鞄を暫く眺めるネクロマンサーに対して、耀平は尋ねる。
「コマイヌの力があればね」
そう言って、ネクロマンサーは笑った。
「少しこれお借りしますね」
耀平が鞄を見せつつ言うと、女の人はあっはい、と答えた。
「それじゃ、行こうか」
耀平がそう言って女の人に背を向けると、両の目を黄金色に光らせた。
こうしてりいらちゃん探しは始まった。
でも人探しは一筋縄では行かないものだった。
何しろ花火大会の会場は大勢の人でごった返しているのだ。
”人や物の行動の軌跡を見る”コマイヌにとっては少々不利な環境だ。
それでもコマイヌやネクロマンサーは何不自由なく追跡できているみたいだが。
また、りいらちゃんと謎の人物の移動がかなり不規則らしいことも捜索を阻んでいた。
まるで追いかける者を撒くように移動しているらしい。
黎ことレイヴンも捜索を手伝う中、わたし達は追跡相手に翻弄されていた。
「ねぇ…これ、見つかるのかな?」
わたしが思わず呟くと、隣を歩く師郎は見つかるさ、と返す。
「アイツらが人探しをして見つからなかったことはないからな」
大丈夫だって、と師郎は笑う。
そうかな…とわたしが前を向くと、離れた所に見覚えのある少女がいた。
リクエストありがとうございます!
シャルロッテですね作ってみます!
こちらこそレスありがとうございます。
めちゃくちゃ難しいお題ですが頑張ってみてください。
「あ」
わたしは思わず呟く。
「あれ! もしかして…」
わたしが指さすと、コマイヌはだな、とうなずく。
「早く…」
「いや待て」
わたしが言いかけた所でコマイヌはわたしを制止する。
「このまま近付いても逃げられるかもしれん」
じゃあどうするの?とわたしが尋ねると、コマイヌはこう答えた。
「皆であの2人を囲うように接近する」
そうすれば逃げられない、とコマイヌは言った。
「うん」
「そうだな」
「そうしましょう」
わたし達はそれぞれうなずいて、彼女らを囲うように散開した。
散開したわたし達は、ゆっくりとりいらちゃんと謎の人物に近付いていた。
できるだけ違和感のないように、何気ない感じで近付いていく。
そうすれば、無事りいらちゃんを保護できる…はずだ。
一緒にいる謎の人物の事が気になるが、、あまり気にしている余裕はない。
一刻も早く彼女をお母さんの元に返してあげなければ。
「…?」
りいらちゃんの背後にゆっくりと近付く中、ふと殺気を感じた。
ちら、と斜め前を見ると具象体を持ったネクロマンサーが駆け足でりいらちゃん達に近付いていた。
「え⁈」
わたしが思わず叫ぶと、りいらちゃんははっとしたようにこちらを向く。
「―」
ネクロマンサーはそのまま黒鎌を謎の人物に振りかざそうとした。
「⁈」
しかし、謎の人物はすんでの所でそれを避ける。
「ちょ、ちょっと⁈」
わたしが思わず言うと、ネクロマンサーはうるさい!と叫んだ。
「何やって…」
わたしが言いかけた時、不意にりいらちゃんと謎の人物がこちらに駆け出している事に気付いた。
「マズイ!」
耀平はそう言ってこちらへ走り出す。
わたしは突然の事にその場で立ちすくんでしまった。
そして気付いた。
謎の人物の目がまるで意識がないかのように虚ろな事に…
どうしよう、と思った時わたしの目の前に誰かが駆け込んできた。
謎の人物はすんでの所で立ち止まる。
わたしの目の前にはお巡りさんが立っていた。
「ひっ」
りいらちゃんはおびえたような顔をする。
「今だ!」
耀平がそう叫ぶと、具象体を投げ捨てたネクロマンサーが2人に突っ込んだ。
そして謎の人物を突き飛ばした。
「―」
謎の人物はばたと倒れる。
いつの間にか目を光らせるのをやめたネロはりいらちゃんに向き直った。
「…アンタ」
りいらちゃんはうつむいたまま、何で…と呟く。
「何で! 何でりいらの邪魔をしたの⁈」
どうして⁈とりいらちゃんはネロに掴みかかった。
「お、落ち着け…」
耀平は慌ててなだめようとするが、りいらちゃんはい気にせず続ける。
「折角! 折角上手くいくと思ったのに!」
何で、何で…とりいらちゃん目に涙を浮かべながら言う。
その目はネオンイエローに輝いていた。
「まぁまぁ落ち着きなさんな…」
わたしの目の前に現れたお巡りさんは、見覚えのある姿に変わりながら少女達に近付く。
「…え、師郎⁈」
わたしは急に目の前に現れた人物を見て驚いた。
師郎はこちらをちらと見る。
「おや、お前さん気付いていなかったのかい?」
あれ俺が化けてたんだぜ、と師郎は両目を暗緑色に一瞬光らせる。
「そ、そうだったの…」
わたしは思わずポカンとする。
「まぁ、それはそうとして」
師郎はりいらちゃんの顔を覗き込む。
「…とりあえず、事情聴取と行きますかね」
りいらちゃんはひぃぃぃとすくみ上がった。
寿々谷公園の川沿いのエリアにある土手にて。
午後7時を回った所なので、もう花火が打ち上がり始めていた。
「はい、ラムネ」
わたしは土手の斜面に座る小柄なうさ耳パーカーの少女にラムネを手渡した。
少女は黙ってそれを受け取る。
「ねぇ、りいらちゃん」
どうしてあんな事してたの?とわたしは尋ねてみる。
「…」
りいらちゃんは黙ったままだ。
さっきネロ達も事情聴取をしていたが、全くもって喋らなかったため、とりあえず話すまで時間を置こうという事になったのだ。
ちなみに謎の人物はりいらちゃんとは関係のない赤の他人である事が、ネクロマンサーが記憶を見た事で分かった。
その人が意識を取り戻す前にネクロマンサーはこの騒動に関する記憶を消去する事で、面倒事は回避する事ができた。
そんなネロ達は、今はさっき買った物を食べつつ花火を見ている。
…それにしても、とわたしはりいらちゃんを見ながら思う。
この子が異能力者だなんて。
わたしは全く気付かなかったけれど、ネロ達は最初から彼女が異能力者である事に気付いていたらしい。
どう見ても彼女は小学校低学年位に見えるけどと言ったら、小3位でも異能力は発現するし、とネロに言い返されてしまった。
レスありがとうございます!
あーーー!スペース!ごめんなさい入れるのを忘れてました。
次書いたときはちゃんと入れるようにします。
こちらこそレスありがとうございます。
いえいえ、そんなに気にしなくてもいいのよ。
ネクロマンサーが記憶を見た所、彼女の異能力は"触れている人間の意識を乗っ取る”能力らしい。
ただ、これ以上はプライバシーの侵害だから、とネクロマンサーはなぜ彼女は関係ない人を操っていたかまでは見なかったらしいが。
「…」
彼女は何をしようとしていたのだろう、とわたしはりいらちゃんを見ながら考える。
どこかへ行こうとしていたのだろうか。
「ねぇ」
わたしは思わずりいらちゃんに話しかける。
「さっき知らない人と一緒にいたけど…」
どこかへ行こうとしてたの?とわたしは尋ねた。
りいらちゃんはちらとこちらに目を向ける。
「あ、何となくそう思っただけなんだけどね…」
「何よ」
不意にりいらちゃんが呟く。
「常人の分際で、何よ」
同情のつもり?とりいらちゃんは訝しげな目を向ける。
「うっ」
これは流石にこたえる。
わたしはついうろたえてしまった。
「と、とにかくさ」
わたしは気を取り直して話を続けた。
「どんどん公園の外に向かって進んでるみたいだったから、どこかへ行こうとしてたのかなって」
どこか、行きたい所でもあったの?とわたしはりいらちゃんに聞く。
「…」
りいらちゃんは沈黙する。
やっぱり、話してくれないんだろうか。
わたしが諦めかけた時、不意にりいらちゃんが口を開いた。
「…帰りたかった」
急に彼女が口を開いたので、わたしは驚いて目を丸くする。
「帰りたかったの」
前、住んでいた所へ、とりいらちゃんは続ける。
「はぁ…」
わたしは思わず呟く。
「りいら、前住んでた所には友達がいたの」
りいらちゃんは手の中のラムネに目を落としながら言う。
「皆といると、本当に楽しかった」
でも、と彼女は続ける。
「寿々谷に引っ越してから会えなくなっちゃって」
りいらちゃんはさらに続ける。
「りいら、寿々谷になんか来たくなかった」
皆とバイバイしたくなかった、とりいらちゃんは涙声で言う。
「あの街へ帰りたかった」
だから…とりいらちゃんは顔を上げる。
「知らない人をりいらの異能力…”リャナンシー”で知らない人を操って、元いた街に帰ろうとしたの」
りいらちゃんはぽつりと呟く。
「…どうして、知らない人と一緒に?」
1人でも帰れたんじゃ…とわたしは尋ねる。
レスありがとうございます
羨ましいのなら、ドイツのリューベックへ行かれるとよろしいかと
渡り鳥ルートの航路のあったファーマルン島まではリューベックからなら電車でも車でも1時間だそうですよ
それか、コペンハーゲンから橋を2つ渡って着くロラン島に行かれるのも一つの手段ですよ
ロラン島南部のロズビューハウンという町の港(デンマーク語で港という意味の単語自体、Havnと書いてハウンと読みますが)から列車が船に入り込んでいたので雰囲気は味わえるはずです
今でもその区間にフェリーが通っているかは知りませんが
こちらこそレスありがとうございます。
おすすめありがとう。
海外って行ったことないからさ、多少の憧れはあるのよね…
海外経験がないなら、台湾の高雄とか台南なんかまさにおすすめですよ
高雄も台南も歴史的、商業的な経緯から結構日本語が通じるので
台湾全土で日本語が通じないことはないと思いますが、台北は他の国からも色々な人が集まる関係で台北では英語を使ったほうが無難ですかね
台南のどの地区か忘れましたが、安平かどこかでは戦時中の日本軍パイロットが神様として祀られている霊廟があり、台南の北隣の嘉義には戦前に前年まで無名だったのに甲子園でいきなり準優勝した旧制中学(今は大学)があるので、その辺も機会があれば是非(実は嘉義に行ったことがないなんて言えない)
「それは…」
りいらちゃんは気まずそうにそっぽを向いたので、わたしはそれは?と彼女に近寄った。
「…1人じゃ帰れる気がしなかったから」
あと、大人と一緒の方が怪しまれないと思ったし…とりいらちゃんは恥ずかしそうに言う。
「…なるほど」
想像の斜め上すぎて、わたしはそれしか言えなかった。
でも、言われると腑に落ちるかもしれない。
「ねぇ、この事はママには言わないで」
言ったら許さない、とりいらちゃんは目をネオンイエローに光らせた。
「さ、さすがに言わないよ」
言ったら面倒臭い事になるだろうし…とわたしは続ける。
その言葉を聞いて、りいらちゃんはそう、とだけ答えた。
「…りいら、これから1人なのかな」
暫くの沈黙の後、りいらちゃんは不意にこぼす。
「この街で、独りぼっちなのかな…」
うつむく小さな少女を見て、わたしは思わずこう言った。
「大丈夫だよ」
りいらちゃんはどういう事?と言わんばかりにこちらを見る。
「きっと大丈夫」
だって…とわたしは続ける。
「この街にはあなたの仲間がいっぱいいるから」
…どうしてそんな事言うの?とりいらちゃんは尋ねる。
「この街にはね、たくさんの異能力者がいるんだ」
だからきっとりいらちゃんにも友達ができる、とわたしは笑った。
「本当?」
りいらちゃんは身を乗り出して聞く。
「現に異能力者だったから仲良くなれたような人達がいるんだから、りいらちゃんにもできるよ」
友達、とわたしは笑いかけた。
りいらちゃんは嬉しそうな顔をした。
…と、ここで離れた川のすぐ側から声が飛んできた。
「おーい」
見ると、2人共何してるんだーいと耀平が話しかけていた。
「折角ならこっちに来いよ」
師郎もそう呼ぶ。
「あー、今行くー!」
わたしはそう言って立ち上がる。
そして足元のりいらちゃんに目を向けた。
「行こう、りいらちゃん」
りいらちゃんは少し驚いたような顔をしたが、うんとうなずいて立ち上がった。
〈13.リャナンシー おわり〉