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造物茶会シリーズ第3弾「幺妖造物茶会」のまとめ。 番外編「雨傘造物帰路」も収録。

幺妖造物茶会 Act 1

「ねぇ、見て見て!」
ある昼下がりのこと。
とある物置部屋でコドモ達が紅茶を飲んだり、お喋りしたりしながら思い思いに過ごしている。
そんな中、金髪に角の生えたコドモが白いモフモフした生き物を掃き掃除中のエプロン姿のコドモに見せた。
「…何これ?」
エプロン姿のコドモは白い生き物を見て目をぱちくりさせる。
「何って…子犬だよ!」
子犬!と金髪のコドモは笑う。
「…はぁ」
エプロン姿のコドモはそうとだけ答えて掃除に戻った。
「もーかすみは反応薄いなー」
かわいいとかないのー?と金髪のコドモは首を傾げる。
「ちょっときーちゃん、おれにも見せてよ」
その様子を側で見ていた赤髪のコドモがきーちゃんことキヲンに手招きする。

テトモンよ永遠に!
女性/20歳/東京都
2023-06-05 22:45

幺妖造物茶会 Act 2

「いいよー」
そう言って、キヲンは赤髪のコドモに白い生き物を手渡した。
「お、かわいいな」
いい子だな〜と赤髪のコドモこと露夏は白い生き物の頭を撫でる。
「コイツ名前なんて言うんだ?」
赤髪のコドモがキヲンに尋ねる。
キヲンはまだ決めてないよと答えた。
「そうか〜」
お前まだ名前ないのか〜と露夏は白い生き物に顔を寄せる。
そしてひとしきり頭を撫でた後、キヲンに白い生き物を返した。
「ほい」
「ありがと」
キヲンは白い生き物を受け取ると、今度は少し離れたところで紅茶を飲んでいるゴスファッションのコドモに近寄った。
「ねぇナツィ!」
見て見て、とキヲンはゴスファッションのコドモに白い生き物を見せつける。

テトモンよ永遠に!
女性/20歳/東京都
2023-06-06 22:06

幺妖造物茶会 Act 3

ゴスファッションのコドモことナツィはちらとキヲンに目を向けた。
「子犬!」
可愛いでしょう、とキヲンはナツィに白い生き物をさらに近付ける。
「…興味ない」
ナツィはそう言って顔を逸らした。
「えーなんで⁈」
可愛いじゃん子犬ーとキヲンは騒ぎ出す。
「どうでもいい」
ナツィはそう言ってティーカップに口を付ける。
「ていうかさ」
それ本当に犬なの?とナツィはキヲンに訝しげな目を向けた。
「へ?」
キヲンはポカンとする。
「だってよく見たら頭に角生えてるし」
「角…?」
キヲンは白い生き物に顔を近づける。

テトモンよ永遠に!
女性/20歳/東京都
2023-06-07 22:11

幺妖造物茶会 Act 4

確かに、その額には小さな角が生えていた。
「ほんとだっ‼︎」
よく気づいたねナツィ!とキヲンは目を輝かせる。
「いやそっちかよ」
露夏は思わず突っ込む。
「普通はもっとさ、違う方向にびっくりするもんだろ」
「えーそうなの?」
キヲンはそう言って首を傾げる。
「ねぇナツィ」
この様子を見て、かすみは思わず話しかける。
「結局あの生き物はなんなの?」
犬じゃないんでしょ、とかすみは続ける。
「…どうせあれは精霊の一種だろ」
ナツィはそう言って紅茶を一口飲む。
「しかも珍しい種類の幼生だ」
「ふーん」
かすみはよく分かっていないような返事をする。

テトモンよ永遠に!
女性/20歳/東京都
2023-06-08 22:31

幺妖造物茶会 Act 5

「ようせい?」
キヲンもよく分かっていないのかポカンとした。
「なぁにそれ?」
キヲンが露夏に目を向けると、露夏は得意げに話し出す。
「幼生っていうのは子どもって意味だな」
ちょっと難しい言葉だ、と露夏は言う。
ほえーんとキヲンは頷いた。
「ていうかキヲン、それどこで拾ってきたんだ」
ナツィが尋ねると、キヲンはえっとね〜と宙を見る。
「駅の近く!」
「…ふーん、駅か」
ナツィはそう反復して続ける。
「とりあえず、ソイツ元いた場所に戻しておけ」
「えーやだー」
返したくない〜とキヲンは駄々をこねる。

テトモンよ永遠に!
女性/20歳/東京都
2023-06-09 22:39

幺妖造物茶会 Act 6

「そんなこと言うな」
「だってー」
「だってとか言わない」
拗ねるキヲンをナツィはなだめようとしたが、すぐに諦めて溜め息をついた。
「…戻しなさい」
暫くの沈黙の後、ナツィはぽつりと呟く。
「えー」
キヲンは不満げにこぼす。
「…」
暫くの間、部屋に沈黙が流れた。
「…じゃあ」
どうしたら戻す?とナツィが尋ねる。
キヲンはうーんと唸った。
「…ナツィが付いて来てくれるならいいよ!」
「何それ」
嫌なんだけど、とナツィはジト目で言う。

テトモンよ永遠に!
女性/20歳/東京都
2023-06-12 22:43
  • レス、感想ありがとうございます。
    お久しぶりです、元気でした。
    だいぶ遅くなってしまってすみません、よければまたリクエストしてください。

    四季を眺めるとかげ
    ー/15歳/青森県
    2023-06-13 19:55
  • レスありがとうございます。
    そうですか、お元気でしたか。
    それなら安心です。
    何か思いついたらまたリクエストしますね。

    テトモンよ永遠に!
    女性/20歳/東京都
    2023-06-13 20:37

幺妖造物茶会 Act 7

「えー何でー」
ナツィと一緒がいい〜とキヲンはその場でじたばたする。
「…」
ナツィはその様子を見ても無視していたが、やがて諦めたようにうなだれた。
「…仕方ない」
お前に付いてく、とナツィはキヲンに目を向ける。
「ほんと⁈」
キヲンはテーブルに身を乗り出して聞く。
「一応な」
「やったー!」
ナツィの返答を聞いて、キヲンはその場で小躍りした。
ナツィは呆れたように溜め息をついた。

テトモンよ永遠に!
女性/20歳/東京都
2023-06-13 22:47

幺妖造物茶会 Act 8

喫茶店が入る建物から数百メートル。
小さくも大きくもない駅の人気のない出入口の近くで、どこか異質なコドモ達が歩いていた。
「なんでさ…」
急にその内の黒髪のコドモがポツリと呟く。
「なんでお前らもついて来てるんだよ!」
「えーいいじゃん」
「別にいいじゃない」
「うん…」
3人組はそれぞれそう答える。
「ピスケスは通りかかっただけとは言え、かすみと露夏はついて来なくてもよかっただろ!」
黒髪のコドモことナツィは語気を強める。
「えーだって暇だしー」
露夏は両手を頭の後ろに回して言う。
「自分も退屈だったから…」
かすみはなんだか申し訳なさそうに言った。

テトモンよ永遠に!
女性/20歳/東京都
2023-06-14 22:35

幺妖造物茶会 Act 9

「なんだよそれ…」
ナツィはそう言って呆れる。
「まぁいいじゃないの」
賑やかな方が楽しいわ、とピスケスは手を叩いた。
「ボクも皆がいてくれて嬉しい!」
精霊の幼生を抱えたキヲンは楽しそうに飛び跳ねる。
「…」
ナツィは溜め息をつく。
「とりあえず行くぞ」
とにかくソイツを拾った場所まで案内してくれ、とナツィはキヲンを促す。
「分かったー」
キヲンはそう言って歩き出す。
残りの皆もそれに続いた。

テトモンよ永遠に!
女性/20歳/東京都
2023-06-15 22:37

幺妖造物茶会 Act 10

歩き始めて暫く。
「あ、ここここ!」
人気のない住宅街で、金髪のコドモがぱたぱたと走る。
「この辺りだよ!」
路地の行き止まりで金髪のコドモは仲間達がいる方を振り返った。
「やっと着いたか」
黒髪のコドモことナツィはポツリと呟く。
「そんなに歩いてないでしょう」
ナツィの隣にいるコドモ、かすみはそう言う。
「…」
ナツィは不満げな顔をした。
「かすみってほんっと、ナツィと仲いいよね」
なんで?とキヲンは尋ねる。
「なんでって…」
説明するのが難しいなぁ…とかすみは困ったような顔をした。

テトモンよ永遠に!
女性/20歳/東京都
2023-06-16 22:33

幺妖造物茶会 Act 11

「そんなことはどうでもいいだろ」
とにかくソレを元の場所に戻せよ、とナツィはキヲンに促す。
「えー分かってるよ〜」
そう言いながら、キヲンは前を向く。
…と、何かと目が合った。
「…!」
それは大きな獣型の精霊だった。
「…どきなっ‼︎」
ナツィがどこからともなく黒鉄色の鎌を出し、キヲンを押し退け目の前の精霊に斬りかかった。
しかし精霊は易々とその攻撃を避ける。
「…チッ」
避けやがって、とナツィは舌を打つ。
「お前らは下がってろ!」
コイツは俺が押さえる!とナツィは背後の仲間たちに呼びかける。

テトモンよ永遠に!
女性/20歳/東京都
2023-06-19 22:10

幺妖造物茶会 Act 12

「ほら行くぞ」
「あ、うん」
キヲンは露夏に言われて慌てて引き下がろうとする。
ピスケスも元来た道へ戻ろうとするが、ふとその場に突っ立ったままのかすみに気付いた。
「…かすみ?」
どうしたの?とピスケスが尋ねる。
かすみはハッとしたように振り向く。
「…ねぇピスケス、もしかして」
あの精霊って、とかすみは目の前の精霊を指さす。
「きーちゃんが拾ってきた子の親なんじゃ…」
かすみが言い終わる前に、ナツィ、キヲン、露夏がえ、と呟く。
「いやだって似てるし…」
「確かに言われてみればそうね」
かすみの言葉にピスケスは頷く。
「ツノとか顔立ちとか、似てるわね」
「えぇ…」
ピスケスの発言を聞いて、ナツィは目の前の精霊に目を向ける。

テトモンよ永遠に!
女性/20歳/東京都
2023-06-20 22:18

幺妖造物茶会 Act 13

精霊はこちらを睨みながら静かに唸っている。
「きーちゃん、とにかくその子を返してみたら?」
かすみにそう言われて、キヲンは腕の中の精霊に目を落とす。
「…」
キヲンは暫く小さな精霊を見つめていたが、やがて分かったと小さな精霊を地面に置いた。
「ばいばい」
小さな精霊はぽてぽてと親と思しき精霊に駆け寄って行く。
親と思しき精霊は唸るのをやめて、小さな精霊に擦り寄った。
「…親子だったみたいだね」
その様子を見て、かすみはポツリと呟く。
「なんだ、そういうことだったのか」
慌てて損した、とナツィはため息をつく。
「あら、お前あの2体が親子だってことに気付いてなかったの?」
ピスケスはナツィに嫌味っぽく言う。
「そう言うお前だって気付いてなかったじゃないか」
1世紀くらい生きてるクセに、とナツィは言い返す。
ピスケスはうふふと笑った。
「よかったね、親の元に帰れて」
キヲンは1人ポツリと呟いた。
「…じゃ、そろそろ戻ろっか」
精霊を元の場所に返したし、とかすみはキヲンに話しかける。
「うん!」
キヲンは大きく頷いた。

〈幺妖造物茶会 おわり〉

テトモンよ永遠に!
女性/20歳/東京都
2023-06-21 23:22

幺妖造物茶会 あとがき

どうも、テトモンよ永遠に!です。
毎度恒例の「造物茶会シリーズ」のあとがきです。
今回は、この物語の元になった物語についてお話ししたいと思います。
「造物茶会シリーズ」は元々自分が高1の時に考えていた物語がベースになっていますが、「造物茶会シリーズ」として投稿する以前に投稿していた物語があるんですよ。
タイトルは、「ファミリア達の夏祭り」。
ここでとある生徒さんが開催していた「掲示板夏祭り」という企画に参加するために作った物語です。
この企画では「夏祭り」にちなんだ作品を投稿するルールになっているのですが、その中に「百鬼夜行」という掲示板が稼働しない土日に夏祭り会場に人外達が登場する物語を投稿する、という催しがあったんです。
そういうものがあったのに、それを無視して人外達が夏祭り会場に行く物語を平日に投稿してました(笑)
…まぁ、平日に人外が出る物語を投稿するなとは言われてないしね。
そんなこんなで企画「掲示板夏祭り」に参加するために大急ぎで物語を作ったんですけど、当時はキャラクターの設定があまりまとまっておらず、ついでに急ぎすぎて話がめちゃくちゃになってしまいまして…
無事、ぼくの黒歴史になりました(笑)
気になる方は「掲示板夏祭り」のまとめ(タイトルは『夏祭り’19 前』『夏祭り‘19 後』)があるのでそちらを見てください。
でもその話は設定やキャラの関係性も違うし、第一キャラ名も全員違うんですよね(口調とかで誰が誰か分かるかも…?)。
当時は今よりもネーミングセンスがなかったので仕方ないのかなーと思います(今もネーミングセンスはあまりないけど)。
とりあえず、「造物茶会シリーズ」はそういう経緯を経て今に至ってます。

今回は長くなりましたが、今回はこの辺で。
ちなみに「ハブ ア ウィル」最新エピソードはすでに完成しているので、7月のスタートと共に投稿できると思います。
お楽しみに。
ではまた!

テトモンよ永遠に!
女性/20歳/東京都
2023-06-23 22:53
造物茶会シリーズ第4弾「櫻夜造物茶会」につづく。

雨傘造物帰路 上

突然降り出した豪雨の中、1人のコドモが折り畳み傘をさしながら歩いている。
左肩に買い物袋を提げながら、そのコドモ…かすみは路地裏を進んでいた。
…と、ふとかすみは足を止めた。
その目の先には、黒い外套を着て頭巾を目深に被った“誰か”がこちらに向かって歩いて来ていた。
「…」
かすみはその人物を目で追っていたが、その人物が自分の傍を通り過ぎる際に何かに気付いたように声を上げた。
「…ナツィ?」
“誰か”はぴたと立ち止まった。
そしてぎこちなく振り向いた。
「…」
黒い外套の人物…ナツィは、気まずそうな顔でかすみを見る。
「どうしたの?」
傘もささないで、とかすみは首を傾げる。
「…」
ナツィは黙って目線を逸らす。
「どうしたのナツィ」
何か…とかすみが言いかけた所で、ナツィが遮るようにこう言った。
「放っとけ」
「え」
かすみが思わずぽかんとして、なんで…と言うとナツィは放っとけ!と語気を強めた。

テトモンよ永遠に!
女性/20歳/東京都
2023-06-19 20:20
企画「RainyDay」に参加するために書き下ろした小編です。ちなみに時系列は特に考えていません。

雨傘造物帰路 中

「今はお前に構ってる気分じゃないんだ」
だから、放っとけとナツィは呟く。
「…」
かすみは思わず黙りこくる。
「もういい」
俺もう行くから、とナツィはそのまま歩き出そうとしたが、急にその腕を掴まれた。
振り向くと、かすみがナツィの左腕を掴んでいる。
「…ナツィ」
かすみはポツリと呟き、ナツィの腕を握りしめた。
「無理、しないで」
かすみは絞り出すように言った。
「…」
ナツィは思わず驚いたような顔をする。
自然とその腕から力が抜けた。
「ナツィ、何かあるといつも1人で抱え込むもん」
自分には分かるよ、とかすみは笑いかける。
「だから1人にならないで」
話、聞くからとかすみは言った。
ナツィはつい俯く。

テトモンよ永遠に!
女性/20歳/東京都
2023-06-20 20:41

雨傘造物帰路 下

「あ、あと」
かすみは思い出したように続ける。
「そんなにずぶ濡れだと“あの人”が心配するよ」
「…なっ」
かすみにそう言われて、ナツィは思わず恥ずかしそうな顔をする。
「…ふふふ」
かすみはそう笑ったが、ナツィはそっぽを向いて顔を赤くしていた。
「あ、あんまりそう言うこと言われたくないんだけど」
特に“アイツ“のことは…とナツィは呟く。
「やっぱり好きなの?」
”あの人”のこと、とかすみは首を傾げる。
「好きって訳じゃないけど…」
大事って言うか、とナツィはしどろもどろになりながら言う。
「そっか」
かすみはそう言って笑みを浮かべる。
「…行こう、ナツィ」
いつまでも雨の中で突っ立ってる訳にはいかないし、とかすみはナツィの手を取る。
「…うん」
ナツィはそう頷いて、かすみがさす折り畳み傘の中に入っていった。

〈雨傘造物帰路 おわり〉

テトモンよ永遠に!
女性/20歳/東京都
2023-06-21 22:17