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「ハブ ア ウィル ―異能力者たち―」16個目のエピソード「トウテツ」のまとめ。

ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 16.トウテツ ①

寿々谷駅前の商店街の裏通りには、小さな駄菓子屋がある。
その名は”ホオジロ商店”。
寿々谷のコドモ達の憩いの場だ。
この店はいつからあるのかよく分からないが、見るからに大分昔から存在するのは確かだった。
そしてこの店は、いつもおばあさんが1人で店番をしている。
わたしが物心つく前からいるらしいこのおばあさんは、皆から”駄菓子屋のおばあちゃん”と呼ばれ、慕われていた。
…わたし達は今、そんな店に向かっていた。
「あ、ミツル」
わたし達のうちの1人、ネロが駄菓子屋の店先にコバルトブルーのウィンドブレーカーを着た少年を見とめると、そう声を上げる。
「お、よぉ」
皆お揃いかーとミツルは白い棒状のお菓子を手に持ちながら言う。
「…ミツル、またサワーシガレット食ってるの?」
ネロがそう尋ねると、そうだぞとミツルは返す。
「ネロが好きなココアシガレットよりずっとおいしいサワーシガレットさ」
ミツルがそう得意気に言うと、ネロはなっ、と答える。

テトモンよ永遠に!
女性/20歳/東京都
2023-07-03 23:19
「16.トウテツ」開幕。

ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 16.トウテツ ②

「そ、そんなワケないやい」
ココアシガレットがナンバーワンだよ、とネロは頬を膨らませる。
「へぇ、どこに根拠があるんだ?」
ミツルはにやにやしながら立ち上がる。
ネロはこう答えた。
「どこにも根拠はないけど…でもボクの中では1番!」
サワーシガレットばかり食べてるミツルは損してるよ、とネロは言う。
「ほーう、俺からしちゃココアシガレットばかり食べてるネロの方が損してると思うんだけどなぁ」
「何だよソレ⁉」
「まぁまぁ2人共」
ミツルとネロが睨みあった所で、耀平が2人の間に割って入る。
「とりあえず、どっちのシガレットが優れているかって話は良いからさ」
ネロ、おやつ買おうと耀平はネロの方を見る。
「お前がココアシガレットを切らしたから、今日はここに来たんだろ?」
耀平がそう言うと、ネロは渋々うんとうなずく。
「じゃあ、さっさと買おうぜ」
耀平の言葉に対し、ネロは分かったよとつぶやいて駄菓子屋の店内に入っていく。
わたし達もそれに続いた。

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女性/20歳/東京都
2023-07-04 22:30

ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 16.トウテツ ③

駄菓子屋の店内で、わたし達はそれぞれ好きな駄菓子を買った。
ネロはいつも通りココアシガレット、耀平は海老せんべい、黎は棒のついたアメ、師郎はスルメイカと言った具合に。
ちなみにわたしはコンビニにも売っているようなグミを買った。
わたし達は各々会計を済ませた後、駄菓子屋の店先に座り込んで買った物を食べていた。
「そう言えばネロ」
皆で駄菓子を食べながら談笑していると、ふとミツルがネロに話しかけた。
「何ミツル?」
またサワーシガレットの方が素晴らしいって話?とネロは訝し気な顔をする。
「いやそうじゃなくて」
ミツルは思わず苦笑いする。
「この女とどうやって出会ったのか教えて欲しいんだけどさ」
ミツルは隣に座るわたしを指で指し示した。
わたしは思わずえっ、と驚く。
「どう?」
等価交換でお前の好きな駄菓子を買ってやるぜ、とミツルはネロに笑いかける。
ネロはえー、と不満気に答えた。

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女性/20歳/東京都
2023-07-05 23:11

ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 16.トウテツ ④

「何でそんな事教えなきゃいけないのさー」
めんどくさーいとネロは呟く。
「良いじゃないか少し位」
「えーやだよー」
「ちょっとだけちょっとだけ」
「何でさー」
ミツルとネロは暫くの間そう言い合っていたが、やがてネロの方が溜め息をついた。
「あーもう分かった!」
ちょっとだけ話すよちょっとだけ、とネロは立ち上がる。
「その代わり、ちゃんと駄菓子買ってよね」
ネロがそう言ってミツルに目を向けると、彼は分かってるさと返した。
「…」
ネロはミツルに目を向けたまま、また駄菓子屋の店先に座った。
「じゃあ、話すよ」
全ては今年の4月から始まった、とネロは語りだした。
「ボクがいつものように寿々谷駅近くの雑居ビルで異能力を使っていると、急に後ろから話しかけられたんだ」
ほう、とミツルは頬杖をつく。

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女性/20歳/東京都
2023-07-06 22:25

ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 16.トウテツ ⑤

「で、後ろを見たらコイツがいたんだ」
ネロはわたしの方を親指で示しながら言う。
「コイツ、ボクに対して”死に神”とか言ってきてさ…本当に意味不明だった」
ネロの言葉を聞いて、耀平はハハハと笑う。
「ま、ネロは寿々谷の都市伝説”死に神”の正体だからな」
それ位言われるのも仕方ないよ、と耀平は続ける。
「ちょっ、そんな事言うなよー」
嫌なんだけど~とネロは頬を膨らませる。
「まぁ良いじゃん」
本当の事なんだし、と耀平はニヤニヤする。
「むー」
ネロは不満気な顔をしていたが、すぐに話に戻った。
「とにかく、ボクはコイツを適当にあしらってそのままそこを立ち去ったんだ」
ネロは淡々と続ける。
「でも異能力を使っている所を見られたから、後でコイツの記憶を消そうとしたんだけど…」
ダメだったのか、とミツルは呟く。
「ま、まぁ、そんな感じ」
通行人が邪魔でできなかった…とネロは恥ずかしそうにこぼす。

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女性/20歳/東京都
2023-07-07 22:47

ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 16.トウテツ ⑥

ミツルはふーんと腕を組んだ。
「で、でも、コイツとはもう会わないだろうし、良いかなって思ったんだ」
思ったんだけど、とネロは続ける。
「…ショッピングモールでまた会っちゃった」
ネロはうつむきがちに言う。
ミツルはハッハッハ、と笑った。
「何だよ、また会っちまったのか」
「そうだよ、何か文句ぅ?」
ミツルの言葉に対し、ネロは頬を膨らませる。
「まぁまぁそんな事は置いといて」
話の続き続きとミツルはネロを促す。
ネロは不満気だったが気を取り直して話を続けた。
「で、話しかけられてさ、面倒な事になりかけた所に耀平達が来たんだ」
それで休憩スペースに移動して、全て話したのとネロはジト目で言った。
「へ~」
ミツルは頬杖をつきつつそう言った。
「それで、一旦はボク達にこれ以上関わるなって言ったんだけど、その後も会う事があってさ」
それで結局一緒に行動するようになったんだ、とネロは呆れたように続けた。

テトモンよ永遠に!
女性/20歳/東京都
2023-07-10 22:48

ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 16.トウテツ ⑦

「ま、おれ達と一緒に行動してた方がコイツにとっても利益になるしな」
耀平がふと呟く。
「一般人に異能力の存在を知られるワケにはいかない異能力者に襲われる可能性だってあるし」
耀平はそう言って手に持つ大きな海老せんべいをかじる。
「ま、ボク達が”一般人に異能力の存在をバラしてしまった”存在として寿々谷の多くの異能力者に知れ渡ってしまっているから、ボクらだって誰かの怒りを買っている可能性もあるし」
だから一緒に行動した方が良いかもね、とネロはココアシガレットをくわえつつこぼした。
「ふーん」
ミツルはにやにやしつつ言う。
「意外とソイツの事受け入れてるんだ」
「え、いや違っ」
ミツルの思わぬ言葉に、ネロは思わず立ち上がる。
「こ、コイツの事なんか全っ然受け入れてねーよ‼」
だってボク達の所に面倒事持ち込んでくるしさ!とネロは続ける。
「最初なんかずっとボク達に付いて来たし」
「まぁまぁ今では仲が良いじゃんか」
「仲良いように見えるかもしんないけど、ボクは友達なんて認めてないもん!」
ミツルにたしなめられても、ネロは思い切りそっぽを向いた。

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女性/20歳/東京都
2023-07-11 22:30

ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 16.トウテツ ⑧

その様子を見て耀平や師郎は苦笑いした。
口ではそう言っているものの、なんだかんだで仲良くさせてもらっているんだな、と思うと、わたしは嬉しかった。
しかし、ふとある事に気付いた。
「…そう言えば皆」
わたしがそう言うと、ネロ達の視線がわたしの元へと集まる。
「さっきから堂々と異能力の話とかしてるけど…駄菓子屋のおばあちゃんに丸聞こえなんじゃない?」
異能力の事が余計バレてるんじゃ…とわたしが言いかけた所で、ミツルが口を開いた。
「あぁ、大丈夫だよ」
喰代(ほおじろ)さんも異能力者だから、とミツルはさらに続ける。
「え⁈」
は?とわたしは思わず声を上げる。
「だ、駄菓子屋のおばあちゃんて異能力者だったの⁈」
わたしはつい駄菓子屋の店内のレジの所にいるおばあちゃんに目をやる。
おばあちゃんは真顔でこちらを見ていた。
「そうさ」
彼女はこの街に昔から住む生粋の異能力者だ、とミツルは立ち上がって笑う。
「えー…」
て言うかあのおばあちゃん”ホオジロ”って名字だったの…?とわたしは困惑する。

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女性/20歳/東京都
2023-07-12 22:35

ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 16.トウテツ ⑨

「ここが寿々谷の異能力者達の溜まり場になっているのも、この人が異能力者だからだよ」
そうでしょ?とネロがおばあちゃんに目を向けると、彼女はまぁねとうなずく。
「この街は異能力者が多いからね」
仕方ないわ、とおばあちゃんは呟く。
「えー…」
わたしは思わぬ事実に茫然とする他なかった。
「ちなみに彼女の異能力は”トウテツ”」
”特定の人間から欲を奪い取る”能力だ、とミツルはおばあちゃんの方を見ながら説明する。
「あんまりこの店で騒ぐと、アタシが異能力で欲を奪い取るからね」
覚悟しなさいよ、とおばあちゃんは両目を濃紫色に光らせた。
「だからこの店は異能力者達の”緩衝地帯”って言われてんだ」
あんまりケンカできないから、とネロは言う。
「へ、へぇ…」
わたしは意外な事実に圧倒されるばかりだった。
「ま、とにかくそんな事は置いといて」
ネロはそう言って立ち上がる。
「ミツル、お菓子おごって!」
ミツルはあーはいはいと立ち上がる。
「500円以内で選べよ」
「ちょっ、昔の遠足じゃないんだから!」
ネロはそうぶつぶつ言いつつ、駄菓子屋の店内に入っていった。

テトモンよ永遠に!
女性/20歳/東京都
2023-07-13 22:58

ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 16.トウテツ ⑩

夕方、辺りが薄暗くなってきた頃。
わたし達はミツルと別れ駄菓子屋を出た後、普段の解散場所である寿々谷駅前に向かっていた。
「ネロ、結局ココアシガレット2箱目を買ってもらったのか」
「えー良いじゃん」
ネロと耀平は楽しく談笑し、黎と師郎も時々会話している。
わたしはその様子を後ろから眺めていた。
今日も楽しかったな、そう思いつつ路地裏を歩いていると、ふとネロが足を止めた。
「?」
どうしたネロ、と葉柄がネロに聞く。
師郎や黎もどうしたんだ?と不思議そうな顔をする。
ネロは少し黙っていたが、言いにくそうに口を開いた。
「…気配が、する」
「気配?」
耀平が聞き返す。
「うん、気配」
ネロはポツリと呟く。
「もしかしたらこれは…」
ネロがそう言いかけた所で、うっふふふふふとどこからともなく高笑いが聞こえた。

テトモンよ永遠に!
女性/20歳/東京都
2023-07-14 22:38
  • PCだと下から10行目、スマホだと下から13行目。
    ×葉柄
    ○耀平

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    女性/20歳/東京都
    2023-07-17 21:16

ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 16.トウテツ ⑪

「まぁ、皆さんお揃いで」
声がする方を見ると、道の突き当たりにある建物の上に奇妙な少女が立っていた。
「何かの帰りかしら?」
白い肌にフリルで飾られた白いワンピースを身にまとい右手に鞭を持った少女が、わたし達に向かってこう尋ねる。
その目は血のような暗赤色だった。
「ね、ねぇ、あの子は誰なの?」
知り合いか何か?と皆に尋ねたが、4人共返事をしない。
むしろ凍り付いたように動けなくなっているようだった。
「ねぇ、皆どうし…」
「皆さんお暇なら、わらわと遊んでくださらない?」
わたしが言いかけた所で、少女はそう言った。
へ…とわたしが呆然としていると、ネロが何かを呟いた。
「え?」
わたしが聞き返すと、ネロがバッとこちらを振り向いた。
「逃げろ‼」
え、何で…とわたしが言いかけた所で、少女が手に持つ白い鞭を振るった。

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女性/20歳/東京都
2023-07-17 23:01

ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 16.トウテツ ⑫

白い鞭は瞬く間に伸びてこちらに迫ってくる。
白い鞭がわたしの目の前まで伸びてきた時、ネロはどこからともなく大鎌を出してそれを振るい、白い鞭を跳ね返した。
「⁈」
わたしが驚くと、ネクロマンサーが再度こちらを見た。
「逃げろって言ってる‼」
ネクロマンサーがそう怒鳴ると、耀平がわたしの腕を引っ張った。
「⁈」
わたしの困惑も気にせずに、耀平は駆け出す。
師郎や黎も別々の方向へ走り出した。
「え、ちょっと待ってちょっと待って‼」
わたしは引きずられながら耀平にそう言うが、彼は全く取り合おうとしない。
むしろ、わたしの事を無視しているようだ。
「ちょっと待ってよ‼」
暫く走った所で、わたしは路地の真ん中で無理矢理立ち止まる。
耀平も前へつんのめりつつ足を止めた。
「ねぇ耀平待っ…」
「おいお前‼」
わたしが息切れしながら呟きかけた所で、耀平がわたしに怒鳴った。
「お前…ネロが言ってた事が分かんねぇのか⁈」
逃げろって言ってたろ!と耀平は語気を強める。

テトモンよ永遠に!
女性/20歳/東京都
2023-07-18 22:44

ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 16.トウテツ ⑬

「き、急に逃げろって言われても…」
わたし、何が何だか分からないし…とわたしはこぼす。
「とにかくな」
耀平は一息ついてからわたしの目を見る。
「お前、さっさとこの場から逃げろ」
絶対に後ろは見るなよ、と耀平は付け足しつつ言う。
「…どうして?」
「どうしてもこうしても、今は説明してる暇はないんだ」
だからさっさと逃げろ、と耀平はわたしに後ろを向かせる。
「おれ達の事は大丈夫だから、あんま気にすんな」
耀平は神妙な顔でわたしの背中を押した。
「え、何で…」
わたしがそう言いかけた時、ぐはっという声と共に小柄な少女が路地の角から転がり出てきた。
「ネロ‼」
わたしが言うよりも早く、耀平がネロの側に駆け寄る。
「アイツ…前より強くなってやがる」
ネロがそう呟いた所で、路地の奥から楽しそうな笑い声と共に白い少女が現れた。
「”前よりも強くなった”のは、他の人の異能力を”頂いた”から」
いつものことよ、と少女は笑顔で言う。

テトモンよ永遠に!
女性/20歳/東京都
2023-07-19 22:45

ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 16.トウテツ ⑭

「…テメェ」
ネロはふらつきながら黒鎌を出し、それを少女に向かって構える。
「今度はボク達を狙おうって言うのか‼」
ネクロマンサーはそう問いかけたが、少女はうふふふふと笑うばかりだった。
「…それなら、ボクが止めてやる‼」
ネクロマンサーはそう叫んで少女に飛びかかった。
しかし少女は恐れるそぶりを見せず白い鞭を振り回す。
「おい!」
お前今の内に…と耀平は2人が戦う隙にわたしの背中を押す。
「え、ちょっと…」
わたしは困惑したが、耀平は気にせず続ける。
「ネクロがアイツを足止めしてる内に、さっさと逃げろ!」
おれ達のことは良いから!と耀平は語気を強める。
「え、あ、うん…」
わたしは彼の有無を言わせぬ雰囲気に押されて歩き出す。
「早く‼」
「うん!」
耀平に急かされて、わたしはその場から走り出す。
なぜあの少女はわたし達に襲いかかってきたのだろう。
なぜ彼女を皆は恐れるのだろう。
そもそもあの少女は何者なんだろう。
頭の中で様々な疑問が渦巻く中、わたしは日の落ちた路地裏を駆けていった。

〈16.トウテツ おわり〉

テトモンよ永遠に!
女性/20歳/東京都
2023-07-20 22:22
「17.ヨウコ」につづく。