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「ハブ ア ウィル ―異能力者たち―」18個目のエピソード「メドゥーサ」の前半戦、①~⑭のまとめ。

ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 18.メドゥーサ ①

寿々谷には夏の風物詩もあるが、秋の風物詩もある。
それは、”寿々谷市民まつり”。
寿々谷市中心部にある広い公園”寿々谷公園”で開催されるお祭り。
寿々谷の市民や学校、各種団体による出し物や催し物、公園中に並ぶ屋台などでものすごい賑わいを見せる、寿々谷の一大イベントだ。
地元民の間では、”寿々谷二大祭”の1つにカウントされるこの祭について話しながら、わたし達は駅前を歩いていた。
「市民まつりどうするー?」
「屋台周るっきゃないでしょ」
「出し物も気になるなぁ」
それぞれが話に花を咲かせる中、不意にネロがこう言った。
「こういう時に、”奴”が出なきゃ良いんだけど」
ネロの言葉に、皆が足を止める。
「…”ヴァンピレス”か」
耀平が思わず呟くと、ネロは苦笑する。
「まぁ、奴の事だし、市民まつりを狙って他人の記憶を奪って周るだろうね」
それ位、他の異能力者も分かってるよ、とネロは前を向く。
「そうだな」
ビビッてちゃ何もできないもんな、と耀平は笑った。

テトモンよ永遠に!
女性/20歳/東京都
2023-11-27 22:56
  • スマホだと上から5行目(PCだと上から3行目)、最後に「である」って付けるべきだったね。
    後から思ったよ。

    テトモンよ永遠に!
    女性/20歳/東京都
    2023-11-28 14:48
「18.メドゥーサ」開幕。

ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 18.メドゥーサ ②

「それに、おれ達にはネロがいるし」
「ちょっ、褒めるなよ~」
耀平の言葉にネロは照れるじゃーんと笑顔になる。
「ま、そんな事はともかくさっさと駄菓子屋に行こうぜ」
ネロのココアシガレットが切れたんだろ?と師郎が皆を促す。
「分かってるよー」
「じゃ行こうぜ」
ネロと耀平はそう答えるとまた歩き出す。
師郎と黎も2人に続いた。
わたしも皆に置いていかれないように歩き出したが、すぐに足を止めた。
と言うのも、ネロが急に立ち止まったからだ。
「?」
どうしたネロ、と耀平が不思議そうにネロの顔を覗き込む。
ネロは後ろをむいたまま、先程わたし達とすれ違った少女とその親に釘付けになっている。
「…ネロ?」
耀平が再度呼びかけた時、ネロは突然少女に向かって駆け出した。

テトモンよ永遠に!
女性/20歳/東京都
2023-11-28 22:49

ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 18.メドゥーサ ③

「え、ちょっと!」
耀平は思わずそう言うが、ネロは気にせず少女の肩に手をかける。
ネロに肩を触れられて、少女はパッと振り向いた。
「…」
少女はネロの顔を見てポカンとしている。
その様子を見てネロは驚いたような顔をした。
「誰?」
少女は不思議そうに尋ねるが、ネロはあー…と目を逸らす。
「な、何でもない」
ごめん人違いとネロは恥ずかしそうにそっぽを向いた。
「…」
少女は黙ってその様子を見ていたが、少し離れた所で母親が待っている事に気付いて母親に駆け寄った。
「ネロ」
耀平がネロに近付いてそう呼びかけると、ネロは彼の方を見た。
「急にどうしたんだ?」
知り合いか何…と耀平が言いかけた所で、ネロは耀平の横を通り過ぎてわたし達の方へ向かった。
「え、ちょっ」
耀平がそう言って彼女を引き留めようとしたが、ネロはこう呟く。
「行こう」
そう言いながらネロはわたし達の側を通り過ぎていった。

テトモンよ永遠に!
女性/20歳/東京都
2023-11-29 22:55

ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 18.メドゥーサ ④

それから1週間後。
わたし達はショッピングモールの片隅にある休憩スペースのイスに座りながら、いつものように駄弁っていた。
内容はもちろん、寿々谷市民まつりだ。
「市民まつりにウチの学校の吹奏楽部が出るんだとよ」
「俺の学校もだな」
ついに1週間後に迫った市民まつりについて、耀平と師郎は盛り上がる。
黎もその様子を見ながら時々うなずいたりする辺り、話を楽しんでいるようだ。
しかし、ネロだけは違った。
彼女は頬杖をついてそっぽを向き、どこか上の空みたいだった。
「…なぁネロ」
ここで耀平もその様子に気付いたのか、ネロに話しかける。
「お前今日はどうしたんだ?」
よそ見なんかしちゃってさ、と耀平は尋ねる。
「…何でもない」
ネロはちらっと耀平の方に目を向けてそう返す。
「何でもないって…」
耀平はそう呟くが、何かに気付いたのかこう言った。
「もしかして、先週の”あの子”の事が気になるのか?」
耀平の質問に、ネロはぎくっと飛び上がる。

テトモンよ永遠に!
女性/20歳/東京都
2023-11-30 22:42

ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 18.メドゥーサ ⑤

「…」
ネロはそっぽを向いていたが、何だか気まずそうな顔をしていた。
「やっぱり、”あの子”の事なんだろ」
おれに話してごらんよネロ、と耀平は彼女に声をかける。
「何かスッキリするかもしれないぞ~」
耀平はそう言って笑う。
ネロは暫く向こうを向いていたが、やがて耀平に向き直った。
「先週、駅前ですれ違った”あの子”…ボクの知ってる異能力の”匂い”がしたんだ」
ネロがぽつと言うと、耀平は”匂い”と返す。
「そう”匂い”」
ボクは知っている異能力者を雰囲気で判別できるから分かるんだけど、とネロはうなすく。
「知っている”匂い”がしたんだ」
それもボクが知っている”匂い”じゃなくて、とネロは続ける。
「”ネクロマンサー”が知ってる”匂い”なんだよ」
ネロがそう言うと、耀平はふむ…と腕を組む。
「…つまり、お前と同じ異能力をかつて持っていた人間と関わりのある異能力者、って事か」
耀平がそう言うと、ネロは静かにうなずいた。

テトモンよ永遠に!
女性/20歳/東京都
2023-12-01 22:22

ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 18.メドゥーサ ⑥

「でもあの子、ボクを見た時にボクと初対面みたいな顔してた」
ネロの言葉に耀平は首を傾げる。
「え、じゃあ”あの子”はネロの事覚えてないって事?」
同じ異能力者だよな…?と耀平は呟く。
「多分、”あの子”の異能力はまだ完全に発現し切ってないんだと思う」
まだあれ位の年齢なら発現し切ってなくてもおかしくないし、とネロは続ける。
「発現し切ってないって事は、記憶も完全に引き継がれてないからボクに気付かないんだと思う」
ネロはそう言った。
「…ネロは、ソイツと仲良くしたいのか?」
「へ?」
ふと師郎が尋ねて、ネロはポカンとする。
「いやだって、人間としては見ず知らずの相手だけど異能力者としては大昔の知り合い、なんだろ?」
そんな奴に自分から話しかけに行ったって事は、仲良くなりたいとしか思え…と言った所で、ネロはそ、そんなワケないやい!とイスから立ち上がる。
「べ、別に、たまたま知っている匂いがしただけで」
仲良くなりたいだなんて思ってないもん…とネロは顔を赤らめながら言う。

テトモンよ永遠に!
女性/20歳/東京都
2023-12-04 22:46

ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 18.メドゥーサ ⑦

「本当は、仲良くなりたいんだろ?」
師郎がそう尋ねると、ネロは黙ってうなずいた。
「でも、その子の”人間としての名前”もどこに住んでいるかも分からないし…」
どうしたらいいんだろ、とネロはうつむく。
わたし達4人もうーんと唸った。
「…」
すると黎が師郎の服の裾を引っ張った。
「?」
どうした黎、と師郎が隣に座る彼に目をやると、黎はわたしの方を指さした。
「え?」
わたし?とわたしは自分を指さすが、黎は黙って首を横に振る。
じゃあ何だろう、と思いながら後ろを見ると、休憩スペースの入り口に見覚えのある少女が立っていた。
「…え」
ネロがその少女を見て唖然とする。
というのも、その少女はネロが先週話しかけにいった少女だったからだ。
「な、な何で⁈」
ネロは思わず声を上げる。
「えっ、えっ、ウソぉ…」
どうしよう聞かれた?とネロは恥ずかしそうに手で顔を隠す。

テトモンよ永遠に!
女性/20歳/東京都
2023-12-06 22:36

ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 18.メドゥーサ ⑧

「…」
ネロが慌てふためく中、少女は何の事?と言わんばかりに首を傾げる。
「あー、あのな、コイツがちょうどお前の事話してて…」
耀平はその場を何とかしようと説明するが、少女は益々不思議そうな顔をする。
「うわーんどうしよぉぉぉ」
「とりあえず落ち着けネロ」
あわあわするネロを耀平がなだめていると、師郎は近くにあるイスをこちらに寄せてこう言った。
「…とりあえずお嬢さん、ここに座ったら?」
その途端、ネロも耀平も師郎の方に静かに目を向ける。
「うん」
少女はこくりとうなずいて、イスに座った。

ネロが先週話しかけた少女に出会ってから暫く。
わたし達は少女に色々と質問されていた。
先週なぜネロは彼女に話しかけたのか。
なぜ今その話をしていたのか。
そもそもわたし達はどういう集まりなのか、など。
わたし達は今の所常人である彼女に異能力の事を知られないようごまかしながら、頑張って説明していた。

テトモンよ永遠に!
女性/20歳/東京都
2023-12-06 23:19

ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 18.メドゥーサ ⑨

「なるほど」
つまりわたしがあの子の昔の知り合いに似てたからこの間話しかけてきたんだ、と言いつつ少女はネロに目を向ける。
ネロは恥ずかしがって耀平の陰からこちらを覗き見ていた。
「うん、何かそうらしいんだよー」
ごめんなーアイツが迷惑かけてーと師郎は笑いながら頭をかく。
「ううん、良いの」
わたし、ここに引っ越してきたばかりだから誰でも話しかけてくれる人がいるのは嬉しいな、と少女は微笑む。
「それで…謝花 メイ(じゃはな めい)ちゃん、だっけ」
「うん」
わたしが話しかけると、メイと言う少女はこちらを向く。
「どうしてここへ来たの?」
ショッピングモールのこんな隅っこ、中々来る人いないんだけど…とわたしは呟く。
「あー、ママがね、トイレ行って来るからあっちで待っててって言ってたの」
そしたら見覚えのある子がいて、とメイは続ける。
「…で、よく見たらウチのネロだったって事か」
耀平がそう言うと、メイはうんとうなずく。
「まさか、先週話しかけてきたあの子だなんて思わなくて」
びっくりしちゃった、とメイは笑いつつ再度ネロの方を見た。
ネロは驚いて耀平の陰に顔を隠した。

テトモンよ永遠に!
女性/20歳/東京都
2023-12-07 22:31

ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 18.メドゥーサ ⑩

「…そう言えばメイ、お前さんいくつなんだい?」
随分しっかりしてるけど、と師郎がふと尋ねる。
「わたし?」
10歳、小5だよ?とメイは答える。
「しょ、しょしょしょ小5⁈」
この発言にネロは飛び上がる。
「小5って…ボクより年下⁈」
うっそぉ…とネロは耀平の陰から顔を出して呟く。
対するメイは、同い年じゃないの?と首を傾げている。
「実はな、ネロはこんなにちっちゃいけど中1なんだ」
だからよく小学生に間違われるんだぜ、と師郎が笑いながら言う。
ネロは恥ずかしいからやめて~と顔を赤くしていた。
メイはふふふと笑った。
…と、ここで休憩スペースの入り口の方からメイーと声が聞こえた。
見ると先週メイの側にいた母親らしき女の人が立っていた。
「あ、ママ」
メイはそう言って立ち上がろうとするが、ここでネロがあ、待って!と彼女を引き留める。
メイは?と振り向いた。

テトモンよ永遠に!
女性/20歳/東京都
2023-12-08 22:30

ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 18.メドゥーサ ⑪

「あ、あのー、そのー…」
ネロは思わずもじもじするが、隣にいる耀平がネロの背中を押す。
耀平に励まされて、ネロは意を決したようにこう言った。
「今度、今度、寿々谷公園で”寿々谷市民まつり”ってのがあるから、一緒に行かない?」
それを聞いて、メイは驚いたように目をぱちくりさせる。
「メイ、寿々谷に来たばかりで分からない事だらけでしょ?」
だから、案内するついでに、ちょっと…とネロは消え入りそうな声で言う。
メイは暫くポカンとしていたが、やがてこう言った。
「いいよ!」
別に行っても、とメイは笑顔で返す。
ネロは思わず返答に、へっ⁈と驚く。
「い、一緒に行ってくれるの⁇」
「うん」
今度がいつか分からないけど、楽しそうだから行きたいとメイは笑顔で答える。
「…あ、ありがとう」
ネロは思わず顔を赤くした。

テトモンよ永遠に!
女性/20歳/東京都
2023-12-11 22:31

ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 18.メドゥーサ ⑫

メイと別れてから数時間。
あの後わたし達はショッピングモールで駄弁ったりして、夕方になったのでそろそろ帰ろうという事になった。
「それにしても良かったなネロ」
あの子と仲良くできて、と夕暮れ時の路地を歩きながら耀平は言う。
「べ、別に流れでそうなっただけで」
そこまでボクの意志じゃないもん、とネロはそっぽを向く。
「ウソつけ~」
お前顔赤くなってたぞ~と耀平はネロをからかう。
「ま、ネロには唯似位しか女友達いないからな」
女子と関わる機会が少ないから、こうなるのも仕方ないと師郎も笑う。
「もー2人共~」
ネロは不満気に口を尖らせた。
…と、うふふふふと誰かの高笑いが聞こえた。
「⁈」
彼らもわたしもその聞き覚えのある声に足を止める。
辺りを見回すと近くの建物の3階の外付け階段の踊り場に、白いフリルワンピースを着た白い肌に赤黒く輝く瞳の少女が柵から身を乗り出していた。
「アンタは…!」
ヴァンピレス‼とネロは声を張り上げる。

テトモンよ永遠に!
女性/20歳/東京都
2023-12-12 22:37

ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 18.メドゥーサ ⑬

「皆さん、ご機嫌よう」
今日も楽しそうねぇとヴァンピレスは微笑む。
「アンタ、今日は何の用だ‼」
またボクらの異能力を奪いに来たのか‼とネロは具象体を出しながら睨みつける。
「うふふ、今日はそんな用じゃないの」
ちょっと貴方達に聞きたいことがあって、とヴァンピレスは踊り場の柵に腕を載せる。
「貴方達と一緒にいたあの子…名前は何ていうのかしら?」
「そんなのアンタに関係ない」
ヴァンピレスの質問に、ネクロマンサーは強く言い返す。
「大体、それを聞いてどうすんだ!」
アンタには関係ないだろ!とネクロマンサーが言うと、ヴァンピレスはふーんと呟きつつ表情を笑顔から真顔に戻した。
「…じゃあ、”心を読む”わよ」
ヴァンピレスがそう言って冷たい目をわたし達に向けると、ネクロマンサーはなっ‼と叫ぶ。
「コイツ、そんな異能力も奪ったのか‼」
ネクロマンサーが驚くと、ヴァンピレスはうふふふふふと高笑いを上げる。
「そう、そうなの、わたしが奪った”ケツァルコアトル”は他人の心を読む能力」
少し前に奪ったのだけど、存外便利で役立っているわとヴァンピレスは笑う。

テトモンよ永遠に!
女性/20歳/東京都
2023-12-13 22:37

ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 18.メドゥーサ ⑭

「…あの子、他の異能力者の異能力も使えるの?」
わたしがふと耀平に尋ねると、彼はあぁと返す。
「奴は他人の記憶を自分のものにできるから、他人の異能力も自分のものにできるんだよ」
お陰で何人も奴の餌食になった、と耀平は呟く。
「うふふ、これで分かったわ」
ヴァンピレスは暫くの後そう言ってにんまりと笑みを浮かべる。
「あの子の名前は謝花 メイ」
異能力が発現間近なのね、とヴァンピレスはこぼす。
「しかも随分強力な異能力者みたいね」
これは欲しくなるわ、と彼女は笑う。
「まさかアンタ…」
ネクロマンサーが思わずそう言うと、ヴァンピレスはうふふふふと答える。
「今度会った時は奪ってしまうのも一興、かしらね」
ふふふふと言いながら、彼女はわたし達に背を向ける。
「ちょっ、アンタ‼」
ネクロマンサーがそう叫んでヴァンピレスを呼び留めようとする。
しかしヴァンピレスはそれじゃ、ご機嫌ようと言い残して姿を消した。
「…」
暗くなった路地裏に、わたし達だけが取り残された。

テトモンよ永遠に!
女性/20歳/東京都
2023-12-14 22:21
続きは後半戦のまとめで。