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少年少女色彩都市・某Edit. Outlaw Girls Duet その④

触手は筐体を破壊することなくただ理宇だけを執拗に追跡していく。理宇はゲームコーナーの中をひたすら逃げ回り、格闘ゲームコーナー、メダルゲームコーナー、再びクレーンゲームコーナーと走り続けたところで、前から襲い来る触手に挟撃され、再び拘束を受けた。
首、両手首、両足首を絡め取られ、完全に身動きができない状態で空中に持ち上げられる。
「うげっ……! た、たすけて先輩……!」
身じろぎして抵抗するが、エベルソルの力はかなり強く、全く歯が立たない。そのうち胴体にも触手が巻き付いていき、更に締め付ける力が少しずつ強くなり始めた。
「せ、先輩……どこ……? ロキ、先輩……」
首の触手も締め上げられ、意識が遠のいていく。完全に気を失う直前、ロキの光弾が触手の拘束を吹き飛ばし、理宇の身体はそのまま床に落下した。
「リウ、変に逃げ回るからサポートが遅れたよ。ごめん」
「ぁぅ……それは、ごめんなさい」
「謝らないで。立てる?」
駆け寄ってきたロキに助け起こされ、理宇は再びスティックを生成した。
「すみません、まだ戦えます。ロキ先輩は下がってください」
「ん、頑張れリウ」
再び始まった触手の猛攻を捌き始めた理宇を置いて、ロキはゲームコーナーからひとまず脱出した。

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少年少女色彩都市・某Edit. Outlaw Girls Duet その③

エベルソルが口を開く。するとその奥から、無数のぬらぬらとした質感の触手が伸びてきた。理宇はスティックでそれらを叩き落としながら、少しずつ距離を詰めていく。
(ロキ先輩の弾幕は、タマモ先輩のと違って自由に曲がるから、私が壁になってても大丈夫なはず。こいつの意識を、私だけに集中させるんだ!)
僅か2mほどの位置まで接近し、両足を踏ん張って触手の撃墜を続ける。その隙に、ロキが生成したインキの光弾が回り込むようにしてエベルソルの胴体に命中していく。
光弾のうち1発が深くエベルソルに突き刺さり、体内に到達した。
その穴を押し広げるようにして、体内から更に大量の細い触手が伸び上がり、理宇に襲い掛かる。
「えっ、待っ」
突然倍化した攻撃に動揺しながらも、理宇は冷静に防御を続ける。
「……リウ」
不意に、ロキが呼びかけた。
「えっ、先ぱ、うわぁっ⁉」
そちらに一瞬意識が割かれたためか、あるいは単純な注意不足のためか、足下に忍び寄っていた1本の触手に対応できず、左足首を絡め取られ高く逆さ吊りにされてしまった。
「わあぁっ⁉ ろ、ロキ先輩、助けっあああああ⁉」
エベルソルは理宇を大きく振り回し、レースゲームの筐体に向けて投げつけた。
「リウ、無事?」
「っ……がっ、はぁっ……はぁっ……! ど、どうにか……って、うわあっ!」
理宇に再び向かってきた無数の触手を転がりながら回避し、ゲームの筐体の隙間を駆け抜けた。

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少年少女色彩都市・某Edit. Outlaw Girls Duet その①

休憩室の扉をノックする軽やかな音が3度響く。
「入ってどうぞ」
ロキが言うと、扉が開き理宇が入ってきた。
「あ、ふべずるんぐ先輩。お疲れ様です。タマモ先輩は……?」
「ロキで良いよ。タマモはこの間の戦いで両腕骨折したからしばらく療養。座ったら?」
ロキに促され、理宇はタマモが普段座っている席の向かいに座った。その斜向かいにロキも掛ける。
「…………あのー……」
「…………」
ロキは理宇の存在を意に介することなくスマートフォンを操作している。
「あの、ロキ先輩?」
「……あ、ん、何?」
スマートフォンから目を離し、初めて理宇の目を見る。睨むようなその視線に臆しながらも、理宇は対話を試みた。
「今日は、何かやることあるんですかね?」
「いや特には」
「さいですか……。あ、これは全く関係ない世間話なんですが、ロキ先輩ってタマモ先輩といつから組んでるんですか?」
「……そろそろ1年かな。何だかんだで私がリプリゼントルになってからずっと一緒に戦ってる」
「へー。どんな感じで出会ったんです?」
「…………まあ、それはタマモ自身に聞いて。あいつが話したがらなかったら諦めてやって」
「あっはい」
しばらく無言の時間が流れたが、不意にロキのスマートフォンから通知音が鳴り、ロキが立ち上がった。
「行くよ。仕事だ」
「はい、了解です!」
「……あれ、あんた何ていったっけ」
「あ、魚沼理宇です」
「うん、じゃあ行こうか、リウ。あいつがいない分、私のこと守ってくれる?」
「お任せください!」

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縁に縛られている

応絢那(イラエ・アヤナ)
性別:女  年齢:10代  身長:160㎝
マジックアイテム:お守り
願い:独りになりたくない
衣装:拘束衣
魔法:縁に縛られる
魔法使いの少女。家庭の問題の影響で孤独に対して異常なまでに恐怖しており、その願いが魔法に反映された。
その魔法を簡単に表すと「自分と何者かを繋ぐ『縁』が残っている限り、決して死ぬことが無い」というもの。自分を知っている者が一人でも生きている限りその『縁』によってあらゆるダメージは『縁』を材料として即座に修復される。ファントムとの敵対ですらそれ自体が『縁』となるため、ファントムとの戦闘中、彼女は絶対に死なない。また、自身を縛る『縁』を鎖として具現化し、武器として操ることもできる。
かつて初めてのファントムとの戦闘にて、肉体の大部分を食われたせいで、魔法でできていない彼女の生来の肉体部位は右脚全体と左腕の肘から先のみであり、それらの部分が己の魔法で『縁』に代替されることも恐れている。これらの部位を軽くでも怪我するとひどいパニック症状に陥り、再生させないために『縁』の鎖で傷口を更に深く抉り続ける。異物が傷口に直接接している限りは『縁』の再生が起きないためである。
思考する脳さえも己の魔法に代替されてしまっているせいで、『自己』というものに自信が持てず、精神は非常に不安定。

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少年少女色彩都市・某Edit. Outlaw Artists Beginning その⑫

「う……タマモ?」
腕の攻撃は空振りに終わったけれど、私を助けてくれたのであろうタマモの方を見ると姿が無い。ぶつけた後頭部をさすりながら周囲を見ると、数m後方でひっくり返っていた。
「タマモ……その、ごめん」
「いや謝るな、感謝しろ。俺のお陰で死なずに済んだんだぞ……痛え」
そこまでのダメージは受けなかったみたいで、すぐに起き上がった。鼻血を流してはいるけれどそのくらいだ。
「ありがと、タマモ。頭はぶつけたけど」
「マジか。次は受け身取れよ?」
「善処する」
そういえば攻撃の手が止んでいた。咄嗟にエベルソルの方に向き直る。さっきまで頑張って破壊していた腕は大部分が再生しているようだ。
「あークソ、せっかくの攻撃が無駄になったじゃねえかよ。大人しく防御だけしとけッてンだよなァ」
「上への攻撃がちょっと密度低かったかも」
「反省会は後だ。削れるのは分かったんだから……もう一度殺しきるぞ!」
タマモはまた光弾を用意してすぐに発射する。
私も光弾を描きながら、描いた傍から撃ち出していく。ほぼ真上に、奴を狙うのでは無く、取り敢えずその場から退かす意味合いで。
「……準備よし。全弾……突撃!」
十分な数を撃ち出したところで、光弾全てを敵の一点、およそ中央に向けて叩き込む。
槍の如く並んだ光弾は、腕の防御を破壊しながら奥へ、また破壊しながら奥へ、どんどん突き刺さり、体幹を破壊した。腕たちの起点を上手く射貫けたようで、腕たちがバラバラに地面に散らばる。
「……ロキお前……すげえな」
「殺せては無いし」
「いやァ……あとは1本ずつ順繰りに処理すりゃ良いだけだからな。9割お前の手柄だよ」
「わぁい」
あとは腕たちを二人で手分けして処理していき、私の初めての戦いは無事に勝利で終わった。

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少年少女色彩都市・某Edit. Outlaw Artists Beginning その⑪

「……飛んでいけ」
光弾を発射する。タマモのように直線的にでは無く、放物線を描く軌道で、奴を全方向から取り囲むように。
私の放つ弾幕は8割方無事に命中し、敵の腕を順調に命中させていく。
「え嘘、これそんな使い方できンのかよ」
「できるかなー……って思ってやったらできた」
「はぇーお前すげェな。俺は普通に飛ばした方が楽だな」
「そりゃ何も考えず飛ばせるんだから楽でしょ。その分ペース落ちるから、頑張って止めてね」
「そりゃ勿論」
追加で光弾を用意する。半分は放物線、もう半分は着弾の直前で僅かに軌道をずらすように弾道を設定して、一斉に発射する。
発射の瞬間、腕は防御態勢を取ったけれど、ずらした弾がダメージを与えていく。
「タマモ、この戦い方すっごい楽しい」
「そりゃ良かったな」
続く弾幕は、敵の50㎝ほど手前で一瞬停止するように。奴の防御が無駄に空を切り、また腕を破壊していく。
「タマモ、これ良いね。相手の防御無駄にするの楽しいよ」
「……うん、そうだな。お前にはそれが向いてるよ」
次の弾幕を用意していると、エベルソルの上方の腕がほどけ、急に伸長して全方向に向けて拳を繰り出した。私達の方だけじゃなく、周りの彫刻も狙っている。
「っ!」
用意できていた分を全部発射して、彫刻を狙っていた分の腕はどうにか破壊する。
こちらに向かってきた腕はどうしたものか、とりあえず自分の腕で防御しようとして、背後から足を払われ仰向けに倒れた。

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復讐屋

“復讐屋”
性別:女  年齢:27歳  身長:181㎝
ブラックマーケットの奥深くで「復讐支援業」に従事している女性。本名を知っている人間はごく少数で、腕利きの情報屋ですら名前を探れないでいる。
「復讐とは、過去の因縁に決着を付け前に進むための儀式である」との信念から、顧客たちの復讐の支援を行うべく、情報収集・ターゲットの誘導・武器類の提供を行う。
飽くまでも直接手を下すのは復讐を望む本人であるべきと考えており、「復讐代行」だけは絶対にしないと決めている。
愛銃は6発装填リボルバー式拳銃の〈ジェヘナ〉と5発装填ボルトアクション式スナイパーライフルの〈リンボ〉。実際に発砲する機会は少なく、特に〈ジェヘナ〉には常に1発しか弾丸を入れていない。
仕事で使っているリュックサックは状況に応じて中身が変わるが、ミネラルウォーター500ml×2、携帯食料1日分、アーミーナイフ、防水マッチ30本入り1箱、電気ランタン、合成繊維製のロープ10m、カラビナ4個、ブランケット、〈リンボ〉用の弾薬箱20発×2、〈ジェヘナ〉用の弾丸1発は常備している。
自分の生業については、「死後地獄に堕ちることが確定しているだけでそれ自体は正当な行為である」と認識している。

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少年少女色彩都市・某Edit. Outlaw Artists Beginning その⑩

「しかしまあ……結構だりィぞ」
「何が? ちょっと頑張ればダメージ通せるよ?」
「いやァ……ちょいと俺の攻撃をよォーく見といてくださいよフヴェズルングさんや」
タマモの攻撃が、防御していた腕を数本吹き飛ばす。すぐに別の腕が防御に回って……。
「あ、なるほどー」
千切れていたはずの腕が無くなっている。というか、無事な腕の陰に隠れた隙に再生してるっぽい。
「火力足りてなくない?」
「だなァ。一般市民が通報して応援が来てくれるまで粘るってのもアリではあるンだがよォ……なあロキ」
「何?」
「せっかくの初陣、華々しい勝利ってヤツで飾りたくね?」
「まあ、せっかくならねぇ」
ニッ、と笑ってタマモが1歩踏み出す。
「じゃ、ちょっと頑張ろうぜ」
「うん」
タマモは素早く弾幕の用意をして、それと並行してエベルソルを攻撃している。正面から削り切るつもりだろうか。私も攻撃に参加しても良いけど、私達2人でダメージが追い付くだろうか。せめて全方位から削れれば効率良く倒せそうなんだけれど……。
「あ、良いこと思いついた」
「あ? 何だ、先輩として協力なら惜しまねーぞ」
「引き続き頑張って」
「りょーかい」
少し大きめの光弾をたくさん生成する。そのうち半分は、作るのと同時にエベルソルに飛ばして、タマモの支援をする。
そして、そこそこの数の光弾が貯まったところで、改めてエベルソルを睨む。

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少年少女色彩都市・某Edit. Outlaw Artists Beginning その⑨

彫刻から飛び降り、大きな影、エベルソルの下に駆け付ける。青白いヒトの腕が無数に絡みついたような気持ちの悪い姿の化け物が、公園の柵を蹴倒しながら猛然と突っこんできていた。
「おいクソッタレのエベルソル! なァに芸術以外ブッ壊してンだ生ごみ野郎がァ!」
エベルソルに対して挑発するように喋りかけながら、タマモはガラスペンで描いた光弾をいくつもぶつけた。化け物を構成する腕の表面には、弾が当たって焦げ跡ができたけれど、有効打にはなっていないみたいだった。まあ、こちらに気付いてくれたようだけど。
「ああクソ面倒くせェ。コイツそこそこ硬てェぞ」
「わぁ大変」
「お前も働くんだよロキ」
「まあまあ。まだペン使うのに慣れてないんだから……」
ガラスペンを取り出し、タマモに倣ってインキ粒をいくつか描き、エベルソルにぶつける。あまり威力は無かったけれど、練習はできた。こんな感じか。
「理想はここの彫刻全生存。最悪何個か壊れても作者さんに謝りゃ良い。気楽に行こうぜ」
「うん」
タマモがエベルソルの気を引いているうちに、少し走って奴の真横に位置取り、水玉模様の捻じくれた彫刻の陰で光弾のストックをいくつか用意する。小さい弾じゃダメージにはならないみたいだったから、少し時間をかけて大きめの弾にする。
数十個完成させたところで、攻撃に参加しようと彫刻の陰から顔を出す。エベルソルは腕のいくつかを防御のために前方に構えながら、タマモにじりじりと接近している。こちらからは完全に無防備だ。
こちらの用意した光弾のうち、3分の1ほどを一気に叩き込む。無事に奴の腕をいくらか千切り飛ばしたは良いものの、すぐに対応されて防御されてしまった。
「お、やるじゃねーのロキ。次はお前が狙われるぞ」
「えー」
たしかに、エベルソルの進路は私の方に変わっているみたいだ。流石に彫刻を巻き込むのはそれを守る人間として申し訳無いので、陰から出てタマモの方に駆け寄る。
「お前なんでこっち来た?」
「いや、つい……彫刻の少ない方にいたから」

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少年少女色彩都市・某Edit. Outlaw Artists Beginning その⑧

「……そうだ、何か芸術っぽいのが多い所行こうぜ。エベルソルってのは芸術をブッ壊すことに命懸けてる連中だからな」
「なるほどー。それなら“芸術公園”とか?」
「おっ、名案」
通称“芸術公園”。この彩市在住のアーティストが制作した彫刻などの立体作品がそこら中に乱立する市民公園。屋外ステージもあって、ちょくちょくイベントが開かれたりもする、住民たちの憩いの場だ。
「こっからだと歩いて……10分くらいか。お前時間とか大丈夫か?」
「うちは門限とか結構緩いから大丈夫」
「そうかい。じゃあ行こうか」
適当な世間話をしながら、公園に向かう。タマモ、私より2つも歳上だったのか。敬語でなくても構わないと言われたので、言葉遣いはそのままだけど。
「……さて、着いたわけだが」
「いないね、エベルソル」
「いないなァ……」
殆ど日没といった空の下、公園には数人の一般市民が見られる程度で極めて平和そうな日常風景が広がっていた。
「……もう帰って良いかな」
「そう言うなよ。10分くらい時間潰していこうぜ」
「ん」
曲線的なシルエットをした石材製の大型彫刻に登り、公園全体を見下ろす。
「……本っ当に平和。エベルソルって実在するの?」
「一応、10回くらい遭ったことはあるんだけどなァ……」
少し離れたところに立っている時計をちらと見やる。もうすぐ5時か。
「5時まで何も無かったら帰って良い?」
「良いんじゃね?」
そのやり取りを終えた瞬間、まるで見計らっていたかのように大きな影が公園に近付いてきた。
「……あーあ、フラグ立てたりするからよォ」
「むぅ、まあ戦い方も考えたいし良いか」

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少年少女色彩都市・某Edit. Outlaw Artists Beginning その⑦

「……もうこんな時間か」
タマモの独り言に壁掛け時計を見ると、15時過ぎだった。
「なァ、ロキ。暗くなる前にチュートリアルといかねェか?」
「良いね。インキ弾の使い方、私も練習してみたいし。エベルソルってどこに出てるか分かる?」
「いや分からん。たまにお偉いさんから『どこそこに行け』って言われることもあるけど、今は特に何も無いからな。適当に怪しいポイントをぶらついて、遭遇出来たらブチのめすって感じだな」
「なるほどー。私、化け物と戦った事なんて無いんだけど……」
「誰だって最初はそうだよ。俺だってまだ両手の指に足りる程しか戦った事無ェもん」
「それもそっか」
「そうだよ」
タマモが椅子から立ち上がった。私も席を立つ。
「……じゃ、行くか」
「うん」

彼について歩き、フォールム本部を出る。彼は市街地に向けてのんびりとした足取りで歩いていた。
「……なァ、ロキ。どっか行きたい場所無ェか?」
「んー……あんまり強くないエベルソルがいるところ?」
「お前大分贅沢な注文するなァ……」
苦笑しながらも、タマモは迷いなく商店街に入っていった。そのどこかに用事があるのかとも思ったけど、特にそういうことも無かったみたい。青果店で果物の並ぶ棚をじっと見ていたくらいで、結局通り抜けてしまった。
「……最近は何でも高くて良くねェ。果物なんか簡単に買えないモンだから、ビタミン摂るのが面倒だぜ」
「野菜ジュースとかオススメだよ」
「あれ、あんま好きじゃねェんだよなー」
「ふーん」

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少年少女色彩都市・某Edit. Outlaw Artists Beginning その⑥

フォールム本部内を1周して、あの部屋に戻ってきた。タマモは設備について逐一教えてくれたけど、様子を見ていた感じ、半分くらいは彼も初めて入った場所だったようだ。
彼が少し血のついたままの椅子に掛け、促されて私も向かいの席に座る。
「最後にここが、数ある休憩室の一つだ。最序盤でスルーした部屋は全部休憩室だな。誰がどこ使うとかは決まってねェけど、リプリゼントルは好きに使って良いことになってる」
「へー……」
「さて……施設内見学は終わったが、何か質問とかあるか?」
「はーい、ありまーす」
「何でしょうフヴェズルングさん」
「タマモせんせー、私、絵が全く描けないんですけどどう戦えば良いんですか? このガラスペンで何かを描いて戦うんですよね?」
「あー…………」
タマモはしばらく目を泳がせ、テーブルに備え付けられていたメモ帳のページとボールペンをこちらに差し出した。
「ロキお前、犬と猫を描き分けられるか?」
「…………」
とりあえずペンを取り、さらさらと2つの絵を描いてみる。なかなかに酷い出来の、辛うじて四本足の何かと分かる絵が並んでいた。
「すげェや、違いがある事しか分からねえ」
「お恥ずかしい限りで……」
「別に恥ずかしいことじゃねェよ。俺も絵はド下手だ」
そう言いながら、タマモはページをくしゃくしゃに丸めてゴミ箱に放り込んだ。
「じゃあ、タマモはどうやってるの?」
「こうしてる」
ニタリと笑い、彼はガラスペンを取り出した。そのペン先からインキが垂れ、空中で一つの球形にまとまる。
「……さっきの紙捨てなきゃ良かったな。まあ良いや」
彼はメモ帳から新たに1ページ破り取り、宙に放った。そしてひらひらと落ちてくるページ片に、インキの球体、いや、弾丸を発射し命中させた。
「おー」
自然と拍手が出る。
「複雑なモン描けねェなら、単純なモンを武器にすりゃ良いんだ」

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少年少女色彩都市・某Edit. Outlaw Artists Beginning その⑤

「クッソ負けた……人を操ることについては自信あったんだけどなァ……完璧にそっちのペースだったな」
そう言われて、少し得意げになってしまう。当然だ、これが私の『芸術』なんだから。
「それじゃあ、そっちから教えて?」
「……俺の芸術は…………何て言えば良いんだろうな。……敢えて言うなら、そうだな、『扇動』が近いかな。芸術ってのは、人の感情を揺さぶり動かすものだろ?」
頷き、続きを促す。
「言葉で、リズムで、テンポで、環境で。あるものと使えるもの全部使って、人の感情を動かし操る。それはもう芸術だろ」
「……言われてみればそんな気がしてきた」
タマモの表情がぱっと輝いた。
「だろー? あの野郎はそれが分からねえから駄目なンだよ。顔料か旋律が無きゃ芸術じゃねェと思ってンだぜ?」
「それは良くない」
これは間違いなく私の本心だ。私の芸術も、そういうものだから。
「で、ロキ。お前はどういう『芸術』を使うんだ?」
「んー……『展開の演出』、かな。ボードゲームなんかだとやりやすいんだ、ルールで縛られてるから。ゲームっていうのは物語の創出だから、より面白い展開を描くために勝敗を捨てて『人』と『運』、『場』を都合のいいように操作する」
「なァるほどォ……道理で負けたわけだ」
「お褒めに与り光栄至極」
「ハハッ、くるしゅーない」

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貰ってはいるのよ、愛を。

・岩戸青葉(イワト・アオバ)
年齢:13  性別:女  身長:小学生料金でバスや電車に乗れるくらい
初出はエピソード6。名乗る機会が無かったので「少女」で押し通さざるを得なかった子。
人外のモノに好かれ、人外の異能の才を持つ女系一族“岩戸家”の当代末子。人外の才能や霊感は全く無く、かといって姉や両親、親族からそれを理由に邪険に扱われることも無く、むしろ能力など関係無いとばかりに深い愛情を受けて育ってきたが、その愛が逆に彼女の劣等感を刺激した。
「家業を継ぐ」という観点においては明確に劣っている自分がその愛情に足ると心の奥底で信じ切れず、それを受けるに相応しい人間になるべく、夜な夜な愛刀たる〈薫風〉を手に家を抜け出しては、怪異相手に武者修行を繰り広げている。
幼い頃には自分の無能ぶりに絶望し引きこもったこともあったが、現在は〈薫風〉と暴力性(殺意)、身体能力という希望があるため、かなり安定している。
ちなみに家族や親族に八つ当たったことは一度も無い。彼らが悪いわけでも無ければ、そもそも自分の能力の低さが理由なのにその能力がある人間に当たれるわけが無かったので。

〈薫風〉:岩戸家に伝わる日本刀。刃渡り約55㎝。全長約80㎝。各代で最も力の弱い子が怪異から身を護るために受け継ぐ。霊体にも干渉し、怪異存在に特にダメージを与えることができる。また、所有者であるというだけでその威光が弱い怪異を寄せ付けず、所有者の受ける霊障を吸収する。近代以降、実際にこれを武器として用いる継承者はいなかった。

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少年少女色彩都市・某Edit. Outlaw Artists Beginning その②

音のした方に足音を殺して慎重に歩いて近付く。それにつれて、誰かが言い争うような声も聞こえてきた。
発生源らしき部屋の入り口から顔だけを覗かせて中の様子を見てみる。
私よりいくらか年上に見える少年2人が掴み合って言い争っていた。……掴み合ってというよりは、パーカーの少年の方が一方的に掴みかかっている感じだろうか。捕まっている方も負けじと言い返しているから、どっこいどっこいだろうか。
「……もう良いや」
掴みかかっていた方は急にすん、と落ち着いて相手を放り出した。そのまま備え付けの椅子の方に歩いていく。喧嘩に疲れて休むんだろうか。椅子の背もたれに手をかけ、引いて、持ち上げ…………持ち上げ?
「死ねや塗り絵野郎がァッ!」
そのまま椅子を使って相手を殴りつけた。脚が相手の肩の辺りに直撃し、相手はその場にひっくり返った。
持つ部分を背もたれから脚の側に持ち替え、倒れている方にまた殴りつける。2度、3度、4度目を振り上げたところで、流石にマズい気がしてきたので止めることにした。
素早く背後に回って持ち上がった椅子を掴み、そのまま自分の方に思いっきり引っ張る。体重も使ってどうにか取り落とさせることに成功した。
「誰だ邪魔しやがっ……!」
少年と目が合う。怒りに染まっていた彼の目は、一瞬で冷静なものに戻った。
「ホントに誰だお前?」
「……新入りです、初めまして」
「おう初めまして」
「ちょっとここの案内とかお願いしても?」
「…………」
彼は怪訝そうにこちらを見下ろしている。
「いろいろ聞きたいですし」
「……あー分かった。じゃーなガノ」
殴られていた方の少年は気を失っているようだった。一応彼にも会釈して、部屋を後にした。

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自分に噓を吐いてる系めんどくさいガール

“光の怪盗”リリアーナ(リリィ)
種族:人間  性別:女  年齢:19歳  身長:160㎝
精霊と意思疎通し、彼らの力を借りる精霊魔法が得意な冒険者。生来の高い敏捷性と光の魔法による目くらましで魔物たちの本拠地に潜入しては物資や火薬庫を狙い、間接的な打撃を与える事が主な仕事。
得意な戦闘スタイルは器用さと素早さで敵の攻撃を捌きつつ、魔法で妨害や目眩しなどを行い相手の調子を崩させるトリックスター。
周囲からは明るく頼れるムードメーカーで知られている。
しかしてその本性は気の小さい臆病な陰の者。普段の飄々と平気で死地にも潜る勇敢なガチ陽の性格はかなり無理して作っている。
事あるごとに言い訳を用意しては誰も見てない陰で周囲を騙しているという罪悪感と本性との乖離のあまり吐いている。
トリックスターやってるのも直接命を奪うという重い責任を負うのが怖いから。使う魔法にも殺傷力の『ある』ものは殆ど無い。
ただし、輝かしく頼もしい『リリアーナ』のペルソナ自体は大変気に入っており、この振舞い方をやめたいと思っているわけでもないというとてもめんどくさい子。
そのため口説き文句なんかでよくある「本当の自分でいて良い」とかそういうのが地雷で、どんなに良い雰囲気でもスン……てなる。おどおどリリィもきらきらリリアーナもまるっと全肯定してほしい。わがままで可愛いね。そもそも本性の方を知る機会がまずほぼ無いからね。めんどくせェ。
ちなみに本名はリリィ。「リリアーナ」の愛称・略称と思われがちだが飽くまでこちらが本名なので、本当に呼んでほしい人以外にはさらっと「リリアーナ」で呼ぶよう訂正する。

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最強の戦闘狂

【亡霊少女】
ダンジョン《ステノ古城》のヌシとされている魔物。生きて帰った者の少なさから情報は極めて断片的だが、アンデッド系の魔物と推測されている。「死んだこと」はまだ無いから厳密には違う。
外見は抜き身の短剣1本だけを携えた、全体的に白に近いグレーといった雰囲気の12歳前後の人間の少女。肌も髪も纏ったワンピースも悉く白いのに、何故か雰囲気はうっすらグレーじみている。そんなに長い髪型はしてない。
普段は古城に入ってすぐの場所にぽつんと体育座りしているが、時折思い出したように中庭の菜園からほぼ野生返りしている野菜と罠にかかった小動物を回収してきては煮て食ったり(数日に1度程度)、ふと思いついたように城内を歩き回って発生したアンデッドや不幸にも遭遇してしまった侵入者を狩り倒して回ったりしている。
好きなものはかつての主と戦闘。どんくさく何をやっても失敗ばかりだった自分の事を見捨てなかった主のことを敬愛しており、戦闘好きもその発端は主の不在中に偶然敷地内に迷い込んできた小型の魔獣を満身創痍になりながら撃退した際、帰ってきた主から心配&褒めてもらったことで人生初の成功体験となり、「自分が戦って、どんなに傷ついてでも勝利して、主が帰ってきたら褒めてもらえる」と覚えてしまったため。
古城が廃城のダンジョンと化したのは100年以上前で、主は当然ながら既に死んでいる(何なら戦死)しそれだけの時間姿を変えずにいる彼女も勿論魔物化しているわけだが、少女は何をやってもダメな子だったので難しいことは考えないようにしており、どちらにもまだ気付いていない。
自分以外の使用人たちはみんな死んだり出て行ったり知らないうちに姿を消していたりでもういないけれど、主だけは彼の帰る場所かつ自分の唯一の居場所である城に帰ってきて、留守を守り数えきれないほどの戦闘を超えてきた自分を褒めてくれるはずだと信じ、ただ待ち続けている。
ちなみに城内に出現するアンデッドは彼女が殺した者のなれの果てである。
彼女の本名を知る者は、彼女に名を授けた主だけであるため、少女の名は未来永劫、二度と呼ばれることは無い。

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少年少女色彩都市・某Edit. Outlaw Artists Beginning その①

「それでは、これで今日から君も“リプリゼントル”だ。芸術とこの街を守るため、精進してほしい」
「はい」
フォールムの大人から“リプリゼントル”として戦うための必須アイテムであるガラスペンを受け取り、その部屋を後にする。
芸術破壊者たる“エベルソル”から芸術を守るための、芸術の素養を持つ少年少女が変身する戦士たち。創造力を原動力として、このガラスペンで戦闘能力を確保して戦うそうだけど……。
「……ふむ」
とりあえずガラスペンを構え、空中に線を引く動作をしてみる。ペン先の溝に光り輝くインキが充填され、空中に軌跡を残した。
「おー……」
なるほどこれは面白い。使い方を理解したので、本体と一緒に貰った革製のケースにしまってポケットに入れておく。空中に留まったインキは処理に困ったけど、壁に押し付けてからぐしぐしと手で擦ると無事に消えてくれた。
さて、次は何をしようか。このまますぐに帰っても良いけれど、せっかくだからこのフォールム本部を探検しても良いかもしれない。
せっかくだから、他のリプリゼントルにも会ってみたい。一緒に戦うことになるかもしれない相手の情報は、少しでも多かった方が良いだろう。
そう考えて歩き出そうとしたその時、遠くの方から何かが勢い良く倒れる音が聞こえてきた。