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花が咲く頃に

「ねぇ、君は音楽が好きなの?」と僕は聞いて突然だったからか彼女はびっくりしていたがすぐにこう答えた「まぁね。仕事でもあるしね。でも嫌いじゃないよ」その仕事の意味はなんなんだろうか。親なのか自分の意思なのか。流石にそれは聞かずに「ふぅん。」とだけ返しておいた。すると彼女は少し笑みを浮かべてこういった。「君は?運動好き?」と。そういやそんなこと考えもしなかった。迷ってると彼女は笑いながらこういった。「君はモテるからね。女の子はやっぱ運動神経いい男の子好きだよ。」そんなものなのか。そうしてこういった「自分の取り柄の一つが運動ってだけ好きではないかもだけど、嫌いじゃないよ。君と一緒でね。でもまぁ気にいってはいるよ。」彼女はなぜか少し驚いていった。「そうかそうか。なんかもっと男の子って自慢げだから、、ちょっと驚いちゃった!」「そっか。まぁそんなもんだけだからね大してなんも思わないよ」「私は…と彼女が言いかけたその時。キーンコーンカーンコーン。お昼のチャイム騒ぎ出す廊下。昼休みが来てしまった。彼女はちょっと残念そうに「またね」と呟くように保健室を出てってしまった。
彼女はなにを言いかけたんだろう。綺麗な後ろ姿を見つめていると名残惜しい気持ちだけが僕の心に残った

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SOL First Contact Anthology

それは月が美しい秋の夜のことだった。
1人の男子高校生は自宅で読書をしていた。時間は23:20。この時間は彼にとってゴールデンタイムだった。というのも、彼以外の家族が寝静まったこの時間ほど彼の趣味である読書に没頭できる時間はなかったからである。
彼は、耳にイヤホンをつけながら読書をしている。いつも23:30まで流れるラジオをBGMに彼は黙々と読書を続けていた。その夜の本は『ハリーポッターと死の秘宝』だった。ページを繰る手の近くには僅かに湯気が立った珈琲があった。程よく背伸びしたい年頃である中学生にとって、珈琲というのはある種の通過儀礼のようなものである。しかし、ごく普通の中学生がそうするように、彼も牛乳だけ入れて、苦味を減じたものを飲んでいた。砂糖を入れないのはある種の矜持であろうか。
しかし、そんな背伸びとは裏腹に読んでいるものはファンタジー小説という、何ともあべこべな組み合わせであった。
彼の聴いているラジオがエンディングの音楽を流し始めた。いつもなら、その音楽の始まりと同時に読書をやめるのだが、その日の彼はそうしなかった。
もう少し夜更かししよう、そう思い至ったのだった。本を閉じようとする手を止め、ラジオを見る。ふと、違う局のラジオを聴いてみたくなった彼はチューナーのダイヤルを少し回した。
周波数が80.0MHzにチューニングされ、電波をアンテナが受信する。その瞬間、彼は懐かしいものに包まれた。あたかも学校かのような騒がしさ。2人のパーソナリティがお互いを茶化しつつもリスナーにしっかりと寄り添う、そんな声が聞こえてきた。
彼にはその騒がしさがとても心地良かった。ある種のくすぐったさを感じるそのやり取りに、彼はふふっと笑った。その笑いは全く意図したものではなく、心の奥底にある楽しさという感情の励起によって生まれた自然なものだった。そして、そのような風に笑ったのがいつ以来だったかとふと思い返した。
その翌日、その楽しさをまた味わいたいがために、彼はまた夜更かしをした。
そのラジオ番組の名前がSchool of Lockだと彼が知るのに、数日もかからなかった。知ってからは、22:00のオープニングから聞くようになった。

その数年後、21歳の今でもその楽しさを味わうために、今日も私は夜更かしをする。