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『ある中性子分子のすれ違い』上

「これ、借りてたやつ!ありがと!」
 明るい調子で観月は、一冊の本を突き出した。
「うわっ!びっくりした……なんだいきなり。っていうかいつの間にうちのクラスに来てんだよ」
 椅子から飛び上がると、紫陽はため息をついて前に向き直る。
「さっき!
 昨日部屋掃除してたら出てきたんだよね、その本。ずっと借りっぱなしでごめん」
 さして悪びれる様子でもなく、何でもない事のように言い放った。
「ふぅん。そういや貸してたっけか。忘れてた、そんな本」
「そんな本って……これ、絶対汚すなよって、めちゃくちゃ釘刺されたの覚えてるんだけど」
 少しむっとしたように観月は言う。
「俺は覚えてないよ」
 嘘である。感想を聞きたくてうずうずしていたことなど、紫陽に言えるはずもない。
「って、そういうことは覚えてるんだな。借りたことは忘れてたくせに」
 観月は、最初に見せた明るい声から一転し、完全にむくれてしまった。
「なんなの。丁寧に丁寧に扱って、そんなに大切な本ならってすごくしっかり読んだのに」
 本を机に置き、言葉を落とす。
「もっと大切にしてあげなよ」
 いつものやり取りのはずが、完全に良くない流れになっていることに紫陽はやっと気づいた。
「なんだ、『掃除してたら出てきた』って言ったじゃないか」
 だが、引かない。
「大切にしろだなんて、よく言えたもんだな」
 依然前を向いたまま、紫陽は言う。

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告別の詩

今日もまた下らない太陽が上り
真っ青な空は吐きそうな程です
全身の気怠さは昨日の後悔達で
いつまでも僕の踝を掴むのです
こんな何でもない冬の朝だから
縮こまった体を少しだけ震わし
また今日も行くべき場所へ行く
目的などとうの昔に忘れました
こんな僕をこんな所に繋ぐのは
死ぬことさえ面倒に思う怠惰と
この世への未練かのような顔で
僕の心に居座り続ける恐怖です
自分の為に生きられるほどには
僕は強くなんてなれなかったし
誰かの為に生きられるほどには
僕は優しくなんてなれなかった
僕に死ねるだけの勇気があれば
僕はもっと幸せだったでしょう
努力することを覚えられたなら
僕はもっと幸せだったでしょう
それでもその何方でもない僕が
幸せだなと思う瞬間があるから
この世界はやっぱり意地悪です
僕の襟を掴んで離さないのです
貴方はこれをただの詩だと思い
また溜め息をつくのでしょうか
何れにせよ僕の中の浅ましさが
やっぱり僕は嫌いでなりません
誰に伝える気も無いかのような
こんな長ったらしい詞たちさえ
貴方は何故か拾ってくれるから
やっぱりこの世界は意地悪です
そんな詞ももうすぐ終わります
ですが最後に一つだけとすれば
僕は貴方のように生きたかった
それしか言うことは無いのです

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ショートポエム選手権授賞式~ちょっぴり成長したピーターパン~ 1

RN:ちょっぴり成長したピーターパンさんからは、全体の講評もいただきました。

>>>喜怒哀楽というテーマってすごく広いんだなと改めて思いました。人の感情やその境目自体曖昧で人それぞれなので、タグ通りに捉えられないのも、タグをつけた本人も喜怒哀楽のどれに当てはまっているのかわからない(クエスチョンマークがついていたり、ね)のも、もっともなことだと思いました。

『ピーターパンのお気に入り賞』
「喜・怒・哀・楽」シャア専用ボール
>>>名前こんなんだけれど、私の中の最優秀賞です。 そもそも今回、ショートポエム選手権のタグのついた詩にはレスをしなかったんですけど、唯一この詩だけにレスしたんです。してしまったというか。 選んだ理由として、まずはRNを見なくても誰の詩だかわかったということ。シェアさんだけの世界観がよく表れた詩だと思いました(本人は遊びとかちょっとふざけたとかおっしゃっていましたが笑)。たて読みや平仮名と漢字の使い分けのアクセントも効いていて、これぞシェアさんって感じでした。次に、私が思わず笑ってしまったということ。すごすぎて。笑 たぶん、分析していくと上記のような理由が挙げられるんでしょうけれど、読んですぐにすごいって思わせられたのは、やっぱりすごい詩だったからで。いわゆる、感性に語りかけるタイプの詩だったんでしょうねぇ……。 何回でも読みたいと思う、幅の広がりが最高の詩です。私のなかでは断トツでした。さすがとしか言えません。

(コメントがすごい量なので一度分けます(小声))