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線路の果て

動かなくなった懐中時計。
読み終えた文庫本。
擦り切れたノート。
壊れた眼鏡。
くしゃくしゃになったハンカチに、
もう何も写らなくなったカメラ。

ガラクタを詰め込んだ鞄を持って。
「いってきます」。
ただいまは言わないけど。

さよならは言わなくて良いよ。

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ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 番外編 吸血姫と竜生九子と雪の精 ②

あたしはフンと鼻を鳴らした。
「意味不明な奴」
さっさと奪いたいなら奪ってしまえば良いのにとあたしは呟く。
ヴァンピレスはそれを聞いてうるさい!と声を上げた。
「貴女、大人しくわらわの餌食に…」
ヴァンピレスはそう言って白い鞭を振り上げる。
あたしはもはやこれまでかと目をつぶった。
しかし鞭が振り下ろされることはなく、代わりにヴァンピレスがうっとうめく声が聞こえた。
あたしが目を開くとヴァンピレスが白い鞭を振り下ろそうとする体勢で動きを止めていた。
「⁈」
あたしが驚いていると背後から聞き馴染みのある声が聞こえた。
「穂積」
思わず振り向くと、短髪で前髪をカラフルなピンで留めた、瞳を青白く光らせた少女が立っていた。
「…”フロスティ”⁈」
あたしがつい声を上げると、彼女はこちらへ駆け寄ってくる。
「逃げよう、穂積」
「え、でも」
「さっさと逃げようか」
フロスティはあたしの手を引いて元来た方へ走り出した。
暫くあたし達は走り続け、気付くと駄菓子屋の前まで辿り着いていた。
「ここなら大丈夫だね」
駄菓子屋は異能力者の緩衝地帯だし、とフロスティはあたしの方を振り向く。
その目はもう光っていなかった。
「…雪葉、どうして」
「どうしてもこうしても、親友がピンチだったからうちが助けてやったんだよ」
あたしの言葉を遮るように、フロスティこと雪葉はあたしの顔を覗き込む。
「あんたさ、たまに悩み事を1人で抱え込む事があるからよく警戒してたんだよ」
最近怪しいと思ってたら、案の定だったと雪葉は笑った。
「別に、あんたに助けて欲しいなんて」
あたしはそう言いかけるが、雪葉は友達なら助け合うのが普通だと思うよーと続ける。
「特に親友ならなおさら」
雪葉はそう言ってウィンクした。
「…もう」
あたしは呆れたように呟いた。

〈番外編 吸血姫と竜生九子と雪の精 おわり〉

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ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 20.エインセル ④

「そ、それってどういう…」
ネロが困惑したように呟くと、短髪の少女は文字通りの意味だよと返す。
「あの子は穂積を切り捨てた、ただそれだけ」
短髪の少女は人差し指を立てつつ言う。
「…切り捨てられたって、どういう事だよ」
ネロがそう尋ねると、今度は穂積が口を開く。
「この間、ヴァンピレスに会った時に”貴女はもう用済み”って言われたのよ」
「用済みって」
ネロの言葉を気にせず穂積は続ける。
「あの女曰く、あたしとあの女が繋がっている事があんた達にバレたから、この関係は終わりにしよう、だってさ」
穂積は呆れたように肩をすくめる。
「…ま、そのせいであたしはヴァンピレスに異能力を奪われそうになったんだけど」
穂積の発言にわたしはえ、と驚く。
「奪われそうになったって…」
「そりゃ口封じのためだろ」
ネロはジト目をわたしに向ける。
「アイツと繋がっていたって事はある程度奴の内情を知る事にもなるから、関係を断つ時にそれ位やるだろ」
ネロは淡々と言う。

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シラー

「誰かが隣にいる」
そんな未来が良かったな
スタート地点は多分私だけ遠くて
誰も隣に居ない
居たとしても寄り添ってはいなくて
ゴール地点までは多分地球1周くらいあるんだろう

知らないあの子が楽しそうに笑ってる
私は一人 睨んでしまいそうで
でもそんなこと私はしたくないから
一人で立ちすくんでしまう

今頃みんなで連絡を取って
楽しそうに笑ってるんだろうな
私はその輪の中には居なくて
次あの子達と会っても誰とも話せないんだろうな

誰かと仲良くなって
分かり合ってバンドを組んで
そんな未来を思い描いていたのにな
誰も隣に居ない
居たとしても分かり合えてはいなくて
思い描いている人は一体どこにいるんだろう

知ってるあの子も楽しそうに笑ってる
その目に私は映っていない
「寂しいよ」「一緒に居てよ」なんて
言ってしまえたらいいのにな

今頃私と連絡を取ろうなんて
考えもせず笑ってるんだろうな
あの子達とはいくら待っても
私が送らないとメールも何も来ないんだろうな

今頃みんなで知らない話題で
楽しそうに笑ってるんだろうな
私の事なんてほぼ知られてなくて
次あの子達と会っても話せないんだろう

今頃私と話してみたかったなんて
言ってる人は居ないんだろうな
あの子達とはいくら待っても
話すことなんてできないんだろうな

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深夜の迷子 黄昏

子供はゆずの手を握ったまま静止し…そして振り返る。黒い短髪がふわっと揺れた。
「…君さ、もしかして生きてる?」
「え」
子供は困った顔をして視線を彷徨わせた。
「そういえば既に逢魔ヶ時過ぎてるのか…」
その一言になぜか背筋がぞわりとした。冷えた風がゆずの足に絡みつく。
「センドウ様って知ってる?」
「センドウ様?」
「先に導くって書いて、先導。この地域独特の…神?みたいな?」
「ふぅん…」
「最近まで忘れていたんだけど…私はどうやら先導様として崇められていたらしい」
「…んっ?」
話の雲行きが怪しい気がする。ゆずは戸惑うが、子供はそれを見透かしたように、信じてくれと懇願した。
「私は、名前がある者なら、いるべき場所に帰すことができるんだ」
「いるべき場所?」
「ほとんどの迷子は自分の家だな。家じゃない子とも会ったことあるけど」
「へぇ…よくわかんないけど…すごいんだね」
ゆずの言葉に、子供は苦笑いした。
「そんなにすごくはないけど。でも私を信じてくれるなら、名前を教えて」

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どしゃ降り

春雨どころか、ところてん

数時間後、ところてんはやんだ

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視える世界を超えて エピソード7:潜龍 その⑦

石段を上り、鳥居をくぐり、境内に入る。“潜龍神社”は本殿の他に3社の摂社と4社の末社、舞殿があり、敷地の総合面積もかなりのものになっている。
神楽はその中でも本殿の手前に建つ舞殿で行われる。合計で半日もかけるような本格的なものというわけでは無く、7演目を合計4時間ほどかけて舞う構成になっている。
自分は普段、途中で見飽きて帰るのだが、ただでさえ人外のモノが少ない神社境内の中でも、神楽の最中の舞殿周辺には不思議と怪異の姿が見られず、清浄な雰囲気さえ感じられて、その場の空気感自体は好きだった。

犬神ちゃんに手を引かれて舞殿の前を通る。神楽は既に始まっていて、周囲には人だかりができていた。
つい足が止まるが、犬神ちゃんはそちらには全く興味が無いようで、構わずぐいぐいとこちらの手を引いて奥へと進んでいく。仕方なく彼女に従い、本殿の方へ向かう。
「キぃーノーコちゃぁーん、どぉーこぉー?」
犬神ちゃんは辺りをきょろきょろと見回しながら、種枚さんを探し呼びかけている。
「ほら君も、キノコちゃんのお気に入りなんだから一緒にあの子のこと呼んでよ」
「え、あ、はい。……く、種枚さーん」
「声ちっちゃい!」
「えぇ……?」

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ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 20。エインセル ②

「チョウフウ、だっけか…面倒な敵が増えちまったよ」
なぁ?と師郎は隣に座る黎に目を向ける。
黎は黙ってそっぽを向いた。
「何だよ、チョウフウと同じ学校なのを気にしているのかい?」
お~い~と師郎が黎を右肘で小突くと、黎はちょっと師郎から離れた。
「…別に、同じ学校ってだけで学年違うし」
あんまり自分は奴の事知らない、と黎は棒の付いたアメをくわえる。
「ただ、部活で使っている所が近いってだ…」
黎がそう言いかけた時、不意にあと聞き覚えのある声が飛んできた。
わたし達がパッと声の主の方を見ると、カラフルなピンで前髪を留めた少女と、メガネをかけた長髪の少女が近付いてきた。
「あ、アンタら!」
ネロは2人に気付くとバッと立ち上がり、目を光らせる。
その様子を見た短髪の少女はあーもう殺気立たないの~と笑みを浮かべる。
「また会ったね、あんた達」
短髪の少女はそう言って手を小さく振る。
しかしその後ろにいる長髪の少女がムスッとした顔をしていた。
「一体何の用だ」
目を光らせるのをやめたネロは2人を睨みつける。
短髪の少女はいや~ちょっとね、と笑う。

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少年少女色彩都市・某Edit.のかなり後の方に出てくるキャラクター

“金細工師”厚木薫(アツギ・カオル)
年齢:24歳  性別:女性  身長:170㎝
芸術:彫金(打ち出し)  衣装:西洋風の軽鎧
『死に損ない』を自称するリプリゼントルの女性。現役リプリゼントルでは2番目に古参。過去の戦いで左腕は肩の付け根から失われており、左の脇腹には深い切り傷の痕が残っている。また、常に前髪で隠れていることから右眼も無いのではないかという疑惑がある。まあ目玉はちゃんと2つ揃ってるんだが。
性格は自称から察せる通り厭世的で投げやり。自分を卑下し役立たずであることに託けて全く以て戦おうとしない非協力的な人。
片腕が完全に失われていることから自分の芸術を実行することはほぼ不可能になっているものの、何故かリプリゼントルとしての力は失われておらず、現在はフォールムに就職して休憩室の一つを私室化して引きこもっている。戦法としては描き出した刀剣によるインファイトがメイン。剣の種類によってちょっと特殊な性能を発揮する。
唯一『先輩』と呼ぶべき現役最古参のリプリゼントルからは「オルちゃん」の愛称で呼ばれている。由来? そら”金細工師”よ。

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ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 番外編 吸血姫と竜生九子と雪の精 ①

路地裏というものはアングラな雰囲気を纏っている事が多い、とよく言われる。
大通りに対して建物が密集しており空も狭く見えるし、上から入ってくる光も限られる。
だから”常識の外の存在”も当たり前に存在するのだ。
例えば、この路地裏を歩くあたしのような…
「うふふふふふふ」
不意に聞き覚えのある高笑いが聞こえたので、あたしはパッと顔を上げる。
しかし周囲を見回しても誰もいない。
一体奴はどこに、とあたしが思った所で後ろの首筋に気配を感じた。
「ご機嫌よう」
チョウフウ、と背後に真っ直ぐな棒状にした白い鞭をあたしの首筋に突き付ける少女…ヴァンピレスは言う。
自分の後ろに回っているため顔は見えないが、きっとその顔は笑みを浮かべている。
「…何の用」
あたしが聞くと、ヴァンピレスは貴女にお知らせがあって来たのと答える。
何、とあたしが聞き返そうとした時、ヴァンピレスはこう言った。
「貴女を利用するの、やめにしたわ」
「は?」
あたしは思わず振り向く。
「何で…」
「単純に貴女の事が、”彼ら”に気付かれてしまったからよ」
淡々としたヴァンピレスの言葉にあたしは…なるほどと呟く。
「あの常人と死霊使い達にあたしがアンタと繋がっている事がバレたから、消しに来たって訳ね」
あたしがそう言い切ると、ヴァンピレスはうふふふふと笑った。
「貴女を消してしまうのはもったいないかもしれないけど、どちらにせよ貴女の異能力は使わせてもらうから感謝なさい」
「感謝なんてするかよ」
あたしは思わず言い返す。
「あんた、あたしの親友の異能力を奪おうとしやがって、それを止めようとしたらその代わりにあたしに協力を持ちかけてきて…」
こんな自分勝手な奴に感謝なんてしな…とあたしが言いかけた所で、やかましい‼とヴァンピレスは声を上げる。
「特別使える訳でもない異能力のクセに偉そうな口を利いて…!」
せっかくわらわが奪おうとしてやっているのに…と彼女は身体を震わせる。

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歩廊の唄

こんな寂しい駅に、自分を置きざりになんてしないで。
各駅停車だけれど、君を明日に連れていきたい。

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少年少女色彩都市・某Edit. Outlaw Artists Beginning その⑦

「……もうこんな時間か」
タマモの独り言に壁掛け時計を見ると、15時過ぎだった。
「なァ、ロキ。暗くなる前にチュートリアルといかねェか?」
「良いね。インキ弾の使い方、私も練習してみたいし。エベルソルってどこに出てるか分かる?」
「いや分からん。たまにお偉いさんから『どこそこに行け』って言われることもあるけど、今は特に何も無いからな。適当に怪しいポイントをぶらついて、遭遇出来たらブチのめすって感じだな」
「なるほどー。私、化け物と戦った事なんて無いんだけど……」
「誰だって最初はそうだよ。俺だってまだ両手の指に足りる程しか戦った事無ェもん」
「それもそっか」
「そうだよ」
タマモが椅子から立ち上がった。私も席を立つ。
「……じゃ、行くか」
「うん」

彼について歩き、フォールム本部を出る。彼は市街地に向けてのんびりとした足取りで歩いていた。
「……なァ、ロキ。どっか行きたい場所無ェか?」
「んー……あんまり強くないエベルソルがいるところ?」
「お前大分贅沢な注文するなァ……」
苦笑しながらも、タマモは迷いなく商店街に入っていった。そのどこかに用事があるのかとも思ったけど、特にそういうことも無かったみたい。青果店で果物の並ぶ棚をじっと見ていたくらいで、結局通り抜けてしまった。
「……最近は何でも高くて良くねェ。果物なんか簡単に買えないモンだから、ビタミン摂るのが面倒だぜ」
「野菜ジュースとかオススメだよ」
「あれ、あんま好きじゃねェんだよなー」
「ふーん」

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まだ反抗期

望まれて生まれてきた。

望まれてその意味を否定した。

私の未来を望んでくれた人はもういないけれど、

私の意思はかつての望みと此処に在るから。

何処に下るか決めるまで、今はまだ反抗期。

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ねえ、わかるかな

涙が出ると思ってたんだ
うれしくて、あるいはさびしくて
でも何も変わらない笑顔と声が
ふたりが並んだその姿が
泣いてる暇なんてないと思わせて
ただ幸せに浸かるしかなくなってしまった
夢かと思った
今までのなによりも夢だと思った
何年経っても
何歳になっても
大きすぎる思い出は私の中で膨らんで
こんなに言葉を紡ぐのが下手になったよ
また、夢を見るんだ
また、夢を見たいんだ
唯一じゃなくても特別じゃなくても
私はまだ未来が創れると信じたいよ

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視える世界を超えて エピソード7:潜龍 その⑥

犬神ちゃんに手を引かれ、出店が並ぶ通りを進む。空いている彼女の手には先ほど買った吹き戻しが、自分の方は彼女に言われて仕方なく買った魔除けの熊手が握られている。
「犬神ちゃん、待って、速い」
「速くない!」
「いや速いって……」
「キノコちゃんなら3倍速で歩いても平気だもん!」
「あの人を常人の比較対象にしちゃいけない」
しばしの抵抗の末、ようやく犬神ちゃんは歩調を緩めてくれた。
「……けど、キノコちゃん居ないね」
犬神ちゃんが寂しそうに呟く。
「別の場所にいるのかもしれない。舞殿や本殿の方はまだ探してないわけだし」
一度スマホの時計を確認する。もうすぐ神楽の時間だ。
「……うん、そうだね。きっといるよね。一言文句を言ってやらなきゃだし、早く行こ!」
元気を取り戻したのか、犬神ちゃんは再び早足で歩きだした。

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スランプ

思考が停滞 不完全な言葉
 
荒削りなアイデアの破片をかき集めて

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少年少女色彩都市・某Edit. Outlaw Artists Beginning その⑨

彫刻から飛び降り、大きな影、エベルソルの下に駆け付ける。青白いヒトの腕が無数に絡みついたような気持ちの悪い姿の化け物が、公園の柵を蹴倒しながら猛然と突っこんできていた。
「おいクソッタレのエベルソル! なァに芸術以外ブッ壊してンだ生ごみ野郎がァ!」
エベルソルに対して挑発するように喋りかけながら、タマモはガラスペンで描いた光弾をいくつもぶつけた。化け物を構成する腕の表面には、弾が当たって焦げ跡ができたけれど、有効打にはなっていないみたいだった。まあ、こちらに気付いてくれたようだけど。
「ああクソ面倒くせェ。コイツそこそこ硬てェぞ」
「わぁ大変」
「お前も働くんだよロキ」
「まあまあ。まだペン使うのに慣れてないんだから……」
ガラスペンを取り出し、タマモに倣ってインキ粒をいくつか描き、エベルソルにぶつける。あまり威力は無かったけれど、練習はできた。こんな感じか。
「理想はここの彫刻全生存。最悪何個か壊れても作者さんに謝りゃ良い。気楽に行こうぜ」
「うん」
タマモがエベルソルの気を引いているうちに、少し走って奴の真横に位置取り、水玉模様の捻じくれた彫刻の陰で光弾のストックをいくつか用意する。小さい弾じゃダメージにはならないみたいだったから、少し時間をかけて大きめの弾にする。
数十個完成させたところで、攻撃に参加しようと彫刻の陰から顔を出す。エベルソルは腕のいくつかを防御のために前方に構えながら、タマモにじりじりと接近している。こちらからは完全に無防備だ。
こちらの用意した光弾のうち、3分の1ほどを一気に叩き込む。無事に奴の腕をいくらか千切り飛ばしたは良いものの、すぐに対応されて防御されてしまった。
「お、やるじゃねーのロキ。次はお前が狙われるぞ」
「えー」
たしかに、エベルソルの進路は私の方に変わっているみたいだ。流石に彫刻を巻き込むのはそれを守る人間として申し訳無いので、陰から出てタマモの方に駆け寄る。
「お前なんでこっち来た?」
「いや、つい……彫刻の少ない方にいたから」

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守るから

私のすべてをかけて あなたを守るから

こうみえても私は強いんだよ

肩を預けてください

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ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 20.エインセル ③

「たまたまこの辺を通りかかっただけだよ」
ねー穂積、と短髪の少女は側に立つ長髪の少女こと穂積に目を向ける。
しかし穂積は嫌そうにそっぽを向いた。
「あーちょっとそんな顔しないでよ~」
短髪の少女はそう言うが、穂積はそっぽを向いたままだった。
「何やってんのコイツら」
「夫婦ゲンカじゃね?」
耀平と師郎はお互いに顔を見合わせる。
「どうしてそんな顔するのさ」
「あたしはコイツらと関わりたくないだけよ」
「えー何で~」
短髪の少女と穂積は暫くそう言い合っていたが、やがて短髪の少女はこう言った。
「そんなに拗ねてるんなら、”あの事”、この人達に言っちゃうよ~」
短髪の少女がにやけると、穂積はなっ‼と驚く。
「ちょ、ちょっと、それは…」
「はーい今から言いまーす」
「やめてやめてやめて」
穂積の制止を気にせず短髪の少女はわたし達に向き直る。
「実はこの人、あのヴァンピレスと繋がってたけど今は縁が切れたの」
「え」
短髪の少女の言葉に、わたし達はポカンとする。

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ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 20.エインセル ①

11月、秋も深まり切って冬が近付く頃。
人々の服装も厚着になっていき、冬が近付いているんだなと感じられる。
かく言うわたしも、今日は寒くて厚手のコートを引っ張り出して”彼ら”の元へ向かったのだ。
着実に冬が、今年の終わりが近付きつつあった。
「それで、奴の目撃情報は?」
「全然」
北風が吹いて寒い中、わたし達はいつものように駄菓子屋の店先に溜まって駄弁っていた。
そしてもちろん会話の話題は、最近行動が活発になってきている”ヴァンピレス”についてだ。
「なーんでこうも涼しくなってきてから動きが活発になるかなー?」
「奴、暑がりなんじゃね?」
耀平と師郎はそう言いながら、駄菓子屋で買ったスナック菓子を口にする。
「いや、春も夏も多少はアイツ動いていたから、暑がりってのは言い過ぎかも」
ネロは手の中のココアシガレットの箱を見つめながら呟く。
黎はそれに賛同するようにうなずいた。
「とにかく、奴に協力している異能力者が存在している事が問題だな」
耀平はポツリとこぼす。

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渋滞車窓

花びらにまみれた車をみて
舌打ちが微笑みに変わる
少しだけ、
優しいただいまが言えそう

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一番フルネームっぽい駅名

天王洲アイル(テンノズ・アイル)
種族:見た目は人間  性別:おそらく女性  年齢:ぱっと見若そう
身長:日本の成人女性の平均くらい
トレードマークは海中を思わせる青白い光(LED由来)を放つ右手の電気ランタンと腰のホルダーに何故か大量に差してある大小さまざまな種類の作図用のハサミ。持っている理由を問うたところ、無言でにこっ、てされた。多分ろくな理由じゃない。
居場所は不定。彼女がいそうだと思った場所を探すと大抵そこにいる。
趣味という程の趣味は無い。その場にいるのに自然な行動を取っている。
性格は通常時は淡泊。静かに自分のいる場に溶け込み、和を乱さぬような人格を再現する。
妖怪か何かの可能性がある。
ところで「天王洲アイル」って、Vtuberとかに居そうな字面してるよね……。少なくとも両隣の駅よりは人名と言い張れる字面してると思う。

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ほーりーふぁいと終わりの話

ちょっと新学年始まったので間が空きました、久しぶりな気がしますね。点Pです。
みんなは体調大丈夫ですかね…ちなみに私は咳が出ます。喉かゆい。

ほーりーふぁいとの続編書きたいんですけど物語思いつかないのでとりあえずあとがき(?)投下します。時間稼ぎです。

ティノちゃんは正直いてもいなくても…なキャラでした。感情移入しやすくなればと思って一人称視点にしてみただけなので。あんまり愛がない。

書きたいのは強キャラが小学生のような感じで喋ったりしてるところ(語彙力消失)だったんです。上手くいったかは不明。リリィとアーサーはほんとは強いんです。確かに舞台は田舎だけど都会でも通用するレベルなはず…はずです。

長くなっちゃうのでこの辺で。質問があればくれれば答えようと思います。

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魔女が悪とは限らない

水晶は割れた 魔女は消えた
 
人々は感謝した いつか消える仮初めの安寧に

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なんでだろうね

作家とか、何かを作る人って、
締 切 守 れ な い
なんでだろうね

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少年少女色彩都市・某Edit. Outlaw Artists Beginning その⑥

フォールム本部内を1周して、あの部屋に戻ってきた。タマモは設備について逐一教えてくれたけど、様子を見ていた感じ、半分くらいは彼も初めて入った場所だったようだ。
彼が少し血のついたままの椅子に掛け、促されて私も向かいの席に座る。
「最後にここが、数ある休憩室の一つだ。最序盤でスルーした部屋は全部休憩室だな。誰がどこ使うとかは決まってねェけど、リプリゼントルは好きに使って良いことになってる」
「へー……」
「さて……施設内見学は終わったが、何か質問とかあるか?」
「はーい、ありまーす」
「何でしょうフヴェズルングさん」
「タマモせんせー、私、絵が全く描けないんですけどどう戦えば良いんですか? このガラスペンで何かを描いて戦うんですよね?」
「あー…………」
タマモはしばらく目を泳がせ、テーブルに備え付けられていたメモ帳のページとボールペンをこちらに差し出した。
「ロキお前、犬と猫を描き分けられるか?」
「…………」
とりあえずペンを取り、さらさらと2つの絵を描いてみる。なかなかに酷い出来の、辛うじて四本足の何かと分かる絵が並んでいた。
「すげェや、違いがある事しか分からねえ」
「お恥ずかしい限りで……」
「別に恥ずかしいことじゃねェよ。俺も絵はド下手だ」
そう言いながら、タマモはページをくしゃくしゃに丸めてゴミ箱に放り込んだ。
「じゃあ、タマモはどうやってるの?」
「こうしてる」
ニタリと笑い、彼はガラスペンを取り出した。そのペン先からインキが垂れ、空中で一つの球形にまとまる。
「……さっきの紙捨てなきゃ良かったな。まあ良いや」
彼はメモ帳から新たに1ページ破り取り、宙に放った。そしてひらひらと落ちてくるページ片に、インキの球体、いや、弾丸を発射し命中させた。
「おー」
自然と拍手が出る。
「複雑なモン描けねェなら、単純なモンを武器にすりゃ良いんだ」