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シンギュラリティ

「本日はお忙しいなかお集まりいただき、ありがとうございます。それではマルチタスク型の脳の発達についてご説明します。
 まず左脳が発達し、左脳でタスクをこなすようになります。次に右脳が育ちます。右脳が育つと左脳は右脳と連携をとり、両脳でタスクをこなすようになります。タスクをこなすことでさらに神経の連携ができ、ネットワークが複雑化します。
 発達に遅れがなくても臨界期を迎える前に課題を与えなければ脳は育ちません。なので幼児期から九歳ぐらいまでの教育が重要になります。
 三ページ目をご覧ください。三ページ目です。そうです、そこです。あ、破かないで。……ホチキスでとめましょうね。……続きまして、こちらがシングルタスク型の脳の発達モデルになります。まず通常と遅れて左脳が育ち、その後、遅れて右脳が育ちます。右脳が完全に育つまでに左脳と連携がとれる臨界期が過ぎてしまうため、左脳は左脳、右脳は右脳単体でタスクをこなすことになります。
 この図はあくまでモデルですので実際このように脳がはっきりと部分ごとに育つわけではありません。
 何か質問はありますでしょうか?……ないようですのでこれで終了とさせていただきます。お疲れさまでした」
 頭を下げ、会議室を出ようとすると、ぐいっとスカートを引っ張られるのを感じた。振り返ると、ハナをたらした中年の女性社員がホチキスを差し出し、「忘れものー」と大声で言った。
 会議室が爆笑に包まれた。わたしはホチキスを受け取り、会議室をあとにした。感傷的な気分というのが、少しわかった気がした。

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