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稲荷大明神〈弍の巻〉♯3

 外で待っていると、千鳥足で出てきた稲荷大明神が、手のひら大の印刷物を僕の目の前に掲げた。福引き券だ。今日が抽選会の開催日だった。
「この近くのショッピングセンターですね。行きますか? どうせテッシュしか当たらないですけど」
 そう言うと稲荷大明神は、にやりとして、いたずらっぽい視線を僕に向けた。
「凄い行列ができてますよ。寒いのに並ぶの嫌だなあ」
「並んだだけの価値がある結果を出すから我慢しろ」
 三十分近く待ってやっと順番が来た。稲荷大明神がおごそかにガラガラを回した。
 特賞が当たった。
「僕、4Kテレビがよかったなあ。旅行って興味ないんですよね」
 帰路、僕は稲荷大明神に言った。特賞は温泉旅行だった。
「正月休み、することあるのか? 友だちも彼女もいないのに」
「……勉強、します」
「たまには息抜きも必要だ」
 稲荷大明神が前を向いたまま言った。

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