「けっこう大きな地震ですねこれ」
ウニの瓶詰めが被害にあわぬよう手に握りしめて僕は言った。
「地震ではない。上を見ろ」
稲荷大明神が厳しい目つきになって言った。
揺れが止まってから、僕はやっと頭上を見上げた。
まさにその瞬間。
轟音とともに天井が吹き飛んだ。
まず青空が見えた。
続いて視界に現れたのは。
巨大な顔だった。
巨人が僕の部屋をのぞき込んでいるのだ。
巨人はしばらく僕をにらみつけてから顔を横に動かした。
また顔が現れた。
「……ブラフマーか」
「ブラフマーって?」
僕は巨人を見上げたまま稲荷大明神にたずねた。
「ヒンドウー教の神で、それからあれだ……」
言葉をにごした稲荷大明神のあとを、ブラフマーが続けた。
「サラスヴァティーの夫だあっ!」
「夫だあっ!」
「夫だあっ!」
「夫だあっ!」
言い終えるとブラフマーは、見得を切るように首を動かした。
「ものすごいエコーがかかってます」
「顔が四つあるからな」