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稲荷大明神〈肆の巻〉♯6

「けっこう大きな地震ですねこれ」
 ウニの瓶詰めが被害にあわぬよう手に握りしめて僕は言った。
「地震ではない。上を見ろ」
 稲荷大明神が厳しい目つきになって言った。
 揺れが止まってから、僕はやっと頭上を見上げた。
 まさにその瞬間。
 轟音とともに天井が吹き飛んだ。
 まず青空が見えた。
 続いて視界に現れたのは。
 巨大な顔だった。
 巨人が僕の部屋をのぞき込んでいるのだ。
 巨人はしばらく僕をにらみつけてから顔を横に動かした。
 また顔が現れた。
「……ブラフマーか」
「ブラフマーって?」
 僕は巨人を見上げたまま稲荷大明神にたずねた。
「ヒンドウー教の神で、それからあれだ……」
 言葉をにごした稲荷大明神のあとを、ブラフマーが続けた。
「サラスヴァティーの夫だあっ!」
「夫だあっ!」
「夫だあっ!」
「夫だあっ!」
 言い終えるとブラフマーは、見得を切るように首を動かした。
「ものすごいエコーがかかってます」
「顔が四つあるからな」

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