前回の続きです!知らない方は検索してくださるとうれしいです。ではどうぞ!
僕はガタッと立ち上がった。隣に座っていたカップルがチラッとこっちを見た。運動もしていないのに、心臓が激しく波打ったのが分かった。嫌な予感がした。君がどこか、手の届かないところへ行ってしまうような、そんな気がした。今すぐにでも君にその発言の意味を確認したかったが、眠り始めた君に無理やり聞いてもまともな答えが返ってくるとは思えなかった。僕は支払いをすませ、寝ぼけている君を連れて家に帰った。
リビングに入り電気のスイッチを押すと、まず初めに僕の伸長ほどもある振り子時計が目に入る。今は亡き神戸の祖父ー唯一僕の居場所を知っている人物ーが、去年の冬、送ってくれた代物だった。
君を部屋へ連れていくと、午前二時を告げる濁った低い音が鳴り響いた。僕は君が寝たのを確認し、自室へと向かった。
朝起きると、リビングから君の足音が聞こえた。目覚まし時計に目をやると、もう九時を回っていた。
着がえてリビングへと急いでいると、ジュ―という何かをフライパンで焼く音が聞こえた。ドアを開けると、君が二人分のベーコンエッグを焼いている所だった。
「あ、おはよう。ご飯よそってくれる?」
僕はうなずきかけて急に思い出した。昨日の夜の会話を。今すぐ聞こうと思ったが声が出なかった。拒んでいたのは、頭だったのか、心だったのか、それとも体だったのだろうか。
とにかく、あの話について、詳しく聞くことが嫌だった。うれしい答えが返ってくるはずがないから。百%、嫌だったわけではないけど。
「ちょっと、きいてるの?早くしてよ」
君に催促され、僕はあわててしゃもじを握った。