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真夏の桜吹雪

テーマ:「桜×魔法」

このお話はフィクションです。実在の地名、人物などとは全く関係ありません。
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  • これは、今から一年とちょっと前の、僕が十七歳だった時の、僕の英国への留学中に起こったお話です。
    僕が留学していた街は、英国と言っても、ロンドンやバーミンガムやマンチェスターなどの、いわゆる「イギリス」を代表する都市がある、"イングランド"という地方ではなく、イングランドのお隣の、"ヴェールズ"という地方にありました。
    その"ヴェールズ"は、イングランドと比べると少し田舎の地方なのですが、そのヴェールズの中でも、さらに田舎の『ブルーヘイヴン』と呼ばれる港街が、僕の留学していた街にして、このお話の舞台です。

  • 僕は、高2の六月から三月まで、その街に留学していました。
    何もかもが刺激的で、本当にエキセントリックな日々でした。
    僕は、その留学の間は、あるホストファミリーの家にお世話になっていました。
    最初はあまり言葉が通じなかったのですが、ホストファミリーの努力のおかげで、徐々にコミュニケートできるようになりました。
    また、ホストファミリーは、本当にいろんなところへ連れていってくれました。
    ロンドンも周りましたし、ストーンヘンジの遺跡も見に行きました。
    英語を少しずつ話せるようになってきた八月のそんなある日、ホストファミリーがいつものように車で、近くのショッピングモールへ連れていってくれました。

    車を停めた、そのショッピングモールの屋上から、おかしなものが見えたのです。

    それは、桜の大木でした。
    日本でもあまりお目にかかれない、とても大きな桜の木が、屋上から見えました。

    それを僕が不可解に思ったのは、その桜を見た季節が、真夏だったからです。

  • その桜は、ゴミが大量に不法投棄されているだだっ広い空き地の中に、一本だけ咲いていました。
    不法投棄された大量の粗大ゴミと、夏に咲く桜の大木。
    その不釣り合いなコントラストに、僕の興味はすごく駆り立てられました。

    帰ってから、兄さんに、その桜のことを聞いてみました。
    兄さんといっても、僕の実の兄さんというわけではなく、僕のホストファミリーの家族の一員で、僕より二歳年上なので、兄さんと呼んでいる人がいるのです。
    呼び始めたのは僕ですが、兄さんもまんざらではないみたいで、僕に「お前は俺のソウルブラザーだ‼︎」などといってくれました。

    「ガルシア兄さん」
    「Oh,我がソウルブラザー、いったいどうした?」
    「ああ、今日行ったショッピングモールの屋上から、桜の木が見えたんだけど、どういう桜か知らない?」
    「What is SAKURA?(サクラって何?)」
    「ああ、そっか、英語じゃないとダメだね。あの、あれだよ、ちぇ、ちぇりぃ、ぶろっさぅむだよ」
    ものすごい発音の悪い英語でしたが、何とか通じたみたいで、「Oh,yeah」と言ってくれました。
    「そのちぇりぃ、ぶろっさぅむがさあ、不法投棄されたゴミが大量にある空き地に生えてたんだけど、どういう木なのか知らない?」

    質問をし終わった後、ガルシア兄さんの顔を見ると、
    …非常に青ざめていました。

  • 「顔面蒼白」という言葉を絵に書いたような顔をしたガルシア兄さんは、こう言いました。
    「いいか、ジュン(←僕の名前です)、あの木にかかわってはいけない。かかわったら最後、生きてニッポンに帰れないかもしれないぞ」
    「…何でですか?」
    「あの木があった場所には昔、魔法使いが住んでいたんだ。その魔法使いは、数百年前にこの地にやってきた一人のニッポン人を捕らえて、魔法で木に変えてしまったそうだ。その木がそのSAKURAなんだ」
    「…。」
    さらに話はすごく長く続いたので省略しますが、短くまとめるとこうゆうことらしいです。

    ●あの木は、魔法使いが自分に逆らった日本人を魔法で変えて作ったものだそうな
    ●魔法使いの死後、その木は呪縛から解放されることなく、怨念だけが溜まりまくって、そのため色々と悪さをするようになったそうな
    ●あの木にかかわった者は、ことごとく事故にあったり、不幸な目にあったりするそうな

    「だから…、ジュン、あの木には近づくな」

    誰が信じるんだ、そんな話。
    僕は、鼻でせせら笑いました。

  • ヴェールズ地方の人々、特にブルーヘイヴンの人々はとても多くの迷信を信じていて、僕が「そんなもんも信じてるのか⁉︎」と思わず声に出してしまいそうになるしょーもない迷信もたくさん信じています。
    だから、桜の話を聞いた時の、僕の感想は案の定「しょーもな」でした。
    しかし、学校の人やホストファミリーに色々話を聞いてみると、みんながみんな「なんでそんなことを聞くんだ」と言わんばかりの苦虫を潰したような顔で話すので、「魔法使いがどうたらっていうのは信じ難いけど、それなりの心霊スポットではあるのかな」と思いました。
    それに、やっぱり夏に咲く桜は不可解なので、やっぱり何かよくないものがあるのかな、でも行ってみたい!という気分になっていました。
    それに、その頃は真夏でクソ暑かったので、何か涼のあることをしてみたいな、とも思っていたのです。
    あと、僕はそういったものにあまり臆さない、勇敢な(愚かな?)少年だったので、結局その桜の木に殴り込みに行くことにしました。

    問題は、そのショッピングモールは、車で行ったら近いけど、歩いて行くには少し遠かったことと、ホストファミリーが行くのを許さなそうだったことです。

    しかし、この二つはガルシア兄さんをうまく口車に乗せることで解決しました。

    そして、僕は、ガルシア兄さんと、僕の友達のジェームズとでその桜の木に殴り込みに行ってしまったのです…。

  • 車をショッピングモールに停めて、僕らはショッピングモールから桜の木まで歩きました。
    近づくにつれて、濃い霧が出てきて、よけいにジェームズやガルシア兄さんはビビってました。
    「…これ、やばくね?」
    「…バイヤーですね」
    「…やっぱ来るんじゃなかった」
    「…ガルシアさんでしたっけ?なんでこんなとこに来ようと思ったんですか」
    「…いや、あいつ(僕を指差して)が行こうって言ったから…。meは別に行きたくなかったんだけど…」

    僕に対する視線が痛いです。

    今現在、午後七時半。
    十分、雰囲気あります。

    そして遂に、桜のある場所に、たどり着きました。
    さすがに愚か者の僕でも、ビビりまくってます。

    「帰ろっか…」
    誰ともなくそう言いました。
    あるいは、僕が言ったのかもしれません。

  • しかし、帰ろうとした瞬間、桜の木が光を発し、僕は光を浴びて、光によって異空間へ連れ去られました。
    他の二人は、僕が木に取り込まれたようだったと言っていました。

    瞬間、僕の目の前に、坐禅を組んだ一人の侍が現れました。

    「…ひとこと…」
    彼は僕にボソボソっと話しかけました。
    「…ひとこと…」
    「は、はい?」
    「ひとこと、『汝は救われた』といってくれ」
    「な、汝は救われた?」

    その瞬間、侍が火花を放ち、僕の目の前から消え去りました。
    桜は、跡形もなく消え去りました。
    ただ、霧が晴れ、満月が輝いていた夜空を、無数の桜吹雪が舞ってました。

  • 思えば、彼は、日本人がほとんど来ないあのブルーヘイヴンの街で、日本人にそう言ってもらうのをひたすら心待ちにしていたのかもしれません。
    しかし、そういう心霊系のことはよくわからないので、その辺の謎の解明は読者の皆さんに任せたいと思います。
    しかし、不思議なのは、この一年後にブルーヘイヴンを訪れた時、ガルシア兄さんもジェームズもホストファミリーも、誰一人として桜のことを覚えていなかったことです。
    これはただ単に彼らの記憶力がないだけなのか、それとも…。

    まあ、いずれにせよ、ブルーヘイヴンを覆っていた暗黒は無くなりました。
    僕はもう、それだけでよしとしております。
    記念に、桜の花びらを一枚持って帰りました。
    これがある限り、僕があの夏を忘れることは、ありません。


    〜Fin〜

  • こんな感じのファンタジー小説、すっごく好きです!
    実話も少し混ぜているのかなーって(外国に留学してたとか……)勝手な思い込みなんで、気にしないでください!
    でも、単純に面白かったですm(_ _)m

  • おもしろかったです!

    こういうかんじの好きです!