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ヌーナの音に16

研究室の三人は顔を見合わせた。
「カシユカです」
ストレートの女性が小さく手を挙げた。
「アーチャンです」
今度はポニーテールの女性が同様の仕草をした。
「ノッチです」
ショートボブの女性も二人に倣った。
「箱ならあるよ、ちょっと待ってて」
アーチャンは立ち上がって別の部屋へ向かった。戻ってきたアーチャンの手には小さな箱がちょこんと乗ってあった。指輪くらいしか入らないような、本当に小さな箱だった。
「はい」
アーチャンはその箱を丁寧にテーブルの上に置いた。
その箱は茶色っぽくて埃をかぶっていた。
「ここで開けていいですか?」
「もちろん」
ノッチの言葉を合図に、ヌーナは首から下げていた鍵を鍵穴に差し込み、ゆっくりと右に回した。かちゃ、と音がした。呼吸を整えてから、その箱を開けた。
頭を鈍器で殴られたかのような衝撃に襲われた。突然何かが頭の中に流れ込んできた。ここに来る前の記憶だった。あまりにも非情で、残酷だった世界についての、偽らざる記憶。
「うわあああああ!」
断片的な映像が次々と目の前に浮かんだ。片桐渚という名の少女についての映像だ。渚はクラスメイトの大半に嫌悪されていた。何を喋りかけても無視された。遠巻きにクスクスと笑われた。それでも幼馴染みの浩太は変わらず渚と接してくれた。ただ鈍感だっただけかもしれないが、渚が浩太を好きになるのにそれ以外の理由はいらなかった。
「うわあああああ!」
両親は汚物を見るような目で渚を見ていた。上手くクラスに馴染めない娘でごめんなさい、と心の中でいつも思った。その度に吐きそうになった。渚にとっては、浩太だけが希望だった。だから浩太に突き放されたら、そのときに死のうと思った。たった一人の味方を失ったときに命を絶とうと。
思っていたよりも、その日は早く来た。

  • ヌーナの音に
  • アーチャン、ノッチ、カシユカは
  • あのグループのメンバーとは無関係です
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