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ヌーナの音に18

「ああああああああ!」
ヌーナは叫んでいた。自分の体内で蠢く何かを強制的に引きずり出そうと必死だった。それに伴って段々と裏切られたときの感覚が蘇ってきた。信じていた人に突き放された、絶望の感覚が。命を手放したくなるような、何もかもが嫌になるあの感覚が。
ヌーナは泣いていた。喉にヒリヒリするような痛みがあった。三人の女性は何も言わずにヌーナを見ていた。
「私は、死んだんですね」
分かっていたことだ。イチローに会ったときから、そんな気はしていた。
「正確に言うと、死にかけだね」
カシユカがハンカチを手渡した。ヌーナは軽く頭を下げた後それで涙を拭った。花柄のハンカチからはアロマオイルの香りがした。それは夏の川辺で眺める星空のように、奥行きのある香りだった。
「ちょっと長い説明だけど、聞いてね。魂は旅をしてるの。貴方が元々いた世界と、この世界と、そして貴方が今から行くかもしれない世界。本当は名前とかないけど、今は順番にx、y、zって名前にしとくね。貴方はxにおいて自殺を試みた。本来肉体がxで死んだら魂はyに行くの。でも、ここはz」
「魂の逆走ね」
ノッチの説明にアーチャンが口を挟んだ。
「そう。私達はxでの人生に未練がある人をzに連れてきて、その人達の今後を決めてもらう。xかyかzのどこに行きたいか。いや、というよりは、xでやり直したいかやり直したくないか、かな」
「私に人生をやり直させることが目的なんですか」
ヌーナの言葉は自分で思った以上に冷たかった。
「勿論、そうあってくれたら嬉しいけれど、貴方の決断に私達がとやかく言う権利はないから」
「多分、戻らないと思います」
ヌーナはノッチの目を見て言った。
「私、好きだった人に、ずっと味方だと思っていた人に裏切られたんです」

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