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ヌーナの音に19

「何か手掛かりでもあんのか」
キクラのその言葉を待っていたかのように、リサはにやりと笑った。
「フカセさんは救世主を探していました」
「救世主?」
「毎日部屋のお掃除をするときに、フカセさんはいつも窓から外を眺めていらっしゃったんです。何か見えるんですか、と尋ねると、救世主を探してるんだ、と仰ってました。見ただけで救世主なんて分かるんですか、と訊くと、できると思うんだけどな、と」
「何で?」
「救世主は、他の人と知覚の仕方が異なるらしいんです。他の人には見えるものが見えなかったり、他の人には聞こえるものが聞こえなかったり」
キクラは大きく息を吐いた。
「そんなんが手掛かりか?」
「この世界の核がフカセさんである以上、考える価値はあると思います」
フカセとサオリはこの世界を始めた神と呼ばれているが、実質システムを構築したのはフカセで自分はそのサポートをしただけなのだ、とかつてサオリから伝えられたのをリサは思い出した。私はあの人の荷物を代わりに背負ってあげることができないの、と悲しそうに言っていたサオリは、救世主のことなんて多分知らない。
「しかし、その救世主とやらを見つけたかったら、一人で窓から眺めるよりも、政府の人間を総動員した方がいいんじゃないのか?」
キクラの質問にリサは答えた。
「神は宮殿の外に出ることは禁じられていますし、それに前に救世主が現れたことがあったんです」
「そうなのか」
キクラは驚いたようだった。
「確かテチという名前の方でした。一切の不協和音が聞こえないらしくて。だけどその人は救世主として機能することを拒みました。理由は知りませんが。そのチャンスを逃したから二度目は無いだろう、と政府の方々は思ってらっしゃるようで」
キクラはなるほどね、と言おうとした。が、その声は突然の爆音に掻き消された。

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