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見えざる証言③

「あ、あの。何ですか?今の・・・」と真崎。
「ん?ああ、今の?あれは洋佑の癖なの。いつも何かをしていると頭の中で将棋の詰みを考え始めちゃうのよ」
「そんなことできるんですか?」
「将棋に熟達すればね。あ、当たり前だけど私は無理よ」
「す、すごいですね・・・」
「ま、一応注意しておきますか。洋佑! 声なしで! 声が出てるよ!」
「げ、出てた? すみません」
「あの、洋佑っておっしゃっていましたけど、お二人の関係は?」
「ふふ。あなたが想像しているような関係よ」
「あ…。そうですか…」
「さて、前置きはこの辺にしておいて、そろそろ本題に入りましょ?多分もう少しで紅茶もできるだろうし」
そう言ったのと同時にティーポットとソーサー付きのティーカップ、加えてシュガーボウルをお盆に載せてやって来る瀬山の姿が目に入った。
「じゃ、注ぎますね」と言って瀬山はミルクが入ったティーカップに紅茶を9分目くらいに注ぎ、二人の目の前に置いた。
「ありがとうございます」
「ありがと」
「お代わりがありましたら遠慮なくどうぞ」
そう言うと、瀬山は部屋の隅に置いてある椅子に座って、本を読みだした。
「冷めないうちに飲んじゃって。あんな変な人だけど、美味しい紅茶を淹れるのにかけて彼の右に出る人はいないから」
「誰が変な人だって?」
「おっと、聞こえてたのね」
「いただきます。…美味しいです」
「そうですか。なら良かった」
「じゃあ、そろそろ始めますか。事件の事を話してもらえるかしら?出来るだけ細かく」
「は、はい」
そう言うと真崎は深呼吸をして、1週間前の忌まわしい記憶を語りだした。

  • 蜃気楼の陥穽
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