社の奥、大黒柱に縄で繋がれて、1匹の年老いたキタキツネが丸まっていた。
女性が正面扉を勢い良く開く音に耳を揺らし、閉じていた目を開いてそちらに視線を送る。
『御友神殿! オコミが帰って参ったぞ!』
“オコミ”と名乗った女性は表情にこやかにそのキツネの傍まで歩み寄り、腰を下ろしてネズミの死骸をキツネの前に丁寧に置いた。
『御友神殿、聞いておくれ。先程運良く、活きの良いノネズミを捕えたのじゃ。生憎と揚げ油を切らしておる故、生のままで申し訳無いが是非食うておくれ!』
満面の笑みで話しかけるオコミの顔を、キツネはじっと見つめ返す。
『む、妾のことか? どうか気にしてくれるな、御友神殿。……ただ…………御相伴を許されるというのであれば……そのぉ…………』
言い淀むオコミから顔を背け、キツネは前脚の爪でネズミを弄び、千切れた尾を咥え上げて、彼女の傍へ放り投げた。
『! ご、御友神殿……! かたじけない、尻尾には目が無くってのう……嗚呼、この骨ばった食感よ……』
受け取ったネズミの尾を口内で転がしながら、オコミはキツネを見やる。ネズミの死骸に夢中になって齧りつくキツネの背中を撫でると、キツネは全身を小刻みに震わせた。
『む? 御友神殿、嫌じゃったか?』
キツネはその問いかけには反応せず、ネズミの残骸を口で放り上げ、一口に飲み込んだ。