視える世界を超えて エピソード8:雷獣 その⑦
「なッ、射線に入ンな馬鹿!」
自分が割り込んできたことで、種枚さんの攻撃は止まらなかったものの、姿勢を大きく崩して攻撃は外れたようだった。顔のすぐ横を強烈な風圧が通り過ぎる。
「君、なんでソイツを庇うんだ! ソレは『人間』じゃあない。『妖怪』だぞ!」
白神さんが妖怪? 白神さんとは決して長い付き合いだったわけじゃないけれど、それでもこれまで接してきた限りでは他の『普通の人間』と変わったところはあまり無かったように思う。……けれど。
「およ、千葉さんだぁ…………。ねえ千葉さんや? まさか、そのお友達の妄言を信用するわけじゃないよね?」
声をかけてきた白神さんの方に目を向ける。白神さんは身体を起こし、こちらに縋るような視線を向けている。
「…………自分の知る限り、種枚さんは『そういう嘘』を吐くような人間じゃありません」
「千葉さん……」
泣きそうな顔をする白神さんには申し訳なく思いながら、種枚さんに向き直る。
「それでも彼女は、自分の大切な友人です。人間でないことが、彼女が殺されるのを黙って見過ごす理由になりますか!」
「ち、千葉さん……!」
白神さんに何か言葉をかけてあげたい気持ちはあるけれど、今はそれができない。種枚さんから目が離せないのだ。
今、目の前に立つ種枚さんは凄まじい殺気を放っており、足下の落葉からは彼女の体温によるものか、黒い煙が薄く立ち昇っている。
間違いなく、種枚さんは白神さんを殺す気だ。自分がここにいることで場の緊張が保たれている。自分が少しでも動けば、種枚さんはその隙を逃さず白神さんに迫るだろう。実力で彼女を止めることができない以上、自分はこの緊張状態を維持することでしか白神さんを守れないのだ。