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CHILDish Monstrum:迦陵頻伽

モンストルム”ヨグ=ソトース”の肉体生成がようやく終了した。
管理モニタから目を離し、大きく伸びをして凝り固まった身体を解してから腕時計を見る。午前7時過ぎ。これで三徹目か。
流石に一度仮眠を取ろうとデスクを立つと、部屋の外からアコースティックギターの音が近付いてきた。
「……む、カリョウビンガか。ちょうど良い」
そう呟くのとほぼ同時に、モンストルム”カリョウビンガ”が研究室に入ってきた。
カリョウビンガ。仏教上の霊鳥の名を持つモンストルム。私の『研究室長』という立場と権力を濫用……もといほんの少し活用して作成した、非戦闘用モンストルム。『あらゆる楽器と音楽技法を扱う』能力を持つ、華奢で小柄な少女のような人間態の、可愛らしい演奏人形だ。別に外見は私の趣味では断じて無い。ただ単に生成コストが低く見た目に圧迫感が無いからそうしているだけだ。現在は『研究室の護衛』の名目で自由に歩き回らせている。
と、カリョウビンガが部屋に入ってきた。
「おはようございます、作者さん」
「やあ、カリョウビンガ。今日はギターかい?」
「はい。……作者さん」
「何だい?」
カリョウビンガは何も言わずにこちらをじっと見つめ返している。
「カリョウビンガ?」
「…………」
「どうしたんだ、私の可愛いカリョウビンガ?」
「何でも無いです。そうだ、新曲を作ったのです。子守歌にどうですか?」
「良いね、ちょうど仮眠を取ろうとしていたんだ」
カリョウビンガと連れ立って、仮眠室に移動する。カリョウビンガがプレイヤーにCDを入れて、再生ボタンを押した。流れてきたのは、アップテンポでロック調の音楽だった。2分半ほどでその曲は終了した。
「……うん、良い曲だったよ。しかし驚いたな、デスク・トップ・ミュージックと歌声合成ソフトまで使いこなすとは」
「作者さんが創ったカリョウビンガですから。それでは、おやすみなさい」
「ああ、おやすみ」
カリョウビンガはぺこりと頭を下げ、仮眠室を後にした。

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CHILDish Monstrum:或る離島の業務日誌 その④

「まあ良いや。朝ごはん食べるから外で待ってて。作業場には入らないでね、蒸し死んじゃうから」
キュクロプスに言われて、ひとまず小屋の前で待機することにする。
手帳の内容を復習しながら待つことおよそ30分。扉が僅かに開き、キュクロプスが顔だけを覗かせてきた。
周囲に注意を払うキュクロプスと目が合う。
「いた」
「やあ」
キュクロプスが屋外に出てきた。そのまま丘陵を下り、麓の村落の方へ歩いて行く。とりあえず後をついて行くことにする。
道中、私は手帳に書いたとある項を思い返していた。

・散歩には、手も口も出さないこと
・散歩には、必ず同行すること

黙ってついて行け、か。たしかに過干渉はストレスになるだろうが、モンストルムはあんな外見でいても所詮は“兵器”だ。手出しすらしてはいけないというのは奇妙な……。
考えながら歩いていると、いつの間にか村落に到着していた。
既に活動を開始していた島民たちは、キュクロプスの姿を見ると親し気に近寄っていって挨拶を交わしていた。意外にも、キュクロプスはこの島ではかなり親しまれているらしい。
キュクロプスは島民の1人と随分話し込んでいて時間がかかりそうだったので、近くにいた別の島民に話を聞くことにした。

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CHILDish Monstrum:カミグライ・レジスタンス キャラクター紹介

・フェンリル
性別:男  外見年齢:16歳  身長:160㎝
特殊能力:行動の全てが破壊に帰結する
DEM社の地下深くに幽閉されているモンストルム。「破壊力」は「強さ」。無数の拘束具でガッチガチに拘束されているものの、ほぼ無意味。何なら彼の能力で全滅していてもおかしくないので、気を遣っているまである。自分に邪魔な錘を付けて閉じ込める人間は嫌いだが、暴れた分だけ喜んでくれるから人間を守ることは好き。拘束具は邪魔だから嫌いだが、武器になるから好き。正直脱走しようとすれば余裕で出られるし嫌いな人間たちに迷惑かけられるからアリだとも思っているけど、今の生活も好きなので別に逃げない。

・スレイプニル
性別:女  外見年齢:16歳  身長:166㎝
特殊能力:超高速で移動する
DEM社の地下深くに幽閉されているモンストルム。「速度」は「強さ」。無数の拘束具でガッチガチに拘束されていたものの、フェンリルに解放された。好きなことは走ること。普段は隔離施設の廊下を爆走している。できることなら永遠に走り続けていたいのだが、速度があり過ぎて周囲への被害が尋常でないので、あまり走らせてもらえない。そういうわけで人間は嫌い。恩人であるフェンリルが脱走しないので自分も我慢しているが、脱走派が多数派になった瞬間脱出する準備はできている。

・デーモン
性別:男  外見年齢:15歳  身長:155㎝
特殊能力:人間の望みを叶える
DEM社の地下深くに幽閉されているモンストルム。「実行力」は「強さ」。人間大好き派で能力も対人間のものだが、「受けた望みをどう叶えるか」にちょっとした問題があってあまり表には出せない。別に脱出しても構わないとは思っているけど、それをして嫌な気分になる人間もいることは理解しているので逃げたくない。

・ベヒモス
性別:女  外見年齢:14歳  身長:150㎝
特殊能力:自身の質量を変える
DEM社の地下深くに幽閉されているモンストルム。「質量」は「強さ」。初めて戦場に出た際、ちょっとやらかし過ぎて閉じ込められた。そのせいで人間は大嫌いだし逃げ出したい。それはそれとして一般人が危ない目に合ってるのを放っておけない程度には良識と正義感ある、良い意味で普通の子。割とタフいけど、もう二度と戦いたくないです。守ってもらう側になりたい。

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CHILDish Monstrum:カミグライ・レジスタンス その⑭

「……何?」
「私、モンストルムやめて人間になる」
「生物学的に無理じゃね?」
フェンリルの茶々を無視して続ける。
「人間側になる。それで、まともなモンストルムの子たちに守ってもらう」
「良いんじゃない? じゃ、あと2人脱走派を引き入れようか」
「……なんで2人?」
「俺の意向だよ」
フェンリルが答える。
「俺は別にどっちでも良いから留まっとく派だったんだが……いや脱走して人間ども困らせるのもナシじゃねーんだけど、スレイプニルが俺とじゃなきゃ出ないっつーから決めたんだ。俺らの集まりが偶数の時、票が偏った方に決めるって。今はデーモン合わせて2対2だな」
「そういうこと。まあ、ここに不満持ってる奴はそれなりにいるし、すぐ出られるんじゃない?」
スレイプニルはそう言って、自分の独房に引き返していった。
「デーモン、私のことも運んでくれる?」
「勿論」
私もデーモンに自分の独房まで連れて行ってもらった。何も無い硬い床に寝転がったけど、これまでの壁に括られた状態よりもずっと身体が楽だ。
ここでは最低限の食事は貰えるし、“メンテナンス”も受けられるから、この怪我もきっと良くなる。そしたら、フェンリルやスレイプニル達と一緒に脱走したいってモンストルム達を集めて、外に出るんだ。何だか希望が出てきた。
まずは戦いで失った体力を回復させなきゃ。私は再び、気絶するように眠りに就いた。

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CHILDish Monstrum:カミグライ・レジスタンス その⑫

「っ! 危ない!」
体重をほぼ0にして少しでも足を速め、大蜥蜴の前に飛び出す。奴は私に噛みつこうとしてきたけど、全身の質量増加で受け止める。
「モンストルムが外に1人いるはずです! 彼に指示を仰いでください!」
蜥蜴との押し比べに集中している中、辛うじて背後の人たちに向けて叫んだ。あの人たちが慌てて逃げ出す足音が聞こえてくる。彼らがいなくなれば、少しは安心できる。フェンリルは強いから、きっと彼らを守ってくれるだろう。
「がっ…………!」
突然、下腹に強い衝撃を受けた。大蜥蜴が高速で舌を伸ばそうとしたのだ。けれど、その程度で私の質量を動かせるわけが無い。衝撃で呼吸が止まりそうになりながらも、少しずつ大蜥蜴を押し返していく。
少しずつ、勢いを増しながら。少しずつ、速度を上げながら。少しずつ、エネルギーを増しながら大蜥蜴を押し返し、壁際まで追い詰める。加速を止める事無くそのまま壁に衝突する。建物の壁と私の質量で挟むようにして、大蜥蜴を押し潰す。鱗と筋肉と骨と内臓が潰れていく嫌な感触を感じながら、そのまま完全に潰してやった。
大蜥蜴の口が力無く開き、解放される。奴がもう死んでいることを目視で確認すると、私の身体は糸が切れたように勝手に倒れた。受け身もできず身体を床に打ち付ける。
そりゃあそうだ。あれだけダメージを受けたんだし、長いこと人間を庇いながら戦っていたせいで精神もずっと張り詰めっ放しで消耗しきっていたんだから。
「おーい無事かー?」
フェンリルが入ってきて、私に尋ねてきた。
「……フェン、リル…………、あの人たちは……?」
「あー? 死にたくなきゃ勝手に逃げろっつっといた。俺の近くにいるだけで能力に巻き込まれて死にかねないからな」
「……大丈夫かな…………」
「大丈夫だろ。インバーダはほぼ全滅状態だったしな。お前の時間稼ぎの賜物だな。お前が目立ってたお陰で、他のモンストルムもこの辺にはあまり近付かなかった。マジでお前、よくやったよ」
「…………そっか」
そこで私の意識は途切れた。

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CHILDish Monstrum:怪物報恩日記 5日目

時、6時35分。場所、老人の家の居間。
朝食の後、老人と昨日のインバーダ襲撃の一件について話し合った。
あの後、村の漁師たちとインバーダの間に割って入ったわたしは、すぐさま怪物態に姿を変えた。ろくな武器も無い、身体機能も十分では無い、体格差まである、そんな状態で戦えるわけが無い。
多頭の巨大なコブラの姿をした怪物態、“ナーギニー”。大蜈蚣がその毒牙をわたしの鱗に突き立てた。しかし、ただでさえ強固な鱗の装甲に加え、“ナーギニー”には有毒物質を操作する異能もある。大蜈蚣の牙から流れる毒液を逆に支配下に置き、棘状に変形させて奴の体内を破壊し、暴れ出したインバーダの頭を噛み砕いて倒し、すぐに人型に戻った。巨体での戦闘は、肉体への影響が大きかったからだ。直後、わたしは体力を使い切ったためか気を失った。
話し合いが始まって、老人から最初にかけられた言葉は、昨日の戦いがわたしの身体に障っていないかという質問だった。
正直言って、意外だった。あんな怪物に化けるのを見られたのだから、恐ろしがられてもおかしくなかったのに。いくら彼が善人と言っても、あるいはインバーダを倒したことを感謝される程度が自然では無いか。わたしよりずっとか弱い人間である彼が、わたしの身を案じている。全く以て未知の感覚だった。
わたしが無事だと答えると、老人はようやく、わたしが何者なのか、ということを問うてきた。
わたしは『ナギニ』と名乗った。インバーダ、昨日の大蜈蚣のような化け物と戦うために生み出された怪物である。そう答えた。
老人は、わたしの答えを聞いて複雑な表情で黙りこくった。
現状、わたしの身体は十分に回復していないのに戦闘を行ったせいで、調子が良いとは言えない状態だ。もう少し、ここで厄介にならなければ帰れないのに、なんだか気まずくなってしまったような気がする。

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CHILDish Monstrum:人造神話隊 キャラクター紹介

・ビヤーキー
性別:女  外見年齢:14歳  身長:148㎝
特殊能力:飛行能力。また、飛行速度・高度に拘らず、飛行中自身はダメージを受けない。
主な使用武器:バグナク
パーティ〈人造神話隊〉の足担当。みんなを背中に乗せて空を飛ぶ。髪型はツインテールだが、何故かツインテ部分も自由に動かせる。飛行中は何となく翼の形にしているが、別にその形で無いと飛べないわけでも無ければそれでバランスを取っているわけでも無い。ちなみに能力で自分はどう空を飛んでも平気だが、乗っている人らは効果の対象外なので文字通り他者の命を背負うことになる。渾名は「ビャキ/ビャキたん」。

・ディープ=ワン
性別:女  外見年齢:12歳  身長:139㎝
特殊能力:信仰対象を強化する
主な使用武器:自動小銃、三叉槍
パーティ〈人造神話隊〉のバッファー。対策課の職員さんにもらった本の影響で兵器とかが好き。能力は「この人/ものは強いんだぞ!」というある種「信仰」のような気持ちが、信仰対象の強さに直結するというもの。味方にするととても心強い。渾名は「ぷわん」。

・ティンダロス
性別:女  外見年齢:14歳  身長:151㎝
特殊能力:攻撃の触れた固体を腐食させる/「角」を介して瞬間移動する
主な使用武器:双剣
パーティ〈人造神話隊〉のアタッカー。相手がスライムとかじゃない限りまず防御力が意味を成さないのでとても強い。そっちの能力が強すぎて、瞬間移動の方の能力は今回は使わなかった。渾名は「ティー」。

・ナイトゴーント
性別:男  外見年齢:15歳  身長:162㎝
特殊能力:自身の存在を希薄にする
主な使用武器:大鎌、革鞭
パーティ〈人造神話隊〉の保護者役。隠密行動に適した能力を利用して戦場を移動し、敵の隙を作ったり味方の隙を潰したりしている。移動中は体重ほぼ0にしているのでビヤーキーに乗っていても負担にならない。他の2人も見習ってほしい。渾名は「ヤキ」。

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常勝のダイヤ#5

空の氷色がそのまま降ってきたような、澄み切った寒さ。朝の河川敷のランニング。野球部の中でスタミナがある俺は、後ろにほかの部員を突き放し、独走状態だった。ふと、前に黒と水色のフリースを着た小さな背中が見える。
「女バスの練習って、8時からじゃないのか?」
河川敷の古い柵にもたれかかって話すことにした。
俺ら野球部の練習は6時半から。
「自主トレだよ。冬の努力が大事じゃん。」瑠奈はそう答えた。
瑠奈は、バスケ部のエース格。まあ、似たもん同士なのかなぁ、、、
「へ~。すげえな。バスケ部、秋も全国行ったんだろ?」
「野球部ほどほかで勝ち上がってないし、まだまだだよ、、」
(ああ、俺みたいに調子に乗らずに、常に上を目指してるんだな、、
 前見に行ったバスケの試合可愛、、、すごかったもんな)
「野球部の秋の大会、見に行ってたんだけど。」
(え!?~---俺が打たれたところ見てたのか、、、やべえ、俺かっこ悪い!)
「常勝って周りから言われるのって、怖いよね」
(、、、、、、。)
「だって、一生懸命に勝っても{あたりまえ}ですまされちゃうし、負ければありえないだの、前の代と比較されたりで重圧だよね。勝負だし高校生だし常勝っていわれながら努力するってすごいと思うよ。」
「え、あ、、、」(なんて言えばいい?)その時、かすかに足音が、、
『キャップ~追いつきましたよ~ー』向こうから突き放したはずの部員たちが追い上げてきた。
「わりい、じゃあな!」急いでその場を離れた俺の頬と、校舎にに隠れていた太陽が昇る東の空は、さっきよりすこし明るくなっていた。

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CHILDish Monstrum:怪物報恩日記 4日目

時、11時22分。場所、老人の家。
昨日の夕食から魚を食べさせてもらえていたこともあり、ダメージの回復は順調に進んでいた。少しなら立ち上がって歩けるようになったので、家の中を歩き回って運動能力の回復・維持も並行することにした。
廊下を往復していると、玄関の引き戸が勢い良く開いた。あの老人は扉に鍵をかけるということをしないのだ。
扉を開けたのは、40代後半程度と見られる中年の男性だった。この漁村の住人だろう。男性は慌てた様子で、海に妖怪が現れたと言った。彼の話す内容からして、おそらくインバーダが現れたのだろう。
しかし、彼は『インバーダ』ではなく『妖怪』と言った。つまり、この漁村はインバーダ、並びにモンストルムを知らないということ。モンストルムとインバーダ対策課の守護は、この漁村に届いていないということ。
老人は中年男性の言葉を聞いて、玄関に立てかけてあった鉈を手に家を出た。
たしかに彼は漁業従事者なだけあって、痩せこけているようで全身に無駄なく筋肉が付いており、実戦に出てもそれなりに良い動きができる事だろう。
しかし、相手はインバーダ。しかも、中年男性の話から推測するに、全長約十数mの中型。軍事訓練すら受けていない一般人に、どうこうできる相手では無い。
だから、老人に申し出た。わたしも連れて行ってくれと。当然、老人はそれを許さず、わたしには大人しく寝ていろと言いつけて出て行ってしまった。
そして当然、わたしもそれに従う訳は無い。彼らと20秒ほど時間を置いて家を抜け出し、海岸に向かう。
大蜈蚣のような外見のインバーダを、村中の漁師が手に手に武器代わりの農具を持ち、追い返そうとしていた。決して力のあるわけでは無い、それどころか非力とさえ言える人間が、決死の覚悟で勝ち目のない脅威に立ち向かっている。肉体が戦闘に堪えられなくとも、わたしの能力が彼らを救う以外の選択肢を取らせてくれなかった。

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CHILDish Monstrum:カミグライ・レジスタンス その⑧

幸いにも、民間人は大体ひとまとまりになってある建物の傍に固まっていた。そして、そのせいかインバーダ達は彼らに一斉に襲い掛かっていた。
「この距離だと、ちょっと間に合わなさそうだな……ちょっと失礼するよ、ベヒモス」
「え?」
突然、デーモンが私の腰の辺りを掴んできた。
「デ、デーモン⁉」
「飛ぶよ」
そう言って、デーモンが“怪物態”に変化した。山羊の脚と角、蝙蝠の翼、長い尾を持つ、大柄で不気味な人型の怪物が私を捕まえたまま飛び上がる。咄嗟に私も能力を発動して、体重をほぼ0にまで軽くした。
「わ、軽い。こりゃ良いや」
デーモンは殆ど瞬間移動みたいなスピードでインバーダの群れをかき分け、人型に戻りながら化け物たちの前に立ち塞がった。
「やあ君達、君達の願いを叶えてあげる。だから望みをお言い?」
デーモンは何故か、民間人たちに向かって何やら言い始めた。
「デーモン、何やってるの⁉ インバーダが……」
「悪いけど、必要なことなんだよね。ちょっと時間稼ぎ頼める?」
「ええ……ああもう!」
仕方ない。とにかく私だけでもインバーダと戦わなきゃ。まずは飛びかかってきたクマのような姿のインバーダの突進を受け止める。能力で全身の質量を何十倍にも上げることで防御には成功した。そして、無防備に晒された鼻っ面に、更に質量を増強させた拳を、思いっきり振り下ろし殴り潰した。地面に伏せた頭をそのまま踏み潰し、続いて飛びかかってきた食肉目型のインバーダもパンチで吹っ飛ばす。この攻撃で、小さなインバーダがいくらか巻き込まれて吹っ飛び、包囲網に小さな穴ができた。

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CHILDish Monstrum:カミグライ・レジスタンス その⑦

「よ、お前も気の毒だったな。ご苦労だった、あとは俺ら『化け物』に任せてくれ」
地上階のエレベータの脇に倒れていたDEM社員に、フェンリルが声を掛けた。多分死んでるだろうけど。
周囲を見回してみると、屋内にも既に小型のインバーダが何体か入り込んでいる。
「あ、俺は中の連中片付けていくから、先に出てて良いぜ。言っとくけど、逃げようとは思うなよ? 撃たれるぜ」
フェンリルが言いながら、ガラスの割れた自動ドアを指し示した。
「うん。じゃあ、お先に失礼します」
手を振るフェンリルに軽く頭を下げて、外に出る。
外もまた、ひどい有様だった。大小さまざまなインバーダがそこら中で暴れていて、モンストルム達の能力でアスファルトも周りの建物もボロボロになっていて、ところどころ逃げ遅れた民間人の姿も見える。
「な……なんで、まだ逃げられてない人も居るのにこんな……?」
「まあ、気性難で閉じ込められた連中も結構いるからねぇ」
隣のデーモンが応じた。
「さて、せっかく出てこられたわけだけど、君はどうしたい?」
「…………まずは民間人を避難させる」
「僕もそうしたいと思っていたところだ。さあ行こうか」

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視える世界を越えて エピソード5:犬神 その④

少女が種枚さんから離れて、かなりの距離を取ってこちらに向き直った。
「……おい君、5歩以上下がった方が良い」
ビーチサンダルを脱ぎ捨てながら種枚さんが私に言ってきた。それに従って、念のため10歩ほど下がる。
直後、地面に巨大な穴が開き、種枚さんと少女は穴の底に落下していった。
「ありゃ、遅刻しちまったか」
聞き覚えのあるその声に振り返ると、鎌鼬くんが自分の背後から穴の底を覗き込んでいた。
「あ、どもッス」
「鎌鼬くん、ひさしぶり」
「ッス」
「この穴、何が起きて……?」
「あの子、師匠は犬神ちゃんって呼んでるんですけどね。あの子は所謂『犬神憑き』の家系の出なんですよ」
「……それが、この穴とどう関係が?」
「それは俺にも分からないけど、どうもあの子は『土砂や岩石を操る』力を持ってるみたいなんですよ」
「な、なるほど……」
再び穴の底に目をやる。しかし、二人の姿は見えなかった。2人の上方に、それまで穴のあった場所を埋めていた土砂が塊状に集まって浮かんでいたためだ。
「あ、もうちょい離れた方が良いですよ」
「えっ」
鎌鼬くんに引きずられるように下がって数秒後、穴から途轍もない破壊音と振動、土煙が上がってきた。

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CHILDish Monstrum:怪物報恩日記 2日目

時、5時10分。場所、老人の家。わたしが寝かされている部屋は、客間だということだった。
合計で1日以上眠ったおかげで、全身の痛みはかなり楽になっていた。代わりに全身が怠くて、鉛でできているかのように重かった。布団から出られるような余力は残っていなかったので、耳を澄ませて家の中の様子を探った。家の中からは電化製品が動く音以外、何も聞こえない。あの老人は不在のようだった。漁師のようだから、早朝家にいないことは何もおかしくないが。
しかし、改めて思い返してみると、一人でいるというのはあまり無い経験だ。普段、待機中はいつも、相棒のダキニがぴったりと寄り添っていたから。
そういえば、わたしの相棒は無事だろうか。少なくとも、戦闘中に目に入った死体の中に彼女のものは無かった。まあ、ダキニは強いし、きっと大丈夫だろう。相棒との再会の為にも、今負っているダメージを早急に回復しなくてはいけない。とにかく眠って、自然回復に努めなくては。
12時5分、老人が部屋に入ってきた。手には粥の皿が載った盆を持っている。
食べるように言われたので、その通りにした。食事を摂れば、肉体の原料とエネルギーが手に入る。有難いことだった。

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CHILDish Monstrum:怪物報恩日記 1日目

時、15時25分。壁掛け時計に表示されていた。場所、知らない民家の一室。
目を覚ますと、見知らぬ部屋の風景が目に入った。身体中の切り傷や擦り傷の上には絆創膏やガーゼ、包帯で手当てが施されており、わたしは床に敷かれた布団の中に寝かされていた。
全身はまだ痛んだけれど、上体を起こして手足を軽く動かしてみる。幸いにも骨折したりはしていないようだった。ただ全身の筋肉をひどく傷めていて、大量に出血していただけだった。これなら動ける。自力でも帰ることができる。
掛け布団をどかし、立ち上がろうとする。脚には全然力が入らず、立ち上がるのには失敗したので、一応動かすことのできる両腕を使い、這うようにして部屋を出ると、板張りの廊下に出た。廊下の先には外に続いているであろう引き戸が見えたのでそこに向かう。
その途中で、右手にあった扉が静かに開いた。そちらに顔を向けると、老人が立っていた。よく見ると、あの小さな漁船に乗っていた老人では無いか。信じられないものを見るような目でこちらを見ている。会釈して出て行こうとすると、老人に抱え上げられた。抵抗する間もなく——隙があったとして何かできた訳も無いけれど、元の部屋に連れて行かれ、また寝かされる。
何故そんなことをするのか、老人に問うた。老人は、自分が拾った以上、治るまで放り出すわけにはいかないと言っていた。
『自分が拾った』? それは違うだろう。わたしが勝手にあの船に乗り込んだのだから。
彼は面倒な荷物でしかない、殆ど死にかけだったわたしをそのまま海に捨てても良かったのに。きっと彼は善人なのだろう。可能な限り早く、動ける程度に回復し、迷惑にならないように出て行くことに決め、わたしは睡眠による回復に努めることにした。

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視える世界を越えて エピソード5:犬神 その③

混み合う電車に揺られて約30分、8駅先で一度下り、更に乗り換えて40分ほど、ようやく目的駅に着いたようだ。
「随分な郊外まで来ましたね」
駅を出て周囲を見回すが、ほとんど山と畑しか見えない。
「まあ、周りに何もない場所じゃなきゃ迷惑がかかるからねェ」
「周りに迷惑がかかるようなことするんですか……」
「まーね」
更に1時間ほど徒歩で移動し、山中に分け入り、かなり足が痛くなってきたところで、ようやく種枚さんが足を止めた。
「到着ですか?」
「うん、結構昔の採石場跡地」
「はあ。入って大丈夫なんです?」
「さあ? 少なくとも立ち入り禁止の看板は見た事無いねェ」
話しながら奥へと踏み入り、少し開けた場所に出る。座り込んで地面をいじっていた小柄な人影がこちらに気付き、立ち上がってこちらに駆け寄ってきた。
「やっと来たなキノコちゃーん! 待ちくたびれたよ!」
人影、その少女は駆け寄る勢いのまま種枚さんに抱き着き、種枚さんは全く動じずに受け止めた。それより『キノコちゃん』か。あの名前を聞いてそれを連想するのは自分だけじゃなかったみたいで少し安心した。
「私も会いたかったぜィ犬神ちゃん」
2人して一頻り盛り上がった後、少女の方がこちらに顔を向けた。
「誰それ?」
「ああ、こいつは最近見つけた霊視の才の持ち主だよ」
「霊感は?」
「まだ無い。だから顔くらいは覚えておいてやってよ。ついでに気が向いたら助けてやって」
「りょーかい。じゃあ早速やろっか」
「はいよ」

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視える世界を越えて エピソード5:犬神 その②

自分が住んでいる町には、3か所鉄道の駅がある。町名がそのまま駅名になった駅、『東』を冠する駅、『中央』と後ろにつく駅。そのうちの一つ、役所に最も近い位置にある『中央』の駅は周囲の施設の充実から人の出入りも多く、休日であったためか待ち合わせの30分前という早い時間でも駅前広場はそれなりに混雑していた。
この中で、決して背が高いわけでは無い種枚さんを探すのは苦労するかとも思ったが、その心配は杞憂に終わった。
不自然に人が避けて通る真ん中で、フードを深く被ってただ立っていた種枚さんに、恐る恐る近付いて行くと、彼女の方もすぐに気付いたようで姿が消えたと思ったら次の瞬間には自分の背後にいた。彼女のこの移動法にもいい加減慣れてきた。
「やァ、随分早かったじゃないか」
「ええまあ、待ち合わせには早く来る性分でして」
答えながら彼女の足元を見ると、今日は珍しくビーチサンダルを履いていた。この人が履物を履いているところなんて初めて見た。
「今日は裸足じゃ無いんですね」
「流石に公共交通機関でまで、ってのはねぇ……」
いつもその気遣いをしてください、という言葉は一瞬悩んだ末に飲み込むことにした。

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CHILDish Monstrum:カミグライ・レジスタンス その③

「脱走……ですか?」
信じられない言葉が聞こえてきて、思わず訊き返してしまった。
「うん、脱走。私にはやりたい事がある。この場所じゃ出来ないことが。だから、脱走」
「ベヒモス、お前はどうだ? 助けを求めたくらいだ、外に出てやりたい事があるんじゃねーの?」
フェンリルに尋ねられて、考え込んでしまう。たしかにこの場所は嫌いだ。ここを出て自由になりたい、そう思ったことは何度もある。
……けど、『ここを出た後』? ここを出て、私は何をしたいんだろう。たしかにここにいれば、“メンテナンス”もしてもらえる。外に私の戸籍なんて無いし、見方によっては、最高じゃなくても最低限、安定して生存できる。じゃあ、ここから逃げ出す意味って……?
「ああ悪かった。変に考えさせるようなこと言っちまったな」
フェンリルの言葉で正気に戻る。
「別に大したことじゃなくて良いんだよ。スレイプニルなんて『走りたい』ってそれだけだぜ? ここは狭すぎるんだとさ」
「そ、そうなんだ……」
「そう。だから私は、フェンリルとここを出たいの」
スレイプニルが言った。
「フェンリルと? 何故?」
「だって、フェンリルがいれば私の走るのを邪魔するような全部、残らず壊してくれるもの」
「へ、へえ……?」
それは、倫理とか道徳とか、そういうの的にどうなんだろう?

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CHILDish Monstrum:怪物報恩日記 前日譚

時、たぶん真夜中。場所、海の中。
海面から数m。月と星のおかげで思ったよりも暗くない、塩っ辛い水中で、わたしは動けないでいた。
全ては体感10時間くらい前に遡る。100体弱の大型インバーダの大群が、わたしの配備されている都市の近くに出現した。そのまま侵攻すれば、わたしの担当区域にまでやって来るし、出現地点周辺の軍隊やモンストルムだけじゃ対処しきれないってことだから、わたしや仲間たちも駆り出された。
戦況はひどいものだった。
向こうはただでさえ巨体のせいで破壊力があるというのに、その上熱線による射程戦までこなすというのだから、人間の軍隊にはまず勝ち目が無い。モンストルムですら、小さな人型で熱線を浴びれば一瞬で蒸発する。それで何人か死んだ。
怪物態で応戦した子も、格闘戦の末にひどいダメージを負った。3分の1は熱線で首を飛ばされるか心臓を貫かれるかして死んだ。3分の1は肉弾戦で急所を叩き潰されて死んだ。わたしを含めた残りは、辛うじてインバーダたちを押し返して、結局負傷がひどくて動けなくなった。わたしは人型に戻る中で海に落ちて、そのまま海流に押されてだいぶ沖までやって来てしまった。
わたしは泳ぎが得意だから、流血で染まった海水を辿って対策課の人たちが回収に来るまで浮いているくらいならできると思っていた。
けど、考えが甘かった。空が赤らんでも、陽が沈み切っても、月が昇ってきても、人間の気配の一つすら近付いてこなかった。
さすがに力尽きて、身体の力が抜けていくのにつれてどんどん沈んでいった。
別に鰓があるわけじゃないから呼吸もできないし、水面に上がりたくても、血を流し過ぎて動けないし、もう死んでいくんだと思った。
諦めて目を閉じたその時、遠くからモーターの駆動音が近付いてくるのに気付いた。再び目を開いて、音の方に目を向ける。あまり大きくない船がこちらにやって来ているようだった。
やっと回収に来たんだろうか。死に体に鞭打ってどうにか水面まで上がり、舳先にどうにか掴まる。死力を振り絞って身体を持ち上げると、知らない老人が三叉の銛をこっちに向けていた。どうやら対策課の人間では無いようだった。
けど、そんなことを気にしている余裕はこちらにも無い。現状唯一の脅威である銛を掴んでへし折り、船の上に身体を投げ出し、そのまま気を失った。

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CHILDish Monstrum:カミグライ・レジスタンス その②

扉の破壊で、埃が舞い上がる。その向こうから、鉄球が独房の天井の方に飛んでいって、監視カメラと機銃を叩き壊した。
「よォ、ベヒモス。ハジメマシテだな」
すぐに晴れた埃の煙幕の中から現れたのは、私より少し背の高いモンストルムの男の子と、その子よりももう少し背の高い、スレンダーな女の子だった。
「俺はフェンリル。こっちはスレイプニル。よろしくな?」
「ぇ……ぁ……」
答えようとしたけれど、動揺が収まっていなかったのと長いこと言葉を発していなかったのとで、上手く言葉が出ない。
「とりあえず、『ソレ』も壊してあげたら?」
「ン、そうだな。ベヒモス、動くなよ? 下手すりゃ死ぬぜ」
フェンリルがそう言いながら、わたしの両手、両足の枷を1つずつ指で軽く突いた。その瞬間、拘束具は全て砕け散り、私の身体は自由になった。長いこと立ちっ放しの姿勢で固定されて疲れ切っていた両膝からは力が抜け、床の上に頽れる。
「…………ぁ、ありがとう、ございました」
さっきは上手く言えなかったお礼の言葉を、改めて口にする。
「あー、礼ならスレイプニルに言ってくれよ。スレイプニルが仲間が欲しいっつーから出してやったんだ」
「……仲間?」
この疑問に答えたのは、スレイプニルの方だった。
「そう。この地下牢から脱走する、そのための仲間」

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人間ではないらしい

放課後、部室として使っている3年A組の教室に入ると、既にそのクラスの人は全員いなくなっていて、代わりに部長が机に座ってスマホをいじりながら、紙パックのカフェオレを飲んでいた。
「こんにちは、部長。先生は?」
「何か用事でしばらく遅れるんだってよ」
「そうですか」
適当な机を借りて荷物を置き、椅子に腰かける。
部長はこちらに目もくれず、スマホを触るのに夢中になっている。ゲームでもしているんだろうか。
それより、先生がしばらく来ないというのなら、都合が良い。仕掛けるなら、今しか無い。
「部長」
「なに?」
「これはクラスの子から聞いた噂話なんですが」
「うん」
部長がこちらに顔を向ける。
「部長が人間じゃないって本当ですか?」
部長の動きが止まった。ゆっくりと机から下り、手近な椅子に腰かけ、姿勢を正してこちらに向き直った。
「その質問に正確に答えるためには、ちょっと言葉の意味をきちんと擦り合わせておかないとだね。そうだな、何をもって人間とすべきか……たとえば人権があることを人間の定義とした場合、天皇さまは人間じゃないことになる。ならば生物学的特徴を条件とすべきか。そうだな、たとえば人間の肉体を完全に模倣して現世に降臨した神が存在したと仮定しよう。彼は人間か? ……まあ、これも議論の余地はあるんだろうけど」
部長はまるで、何かをはぐらかそうとしているかのように長々と話している。
「……まあ、うん。そうだね、何と言ったものか……。……いやまあ、従うルールによっては人間だと言い張っても良いんだけど…………あぁー……うん。私は人間じゃあないよ」
噂は本当だったようだ。

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CHILDish Monstrum:アウトロウ・レプタイルス その③

「今日は誰がやる? 私はこの間やったし、みーちゃんで良いかな?」
「え、良いの? たすかるー」
腰のホルダーから包丁を2本抜き、ミズチは弾んだ声で言った。
「おい待てェぃ女子共。リーダーの意向を聞い」
2人を諫めようとしたラムトンの言葉は、インバーダの放った光線によって、胸の高さで身体を両断されたことで中断された。
「あ」
「あ」
「……てから動けって言おうとしたんだよ」
分断されたラムトンの上半身が、構わず言葉を続ける。
「で、どうすンだよリーダー」
ラムトンに問いかけられ、サラマンダーは即答した。
「うん、みーちゃんに任せようと思う。それが一番手っ取り早いしね」
「はいはいリョーカイ。それじゃ……」
ミズチはインバーダに向けて歩き出しながら、首にかけたストップウォッチをスタートさせた。
「……よし、みーちゃんはスイッチ入ったね。おれはみーちゃんの援護に向かうから、くーちゃんは……」
サラマンダーがククルカンに目を向けると、ラムトンの下半身を引きずり、傷口同士を宛がおうとしているところだった。
「……うん、言わなくても分かってるみたいだ」
サラマンダーは苦笑し、インバーダに向けてクラウチングスタートの姿勢を取った。

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CHILDish Monstrum:水底に眠る悪夢

「おはよう、“ロード”」
能力によって展開された触手で埋め尽くされた狭い地下空間。その奥底で1人のモンストルム“クトゥルー”は相方に声を掛けた。
「おはよう、“リトル”」
触手に埋もれて眠っていたもう1人のモンストルム“カナロア”も目を覚まし、相方に挨拶を返した。
「今日の早起き対決はきみの勝ちか。これで何勝何敗だっけ?」
「10回より先はもう覚えてないよ」
「そっか」
2人の肉体は、能力によって各々の肉体から伸びる無数の触手が絡み合い、一つになっている。2人の意思は触手を通して音声言語を必要とせずに共有できるのだが、それでも敢えて、口に出してのコミュニケーションを意識していた。
2人が幽閉されている地下空間には、既に数年もの間、IMS職員も訪れていない。ただ定期的に、給餌用の小さな扉を通して食料と水が届けられる、それだけが外界との繋がりである2人にとって、発話を介するコミュニケーションは人間性を失いただの化け物に成り果てないためにも必要な行為だった。
「………………」
クトゥルーは数十m先に地表があるであろう天井を見上げ、触手を通してカナロアに意思を飛ばした。
(“ロード”、今日は何だか上が煩いね?)
(そうだね。ここに来てから初めてくらいの五月蝿さだ)
(もしかしたら、出番があるかもしれないね)
(そうだね)
2人が念話をしていると、天井がスライドし、金属製の格子と遥か上方に僅かに見える外の光が現れた。
「やっぱり『ぼく』の出番だ」
「うん。『ぼく』の力が必要なんだろうね」
無為に地下空間を埋め尽くしていた無数の触手が、整然とした動きで解かれ、格子の隙間から地上へと向けて高速で伸長していく。
「「平伏せ。『我』は水底の神なるぞ」」
完全に重なった二人の言葉の直後、無数の触手が地上に出現し、交戦していたインバーダ、IMS、モンストルム、それら全てを隙間ない奔流で飲み込み、叩き潰した。
「思ったより数があったね」
「うん。一応人間は潰さないようにしたけど……もしかしたら『ぼく』以外のモンストルムが戦場にいたかもしれない」
「別に良いよ。モンストルムならこの程度で死ぬわけが無い。これで死ぬならどの道インバーダには勝てないよ」
「そうだね」
天井が再び閉まり、2人は触手の中で眠りに就いた。

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視える世界を超えて エピソード4:殺意 その②

種枚さんに連れられて市民センターへと向かい、ロビーに設置されていたベンチに腰掛ける。彼女は自分の目の前に立ち、摘んでいたハエを手放した。ハエはしばらく彼女の手の上を這い回ってから、飛び上がった。
十数㎝ほど上昇したのを見てから、種枚さんはハエを鋭く睨んだ。すると、突然ハエが、電源が切れたかのように動きを止め落下した。
「一体何を……⁉」
「ん? そうだな。殺意を向けられればストレス感じるし、ストレスを感じれば体調悪くなるだろ?」
「まあ、そりゃそうですけど……」
実際、彼女の殺意はそれだけで人を殺せそうな凶悪さをしているけれども……。
「それ」
「?」
「殺意を練り上げて、ぶつける。かわいそうだけど今のハエには死んでもらったよ」
「ええ……」
「慣れれば攻撃に乗せることもできる」
「どういうことなんですか……」
この問いには答えず、真横に向けて指を差した。そちらを見ると、センターの奥に小さな人影が見える。よく見てみれば、足下が透けている。
「あそこに小さな幽霊が見えるね?」
「見えますね」
「あれを、こう」
幽霊に向けて、種枚さんが無造作に手を振る。すると幽霊がこちらに気付いたのか、振り向いてこちらに向けて近付いてきた。

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CHILDish Monstrum:アウトロウ・レプタイルス その①

体高約25m。生物とも機械とも取れない奇妙な外見のインバーダの周囲を、様子見するように1台の戦闘用ヘリコプターが飛び回っていた。
「もっと寄せて! もうちょい! そっちのビルの方!」
少女の姿をしたモンストルム、ククルカンがパイロットの背後から組み付くようにしながら呼びかけた。
「3めーとる! 3めーとるくらいの位置まで近付いてくれれば良いから!」
「精一杯やっています! ただ、あまり近付くと奴の攻撃が……!」
パイロットが言ったその時、インバーダがヘリに顔を向け、その中央にはまった眼から光線を発射した。しかし、その光線はヘリの底部に触れた瞬間、反射して空中に飛び去って行く。
「ほら、どうせアイツが何してきてもサラちゃんが何とかしてくれるんだから! もっと近付いて! ちーかーづーいーてー!」
耳元で甲高い声で何度も言われ、パイロットは渋い顔をしながらもヘリを操作し、1棟の高層ビルに、僅かに機体を寄せた。
「よぉーしゴクロウ! あとは私らに任せてさっさと逃げちゃってよ」
「ああ……頼むぞ、〈アウトロウ・レプタイルス〉。君たちは我々にとって、最後の希望だ」
振り絞るように言うパイロットにサムズアップで応え、ククルカンは同乗していたもう2人の仲間と共にヘリから勢い良く飛び出した。

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新年クロスオーバー座談会

桜音「皆様、明けましておめでとう御座います。今年も宜しくお願い致します。」
優「おお...クリスマスに続きまたガキが音頭取りしてんのか...」
蘭「あれ、君は食って掛かったりしないんだね。」
桜音「事実ですから。」
リンネ「本当に子供だね、全く、私と見た目は変わらないのに。」
ミル「ちなみにお幾つ何ですか...?」
光「僕は712だよ?」
優「聞いてねぇよ。」
桜音「14です。もうすぐ15ですが。」
ミル(歳下...!)
蘭「と言うか、やたろう、やたらと子供に音頭取りさせるね。何考えてるんだろ?」
光「さぁね。でも、『前回悲惨だったから、リンネには二度とやらせない』とは言ってたよ。」
リンネ「⁉︎ちょ...っ?!...あの糞眼鏡、殴り○してやる...!!」
ミル&桜音「「止めてください。」」
光「まぁ、新年早々地震もあったし。僕も気を付けて過ごすかな。」
蘭「被害に遭われた方々、色々大変かと思いますが、是非体調に気をつけてお過ごしください。」
リンネ「ねぇ、一人、無言で酔っ払ってる人居るけど。」
蘭「あっ。...善いや、置いて帰ろ。」

明けましておめでとう御座います、今年も宜しくお願い致します。
そして地震の被害に遭われた方々、先刻も蘭が申しました通り、是非体調に気をつけてお過ごしください。
                   やたろう

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視える世界を超えて 番外編:愛娘

「よォ、馬鹿息子」
高校からの帰り、校門を出た鎌鼬の背に、種枚から声がかけられた。
「ぐ……だからその呼び方やめてって……うわっ」
鎌鼬がそちらに目をやると、種枚が足の甲を街灯に引っかけ、逆さにぶら下がっていた。
「なァ鎌鼬、携帯電話持ってないか? 貸してくれ」
街灯から飛び降りながら、種枚が話しかける。
「スマホッスか? 別に良いですけど……師匠、持ってないんスか?」
「残念ながらなー」
鎌鼬から放られたスマートフォンを危なげなく受け取り、種枚は電話番号をプッシュし始めた。
「で、誰に電話するんです?」
「お前の姉」
「いや俺一人っ子…………あぁー……『娘』ッスか」
「そういうこと」
ニタリと鎌鼬に笑いかけ、通話が繋がったために種枚はすぐそちらに集中し始めた。

それから約10分に及び、種枚は電話口の相手と楽しそうに会話を交わし、満足げな表情で通話を切った。
「助かったよ鎌鼬。あの子、元気そうだった」
そう言いながら種枚が放り投げたスマートフォンを、鎌鼬は一瞬取り落としそうになりながらも、どうにか受け止めた。
「もっと丁寧に扱ってほしかったなぁ……あ、そういえば」
「ん?」
「俺の……姉弟子? って人は、どういう人なんです?」
「たしか今中2くらいだったっけかな?」
「俺より年下」
「あの子はねぇ、『河童』を喰った子だよ」
「かっぱ」
「ああ。お前なんかよりずっと上手く折り合ってる良い子だぜェ」
「子供どうしを比べて評価するもんじゃねッスよ」