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非現実ーおとぎ話ってそういうものー ⑤

そんな2人のことを、ローズとリリーはもちろんよく思っていませんでした。とくにリズに対して、とても怒っていました。2人はいろんな方法でヘンリーとリズを邪魔しようとしましたし、リズにもたくさんの嫌がらせをしました。リズはとても優しいですから、なにかの間違いだと思ってとくに気にせず暮らしていました 。でもヘンリーは2人のいやがらせに気づいていました。そして、そのことをヘンリーが知らないと思ってローズとリリーが近づいてきていることにも。
王さまとお妃さまももちろん気づいていました。2人はリズとヘンリーがせっかく結ばれそうなのに邪魔をさせるわけにはいかないと、ローズとリリーを遠い田舎の別荘にしばらく泊まらせることにしました。素敵な男性方とのパーティーが毎晩あると聞かされた2人は、喜び勇んで出かけていきました。
さあ、これでヘンリーとリズの邪魔をする者はいなくなりました。2人はこれから、相手の良いところや悪いところを知り、長い年月をかけて受け入れあっていくでしょう。そしていつの日か本当に夫婦になるかもしれません。もしならなくとも、2人ならお互いをいいパートナーとして、生涯付き合っていけるでしょう。
誰もが結婚するだろうと思っていたカップルが破局するように、一生の友だちだと思っていたひとといつしか疎遠になってしまうように、先のことなんて誰にもわかりません。
けれど、願わくばすべてのひとが、そのひとだけの幸せで満たされていますように。

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〜二人の秘密〜長文なので時間があるときに読んでくださると嬉しいです。

トントン。私は先生がいる部屋の扉を叩く。
『先生?入ってもいい?』
爆発音とともに、
「ちょっと待て」という声が聴こえる。

5分ほど経つと扉が開いた。
「お待たせ。」
『先生、また魔法の薬学してた?』
「あぁ。少しだけだ。」
先生は魔法を使った薬学を“隠れた専門教科”としている。
先生の使う魔法の薬学はとても綺麗で素晴らしい。
『今日は失敗したの?』
「掛け合わせができると思ったのだが何処かで間違えてしまったようだ……。 片付け、手伝ってくれるか?」
『えぇ。もちろん。その代わり、チョコレートね。』
「わかってる。魔法の事は誰にも言うなよ。」
『もちろん、わかってるわよ。』
私は魔法使いでも魔女でもない。
いや、普通はみんなそうだ。でも私は、夢のような彼の秘密を知っている。

手伝いをしながら彼に問う。
『ねぇ。先生の魔法の事、私にバレたけど何もないの?お仕置きとかさ。』
「君が黙ってるから何もない。私も何も言わない。」
『誰かが魔法を使ったら、“魔法の存在がバレた”って事がバレるんじゃないの?』
「あぁ。もうバレてるだろうな。」
『大丈夫なの?』
「君が秘密にしてくれているんだ。何もないだろう。」
私は“そっか”といい一息つく。
『だいぶキレイになったんじゃない?』
「そうだな。元通りだ。」
『良かった 良かった。』
「そういえば、何か用事があったのでは?」
そう言いながらチョコレートを渡してくれた。
『えっとね〜……。 忘れた……。』
「まぁいいさ。思い出してからまた来るがいい。」
彼はホットミルクを差し出す。
『ありがとう。……魔法の事、先生にお仕置きがなくて良かったよ。』
先生と話したかっただけとは言えなかったが、帰宅のチャイムがなるまで話し合っていた。

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霧の魔法譚 #15 6/6

魔法使いたちを襲った大攻勢は、目立った損害もほとんどなく魔法使い陣営の勝利に終わった。
変わったことと言えば沖合に突如出現した謎の濃霧を偵察隊が捉えたそうだが、目立った動きはなくほどなくして消滅したらしい。おそらくファントム側の攪乱作戦が不発に終わったのだろうと多くの者がそう考えた。いずれにせよ勝ったのだから問題はないと誰も深く考えなかった。


霧に隠されたもう一つの大攻勢。一人の少女が抹殺したファントムは深海の底に消え、誰の記憶にも残ることはない。


霧の魔法譚<終>

***

大変大変長い間が空きました。覚えている方いるでしょうか。いたら嬉しいです。
夏からの課題(!)、何とか無事終わらせることができました。終わりましたよテトモンさん!
本当はもっと短く、こう、フランクな感じで終わる予定だったのですが、書き込みを引き延ばしているうちにグダグダと内容まで長くなってしまい……。お話の展開まで暗くなってしまいました。クリスマスイブにお目汚し失礼します。
霧の魔法譚は以上で終了です。見てくださった方、反応していただいた方、そして長文を載せてくれたKGBさん、長らくお付き合いいただきありがとうございました!

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田中の日常 3

 「おい田中、」
 「うるさい黙ってろ」
 そう言うと田中はフェンリルと目を合わせる。と、今にもこちらに飛びかかってきそうなフェンリルは動きをぴたり、と止めた。
 「…………!!!」
 横で大賢者がオーバーなリアクションをとっているが気にしない。ゆっくりと足をあげると、田中はフェンリルの脳天目掛けて真っ直ぐにかかとを振り下ろした。パァン!という音が響くと、フェンリルは粉が舞い上がるように散った。
 「……で、何の話してたっけ?」
 そう言いながら田中がまた椅子に腰かけると、大賢者は静かに、いつの間にか淹れていたコーヒーを差し出してきた。一口飲む。普通だ。
 「……確かに君の『目を良くして欲しい』って願いは叶えたけどさ……」
 「お陰でサングラスなしじゃ昼間は外歩けないんだぜ、迷惑してらあ」
 「それにしてはそうそうに君のアイテムとしてあげたサングラスは割ってしまったけれどね。全く、私もとんでもない魔法使いを生んでしまったよ」
 大賢者が頭を横に振る。
 「コーヒーごちそうさん。またそのもう1人の20歳越えにも会わせてくれよ」
 「はいはい。とは言っても彼女は最近忙しそうだからね。先になると思うよ」
 「いつでもいいさ。俺は暇だからな」
 そう言うと田中は席を立った。店を出ようとドアに手をかけると、大賢者が声をかけた。
 「サングラス、忘れてるよ」
 「あぁ、ありがと」

 桐崎町は不思議な町だ。青白い化け物はうじゃうじゃいるし、それ以上にヘンテコな金髪の美人がいる。それでも田中は、平和に暮らしているのだった。

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田中の日常 2

 「で、何の用だよ。わざわざこんな場所拵えるんには、俺に何か用があったんだろ?」
 「ちゃんと生きてるかなって」
 「じゃあその確認も済んだな、帰る」
 「ちょっ、ちょっと待ちなよせっかちだな。話があるんだよ」
 「……。」
 仕方なく腰を下ろす。ほっとしたような顔をすると、大賢者は手元のコーヒーミルをガリガリやりだした。
 「そういえば君はもう23なんだってね。大きくなったもんだ」
 「昨日で24だ」
 「おっとそれは失敬、なんせ久々だからね、誕生日なんて忘れてしまうよ」
 「失礼なやつだ」
 「20を越えた魔法使いは今のところ君と、あと一人だけだ。それになんだい、わたしがあげたアイテムもさっさと壊してしまったくせに」
 「仕方ないだろ、うっかり踏んじまったんだよ。よくある事じゃないか」
 「君がアレを壊した、と言った時、わたしの方がよっぽど焦ったものだよ」
 「あの時の顔は傑作だったな」
 「うるさい、全く図に乗っちゃって。どうやって君が生きてこられたのか不思議でたまらないんだよ」
 「で、なんだ、今更それを聞きに来たってのか。なんでもないよ、俺はただ普通に生活してただけだ」
 「だからそれがおかしいんだって言ってるじゃないか!あれから7年だよ、7年!一体どうやって……」
 「待った」
 田中は手を上げて大賢者の剣幕を押しとどめた。[いつもの]匂いだ。田中は椅子から静かに立ち上がった。大賢者はカウンターの向こうで何も言わずにまっすぐ立っている。
 田中はドアの方を向いた、途端に窓ガラスをすり抜けて青白い狼のような化け物が店の中に飛び込んでくる。さながらフェンリルだ。

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田中の日常 1

 「田中ぁ、またなあ」
 「おー、元気でな、平田ぁ」
 駅前のロータリー、久々に会った友人と別れた田中は、ポケットに手を突っ込みながらいそいそと帰路に着いた。
 桐崎町は不思議な町だ。確か町のキャッチコピーは「1日に四季のある町、桐崎町」みたいなだったか。何となく聞こえはいいが、よく良く考えればそんな町誰も住みたがるわけが無い。だから住民はみんなこの町に住み慣れた人達ばかりだ。こんな変な町に住み慣れたら、逆に他の町に慣れないのだ。出ていくのは友人の平田くらいのものだ。なんでもバンドを組んでよろしくやっているらしい。この間テレビにも出たらしいが田中の家にはテレビがなかった。
 「……ん?」
 いつも駅から帰る同じ道だが、行きつけのコンビニの斜向かいに見慣れない建物があった。
 「喫茶パ〜プル」
 看板にはそう書いてあった。こんな所にカフェが、いつの間に?あからさまに胡散臭すぎる。そう思いはしたが、田中は試しに入ってみることにした。
 ドアを開けると、小気味良いベルの音と共にコーヒーのいい匂いが漂ってきた。サングラスを外してドア近くのカウンター席に座る。店内には誰もいない、と思ったらカウンターの奥から店員らしき人が……。
 「……あ。」
 忘れもしない、その顔だ。長い金髪にいつもの青いエプロン。
 「やあ、田中。久しぶりだね」
 「なんだお前かよ。通りで胡散臭い外観だと思った」
 「なんだとはご挨拶だね。こんな美人が君との旧交を温めようと言うんだ、素直に喜び給えよ」
 「なんだよその話し方、ますます胡散臭いぞ。しばらく会わないからもう死んじまったのかと思ってたぜ」
 「ひどいなあ、勝手に殺さないでくれよ」
 大賢者。初めて会った時こいつはそう名乗った。大賢者なんて言うと白ひげのローブに三角帽子、なんてのを思い浮かべるかもしれないがこいつはどう見てもそんな大賢者には見えなかった。グラビア雑誌ぐらいでしか見かけないような外国人女性みたいな風貌(しかしどの国かと言われるとさっぱり分からないのだ)で、それでいて母国語のように日本語を話す。名前も年齢も分からない。つまりとにかく胡散臭い。

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魔法譚 〜因果応報 Ⅰ

ーひゅん、ひゅぅん、と何かが風を切る音が聞こえる。
音のする方角では、昔風の軍服を着た少年が、鞭を振りまわしながら奇怪な生物に立ち向かっていた。
「…っ」
伸び縮みする鞭で、ライオンの胴体に観葉植物のような頭のついたバケモノに少年は攻撃を加えていたが、怪物の側頭部から伸びた蔓のようなものに弾き飛ばされてしまった。
だが、少年は地面に打ち付けられた衝撃をものともせずに起き上がると、手の中の鞭をオルゴールに変身させ、そのゼンマイを巻き始めた。
「={${*}”{>;‘,$\>\<;’;!」
無防備になった少年に向かって、バケモノは悠々と唸り声をあげながら近づいてくる。
しかし、あと数メートルのところで、バケモノは足元から崩れ落ちた。
「$;“\<\<⁈」
バケモノが己の身体をよく見ると、全身のあちこちにミミズ腫れやアザのような傷ができている。
何が起きたのか分からないバケモノは、必死になって立ち上がろうとするが、痛みに耐えきれないのかすぐに動けなくなった。
少年は音の鳴らないオルゴールを片手に、静かに化け物に近づいていった。
「”これ”が、さっき君が僕に与えた痛みなんだよ?」
少年は笑みを浮かべながら、オルゴールを鞭に変化させた。
そして無言で鞭を思い切りバケモノに振るった。