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Trans Far-East Travelogue㉛

「下を見ると古い建物が多いね」という嫁の呟きに「京浜急行は神奈川まで、五街道の一つである旧東海道に沿ってるからね。そりゃ古い建物の一つや二つくらいはあるだろうよ」と返すと「神奈川って県じゃないの?」と訊いてきたので「幕末期の開港の話、覚えてる?」と訊き返すと「元々神奈川開港だったけど横浜になったんでしょ?」と返ってきた
「そこがミソなんだよ。神奈川は日本の大動脈、東海道の宿場町だから人が多くて京から江戸に向かう攘夷派や江戸から京に向かう攘夷派の人が多かった。そんな中に外国人居留地を設けたら紛争が起きてで国際問題になりかねない。だから、少し離れた田舎の横浜村を整備して開港場にしたのさ。でも、そんな事情を知らない他国は『神奈川開港の約束なのに横浜開港は話が違うだろ』と主張して怒った」と説明すると、「日本側は『横浜も神奈川の一部』って主張したよね?」と嫁が言うので補足して「その通りさ。でも、独立している村の名前をそれぞれ挙げて一方は開港場で、もう一方はその一部と呼ぶのは無理があったから、廃藩置県の時に神奈川県を作って『横浜は神奈川県の一部、つまり神奈川の一部だろ?』と主張して認めさせたという経緯があるのさ。そうした背景のもとで神奈川県に横浜市があるんだけど、後に鉄道を敷設した時に東海道線は神奈川の宿場の近くを通過するが駅がないから止まらないのに、駅がある横浜は貿易で栄えたものだから発展した横浜市が勢力を失った元々の神奈川を吸収合併した。そして、その名残は東神奈川とか京急の神奈川駅くらいにしか残ってないんだよ」と言うと嫁は納得したようで、「幕末の話って、私達の原点だね」と言って笑ってるので「その当時の名残を残す地域を走る鉄道で俺の原点とも、青春の集大成とも言える場所の1つに行くからね」と言って俺も笑う間に蒲田のホームに滑り込んだ
かつては帝都と呼ばれ、現在も愛する故郷、東京を防衛する為に置かれた海軍や海上自衛隊の施設の拠点であり、俺が10代になってからは俺には歴史を通じて様々な知識や教訓を与えてくれた大切な街、横須賀にはあと1時間程で着くだろう

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Trans Far-East Travelogue㉚

午前8時5分、予定通り品川に到着した
腕時計を見て「あと5分か…切符急いで買えば間に合うな」と呟くと「任せといて」と言って嫁が京急線改札口へ先に向かうのを見て少し呆れながらも遅れてついて行くと「ご所望の切符、私の奢りね」と言ってお目当ての切符を買っていてくれた
「2100か…先頭はキツイかなぁ」と呟くと「2100形ってどうして分かるの?」と嫁が訊くので「アナウンスで2つドアの当駅始発って言ってるだろ?京急って地下鉄やその先の京成にも乗り入れているけど、2100形は車両が直通に対応してない関係から、下り電車は隣の泉岳寺か品川始発の2択さ」と説明すると、お目当ての快特京急久里浜行きが入線してきた
「青いけど、アレも2100形なの?」と嫁が訊くので「男の子の夢と希望を詰め込んだ青い車両のブルースカイトレイン、通称ブルスカだね。横の窓の形からして、2100で間違いないよ」と少し興奮気味に返すと「貴方ってやっぱり電車好きなんだね」と言って嫁は笑ってる
「夢みたいだな…大好きな人と結ばれて、思い出と子供の頃からの夢が溢れる大好きな車両に乗ってまた思い出の1ページが上書きされるんだから」と呟き、乗り込むと数少ない運転席後ろのボックス席が2人分、それも右側だけが空いてるので2人でそこに座るともう興奮して心臓がバクバク鳴って前面展望どころでは無い
ふと我に返ると、もう気付いたらお気に入りの場所、八ツ山橋を過ぎていた
「よく分からない車両いたから撮ってみたよ」と言う嫁が差し出す写真を見て思わず「嘘だろ」と呟く
新幹線側には滅多にお目にかかれない観測車であり、レア車両として有名なドクターイエロー、そしてなんと在来線側には滅多にお目にかかれない上、お召し列車として利用されたことでお馴染みのE-655系の「和(なごみ)」の並走だったのだ思わず、「子供時代の俺が見てたら卒倒しそうだな」と呟くと嫁が「なんで?」と訊いてきた
「まず、こんなに可愛い嫁さんと一緒でしょ?それから、今乗ってるブルスカ含めて子供の頃から憧れてた車両のオールスターだからね。子供の頃には考えられない、夢のようなシチュエーションさ」と笑って返すと「私にとっても夢みたい」と言って嫁もうっとりしてる
もう間も無く、鮫洲を通過するようだ

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Trans Far-East Travelogue㉙

場所によっては鉄道大国である日本の心臓部、関東と言えど電車の本数が少ない関係で、明日の目的地を早く決めないと困るので嫁に訊いたら、「貴方の思い出の場所が良い」と言うので、電車のダイヤと相談して神奈川県方面へ行くことにしたが、時刻表を見て思わず「勘弁してくれよ」と叫んでしまう
ターミナル駅が身近な場所にある俺にとって、鉄道の利便性はどうしても目的地までの速達性とイコールになるので、ダイヤ改正で優等種別が途中駅にもガンガン止まるようになった小田急や東急線、JRは不便極まりないため湘南方面は論外だ
しかし、京急も日中最速達の「グリラピ」こと快特が思いっきり減便されている上に快特のほとんどが途中の久里浜止まりで、しかも久里浜での乗り継ぎも不便になっていて、終点までは特急ばかりであることに頭を抱えていると、路線図を見ていた嫁が「横須賀中央で降りて三笠見て、特急までの時間稼ぎすれば?」と提案してくれた
最悪、横須賀中央から各駅停車に乗る羽目になっても少し先にある堀之内という駅で乗り換えれば、特急で三崎口を目指せることは時刻表も過去の経験も示しているため嫁の提案を承諾し、お得な切符の使用を前提としてプランを練るが、ここで思わぬ障壁が立ちはだかる
特典付きか否かを問わず、切符がどれも以前よりも値上げしているのだから無理もない
思わずため息混じりに「俺の財布も京急か」と呟くと、嫁が「京急電車のメインカラーは赤、ナンバリングのイニシャルはKK…金欠(Kin Ketsu)のKKで赤字…つまり、財布も京急だとお金が無いってこと?」と訊くので「バレちゃったか…東京モンは金持ちだと思われてるから見栄張ろうとしてたんだけどなぁ…バレたモンは仕方ないか」と笑って返す
すると、嫁が「マレーから殆ど貴方の奢りだったよね…そりゃ金欠にもなるよ」と言って笑ってるので「君の前ではカッコいい男でいたいからな」と笑って返し、気付いた時には日付も変わってたので起床事故を起こさないようにする為にも消灯する
「ライアンの隣にはつば九郎」と言って嫁がいきなり俺の布団に入って来たのでお互いに抱き合うように寝るとなぜか予想以上にグッスリ眠れて予定通りに起きられた
さぁ行こう、俺の青春の集大成とも言える場所へ!

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境界線 Ⅱ

 何故、生徒のいない三階を通ってはいけないのか。

 気になったので確かめることにした。
十中八九規則を遵守させるためだとは思うが、注意され行動を規制されたことに対する反抗心もあって、確認というよりもそういった目的の方が大きかった。

 時刻にして五時四十五分を回ったところ。四階から西階段を下りて、図書館前まで来た。
 怖くはなかった。強がりではない。本当に怖くなかった。それどころか楽しくなってきた。薄暗い廊下。橙色に輝く斜陽。通ってはいけない場所を通る背徳感。その中で廊下を一階分、ただ突っ切るだけだ。微少の高揚感以外に特筆すべき感情はなかった。
 歩いている途中、やることもないので惰性で教室内を覗く。
 案の定人はいない。教卓と幾つかの机と椅子が端に寄せられている空き教室と、特別支援学級の教室がおおよそ交互に並ぶ。特別支援学級の教室も普通学級より少し賑やかな印象があり、机が五つ程度であること以外に目立った差はなかった。
 各教室には空き教室以外はクラス名が書かれた札が掛かっている。特支1、空き、特支2,空き、ランチルーム、特支3,空き、特支4、特支5……順々に見送り、遂にあと空き教室一つを過ぎれば東階段というところまで歩いてきた。これはかつて特支六組だったところだ。
 特に面白いこともなかったかと思いながら、最後の空き教室の中を覗く。
 他の空き教室と同じく殺風景なものだったが、少し違う点があった。
 黒板の左端の方。黒い影がそこにあった。
 よくよく目を凝らしてみると、それが何なのかが分かった。