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LOST MEMORIES CⅤⅩⅥ

「おはよ!」
ぽんと肩を叩かれる。
朝のやりとりを回想していたことと、今までされたことがないということ、さらに後ろからというのは意外と心臓に悪いもので、驚いて振り返ってしまう。すると、叩いた本人が一番驚いた顔をしていた。
「ち、ちょっと!驚きすぎだよー!」
「い、伊藤さん……!?」
肩につかないほどの茶色がかった髪を揺らし、目を丸くしている歌名。
「びっくり、しました。おはようございます。」
ばくばくしている心臓を落ち着かせるように、努めて落ち着いた声を出す。
「ごめんね、前歩いてるの見かけたからさ。
一緒に行こ。」
にっこりという言葉が合う、お手本通りの眩しい笑顔を向けられた瑛瑠は、不意を突かれて言葉が喉を通り抜けなかった。
歌名とふたりきりで話すのは初めてだ。ごめんねとは言うものの、反省する気は無いらしく、からっと笑いかけられる。その笑顔は、もしかしたら初めて見るといっても過言ではないような、そんな笑顔だった。
「風邪って聞いたよ。大丈夫?」
チャールズか、英人か。情報源は鏑木先生だろうか。
とりあえず、風邪ということになっているらしいことは把握できた。
「大丈夫です。ありがとうございます。」
歌名は一瞬、少し哀しそうな顔をした。
「授業のノート、いつでも貸すからね!」
瑛瑠が見逃すはずもなければ、見間違いのはずもない。
しかし、思い当たる節もなければ、言及しようとも思わなかった。
歌名が、また笑顔に戻ったから。
けれど、この顔は見たことがある。所謂、作り笑いってやつだ。
「瑛瑠ちゃん。」
声が固い。
「……どうしましたか?」
思わず身構えてしまうのは許してほしいと思う。
「あの、さ――」

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