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カカユキヤカハ食べたことありますか

 花火が鳴った。祭りが始まったのだ。僕は一日ベッドで本を読んでいたかったが、妹にカカユキヤカハをせがまれていたから、しぶしぶ着替えて、会場の公園に向かった。
 ゆあを中心とした派手なグループが、ステージの前でわいわいやっていた。ゆあの二つ上の彼氏のバンドが、演奏するのを見に来たのだ。ゆあがカカユキヤカハを買っている僕を見つけて、近づいて来た。
「ひと口ちょうだい」
 ゆあが言った。僕はそういった不衛生なことは嫌だったのだが、ゆあは勝手に袋を開け、手を突っ込み、カカユキヤカハをちぎった。暑さで少しとけかかったカカユキヤカハのかけらが、口の中に消えた。ゆあはマニキュアを塗った指を舐めると、グループに戻った。バンドの演奏が始まった。僕はステージに背を向け、帰路についた。
 リビングで人形遊びをしていた妹にカカユキヤカハの袋を渡すと、妹はすぐに袋を開けた形跡があるのに気づき、「お兄ちゃん、つまみ食いしたでしょう」と、からかうように言った。
「うるさい。買って来てやったんだから文句言うな!」
 つい怒鳴ってしまった。すると妹はびくっとしてしばらくフリーズしてから、「お兄ちゃんのばかぁっ!」と言って隣の部屋に行ってしまった。
 僕は、あははと笑った。認知的不協和を払しょくさせるための笑いだ。
 本を閉じて、天井を見上げた。僕に妹はいない。カカユキヤカハなんて菓子も存在しない。

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