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“みんな”

 “みんな”とは、【みんな】ではない。

 学校行事が終わった後、クラスで中心者をしていた子は言った。
「支えてくれたクラスのみんなのおかげです。ありがとうございました。」
その子が言う“みんな”に、私はいつも違和感を感じていた。
私はその子と仲がいい訳ではなかったし、なんならほとんど会話をしたことがなかった。会話をほとんどしてもいないのに、“支えた”というのは、可笑しい話じゃないか。

 そう。たぶん、私は入っていなかった。

 数年後、私は部活で中心者となり、“みんな”という言葉を使っていた。そして気がついた。
 “みんな”と言いながら、私が頭の中に思い浮かべたのは、いつも接しているほんの数人だけだった。

 “みんな”とは、【みんな】ではない。

 全員を包括しているように見えて、そこには見えない壁が存在している。その壁は透明で、その存在に気づかなければ“みんな”という言葉を素直に喜べる。もちろん、気づかない人を馬鹿にしているつもりはない。ただ、その事実に気づいてほんの少し傷ついた私がここにいる。

 私はこれからあと何回、素直に受け取れる“みんな”に出会えるのだろうか。

  • 活動弁士の彩色(さいしき)
  • エッセイ
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