7

僕たちの永遠は「ら」から始まる

窓から射し込む強光が閉じた瞼に痛くて、僕は思わず目を覚ました。覚束ない視界で辺りを見やれば、シーツに無数の錠剤。胸に冷たい温もり。サイドテーブルのデジタル時計は午後十一時五十三分を指している。

日付が変わるまで、・・・超ド級の隕石と地球がハグを果たすまで、あと七分。今日の終わりはこの世の終わりだ。世界はこのまま明日を迎えることなく、海と空と骸のミックスジュースと化す。

マジでか。もはや他人事のように呟く他ない。いがつく喉からこぼれた声はカスカスで、・・・笑い上戸の君に聞かれなくて良かった。僕は両腕で大事に閉じ込めていた彼女の身体を抱き直す。氷のようだ。だってこの娘はもう息をしていない。

一緒に、一緒に死ぬつもりだったのに。



一足先に、神様をボコボコにしに行こう。言い出しっぺは、どっちだったっけ。要は僕も彼女も、通り魔(いんせき)なんぞに恋人を殺されるのは真っ平だったのだ。

シートから錠剤を押し出しては口に含み、口に含んではキスを交わした。痺れる指と震える唇はやがて、真珠玉のようなそれを取りこぼしていく。吐息に色をつけただけのような声で、彼女は笑った。「泡になった人魚姫みたい」。―――そんなの、今の君の方がずっと。なんだか胸をじんと痛ませながら僕も笑って、重い瞼を閉じる。

きっと世界で一番の恋をしていた。

さよなら、



男の身体には薬の量が足りなかったのだろうか。回りきらない頭で考えながら、すぐそこまで迫り来た轟音から逃げるように身を縮めた。吐いた溜め息は程なくして嗚咽に変わる。一人で最期を迎えるのがこんなにも怖くなるくらい、君のことが好きだった。

君のことが好きだった。

握ると柔らかい掌が好きだった。いつもいい匂いの髪が好きだった。ボリュームに欠ける胸だって好きだった。・・・君をお嫁さんにもお母さんにもしてあげられなかったけれど、それでも。それでも僕は。だから。

だからそっちで再会のキスが終わったら、いつか渡そうと仕舞いっぱなしだった指輪を差し出そう。そうしたら僕を「遅いよ」って叱ってくれるかい。どっちのことを怒られているのかわからないような顔をして、笑ってみせるから。

世界で一番の恋をしていた。
世界で一番の恋をしている。君に。君だけに。

ありがとう。

さよな

レスを書き込む

この書き込みにレスをつけるにはログインが必要です。

  • 何度読んでも泣けるなぁ…

    心中ってことばはどうしても好きになれないけど、殺しあうほどに愛し合うことは美しいと感じてしまいます。

  • シャア専用ボールさん、レスをありがとう。「しんじゅう」を「心の中」と書くの、なんだか哀しくて、不謹慎だけど綺麗だ。愛を突き詰めたものが死だったりするのかなぁ。

  • ほんとにすごく綺麗な文章だと思いました。
    真珠の爪先さんのある意味人間らしい美しさを含んだショートショートだと思いました

  • ウクレレを履いた猫さん、レスをありがとう。書いたものを褒めてもらえるのは、やっぱり嬉しいです。もしもすべてが終わるとき、恋と後悔に浸りきれる生き物ってきっと人間だけだね。

  • 綺麗だけど読みごたえのある文章…。
    とっても素敵です。
    陳腐な感想ですみません…。
    言葉に起こすのは難しいですね。
    不謹慎だけど、
    これもある意味でハッピーエンドなのかも。

    今後も作品お待ちしております。

  • 素敵な文章ですね…!
    とても、とても憧れます!語彙力がなくてこの感動を表す言葉が見つかりません、すみません(笑)
    最後の行の破壊力が…涙が出てきました

  • ブルーアップルパイさん、レスをありがとう。陳腐だなんてとんでもない。綺麗なのは私の文じゃなく、私の文を綺麗だと言ってくださる方の心だと思うのです。
    崩壊寸前の世界に置いてけぼりになったのが「君」じゃなかっただけ、「僕」は幸せだったのかもね。

    ***

    いちごたると。さん、レスをありがとう。まっすぐな言葉でご感想を伝えてくださる貴女の方がずっと素敵です。
    言いきれなかったのが「さよなら」の方で良かった、と、他人事のようですが爪先は思います。

    ***

    なんだか美味しそうなラジオネームのお二人でした。笑