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書評のコーナー (13)

太陽の塔/森見登美彦 (2003)

【概要・あらすじ】
京都大学休学中の「私」は、かつての恋人・水尾さんと別れた後は、自分自身と数少ない友人以外の世間のすべてに反発を抱き、鬱屈した人生をおくる。そしてなお彼はそれが正しいと思っているのだ。
そんな中、彼らにとって最も忌むべき日、クリスマスイブが訪れる。彼は、友人の提案に乗り、「四条河原町ええじゃないか騒動」を決行する。

【感想・評価】
最初にこれを手に取ったきっかけは、個人的に尊敬している芸術家・岡本太郎の代表作がタイトルに使われていることだった。そのため、この段階では、内容については、全く予備知識はない。森見作品を読むのも初めてだ。
その状態で中身を読むと、ただただ予想外だった。
一見単なる失恋した男の、僻みを交えた独白に過ぎないのだが、「私」の周りの友人たちや、敵対者(その多くが「私」の一方的な敵愾心であるが)の複雑な交錯が、人間関係の展開の面白さを作り上げており、気がつくと自分で続きを求めているのがわかった。
もちろん、タイトルとなっている大阪の「太陽の塔」も、作中で一つの大きな役割を果たしている。
結局のところ、内容自体はそれほど深い含蓄があるわけではないのだろうが、それがやたらと豊富な語彙によって語られるため、作品の奇妙さは非常に際立ったものになっている。
ただし、そのあまりにシュールな世界観は、万人受けするものではないかもしれない。

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  • ありがとうございます。
    森見登美彦は好きですが、
    読んだことがない本でした。
    確かにシュールな世界観や文体
    だけれども、個人的にとても好きです。
    おそらく、というか十中八九、
    途中で奇妙な事が起こるのでしょうが、
    それもまた楽しんで読んでいます。
    その奇妙な出来事に、確かに含蓄は
    ありませんが、ただただ面白いです。
    もしよければ、同じく森見登美彦の
    「夜は短かし歩けよ乙女」
    これもまた、中身は無いので気に入らないかもしれませんが、良かったら
    読んでいただきたいです。
    個人的には一番好きな小説です。
    改めていつも書評ありがとうございます。