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電波塔

きっと行事特有のテンションだったから
君の番号をコールできていたんだろうね

合図のように ワンコールで一度切って
繋ぎ直せば ほら すぐに君は応じるの

仲が良すぎるとよく言われたものだけど
彼らが言うより 仲が良いわけじゃない

そう思っていたのに何よりも嬉しかった
君が名前を読んでくれたことが何よりも

毎夜君を呼び続けて 私を呼んでくれて
行きすぎた浮遊感だったのかなと思った

何よりも楽しかったのかも知れなくてさ
もう全ては終わってしまったはずなのに

未だに君のコールを待ち続けているのは
本当に愚かしいと涙目になるのだけれど

私が君を呼ぶ勇気はとても無いから今は
君に呼んでもらえる日を待ち続けている

もし君がまた名前を呼んでくれるのなら
二人で電波塔の下まで出掛けてみようよ

それなら それなら私は信じられるから
救世主の君の首筋をなぞって その後に

君の頸動脈をそっと千切ってあげるから
私は左手首の傷痕を残らず破ってあげる

電波塔の下 幸せだった声だけの通信を
思い出しながら星の降る夜に死ぬことを

孤独の海で 想像してはいけませんか?
眠たげな声で名前を呼んでくれることを

願いながら 待ちながら 両目を閉じた
バイブレーションに設定して携帯を放る

二度と無い君のコールを逃さないように
電波の上で 君と話したいことを考えて

そうして やっぱり脈を数えて微睡んで
鈍い白銀のカッターの刃を三回鳴らした