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電波塔

きっと行事特有のテンションだったから
君の番号をコールできていたんだろうね

合図のように ワンコールで一度切って
繋ぎ直せば ほら すぐに君は応じるの

仲が良すぎるとよく言われたものだけど
彼らが言うより 仲が良いわけじゃない

そう思っていたのに何よりも嬉しかった
君が名前を読んでくれたことが何よりも

毎夜君を呼び続けて 私を呼んでくれて
行きすぎた浮遊感だったのかなと思った

何よりも楽しかったのかも知れなくてさ
もう全ては終わってしまったはずなのに

未だに君のコールを待ち続けているのは
本当に愚かしいと涙目になるのだけれど

私が君を呼ぶ勇気はとても無いから今は
君に呼んでもらえる日を待ち続けている

もし君がまた名前を呼んでくれるのなら
二人で電波塔の下まで出掛けてみようよ

それなら それなら私は信じられるから
救世主の君の首筋をなぞって その後に

君の頸動脈をそっと千切ってあげるから
私は左手首の傷痕を残らず破ってあげる

電波塔の下 幸せだった声だけの通信を
思い出しながら星の降る夜に死ぬことを

孤独の海で 想像してはいけませんか?
眠たげな声で名前を呼んでくれることを

願いながら 待ちながら 両目を閉じた
バイブレーションに設定して携帯を放る

二度と無い君のコールを逃さないように
電波の上で 君と話したいことを考えて

そうして やっぱり脈を数えて微睡んで
鈍い白銀のカッターの刃を三回鳴らした

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七月時雨 #11  ―最終話―

ヴァレットが返した拒絶に、ユーリは耐えることができませんでした
フラッシュバックの、逆サイドの再現に

そして、ユーリは、結論を出しました
帯に挟んでいた破魔の短剣を抜き、一閃したのでした
銀色の鋭い光が空を斬って、空を斬って―

ヴァレットを、斬り裂きました

それは、姿を消してしまったヴァレットとは違った形の結論でした
しかし、ヴァレットを斬ったはずの手に、一切手応えはなかったのです
気づけば、彼の姿は霧散したかのように、そこにはありませんでした
「幻影……?洗礼……?」



ユーリは、洋館を見上げていました
どしゃ降りの雨に打たれながら
洋館の扉は、軋みながら、ひとりでに閉まっていきました
まるでユーリがヴァレットを拒絶したのと同じように、ユーリを内部から拒絶するかのようでした
悪友達はユーリがなかなか戻らないうちに雨に降られて帰ったようです
ただ、握りしめた白銀の刃から、ぽたぽたと、雨露が滴っていました
いつまでも いつまでも



その夜、町は突然の雷雨に襲われました
一晩中雷鳴は轟いて、町から静寂を奪っていました
洋館が真っ黒な雲の下、悪魔の棲む館と思われるような不気味さで、麓を威圧していました

次の朝、雷雨が嘘のように晴れわたる空の下、洋館は跡形も無く消えていたのでした
雷に打たれて、木っ端微塵になってしまったのだと、人々は思いました
ひとりの、少年を除いて
ひとりの、自分を受け入れない世界を拒絶した、少年を除いて
少年は、“洋館”が自らを、世界を拒んだのだと……これがその成れの果てだと考えました
つまりは……。


そして、
曇ひとつない、青空の下で
少年は、全てを負って生きていくのでした


これが、ある夏の、拒絶の物語の全て