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鉄路の魔女:Nameless Phantom その①

今日は朝から気分が良かった。こんなに意識がはっきりしているのはひと月ぶりくらいだろうか。せっかく機嫌が良かったから、私の進むべき道をのんびり散歩していただけだというのに。
「アオイ、そっち行った!」
「了解! 食ら……えっ!」
いつか何かの広告で見た海のように青いドレス姿の“鉄路の魔女”アオイちゃんが突き出してきたランスを、大きく身を屈めて回避する。回避のために咄嗟に足を止めたせいで、もう片方の“鉄路の魔女”ミドリちゃんも追いついて来て、メイスを叩きつけてくる。機械腕でそれを防ぎ、大きく跳躍して二人から距離を取る。
「もう……なんだってこんな……仲間じゃァないかァ……」
「仲間だって⁉」
「お前なんかと一緒にするなよ、“幻影”!」
2人は私に対して、随分と敵意を剥き出しにしている。たしかに人間とほとんど姿の変わらない2人と違って私の下半身は馬のそれだけれども。ケンタウロス差別だろうか。
「何言ってるのか分からないけどさァ……もっと平和にいこうよ、ね?」
2人を落ち着かせようと話しかけながら、ついでに近くを通りかかった人間の頭に腕を突っ込んで、「イマジネーション」を少しばかりいただく。瞬間、2人が目を見開いてこっちに突っ込んできた。
「おまっ、お前ぇっ!」
「今人間を……! 許さない!」
2人は何を怒っているんだろうか。人間なんて、生きていれば嫌でもものを考えるんだから、少しくらいもらったって支障は無いだろうに。
アオイちゃんのランスを片手で受け止め、ミドリちゃんの振り下ろすメイスは払うように受け流し、2人を前脚で蹴り飛ばす。

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化け蜘蛛の友達

三笠雪菜(ミカサ・ユナ)
年齢:15歳  性別:女  身長:149㎝
願い:〈友斬〉と一緒にいたい
マジックアイテム:《蜘蛛切》
衣装:黒地に女郎蜘蛛と蜘蛛の巣の刺繡模様が入った和装
魔法:化け蜘蛛の力を部分的に引き出す
不幸にも〈友斬〉に絡まれ、その上で見事に勝利してしまったため、魔法使いになった少女。大賢者と無関係の魔法使いは多分激レア。
死闘の中で〈友斬〉との奇妙な絆を覚えてしまい、完全に精神がおかしくなってしまった(普段は正常な人間っぽく振舞えてはいる)。殺し合ったまでは記憶があるものの、自分が〈友斬〉を殺してしまったことは完全に忘れており、暇なときは変身して唯一最高の親友〈友斬〉を探して彷徨い歩き、目についた魔法使いとファントムには取り敢えず斬りかかっている。そのせいで大賢者と一度バチりかけたけど彼女は今日も元気に蜘蛛狂いやっています。
魔法の性質は雑に言うと「蜘蛛のように壁や天井を歩き回れるようになり、敏捷性が上がり、感覚能力も上がる」というもの。ちなみに《蜘蛛切》(雪菜自身は頑なに《友切》と呼び続けている)にはデフォルトで「刃が当たっただけで斬撃が発生する」という魔法効果がかかっていたりする。
変身中は何故かうっすらと〈友斬〉との繋がりを感じられるので、変身状態は好き。

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魔法使いの友達

〈友斬〉(トモキリ)
巨大な蜘蛛の姿をしたファントム。素質があると思われる人間の前に現れ、どこからか刀を一振り目の前に投げ、それを用いて自分と戦うように告げる。相手が死んだら仕方ないので食べて証拠隠滅する。
戦闘時には相手が魔法使いでなくとも見えるようになってくれる上、周囲のあらゆる生物や魔法使い、ファントムから認識できなくなる。
人間どもに喧嘩を売る理由はただ一つ、「己にとって最高の友人を見付け、その友人に殺されるため」。強さに絶対的な自信を持っており、自分を殺すことができるとしたらそれは自分が認めた友人であり、用いる道具は自身の所持している刀《友切》であると考えている。実際滅茶苦茶硬くて結構速くて糸も毒も吐くからかなり強い。
〈友斬〉を殺した《友切》は《蜘蛛切》と銘を変え、魔法使いに変身するためのマジックアイテムとなる。ちなみに《蜘蛛切》は普段、邪魔なので組紐飾りに変化して手首や足首や首に巻き付いている。
最高の友人と出会い、無事殺されることができたものの、友人の「願い」に反応して彼女に吸収される形で一命を取り留めることとなった。まあ出てくることなんて無いので実質死んでるようなものなんだが。

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鉄路の魔女:夢破れてなんちゃら その④

鈴蘭が幻影を引きずっていった先は、専用道路近くを流れる川が海に出る河口付近だった。
幻影を掴んだまま水中に踏み入り、足のつかないほどの深さまで進んでからは触腕の一部を川底に付けながら移動する。
「このまま……広い所に出ようねぇ…………君はおっきいから、喧嘩するならこんな風に誰の邪魔にもならないところでやらなくちゃ。ね?」
海水域まで進出し、ようやく幻影を解放すると、その巨大な水まんじゅうはクラゲのように身体を伸縮させながら水面に浮き上がった。
「よしよし。じゃあこれで……」
左手の中にグレネードランチャーを生成する。射撃しようとしたところで、幻影が突然接近してきて、銃口に吸い付いた。
「ありゃっ。離れろぉーぅ」
幻影化した右腕で押し退けようとするが、幻影の身体は銃と鈴蘭の身体に柔らかく貼り付いていき、彼女の身体を完全に取り込んだ。
「ぐぁぁ……ええい、面倒だ」
引き金を引く。銃口を塞がれていた擲弾銃は暴発し、装填された炸裂弾どうしが誘爆し、大規模な爆発が幻影を引き剥がした。
「うぅ、痛い…………」
破損した銃の破片が処々に突き刺さった顔を拭い、幻影に向き直る。幻影はその体組織の4割程度を吹き飛ばされ、黒々とした核が露出している。
「…………どう? 参った?」
鈴蘭が尋ねると、幻影は核から原油のような黒い液体を垂れ流しながらぶるぶると震えた。
「そっか。それじゃあ、今日はもう帰ろうね? 他の人たちに迷惑かけちゃ駄目だよ? 暴れたくなったら、私が遊んであげるから。今度はちゃんと人のいない場所で会おうね」
幻影は静かに水面を泳いで川を上っていく。それを見送ってから、鈴蘭も地上に向けて触腕を動かし始めた。

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鉄路の魔女:夢破れてなんちゃら その③

「あっ」
体表に僅かに残っていた機械装甲も地面に落ち、黒色の醜い全体像が露わになる。
肩から4本に枝分かれした中央の腕は人骨のそれのような構造、その周囲を囲むように昆虫の肢のようなもの、皮膜の無い蝙蝠の前足のようなもの、更に枝分かれする頭足類の触腕のようなものが生えている。
「うぅんこれは……良くない。人に見られたら怖がられちゃうな。さっさと終わらせなくちゃ」
再び突進してくる幻影を、蝙蝠型の腕で受け止める。先端の4本の鉤爪が幻影自身の勢いもあって深々と突き刺さり、幻影は痛みに苦しむように大きく身体を反らせ震えた。
「そいっ」
射撃を合わせ、爆発で更に態勢を崩し、ひっくり返す。
「……ほらほら、駄目だよ、君。『公共の場』で暴れるのはいけないことなんだから」
鈴蘭の言葉に、幻影は水まんじゅうのような身体を小刻みに震わせる。
「だから駄目なんだって。こら、だーめ。そんなに暴れたいなら、まずは人のいない所に行かなくちゃなんだよ」
グレネードランチャーの銃口で幻影をつつきながら、鈴蘭が説教を続けていると、彼女らのいる場所をバスが通過していった。
「………………ほら。ここはバスが通るんだから、びっくりされちゃうよ」
触腕を絡め、昆虫腕と蝙蝠腕を突き刺し、骨腕で表面を掴んで幻影を引きずり歩き始める。
「まずはここからいなくなろうね。マナーってものがあるんだから」

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鉄路の魔女:夢破れてなんちゃら その②

“鉄路の魔女”は基本的に、子どもにしか感知できない。鈴蘭が腕を失う原因にもなった大災害の頃、少年期にあった人間でも、十数年を超えた現在、社会人になった者も少なくない。ただ不老不死の魔女である鈴蘭には、時間経過による変化が理解しきれず、かつて交流し共に遊んだその人間が自分を無視している理由が理解できなかった。
専用道路の上をぽてぽてと歩き、2駅分ほど歩き続けたところでふと足を止める。
「………………や」
目の前の黒い影に、右手を挙げながら声を掛ける。人間の赤子の頭部程度の大きさだったそれは、鈴蘭の声に反応して全高数mほどにまで膨れ上がった。
「駄目だよ。こんな風に道を塞いじゃ。迷惑になるんだよ」
幻影は首を傾げるように変形し、目の前の魔女に突進を仕掛けた。
鈴蘭は右手だけでそれを受け取める。幻影の質量と速度が生み出すエネルギーは破壊力として機械腕を軋ませ、装甲の随所からは損傷によって火花が飛び散る。
「む…………」
空いた左手を大きく後ろに引き、軽く握った形に固定する。その手の中に、六連装グレネードランチャーが生成される。
「そー……りゃっ」
射撃では無く、銃器そのものの質量を利用し、幻影を殴りつける。
幻影を引き剥がし、煙の上がる右手を開閉する。
「まだ……動くかな。よし」
その手を強く握りしめ、それと同時に機械腕が爆発し、装甲が弾け飛んだ。

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鉄路の魔女:夢破れてなんちゃら その①

電信柱の上で蹲るように眠っていた鈴蘭は、朝の眩しさに目を覚ました。
凝り固まった手足を解すために大きく伸ばし、そのままバランスを崩し地面に落下する。
「ぶげっ…………いたい……」
強かに打ち付けた後頭部をさすりながら立ち上がり、鈴蘭は歩き出した。ガードレールをひょいと跳び越え、未だ始発も動かない早朝のBRT専用道路の上を進む。
目的地は、とある踏切跡。最近は毎朝通う、ある種『お気に入り』となったそのスポット。その遮断機の上に腰を下ろし、右手首を見る。
普段はポンチョ風の衣装の下に隠れている機械の右腕。その装甲の下は、部分的な廃線によって不完全に幻影化している。BRTへの移行が無ければ、影響はこの程度では済まなかっただろう。
そう考えながら右腕をしばらく眺め、鈴蘭は再びその腕を衣装の下にしまった。これまで生きてきて、人間を観察して得た知識によると、彼らは時間を知りたい時に手首を見るらしい。それが『腕時計』という外部装置を必要とするところまでは気付けないまま、小首を傾げてただ時が過ぎるのを待つ。
数十分後、始発バスが真横を通り過ぎた。
「や」
短く呼びかけつつ右手を挙げる。当然答えが返ってくるはずは無く、鈴蘭は周囲を眺め始めた。
時間の経過とともに、少しずつ、本当に少しずつではあるが、人通りも増えてくる。
そして、1つの軽いエンジン音が近付いて来るのに気付き、鈴蘭は表情を輝かせてそちらに目を向けた。
そちらからは1台の原動機付自転車が近付いて来て、1度減速してから踏切跡を通過する。
「やぁ、少年!」
その運転手に、先ほどよりも明るく呼びかけ、右手をひらひらと振る。気付かず去っていく後ろ姿を見送り、一瞬の思案の後、鈴蘭は遮断機から飛び降りた。

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少年少女色彩都市・某Edit. Outlaw Girls Duet その④

触手は筐体を破壊することなくただ理宇だけを執拗に追跡していく。理宇はゲームコーナーの中をひたすら逃げ回り、格闘ゲームコーナー、メダルゲームコーナー、再びクレーンゲームコーナーと走り続けたところで、前から襲い来る触手に挟撃され、再び拘束を受けた。
首、両手首、両足首を絡め取られ、完全に身動きができない状態で空中に持ち上げられる。
「うげっ……! た、たすけて先輩……!」
身じろぎして抵抗するが、エベルソルの力はかなり強く、全く歯が立たない。そのうち胴体にも触手が巻き付いていき、更に締め付ける力が少しずつ強くなり始めた。
「せ、先輩……どこ……? ロキ、先輩……」
首の触手も締め上げられ、意識が遠のいていく。完全に気を失う直前、ロキの光弾が触手の拘束を吹き飛ばし、理宇の身体はそのまま床に落下した。
「リウ、変に逃げ回るからサポートが遅れたよ。ごめん」
「ぁぅ……それは、ごめんなさい」
「謝らないで。立てる?」
駆け寄ってきたロキに助け起こされ、理宇は再びスティックを生成した。
「すみません、まだ戦えます。ロキ先輩は下がってください」
「ん、頑張れリウ」
再び始まった触手の猛攻を捌き始めた理宇を置いて、ロキはゲームコーナーからひとまず脱出した。

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少年少女色彩都市・某Edit. Outlaw Girls Duet その③

エベルソルが口を開く。するとその奥から、無数のぬらぬらとした質感の触手が伸びてきた。理宇はスティックでそれらを叩き落としながら、少しずつ距離を詰めていく。
(ロキ先輩の弾幕は、タマモ先輩のと違って自由に曲がるから、私が壁になってても大丈夫なはず。こいつの意識を、私だけに集中させるんだ!)
僅か2mほどの位置まで接近し、両足を踏ん張って触手の撃墜を続ける。その隙に、ロキが生成したインキの光弾が回り込むようにしてエベルソルの胴体に命中していく。
光弾のうち1発が深くエベルソルに突き刺さり、体内に到達した。
その穴を押し広げるようにして、体内から更に大量の細い触手が伸び上がり、理宇に襲い掛かる。
「えっ、待っ」
突然倍化した攻撃に動揺しながらも、理宇は冷静に防御を続ける。
「……リウ」
不意に、ロキが呼びかけた。
「えっ、先ぱ、うわぁっ⁉」
そちらに一瞬意識が割かれたためか、あるいは単純な注意不足のためか、足下に忍び寄っていた1本の触手に対応できず、左足首を絡め取られ高く逆さ吊りにされてしまった。
「わあぁっ⁉ ろ、ロキ先輩、助けっあああああ⁉」
エベルソルは理宇を大きく振り回し、レースゲームの筐体に向けて投げつけた。
「リウ、無事?」
「っ……がっ、はぁっ……はぁっ……! ど、どうにか……って、うわあっ!」
理宇に再び向かってきた無数の触手を転がりながら回避し、ゲームの筐体の隙間を駆け抜けた。

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少年少女色彩都市・某Edit. Outlaw Girls Duet その①

休憩室の扉をノックする軽やかな音が3度響く。
「入ってどうぞ」
ロキが言うと、扉が開き理宇が入ってきた。
「あ、ふべずるんぐ先輩。お疲れ様です。タマモ先輩は……?」
「ロキで良いよ。タマモはこの間の戦いで両腕骨折したからしばらく療養。座ったら?」
ロキに促され、理宇はタマモが普段座っている席の向かいに座った。その斜向かいにロキも掛ける。
「…………あのー……」
「…………」
ロキは理宇の存在を意に介することなくスマートフォンを操作している。
「あの、ロキ先輩?」
「……あ、ん、何?」
スマートフォンから目を離し、初めて理宇の目を見る。睨むようなその視線に臆しながらも、理宇は対話を試みた。
「今日は、何かやることあるんですかね?」
「いや特には」
「さいですか……。あ、これは全く関係ない世間話なんですが、ロキ先輩ってタマモ先輩といつから組んでるんですか?」
「……そろそろ1年かな。何だかんだで私がリプリゼントルになってからずっと一緒に戦ってる」
「へー。どんな感じで出会ったんです?」
「…………まあ、それはタマモ自身に聞いて。あいつが話したがらなかったら諦めてやって」
「あっはい」
しばらく無言の時間が流れたが、不意にロキのスマートフォンから通知音が鳴り、ロキが立ち上がった。
「行くよ。仕事だ」
「はい、了解です!」
「……あれ、あんた何ていったっけ」
「あ、魚沼理宇です」
「うん、じゃあ行こうか、リウ。あいつがいない分、私のこと守ってくれる?」
「お任せください!」

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縁に縛られている

応絢那(イラエ・アヤナ)
性別:女  年齢:10代  身長:160㎝
マジックアイテム:お守り
願い:独りになりたくない
衣装:拘束衣
魔法:縁に縛られる
魔法使いの少女。家庭の問題の影響で孤独に対して異常なまでに恐怖しており、その願いが魔法に反映された。
その魔法を簡単に表すと「自分と何者かを繋ぐ『縁』が残っている限り、決して死ぬことが無い」というもの。自分を知っている者が一人でも生きている限りその『縁』によってあらゆるダメージは『縁』を材料として即座に修復される。ファントムとの敵対ですらそれ自体が『縁』となるため、ファントムとの戦闘中、彼女は絶対に死なない。また、自身を縛る『縁』を鎖として具現化し、武器として操ることもできる。
かつて初めてのファントムとの戦闘にて、肉体の大部分を食われたせいで、魔法でできていない彼女の生来の肉体部位は右脚全体と左腕の肘から先のみであり、それらの部分が己の魔法で『縁』に代替されることも恐れている。これらの部位を軽くでも怪我するとひどいパニック症状に陥り、再生させないために『縁』の鎖で傷口を更に深く抉り続ける。異物が傷口に直接接している限りは『縁』の再生が起きないためである。
思考する脳さえも己の魔法に代替されてしまっているせいで、『自己』というものに自信が持てず、精神は非常に不安定。

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少年少女色彩都市・某Edit. Outlaw Artists Beginning その⑫

「う……タマモ?」
腕の攻撃は空振りに終わったけれど、私を助けてくれたのであろうタマモの方を見ると姿が無い。ぶつけた後頭部をさすりながら周囲を見ると、数m後方でひっくり返っていた。
「タマモ……その、ごめん」
「いや謝るな、感謝しろ。俺のお陰で死なずに済んだんだぞ……痛え」
そこまでのダメージは受けなかったみたいで、すぐに起き上がった。鼻血を流してはいるけれどそのくらいだ。
「ありがと、タマモ。頭はぶつけたけど」
「マジか。次は受け身取れよ?」
「善処する」
そういえば攻撃の手が止んでいた。咄嗟にエベルソルの方に向き直る。さっきまで頑張って破壊していた腕は大部分が再生しているようだ。
「あークソ、せっかくの攻撃が無駄になったじゃねえかよ。大人しく防御だけしとけッてンだよなァ」
「上への攻撃がちょっと密度低かったかも」
「反省会は後だ。削れるのは分かったんだから……もう一度殺しきるぞ!」
タマモはまた光弾を用意してすぐに発射する。
私も光弾を描きながら、描いた傍から撃ち出していく。ほぼ真上に、奴を狙うのでは無く、取り敢えずその場から退かす意味合いで。
「……準備よし。全弾……突撃!」
十分な数を撃ち出したところで、光弾全てを敵の一点、およそ中央に向けて叩き込む。
槍の如く並んだ光弾は、腕の防御を破壊しながら奥へ、また破壊しながら奥へ、どんどん突き刺さり、体幹を破壊した。腕たちの起点を上手く射貫けたようで、腕たちがバラバラに地面に散らばる。
「……ロキお前……すげえな」
「殺せては無いし」
「いやァ……あとは1本ずつ順繰りに処理すりゃ良いだけだからな。9割お前の手柄だよ」
「わぁい」
あとは腕たちを二人で手分けして処理していき、私の初めての戦いは無事に勝利で終わった。

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少年少女色彩都市・某Edit. Outlaw Artists Beginning その⑪

「……飛んでいけ」
光弾を発射する。タマモのように直線的にでは無く、放物線を描く軌道で、奴を全方向から取り囲むように。
私の放つ弾幕は8割方無事に命中し、敵の腕を順調に命中させていく。
「え嘘、これそんな使い方できンのかよ」
「できるかなー……って思ってやったらできた」
「はぇーお前すげェな。俺は普通に飛ばした方が楽だな」
「そりゃ何も考えず飛ばせるんだから楽でしょ。その分ペース落ちるから、頑張って止めてね」
「そりゃ勿論」
追加で光弾を用意する。半分は放物線、もう半分は着弾の直前で僅かに軌道をずらすように弾道を設定して、一斉に発射する。
発射の瞬間、腕は防御態勢を取ったけれど、ずらした弾がダメージを与えていく。
「タマモ、この戦い方すっごい楽しい」
「そりゃ良かったな」
続く弾幕は、敵の50㎝ほど手前で一瞬停止するように。奴の防御が無駄に空を切り、また腕を破壊していく。
「タマモ、これ良いね。相手の防御無駄にするの楽しいよ」
「……うん、そうだな。お前にはそれが向いてるよ」
次の弾幕を用意していると、エベルソルの上方の腕がほどけ、急に伸長して全方向に向けて拳を繰り出した。私達の方だけじゃなく、周りの彫刻も狙っている。
「っ!」
用意できていた分を全部発射して、彫刻を狙っていた分の腕はどうにか破壊する。
こちらに向かってきた腕はどうしたものか、とりあえず自分の腕で防御しようとして、背後から足を払われ仰向けに倒れた。

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復讐屋

“復讐屋”
性別:女  年齢:27歳  身長:181㎝
ブラックマーケットの奥深くで「復讐支援業」に従事している女性。本名を知っている人間はごく少数で、腕利きの情報屋ですら名前を探れないでいる。
「復讐とは、過去の因縁に決着を付け前に進むための儀式である」との信念から、顧客たちの復讐の支援を行うべく、情報収集・ターゲットの誘導・武器類の提供を行う。
飽くまでも直接手を下すのは復讐を望む本人であるべきと考えており、「復讐代行」だけは絶対にしないと決めている。
愛銃は6発装填リボルバー式拳銃の〈ジェヘナ〉と5発装填ボルトアクション式スナイパーライフルの〈リンボ〉。実際に発砲する機会は少なく、特に〈ジェヘナ〉には常に1発しか弾丸を入れていない。
仕事で使っているリュックサックは状況に応じて中身が変わるが、ミネラルウォーター500ml×2、携帯食料1日分、アーミーナイフ、防水マッチ30本入り1箱、電気ランタン、合成繊維製のロープ10m、カラビナ4個、ブランケット、〈リンボ〉用の弾薬箱20発×2、〈ジェヘナ〉用の弾丸1発は常備している。
自分の生業については、「死後地獄に堕ちることが確定しているだけでそれ自体は正当な行為である」と認識している。

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少年少女色彩都市・某Edit. Outlaw Artists Beginning その⑩

「しかしまあ……結構だりィぞ」
「何が? ちょっと頑張ればダメージ通せるよ?」
「いやァ……ちょいと俺の攻撃をよォーく見といてくださいよフヴェズルングさんや」
タマモの攻撃が、防御していた腕を数本吹き飛ばす。すぐに別の腕が防御に回って……。
「あ、なるほどー」
千切れていたはずの腕が無くなっている。というか、無事な腕の陰に隠れた隙に再生してるっぽい。
「火力足りてなくない?」
「だなァ。一般市民が通報して応援が来てくれるまで粘るってのもアリではあるンだがよォ……なあロキ」
「何?」
「せっかくの初陣、華々しい勝利ってヤツで飾りたくね?」
「まあ、せっかくならねぇ」
ニッ、と笑ってタマモが1歩踏み出す。
「じゃ、ちょっと頑張ろうぜ」
「うん」
タマモは素早く弾幕の用意をして、それと並行してエベルソルを攻撃している。正面から削り切るつもりだろうか。私も攻撃に参加しても良いけど、私達2人でダメージが追い付くだろうか。せめて全方位から削れれば効率良く倒せそうなんだけれど……。
「あ、良いこと思いついた」
「あ? 何だ、先輩として協力なら惜しまねーぞ」
「引き続き頑張って」
「りょーかい」
少し大きめの光弾をたくさん生成する。そのうち半分は、作るのと同時にエベルソルに飛ばして、タマモの支援をする。
そして、そこそこの数の光弾が貯まったところで、改めてエベルソルを睨む。

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少年少女色彩都市・某Edit. Outlaw Artists Beginning その⑨

彫刻から飛び降り、大きな影、エベルソルの下に駆け付ける。青白いヒトの腕が無数に絡みついたような気持ちの悪い姿の化け物が、公園の柵を蹴倒しながら猛然と突っこんできていた。
「おいクソッタレのエベルソル! なァに芸術以外ブッ壊してンだ生ごみ野郎がァ!」
エベルソルに対して挑発するように喋りかけながら、タマモはガラスペンで描いた光弾をいくつもぶつけた。化け物を構成する腕の表面には、弾が当たって焦げ跡ができたけれど、有効打にはなっていないみたいだった。まあ、こちらに気付いてくれたようだけど。
「ああクソ面倒くせェ。コイツそこそこ硬てェぞ」
「わぁ大変」
「お前も働くんだよロキ」
「まあまあ。まだペン使うのに慣れてないんだから……」
ガラスペンを取り出し、タマモに倣ってインキ粒をいくつか描き、エベルソルにぶつける。あまり威力は無かったけれど、練習はできた。こんな感じか。
「理想はここの彫刻全生存。最悪何個か壊れても作者さんに謝りゃ良い。気楽に行こうぜ」
「うん」
タマモがエベルソルの気を引いているうちに、少し走って奴の真横に位置取り、水玉模様の捻じくれた彫刻の陰で光弾のストックをいくつか用意する。小さい弾じゃダメージにはならないみたいだったから、少し時間をかけて大きめの弾にする。
数十個完成させたところで、攻撃に参加しようと彫刻の陰から顔を出す。エベルソルは腕のいくつかを防御のために前方に構えながら、タマモにじりじりと接近している。こちらからは完全に無防備だ。
こちらの用意した光弾のうち、3分の1ほどを一気に叩き込む。無事に奴の腕をいくらか千切り飛ばしたは良いものの、すぐに対応されて防御されてしまった。
「お、やるじゃねーのロキ。次はお前が狙われるぞ」
「えー」
たしかに、エベルソルの進路は私の方に変わっているみたいだ。流石に彫刻を巻き込むのはそれを守る人間として申し訳無いので、陰から出てタマモの方に駆け寄る。
「お前なんでこっち来た?」
「いや、つい……彫刻の少ない方にいたから」

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少年少女色彩都市・某Edit. Outlaw Artists Beginning その⑧

「……そうだ、何か芸術っぽいのが多い所行こうぜ。エベルソルってのは芸術をブッ壊すことに命懸けてる連中だからな」
「なるほどー。それなら“芸術公園”とか?」
「おっ、名案」
通称“芸術公園”。この彩市在住のアーティストが制作した彫刻などの立体作品がそこら中に乱立する市民公園。屋外ステージもあって、ちょくちょくイベントが開かれたりもする、住民たちの憩いの場だ。
「こっからだと歩いて……10分くらいか。お前時間とか大丈夫か?」
「うちは門限とか結構緩いから大丈夫」
「そうかい。じゃあ行こうか」
適当な世間話をしながら、公園に向かう。タマモ、私より2つも歳上だったのか。敬語でなくても構わないと言われたので、言葉遣いはそのままだけど。
「……さて、着いたわけだが」
「いないね、エベルソル」
「いないなァ……」
殆ど日没といった空の下、公園には数人の一般市民が見られる程度で極めて平和そうな日常風景が広がっていた。
「……もう帰って良いかな」
「そう言うなよ。10分くらい時間潰していこうぜ」
「ん」
曲線的なシルエットをした石材製の大型彫刻に登り、公園全体を見下ろす。
「……本っ当に平和。エベルソルって実在するの?」
「一応、10回くらい遭ったことはあるんだけどなァ……」
少し離れたところに立っている時計をちらと見やる。もうすぐ5時か。
「5時まで何も無かったら帰って良い?」
「良いんじゃね?」
そのやり取りを終えた瞬間、まるで見計らっていたかのように大きな影が公園に近付いてきた。
「……あーあ、フラグ立てたりするからよォ」
「むぅ、まあ戦い方も考えたいし良いか」

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少年少女色彩都市・某Edit. Outlaw Artists Beginning その⑦

「……もうこんな時間か」
タマモの独り言に壁掛け時計を見ると、15時過ぎだった。
「なァ、ロキ。暗くなる前にチュートリアルといかねェか?」
「良いね。インキ弾の使い方、私も練習してみたいし。エベルソルってどこに出てるか分かる?」
「いや分からん。たまにお偉いさんから『どこそこに行け』って言われることもあるけど、今は特に何も無いからな。適当に怪しいポイントをぶらついて、遭遇出来たらブチのめすって感じだな」
「なるほどー。私、化け物と戦った事なんて無いんだけど……」
「誰だって最初はそうだよ。俺だってまだ両手の指に足りる程しか戦った事無ェもん」
「それもそっか」
「そうだよ」
タマモが椅子から立ち上がった。私も席を立つ。
「……じゃ、行くか」
「うん」

彼について歩き、フォールム本部を出る。彼は市街地に向けてのんびりとした足取りで歩いていた。
「……なァ、ロキ。どっか行きたい場所無ェか?」
「んー……あんまり強くないエベルソルがいるところ?」
「お前大分贅沢な注文するなァ……」
苦笑しながらも、タマモは迷いなく商店街に入っていった。そのどこかに用事があるのかとも思ったけど、特にそういうことも無かったみたい。青果店で果物の並ぶ棚をじっと見ていたくらいで、結局通り抜けてしまった。
「……最近は何でも高くて良くねェ。果物なんか簡単に買えないモンだから、ビタミン摂るのが面倒だぜ」
「野菜ジュースとかオススメだよ」
「あれ、あんま好きじゃねェんだよなー」
「ふーん」

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少年少女色彩都市・某Edit. Outlaw Artists Beginning その⑥

フォールム本部内を1周して、あの部屋に戻ってきた。タマモは設備について逐一教えてくれたけど、様子を見ていた感じ、半分くらいは彼も初めて入った場所だったようだ。
彼が少し血のついたままの椅子に掛け、促されて私も向かいの席に座る。
「最後にここが、数ある休憩室の一つだ。最序盤でスルーした部屋は全部休憩室だな。誰がどこ使うとかは決まってねェけど、リプリゼントルは好きに使って良いことになってる」
「へー……」
「さて……施設内見学は終わったが、何か質問とかあるか?」
「はーい、ありまーす」
「何でしょうフヴェズルングさん」
「タマモせんせー、私、絵が全く描けないんですけどどう戦えば良いんですか? このガラスペンで何かを描いて戦うんですよね?」
「あー…………」
タマモはしばらく目を泳がせ、テーブルに備え付けられていたメモ帳のページとボールペンをこちらに差し出した。
「ロキお前、犬と猫を描き分けられるか?」
「…………」
とりあえずペンを取り、さらさらと2つの絵を描いてみる。なかなかに酷い出来の、辛うじて四本足の何かと分かる絵が並んでいた。
「すげェや、違いがある事しか分からねえ」
「お恥ずかしい限りで……」
「別に恥ずかしいことじゃねェよ。俺も絵はド下手だ」
そう言いながら、タマモはページをくしゃくしゃに丸めてゴミ箱に放り込んだ。
「じゃあ、タマモはどうやってるの?」
「こうしてる」
ニタリと笑い、彼はガラスペンを取り出した。そのペン先からインキが垂れ、空中で一つの球形にまとまる。
「……さっきの紙捨てなきゃ良かったな。まあ良いや」
彼はメモ帳から新たに1ページ破り取り、宙に放った。そしてひらひらと落ちてくるページ片に、インキの球体、いや、弾丸を発射し命中させた。
「おー」
自然と拍手が出る。
「複雑なモン描けねェなら、単純なモンを武器にすりゃ良いんだ」