白紙に近い手中の地図
辺りはどこを見ても新しい
太陽は落ちて影法師が伸びる
それだけが見覚えのあるすべて
怖気付いた目の奥のキャラバンはただ嗤う
そんな事する暇 あんなら もっとおれに
勇気をくれよ
アリガトウもバカヤロウも今日で最後 明日はない
だからと言って面と向いて
(ありがとう)
言えてたらお縄はいらない
また ひとつ声が減った 昨日数えた音が無い
太陽が伸びて影法師が落ちる
夢見て飛び込んだあの街はほこり臭い
目を飾るハイライトは赤が滲んでじっとり黒ずむ
ほらもう汽笛が鳴る
右左足と乗り込む ばいばい
私はここでさよなら
涙も花束もえんぴつも残さない
そう思って箱を開けると
既に何も残されてない
僕らみんな目の奥に同じ影があるだけ
「知った風な口を利くから私は自分の親が嫌い
その親から貰ったこの名前も気に入らない」
君はそう嘯くけれど僕は君の名前が好きだよ
呼びやすいしさ書きやすいしさ
笑わないでよ、結構重要な事だよ
初めて君の名前を呼んだ日のことを覚えてる
放課後 夕景 信号待ち 手を繋いだ
僕達はきっとそこそこ複雑で
名前なんか見ても何にも分からないけど
匿名希望がありふれた こんな世界だから
できる限り大事にしたいんだ
「なんか音の響きが格好いいから
私は貴方の名前が好き
きっとセンスのある親なんだろうな
私の親と大違いだな」
君はそう嘯くけれど僕は僕の名前が嫌いだよ
こんながらんどうの僕の中身に
不釣り合いなほど大層な意味を持ってるから
初めて君に名前を呼ばれた日
僕のことだと気付くのに少しかかった
僕達はきっとそこそこ複雑で
名前なんか何の足しにもならないな
匿名希望がありふれた こんな世界だから
できる限り大事にしたいけど
僕が嫌いな僕の名前も
君が好きと言ってくれるなら
それでいいかもな、と最近思えてきた
どうせ生まれてきてから死ぬまで抱えるもんだしな
僕達はきっとそこそこ複雑で
名前なんか只の識別番号で
とかさ、言うだけ言ってみてもそれでも愛着に近い
何かがあって
僕達はきっとそこそこ複雑で
名前なんか見ても何にも分からないけど
匿名希望がありふれた こんな世界じゃ
できる限り大事にしたいんだ
君の名前をできるだけ呼ぶよ
君が自分の名前と親を好きになってくれるまで
花散らしの夜には絹を纏って
貴方を懐きに参ります
剥き出しの土塚の傍ら
そっと頭を預ければ
極上の羽毛のような貴方が
私の肌に降り積もる
いつだって曖昧な笑みの貴方は
懐くつもりの私を
冷え切って尚
懐き続けるおつもりなのですね
春が来たんだ
こんな僕でも桜が綺麗だってことくらい分かる
映える赤と白と 土と名前の知らない虫と
彼女に愛想を尽かされたのは
今思えば当然の事だな
原付の免許を取ったんだと
SNSに笑顔の写真
「春は出会いと別れの季節です」と
喋るアナウンサーに苛立った
悲しくはない 此の期に及んでもなお
悔しくもない ただ自分に失望しただけ
遠くに行かないで 置いて行かないで
それより他に望まないから
三流大学の新歓コンパ
アルコールに溺れた先輩を介抱するあの子は時々
とても泣きたそうな顔をしてた
吐き気 眩暈 手足の震え
どこへ行こうと変われないんだと
思い始めて不貞寝した
死にたくないのに死にたいと呟いた
「春は出会いと別れの季節です」と
駅前の看板の文句に苛立った
悲しくはない 此の期に及んでもなお
悔しくもない ただ自分に失望しただけ
遠くに行かないで 置いて行かないで
それより他に望まないから
風が吹いて 花弁が落ちて
その一枚を子供が拾って
汚いからそこに捨てなさいと優しく諭す母親
生きてりゃ良いことあるって見え透いた嘘に
騙されてここまでやって来た 何度目の春だ
悲しくはない 此の期に及んでもなお
悔しくもない ただ自分に失望しただけ
遠くに行かないで なんて我が儘を
言わない人にならなくちゃ
花はひらひら散るけれど
私、まだまだ生きてます
まだまだ生きるということは
まだまだ何かをやらねばならぬ
やらねばならぬならならば、
やらねばならぬ事をしよう
溢れる花びらよ死にゆくことなく光へ進め
いつか散り離れるとしても 今という儚い時を咲き誇れ 思うがままに咲き誇れ