愛も憎しみも論理的にものごとを考える能力を失わせてしまうという点において差はない
だから争いはなくならない
日本人がアメリカ人のようにポップアートに飛びつかないのは日本はアニメの国であり漫画の国であり漢字の国だからだ
要するに抽象化された造形に飽きているってわけ
常に誰かをけなしてないと精神的なバランスがとれないのね
ケンカした
次の日
ペアのグラスに
アイスティー
トーストに
マーマレード
君の唇についた
マーマレードを舐め取ってから
少し考えて
君の髪にマーマレードを塗る
ただいま
おかえりなさい
君の髪は
マーマレード色に仕上がり
なんとなく
笑い合って
僕はずっとどうしたらこの世界を愛せるのか考えていたんだ。
みんな優しくなって
僕はかっこよくなって
強くなって
今日の努力が報われて
あの子に好きと言われて
音のない、君と僕だけの世界になって
そんなことあり得ないな。
僕はずっと何が欲しいのか考えていたんだ。
もっとうまく喋れるようになったら
もっと普通に笑って歩けるようになったら
みんなが出来ること、ちゃんと出来るようになったら
あ、無理だ。僕は僕でいる限りこの世界を愛せないんだ。
もういいや。
今日、鳥が死んだ。
思っていたより
大事な人になったのが
まだ信じられないような
当たり前のような
あなたと私の間にさよならはないって
そのことば
嬉しかった
アイツは鳴いていた。
アイツは夏に有り得ないぐらい鳴く。
自分にはあんなに鳴くことなんか出来ない。
もしもあんなにも鳴いて気持ちを伝えられたら。
最高だろう。
まぁ、最後は死ぬだけだけど。
失恋したけど切る髪がなくて
どうしようか考えた結果
きみがセクシーと言ってくれた
腕の毛を剃ることにした
巨大積乱雲がふつうの積乱雲になって空はこころなしか高くなり
欄干から見下ろすと
制服姿の君が自転車を押しながら手を振っていた
本当に好きになってしまうとものにしたいという気持ちより嫌われたくないという気持ちのほうが先立ってしまうって君の言葉を思い出し
僕はなすすべなくすべすべの君の焼けてない頬に手をふれるイメージにひたった
落ちこぼれの僕は覚えようとしても覚えられないことばかりなのに忘れようとしたことは覚えている
気づいたら君は僕の後ろにいて
強い風に長い髪をなびかせてた
口に入りそうな髪を僕は指先でよけてやり
ついでに毛先から髪をすいた
髪は毛先からすくのが美容師のやりかたなんだ
うん
知ってた?
うん
ううん
僕のこと好きだろ
うん
ううん
女は生殖にコストがかかりすぎるから脳に作用するホルモンの合成が男性に比べると劣るんだって
男っぽい女性でも男性に比べると不安が大きいのは男性よりもセロトニンが不足しがちだから
不安が大きいから依存的になって結婚願望が強くなって結果的に結婚して妊娠出産という形になるわけだから上手くできてるんだって
ママが言ってた
すべてはささいなことだと
すべすべの頬を手の甲で撫でながら思った
大人になったつもりだったが
もやもやがつのってただけだった
もやもやは上昇気流に乗って
来年の積乱雲になるのだそうだ
薬飲まなきゃ
人間は記憶の生きものだから薬の効果で気分が上がったところで長続きしない
僕は彼女の手から錠剤を奪って川に捨てた
自転車のベルにはっとし
僕は鞄を肩にかけなおして
バス停に向かった
気だるそうな長い列が
バスに吸い込まれ
マフラーから吐き出された
吐き出された人たちは
上昇気流に乗って雲になり
雨を降らせた
雨に濡れながら僕は
今日は会社を休もうとスマホを取り出した
夏が終わる