花火が鳴った。祭りが始まったのだ。僕は一日ベッドで本を読んでいたかったが、妹にカカユキヤカハをせがまれていたから、しぶしぶ着替えて、会場の公園に向かった。
ゆあを中心とした派手なグループが、ステージの前でわいわいやっていた。ゆあの二つ上の彼氏のバンドが、演奏するのを見に来たのだ。ゆあがカカユキヤカハを買っている僕を見つけて、近づいて来た。
「ひと口ちょうだい」
ゆあが言った。僕はそういった不衛生なことは嫌だったのだが、ゆあは勝手に袋を開け、手を突っ込み、カカユキヤカハをちぎった。暑さで少しとけかかったカカユキヤカハのかけらが、口の中に消えた。ゆあはマニキュアを塗った指を舐めると、グループに戻った。バンドの演奏が始まった。僕はステージに背を向け、帰路についた。
リビングで人形遊びをしていた妹にカカユキヤカハの袋を渡すと、妹はすぐに袋を開けた形跡があるのに気づき、「お兄ちゃん、つまみ食いしたでしょう」と、からかうように言った。
「うるさい。買って来てやったんだから文句言うな!」
つい怒鳴ってしまった。すると妹はびくっとしてしばらくフリーズしてから、「お兄ちゃんのばかぁっ!」と言って隣の部屋に行ってしまった。
僕は、あははと笑った。認知的不協和を払しょくさせるための笑いだ。
本を閉じて、天井を見上げた。僕に妹はいない。カカユキヤカハなんて菓子も存在しない。
ビニール傘についてる雨粒
君は傘をくるり
雨粒は小さくなって
君は少し怪訝そう
例えば君が投げたボールが
私に届くように
一日に2度同じ人と
出会うように
私が落としたものを
貴方が拾うように
そんなことはなかったのに
運命だと信じられるのは
目の前にいる人が
私の大事な人とわかるから
優しい言葉は言えるけど
テキトーなことは言えないし
傷はいつか癒えるけど
傷痕はいつまでも消えないし
掃いて捨てるような日常茶飯事
書いて消すような手紙の書き出し
煙吐きだして捨てるタバコの吸殻
気が向いたらまた顔だしに来てよ
雲間から覗く夏空の青さは古よ
首輪のついたいぬっころ
ロマンチックを捨てられない
今に始まったことじゃないよね
妬み屋の匂いが染みついたわんこ
ここまで今日まで歩いてきた
煙草の先のような夜を待ち
チカチカひかる街灯をみていた
「思春期だからだよ」
と、皆言う
だったらそんな時期も楽しもうじゃないか
自覚ないけど
言葉に出来ないくらいのワクワクも
嫌になる程の落ち込みも
歳を重ねていつか無くなるくらいなら