“またね”
西原は喋れるにも関わらず
手話を使った。
またねなんて
誰かに聞かれても支障はない。
だが俺も
“またね”と手話で返した。
西原は手を振り笑うと
向きを変えて歩き出した。
俺は西原の背中に
“ありがとう”と手話を投げた。
「とりあえず今日はここまでということで」
やっと解放される。何故ここで2時間近くも俺は時間を使ってしまったのだろうか
「葉山帰ろ」
「あぁ、帰ろう疲れた」
「そりゃこっちのセリフだ全く、私は顧問を探してから帰るじゃあな」
本当に強烈な女だ折紙は
今まで出会って来た誰よりも....
「敵に回したくないな」
「ん?なんてなんて?」
「なんでもない帰ろう」
季節は少しづつ春を置いて夏へと向かって確実に歩みを始めている
初瀬と初めて言葉を交わした時美しく舞っていた桜の花びら達
今は僕達がこの足で踏みしめている
「ごめんごめん教室に筆箱忘れてたよ、はは」
「取りに行くか?」
「そだね」
春は出会いの季節とはよく言ったものだ
入学から1ヶ月と経たずに高カロリーな出会いが2件もあった特に今日のは別格だ
「葉山明日何時に出るの?」
「そうだな多分7:00までには駅に居るよ」
「なら私は6:55までに」
「何故そこで張り合う」
「だっていつも先に居て暇そうな顔して待ってるでしょ?だから今度はこっちが暇そうな顔して待ってやろうと思ってね」
コイツいい笑顔してなんて地味な嫌がらせを
しかも5分の差ってコイツ絶対朝弱いな
「でも難しいね文化祭の展示考えるって」
「まぁ文研って話聞く限りじゃかなり特殊な部だしなそれに折紙じゃないが多分活動記録なんて大した物残ってないと思うぞ」
「やっぱそうなのかな」
「顧問が門田先生だ、記録なんてしてないだろ多分」
「確かにしてなそう、『記録?そんなもんお前らで適当にやれ俺は寝る』とか言いそうだし」
可愛らしい女の子から発せられたとは到底思えないくらいモッサりとした低い声で門田先生の口調を真似て初瀬が喋った
「すげぇ声」
「ふふっ、似てた?」
無邪気に笑いながらそう僕に問いかけて来た初瀬は皆んなに好かれている初瀬紗夜だった
君がふざけて足した
レモンの味が 忘れられない
微妙 奇妙な 夏の終わりを
匂いと音と 鼻にかかる 笑い声で刻んだ
レコードかけては レモンソーダを
レモンを切っては 甘酸っぱさを
交互に浮かべて 口笛止んで
くちびる すぼめた レモンの午後
君がふざけてまわした
ビデオみたいな 忘れられない
微量 緻密な 2人の恋を
黄色い笑顔 花に似てる けれど君はレモンガール
背中を撫でては コップを回す
レモンで酸っぱい レモンのソーダ
とっくに終わった キスのくだりも忘れた
明日は レモンを買う
君がふざけて足した
レモンの味が 夏の終わりを
これまで何度も痛い目を見たし、死を覚悟したことだってあった。裏切られたこともあったし、言葉の暴力に精神を削られたこともあった。
そういう辛いこと全部乗り越えて、今現在生きていると、人間の強さが嫌になるし、それと同じくらい頼もしくも感じられる。大抵のことには耐性ついたし。
眠れぬ闇夜に 血蠢き
幻の愛 たくさん降り
笑顔は溶けて 忘る日も空へ
夏を許せ
眠れぬ月夜に 燃え渡り
哀しさ散らす 火は闇へ
譜面の魔法 奥底で溶けろ
愛を許せ
眠れぬ夜更けの 公園に
星光らずも 花咲いた
煌めく血と雨 揃って終わりへ
闇を許せ