「おいお前信じたのかよ。俺でもさすがに本気にしなかったぜ?あんな馬鹿みてーな話」
「やっぱバカみたいっすよね」
俺は自然に真剣な顔になっていたらしい。先輩は少しオドオドして目を泳がせて、だんだん心配になってきたというようだった。なんやかんや言ってこの人は鬱陶しいが後輩思いの優しい男なのだ。
「何かあっても俺知らねーよ?言ってなかったけどさァ、確認しに行ったって人はいるらしいけど、その後のそいつらの話はないんだぜ?いや信じてないけどさァ」
「どうせ嘘ですって。まあ、結果は報告しますよ。期待はしないでください」
先輩は納得していない様子だったが、一回溜息を吐くと
「おっし!分かった。そこまで言うならお前の骨は拾ってやる!」
「いっ……!」
にかっと気持ちよく笑って俺の背中をバンバン叩いた。
部活が終わると大体5時55分くらいで、俺は先輩の協力もあり、せかせか下校を促す先生の目を盗み第二校舎に入り込んだ。
第2校舎は特別教室が連なる3階建ての建物だ。部室棟も兼ねてはいるものの、それらは総じて文化部の持ち物。彼らはキッチリ時間を守って完全に下校したようで、もうすでに校舎は静まり返っていた。だからか、いつもは感じないような冷めた感じがした。例えるなら、夜の明けきらないうちのヒンヤリ青い空気。あれが立ち込めていた。夕陽が差し込んでいたから確実に色は赤や橙だったが、青かったのだ。怪奇が起きてもいないのだが、おかしな世界に迷い込んだ心地がする。
半ば気が滅入りそうになりながらも階段を登っていく。面白いことでもあるんじゃないかと段数を数えたりしてみたが、13段。通常通りの、いともたやすく我々を裏切ってくれる階段だった。
階段を上り切ると、踊り場を経由し廊下に出る。この時点では怪異の1つも見ていない。このあと見ることができる保証も勿論ない。
一歩一歩、マア、慎重さもなく通常通り廊下を進む。3階分階段を上った後なので少し動悸が激しい。
1番南の空き教室に着いた。時刻は――
「まだ帰っとらんのか」
教室の中から男の声がした。古風な喋り方ではあるが、声変わりの最中の掠れた、少し幼い声だった。
俺は驚いて、時間を見る前に声の方を向いた。