「これが駒か」
露夏は小箱の中の駒を手に取る。
それには“歩”と書いてあった。
「こう見えて、ルールはチェスとあまり変わらないのよ」
「えっマジ?」
ピスケスが不意に放った一言で露夏はパッと顔を上げる。
「実は将棋とチェスってルーツは同じらしいの」
ピスケスがそう解説する中、露夏はへーと手の中の駒を眺める。
「おれチェスはできるんだけどなー」
ナハツェーラーと暇つぶしに、と露夏は言う。
ピスケスは、ルールブック見ないとできないでしょと突っ込む。
「ま、いいや」
暇だからやろうぜ!と露夏はピスケスの顔を見る。
「私やるって言ってないんだけど」
「いーじゃん暇つぶしにー」
ピスケスが呆れたように言うが、露夏は笑顔で言い返す。
「どうせおれの所に持って来たってことは遊ぶつもりでいたんだろ?」
露夏がそう言って暫くすると、ピスケスは諦めたようにため息をついた。
「いいわよ」
ピスケスが呟くと、露夏はやったー!と立ち上がる。
「じゃそっちでやろうぜ」
露夏はそう言うや否や将棋盤を持ち上げて客間の低いテーブルの隣のスペースへと移動させた。
全く…とピスケスは呟くと、客間の奥へ向かった。