10月のある日の午後9時,1人の青年は俗に言う肉体労働のアルバイト勤務を終えて疲れた身体に鞭打ち,都会のドーム球場を目指しておよそ7キロの道を地下鉄と己の脚力に頼って駆け抜けた。
なぜなら,彼が幼少期から応援し続けているプロ野球チームが4年ぶり39度めのリーグ優勝を果たし、上位三チームがぶつかり合うポストシーズンの勝ち抜き戦の最終試合がそのチームの本拠地であるドーム球場で行われていたからだ。
この試合で勝ったチームだけがその後,その年1年間で最も強かった野球チーム一つにしか贈られない名誉ある座に相応しいチームを決める決勝の舞台への参加資格を得られるからだ。
しかし,その優勝チームは残念ながらリーグ3位から勝ち上がったチームに接戦で勝ち切ることができずに逆転を許し,シーズンに別れを告げて長くてつらい冬のオフシーズンへと入った。
その青年もまた,胸に悲しみと負けた悔しさを秘め,数々の場所を巡って新たな人生の1ページを求めて悶々とした日々を過ごした。
しかし,花曇りの空の下で満開の桜が舞う3月下旬,彼や彼と同じチームを愛し,応援するファン仲間やチャンピオンの座を目指して全力を尽くして敗れ去っていった他チームのファンにとっても長くてつらい5ヶ月とは別れを告げ,この国のプロ野球最古の伝統球団として,40回めの優勝と13年越しの日本一という悲願成就に向けた創設91周年という節目のシーズンが今,始まろうとしている。
球場で固唾を飲んで見守る人,事情があって出先からラジオ中継やテレビ中継・ネットの速報で試合の様子を知ろうとする人,野球選手に憧れる若い世代の人,愛するパートナーや家族と共に試合を見守ろうとする人,この国で大衆娯楽の一つとして愛される野球を愛する全ての人が待ち望んだこの瞬間,それぞれの球場でそれぞれの試合開始時刻になり審判から試合開始という意味の「プレイボール!」のコールがかかりました!
さあ,野球の時間です!