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ヌーナの音に13

シーアは目を覚ました。暖かい木の感触が心地よかった。いつの間にか覚えのない綺麗な衣服を身に纏っていたシーアは、横たわったまま辺りを見渡した。窓から光が射す空間の中で、シーアの視界は辛うじて胡坐をかいているキクラを捉えた。
「よお、目が覚めたか」
キクラは若干の笑みを浮かべた。この部屋にシーアとキクラ以外の人間はいなかった。
「ここは?」
「服屋。お前の服ボロボロだったから、ここの服を着せた」
シーアは自分が纏っている服に目をやった。水色のワンピースだった。
「着せたのはナシオだよ」
「ナシオ?」
「お前に注射した奴。そのせいでお前眠ってたんだろ」
そう言われて初めて、シーアは首筋の痛みに気付いた。痛む部分を触ると微かに腫れていた。
「覚えてないのか」
シーアは黙って頷いた。頭がズキズキと痛んだ。ふと目をやると、左手の薬指に絆創膏が巻かれていた。これもナシオという人がしてくれたのだろうか。
「あの、私をどうするつもりですか?」
声が震えていた。キクラがいつもより饒舌だったのが何かの兆候に感じられた。
キクラはそうだなあ、と呟くとシーアの目を真っ直ぐ見て言った。
「お前の扱いは俺に一任されている。スパイを仲間に入れようとした責任を取れってことだろう。誘ったのは俺だからな。けど、俺はお前をどうもしない。本当だ。生憎残虐なのは嫌いなんだよ」
その言葉に安心したが、どこまで本気で言っているのかシーアには分かりかねた。
「それに、お前の話を聴きたい」
「私の話ですか?」
「だって、牢での話はほとんど嘘だろ?」
シーアは頭を下げた。
「すみません」
キクラはまた微笑んだ。
「まずお前の本当の名前から教えてくれ」
キクラの目の前にいる少女は小さく息を吸い込んだ。
「リサ、です」

  • ヌーナの音に
  • リサは某人気歌手とは無関係です
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