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見えざる証言

「だから! 違うんです! やったのはあたしじゃありません!」と涙交じりの声が会議室に響き渡った。
「いや、そうは言っても現状考えられる範囲で一番疑わしいのは真崎しかいないんだよ…。俺も信じてやりたいけど…。状況がな…」と今度は別の声が聞こえてきた。
 前者の声の主は真崎恵梨香、後者の声の主は彼女の担任の今津芳樹である。なぜこのような声を出すに至ったのかというと、真崎が所属する卓球部で盗難事件が発生し彼女にその嫌疑がかけられたということで担任が彼女を呼び出し、事実確認をしているという状況だった。しかも、真崎には盗難時刻と思しき時間にアリバイがないのだ。
「何度も言っているように、私は意識調査のアンケートを取りに戻っただけです!」
「で、他の部員は卓球場に残ってミーティングを続けたと」
「そうです・・・」
「そんな状況だと疑われても仕方ないな…」
「信じて下さい!私は何もやってません!」
 会議室に重苦しい沈黙がたちこめる。真崎は若干嗚咽を漏らしている。数十秒後、今津は何かを思い出した顔をした。
「そうか・・・」
「な、何ですか? 先生」
「もし、君が本当にやってないと言うのなら、ここにメールしてみるといい。きっと、力になってくれるだろう。確認だけど、今話した話は嘘偽りないね?」
「はい」
「よし、じゃあここにメールをしてみなさい。今までの経緯をできるだけ細かく書いて」
「あの、これは・・・?」
「これについては私の口からは言えない。ただ、力になってくれるのは確かだ。それだけが私の口から言えることだ」
「わ、分かりました」
「ああ、それともう一つ。このことは誰にも言わないように」
「母や父にもですか?」
「ああ。誰にも言ってはいけない」
「あの、いかがわしい何かではないですよね・・・」
「それは大丈夫。私が保証する」
「分かりました。ありがとうございます!」
「頑張れよ」
「はい! 失礼します!」
そう言うと真崎は駆け足で会議室を出た。一人残された今津はこううそぶいた。
「さてと、あの人たちならうまくやってくれるだろう」

  • 蜃気楼の陥穽
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