1

見えざる証言②

2日後、真崎はとある駅の近くにある貸ビルの前にいた。一昨日、会議室に呼ばれた後、真崎はすぐに今津が指示したメールアドレスに事の顛末を事細かに記したメールを送った。すると3分後に返信があり、そこに真崎が今いる地点の貸ビルに行くルートとフロア名と社名が書いてあった。
「ここかな・・・。まず、入ってみよう・・・」とは言ってみたものの真崎には決心がつかなかった。何を聞かれるのか、どんなことをされるのかなど考えることが増えてしまい、足踏みをしてしまっているのだ。と、その時。横を黒のロングヘアの女性が通り、その貸ビルへと入っていった。これをチャンスとみた真崎はその女性の後ろについてビルの中に入った。その女性は階段をあがり、3階のある一室に入っていった。それを見た真崎は目を疑った。そこは、メールで指定された場所そのものだったからだ。真崎は恐る恐る、その女性が入った部屋のドアに近づき、ノックした。
「あの、メールをした真崎ですが、入ってもよろしいでしょうか?」
「どうぞ。入ってください」と女性の声が聞こえた。
「失礼します・・・」
そう言って、おずおずとドアを開けると中には二人の人間がいた。一人は先程真崎の横を通った女性で、もう一人は見知らぬ男性だった。
「どうぞ、かけてください」と女性が優しい声で椅子を勧めた。
「し、失礼します・・・」
「そんなに緊張しないで。ね?」
「は、はい・・・」
「コーヒーと紅茶それとオレンジジュースがあるけど、どれにする?」
「あ、いえ。お構いなく・・・」
「気を遣わなくていいのよ?」
「ええと、じゃあ紅茶で・・・」
「オッケー。紅茶お願いします」
「お砂糖とミルクは?」と男性。
「両方ともお願いします」と真崎。
「分かりました。すぐに用意しますね」
そう言って、男性は奥の部屋に入った。
「あ、そうか。まだ、自己紹介をしてなかったわね。私の名前は宇崎夏帆。で、さっきの人が瀬山洋佑さん」
「ええと、真崎恵梨香と申します。よろしくお願いします」
そう言った後、奥の部屋から奇妙な声が聞こえてきた。
「ええと、9四角成、9二玉、8三銀、9一玉、9二歩、8一玉、7二銀成、9二玉、9三歩、9一玉、8三桂までっと。8二玉には8三銀、8一玉、7二銀成、9一玉、9二歩、同玉、9三歩、9一玉、8三桂までか」

  • 蜃気楼の陥穽
  • コメントしてくれた方に来週コメント返しをします!
レスを書き込む

この書き込みにレスをつけるにはログインが必要です。

  • 制作の裏話❶
    最後の瀬山が言っているものは将棋の詰め方です。ちなみに、ネタ元は先日開催された七番勝負の一つの投了図以下の詰めを引用させていただきました(セリフにあるように最大手数の解答が二つあるので詰将棋ではありません)。これらから分かるように、瀬山は将棋好きという設定です。お暇な方はどの棋譜を参考にしたのか調べてみるのも面白いかもしれません(笑)。