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元16歳のピーターパンです。 3作目は、西洋妖怪の織り成す物語。 序章、ぜひお読みください。

LOST MEMORIES~prologueⅠ~

太陽が輝き、窓から光がさす。少し開いたその窓からは柔らかい風が入り、カーテンを揺らした。
「お嬢様、旦那様がお呼びです。」
コンコンという軽いノックとともに、扉の向こう側から単調な声が聞こえる。
気分が乗らず、無視を決め込んだ。
「お嬢様、いらっしゃるのでしょう?お返事なさってください。」
暫しの沈黙。行ったかな、そう思っていると、
「パプリエール様!」
さすがに応えざるを得なかった。
「…います。今行くとお伝えして。」
「かしこまりました。」
小さい溜め息が聞こえる。溜め息をつきたいのは私なのに。そう呟いて、ベッドから起き上がる。ドレスを着たままで,なんて、またメイドに叱られちゃうわ。そんなことを考えながら、父の呼び出しを思うのだった。

ちょっぴり成長したピーターパン
女性/24歳/秋田県
2018-06-11 19:43
  • 主人公である彼女、パプリエールについて少し説明したいと思います。
    彼女はウィッチ、いわゆる魔女です。そして、その国の姫。つまり、パプリエールを呼んだ父は国王であるということです。

    本当はこれも入れようと思って書いていたのですが、なんだか繋ぎが上手くいかず、こういった形になってしまいました。力不足でした、頑張ります…!

    ちょっぴり成長したピーターパン
    女性/24歳/秋田県
    2018-06-11 20:43

LOST MEMORIES~prologueⅡ~

国王からの呼び出しということでゆっくりはしていられないのだが、いまいち体が向かおうとしない。重い足で、薄暗く重厚なアーチを通る。多少陰気くさいけれど、パプリエールは嫌いではなかった。しかし、そんな気持ちとは裏腹に、歩くスピードが落ちる。子供っぽいことを自覚し 溜め息をつくと、諦めたように姿勢を正して、大きな扉の前に立った。
3回、ノックする。
「国王様、私です。」
するとすぐに、入りなさいという声が聞こえる。パプリエールは小さく頷き、部屋に入った。
王の座る広いテーブルの前に立つと、王はやっとこちらへ顔を向け、徐に口を開く。
「パプリ。まずは国王様と言うこと、やめてもらえないかね。」
困ったような顔。
「私は既に公に顔を出している身ですので、そういったことはできません。」
王は涙目になる。
「せめて家族でいるときだけは、前みたいにお父様と……いっそパパでもいいから――!!」
国王とはいえ、一人娘を持つ父に変わりはない。パプリエールは、そんな父に苦笑しつつ、
「はい、お父様。
それで、どうして私は呼ばれたのでしょう。」
父は微笑み、大きく頷いて、やっと説明を始めた。

ちょっぴり成長したピーターパン
女性/24歳/秋田県
2018-06-11 20:45

LOST MEMORIES~prologueⅢ~

「イニシエーションだよ。
お前は今年16歳、成人する。その、通過儀礼だ。」
パプリエールは固まる。
「……聞いたことがありません。」
「話したことがなかったからね。」
顔をしかめるパプリエールを気にせず、父は続けた。
「内容としては、人間界の視察だ。そして、お前と同じように送り込まれている西洋妖怪がいるはずだから、その者たちと情報を共有すること。」
頭がついていかない。人間界とは、いつか本で見たあの人間界だろうか。魔力も何も持たずして、自分たちと同じような容貌である人間という存在がいる、あの人間界。
「……聞いたことがありません。」
「話したことがなかったからね。」
デジャヴである。
父からだけでなく、母からだって聞いたことがない。まして、何らかの文献で見たことすらない。
「人間界なんて、本当にあるのですか。」
「ああ、存在するよ。」
「魔力がなくて、どうやって身を守るのですか。」
「それを視てくるのだよ、パプリ。」
声は優しいが、パプリエールは口をつぐむしかなかった。そういった圧力がある。
「あちらでは、基本魔力は使えない。そして、使う必要もない。そういった町で、お前は過ごすからだ。付き人を遣るから、生活について心配することはない。」

ちょっぴり成長したピーターパン
女性/24歳/秋田県
2018-06-11 23:08

LOST MEMORIES~prologueⅣ~

王は一旦切り、そして繋げる。
「パプリ、お前のすることは2つだ。1つ、人間界の視察。2つ、西洋妖怪との情報共有。」
ここまで不親切な説明が他にあるだろうか。
百歩譲って、イニシエーションは納得できよう。人間界があることも、認めざるを得ない。それでは、どうしてもっと詳しい説明をしてくれないのだろう。
何をもってイニシエーション終了なのか、どれくらいの間人間界にいなければならないのか、何の情報を共有するのか、情報とは何か、視察では何に焦点を当てるのか。
頭が痛い。
個人的なことを言うのなら、付き人とは誰か、あちらでの生活はどのようになるのか、こちらでの公務はどうするのかなど、挙げればキリがない。
そんなパプリエールの様子を見て、父は言う。
「人間界には付き人を1人行かせてある。ウィザードだ。その者に聞けばよい。詳しいこと、そして人間界での生活について、必要なことを教えてくれるはずだ。」
――何かを隠している。
咄嗟にそう思った。
自分では襤褸が出るから、優秀なその付き人とやらに説明を任せるのだろう。
パプリエールの中で、イニシエーションという存在を、聞いたことも見たこともないということが最大のひっかかりであった。人間界には元々興味があった。存在の有無に関わらず。そして、様々な文献もあさった。
そういえば、と思う。
「10年前の事と、何か関係があるのですか。」
明らかに顔色が変わった。

ちょっぴり成長したピーターパン
女性/24歳/秋田県
2018-06-11 23:41
  • PS;必要な設定を盛り込もうとして、もはや会話調になっているだけの設定説明のような。
    事件性はありませんが、もう少しお付き合いください。プロローグをすぎれば、人?も多く動かすつもりでいます。
    できるだけプロローグははやく終わらせようとして、ぽんぽんとあげておりますが…まだまだパプリエールの魅力を伝えるには短すぎますね。気長にお付き合いください。

    ちょっぴり成長したピーターパン
    女性/24歳/秋田県
    2018-06-11 23:49
  • お、なんか始まりそうなひとこと(^^)ニヤリ

    ここまでのパプリ、長編ドラえもん「のび太と夢幻三剣士」に出てきた(夢のなかの)お姫様となんとなくカブるなぁ…

    シャア専用ボール
    男性/31歳/岡山県
    2018-06-12 14:48
  • シェアさん》
    ふふ、スタイリッシュとはとても言えない言い訳じみた言葉でかわされちゃいましたけどね(笑)
    やっとですね、話が動き出した感。私の中では既に完結まで思い描けているので、今しばらくなかなかたどり着かない真実をお待ち下さい。

    そのドラえもんのお姫さま、知りませんでした…そうなのですね。良い機会なので調べてみたいと思います。
    いつもレスありがとうございます、とても励みになります(о´∀`о)

    ちょっぴり成長したピーターパン
    女性/24歳/秋田県
    2018-06-12 16:46

LOST MEMORIES~prologueⅤ~

父は応える。
「そりゃ、イニシエーションなのだから、10年前の、お前と同じような年の子は経験している。」
どうしてあのときもっと詳しく読まなかったのだろう。悔やまれる。
10年前の文献。人間界には関する記述。……思い出せない。
もう父は普通の顔である。
「さて。それでは、決行は今夜だ。」
文献どころの話ではない。
「はい?」
思っていた以上の間の抜けた声が出る。
「あの、お父様。おっしゃっている意味が…」
「満月の夜、人間界に通じる道が開く。来月までここにいるだけの猶予はない。」
――はめられた。
瞬間的に悟った。断る権利もなかったということだ。断る暇をも与えられず、いかなければならない状況に追い込む。酷い手口である。しかしまんまとひっかかってしまったのだから仕方がない。
パプリエールは、父の手の上で踊らされることに決めた。

ちょっぴり成長したピーターパン
女性/24歳/秋田県
2018-06-12 13:47

LOST MEMORIES~prologueⅥ~

このことを、一体どれくらいの人物が知っているのだろうか。王室の行事ほど大袈裟にやるものもなかろう。それなのに。
自室へ戻るも、悶々としてしまう。今から、書物庫へでも行ってみようか。
いつの間にか窓は閉められ、風は入ってこない。メイドだろう。自分のもやもやした気持ちを吹き飛ばしてくれるものは何もなかった。
書物庫へ向かったものの、結局鍵がかけられていた。たまたまなのかもしれないが、それでさえも父の、イニシエーションとやらの中にいるようで、パプリエールは辟易していた。
父は確かに何かを隠している。ただの"通過儀礼"ではないような気がしてきた。
しかし時間は無情にも過ぎていく。すべては付き人を質問攻めの的にしよう。
夜が近づき、覚悟を決め、父の部屋へ再び向かう。その決心は、王宮以外での生活を知らない姫だから成せる技でもあった。

「ついておいで。」
パプリエールの存在を認知すると、立ち上がり言う。
「そこの本棚を、押しておくれ。」
ある予想をもって押すと、下に続く階段が現れる。地下にある隠し部屋といったところだろうか。
キャンドルに灯をともし、続くよう促す。
あまり歩かずして、扉が現れた。扉というより、枠,といった方が正しいような、そんな扉。そして、枠に囲まれたその空間が光っている。
「もう、時間だったか……。」
そんなことを、父は呟いた。父の方を見ると、うっすらと目元が光っている。
パプリエールは無意識的に視線をそらした。
「ここが、人間界に繋がる道ですね。」
確認だ。横ではうなずく気配がする。
「私、行きますね。」

ちょっぴり成長したピーターパン
女性/24歳/秋田県
2018-06-12 16:59

LOST MEMORIES~prologue last~

同時に、強く抱き締められる。いつぶりだろう、父に抱き締められたのは。
あまりにも急なことで、驚きはしたものの、のんきなことに思いを馳せてしまう。
ふと思う。やはり、何か裏がある。たかが成人の通過儀礼でここまで取り乱す親がいようか。母は最後まで姿を現さなかった。メイドはいつも通りのようだったのに。
やはり付き人を問いただすしかない。
「……すまない……」
唐突に聞こえた小さい声。音にするつもりではなかったらしいそれを、パプリエールは聞こえなかったフリをした。
ゆっくり父の胸を押して離れる。
「次にお父様とお会いするのは、成人の儀でしょうか。立派に成長した姿を見せられるよう、努力します。」
にっこりと微笑んだ。
そして、扉へ踏み出す。あれ以上父の愛情に触れては、出ていくものも出ていかれなくなる。
父の変わらないその愛を再認識できただけで、今は十分だった。
振り返らずに足を踏み入れることは、思っていたよりも簡単だった。

ちょっぴり成長したピーターパン
女性/24歳/秋田県
2018-06-12 19:50
  • PS;すみません、何の前置きもなくプロローグに終止符を打ってしまいました。Ⅵをあげ終わった後で次が最後と気付いてしまい、こんな形に…。

    次から、やっと本編が始動致します。パプリエールが人間界へついてからのお話。始めはもっぱら付き人とのやりとりになると思われますが、プロローグより断然しゃべらせるつもりでいます。
    どうぞ、一緒に楽しんでくださいね。

    ちょっぴり成長したピーターパン
    女性/24歳/秋田県
    2018-06-12 20:07