この物語の主人公は俺ではなく、桜木ノアである。
……と、大層なことを一言目に書いてしまったが、別に大した物語ではない。これは俺の視点で見たただの日常で、桜木ノアの友人としての俺の日々を切り取っただけの物である。
まあ、要するに物語なんかじゃない。
にも関わらず、俺がこうして文を書きつけているのは、創作物ではなくとも物語っておきたかったからだ。ただの自己満足に過ぎない。
けれども、この文を読んでくれる誰かがいればいいと思っている。だから、俺の拙い文で良ければ、暇なときにでも読んでやってくれないか。
桜木ノアという、強くて弱い、大胆なようでいてとても繊細な、矛盾した人物の話を。
「私はここに問題を抱えている」
桜木ノアと名乗った少女はそう言った。右手で銃の形を作り、それを自らの頭に突きつけながら。
入学式後のLHR。まだ様子を伺っている生徒が多く、好きなものがなんだとか、誕生日はいつだとか、当たり障りないことを口にしていた中、彼女はそう言い放った。
そして、クラスメイトの大半が思ったことだろう。『たしかに頭がおかしそうだ』と。
知り合って間もない生徒たちが皆一様に呆気にとられる中で、彼女は「けれど!」と続けた。
「私はここでどうにか生きてやるつもりだから。よろしく」
念のため言っておくが、サバイバルゲームやデスゲームは実施されていない。ここはなんの特徴もないただの学校である。それにも関わらず、彼女は『生きてやる』と宣言した。
案の定、俺を含むクラスメイトは皆ポカンとしたまま、席に戻っていく桜木ノアを見送った。
桜木ノアが自己紹介をしたのは、まだクラスメイトの半数にさしかかろうかという時だったのだが、全員の自己紹介が終わってもなお、彼女の言葉は妙に記憶に残っていた。
実は、彼女はその時、自分の決意を込めて『生きてやる』と宣言していたのだ。だから、それは自己紹介と言うより、決意表明と言った方が正しかった。
だがもちろん、この時の俺はそんなことを知るよしもない。
桜木ノアのパンチの効いた自己紹介から2週間が過ぎた。
俺は、桜木ノアと、友達と言うには浅く、しかし知り合いと言うのは薄情になるくらいの関係になっていた。まあ要するに、ちょっと、ほんの少しだけ、仲良くなっていた。
理由は明確。部活だった。
部活の体験に行った際、同じ方向に桜木ノアがやって来た時点で気づくべきだったのだろう。これはまさかと思いつつ部室に行くと、当然彼女も部室に入り、クラスが同じだからという単純な理由でチームを組むことになってしまった。『マジか』という言葉が思わず口から出そうになったのは言うまでもない。
しかし、俺にはあからさまに相手を避けるような趣味はないので、まあ上辺だけと思いながら、桜木ノアと話し始めた。
意外に話の合うやつだった。
それは好きなバンドや歌手が同じだったと言うだけのありふれた理由だったのだが、正直、宇宙人と話しているんじゃないかというくらい話が合わないことを想定していたので、俺は素直に驚いた。話しかけて来た外国人が日本語を流暢に喋ってくれた時と似ているのではないかと思う。(そんな経験したことないが)
その日本語を流暢に話す外国人と、しかも音楽の趣味まで合ったわけで、こうなるとテンションが上がるのも仕方なかった。
そうして思いのほか趣味の合った桜木ノアのイメージは、俺の中ではかなり変わったのだが、クラスメイト諸君はそうもいかない。
俺は、桜木ノアがグループワーク等必要に迫られた場合以外に、クラスメイトと話している姿を見たことがなかった。
いや、訂正しよう。
クラスメイトたちが必要に迫られた場合以外に彼女と話そうとしているのを見たことがなかった。
ゴールデンウィークの明けた今日この日。桜木ノアを取り巻く環境は再び変化を見せた。
先々週時点で桜木ノアはクラスメイト達から避けられていた。彼女とろくに話もしていない連中が悪評を流し、彼女との間に壁を築くことに成功したのだ。
しかしこの休みの間に、その壁の名前は『嫌悪』から『無関心』になったらしい。執拗に嫌がらせを受けることはなく、しかし受け入れられもしない、というのが桜木ノアの現状だった。
彼女がSNSのアカウントでも持っていれば、この状態はもっと酷いものになっていただろうが、彼女の持つ連絡手段はメールか電話なので、事態が悪化することはなかった。
クラスメイトの中で最も時間を共にしているであろう俺からすると、この状態は気持ちの良いものではなかったが、しかし、何をすることも出来なかったというのが事実だった。
いや、そもそもの話。
彼女はクラスメイトとの間に壁が出来ていることを気にしていなかった。
嫌悪されている間は居心地が悪そうだったが、嫌悪が無関心へと変わると、むしろ居心地が良さそうだった。彼女になぜその壁を気にしないのかというのを遠回しに聞いたところ
「だって、嫌われるのは周りにも迷惑じゃない? 嫌なヤツがいるな、と思いながら過ごすのは誰だって嫌じゃん。でも、今は、『いてもいなくても変わらない』って感じでしょ? それが一番ちょうどいいかなって」
と答えた。
ここで『俺はお前がいたほうがいい』とか言えれば物語のヒーローになれそうなのだが、実際に俺が言えたのは「ふーん」という意味のない返答だった。
だから、俺は彼女の言葉の真意にいつだって気づけないのだ。
相変わらず桜木ノアがクラスメイトから好ましく思われないまま2週間が過ぎた。しかし、それは嫌悪から来るものよりも、彼女の言った通り無関心に近いものだったため、本人は居心地の悪い思いをしていないようだった。
そのことに密かに安心している俺がいた。
彼女がクラスメイト達に嫌われている間、もちろん良い気分ではなかったわけだが、しかし何もすることができないまま時間が過ぎていた。時間が解決してくれることを願っている情けない俺もいた。
俺はいつも、そうだった。
クラスメイトがいじめられているのを見たこともあった。けれど無関係であることを主張するばかりで、そこから助ける努力なんてまるでしてこなかった。そんな自分が嫌だったはずなのに、高校生になってもまるで成長していない。
桜木ノアには、そんなことはなさそうだ。
俺には彼女が後悔しているところを想像することさえできない。彼女ならきっと、そのストレートな物言いで事件を解決に導けるのだろう。
そんなことを考えながら、自覚してしまった。
俺はどうも、桜木ノアのことを気にしている。
こちらこそありがとうございます!
逆に私のこと覚えてくださってたなんて嬉しい
です。
次も書き込む予定なので、よろしくお願いします!
今日、この日。
多くの生徒が一度はテンションをこれでもかと下げ、そして現実逃避とばかりに部室へと駆け出した。
要するに答案返却だ。
まあ、俺もそこまで良い成績ではなかったが……いつもよりは良い成績だったと言えるだろう。その要因は桜木ノアにある。
時を遡って5月後半。桜木が多くの生徒から無関心を獲得していた頃(今もそれは続いているが)、新入生学力調査という名目のテストが返って来た。
そのテストで桜木ノアという女子は学年10位内に入っていたのである。正直、単純にビックリした。勝手に平均値くらいだと思っていた。
まあ、桜木が高成績を取ったおかげでまたクラス内に賛否ができてしまったのだが、それに関しては桜木同様気にしないことにした。気にせずに桜木に教えを乞うことにしたのだった。
そんなわけで、依然としてトップクラスの成績を維持する桜木と、成績の改善が見られた俺は大して気落ちすることなく部活に向かった。
文化祭の準備を、始めなければならない。
文化祭。
それが行われるのは9月末のことなのだが、準備は早い方がいい。引退前の先輩たちが口を揃えて
「準備は絶対早くやれ。勉強しなくてもいいからやれ。早いに越したことはないんだ。『大丈夫』と言って大丈夫になるなら俺たちは悲鳴をあげていない」
と、ものすごい剣幕で言っていた。ただならぬ切実さを感じた。さすがに試験前に勉強しないわけにはいかなかったが、次のテストは夏休み明け。それまでの間は部活に集中しよう、ということで、俺たちは数少ない本番の一つである文化祭の準備をしていた。
まずは曲を決めなければならない。
ということで
「どうする? 手堅く有名アニメ映画から取ってくる?」
「いや、別に自分らの好きな曲で良くね?」
チームメイトの登場である。
手短に説明すると、アニメ映画推しは朝香真紀。校則ギリギリのヘアスタイルの割に堅実な女子部員。
好きな曲推しは平田春樹。真面目を絵に描いたように見えて実は不真面目な男子部員。
俺たちは4人で組んでいるので、この2人と俺、それに
「私、応援ソングがいいと思う」
桜木ノアの4人である。
アニメ映画推し・朝香、好きな曲推し・平田、両者の争いになるかと思ったが、そこに応援ソング推し・桜木ノアがやってきた。
「私、やっぱりこの部活って、届けられるっていうのが良いところだと思うんだよね。私たちの音を聴いてさ、前向きになってくれると嬉しいじゃん」
桜木は主張を続けたが、朝香、平田も反論する。
「いや、でもさ、それって聞いてくれる人がいる前提の話でしょ? だったら有名どこから引っ張ってきて客寄せしたほうが良くない?」
「だからその発想も客前提なんだって。自分たちの好きな曲をやるのが一番楽しいだろうよ」
激化しそうな口論の中に、俺は一言放り投げる。
「じゃあ一曲ずつやればいいだろ」
3人が一斉に俺を見た。別にそんなに驚くことではないだろう。
「俺たちが出来るのは3曲まで。だったらやりたいもん全部やれば良いだろ」
「……そっか。確かに」
口論の熱が冷めていくのを肌で感じる。
「お前は? やりたい曲ねーの?」
「俺はいいよ」
そんな感じで火種を回収し、詳しく曲を決め始めたときに
「やりたいこと全部、かぁ……」
と桜木が呟いたのは、誰も聞いていなかった。
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7/15更新と言いつつ完全に忘れていたので、本日投稿、桜木ノアです。
それは、夏休みの最中。
唐突ではあるが、桜木ノアと共にテスト勉強をしていた時のことだった。
勉強をしていたところ、どうにも解けない問題にぶち当たるという、なんともありがちな理由でやる気をなくし、スマホをいじっていた時のことであった。
「さっきからずっとスマホ見てるね」
桜木が俺を見ながら言った。
「いや、もう無理そうだから」
俺は適当に桜木に言葉を返した。
その特に何の意味も込めていない言葉が、俺にとって何の意味もなかったからこそ、彼女を傷つけた。
「……そう」
その声が冷えていることに気づいた。明らかに何かが変わった。けれど、何が変わったのか分からなかった俺は、火に油を注いでしまった。
「……どした?」
「いや、別に。君はそういう、諦めちゃう人なんだなーって」
「いいじゃんかよ、問題の一つくらい……。お前だって諦める時はあるだろ」
「……諦める時?」
その時、再び桜木ノアの中で何かが変わった。けれど今回は分かる。
変わったのは、温度だ。
「諦められるなら私はこんなに苦しんでない!」
それは。
今までに聞いたことのない桜木の悲痛な叫びだった。
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相変わらず投稿を忘れがちな私です。1日遅れでドン。
『諦められるなら私はこんなに苦しんでない!』
そう悲痛に叫んだ桜木ノアの前で、冷静になれなかった俺がバカなのは重々承知している。ただこの時の俺は、問題を一問諦めて、ついでにやる気も失くしただけなのにそこまで怒られる理由はないと、思ってしまったのだった。
「……こんなに苦しんでないって、たかが勉強の話だろ。分からない問題くらいあって当然だろ。何を勝手に苦しんでるんだよ」
「勝手に……? 勝手にって言った?」
「そうだよ、勝手だろ?」
「じゃあ、君は私が好き好んで苦しんでると思ってるの!?」
「誰もそうは言ってないだろ!」
「もしも、もしも諦められたなら……私がこれまで抱えてきた傷の意味は!? 私が何のためにここまでやってきたと思ってるの!?」
バンッと、桜木ノアは机を叩いた。
その音か、机を叩いた際の痛みか、何が桜木を冷静にさせたかは分からないが、彼女は冷静さを取り戻したようだった。
「……ごめん。カッとなって」
「……いや、俺も、悪かった」
「……でも、私は、やっぱり諦めないよ」
前を見据えて、桜木は言った。
「私は、可哀想な女の子になんてならないよ」
桜木ノアを怒らせてしまった夏休みが明け、平然と学校が再開した。
夏休みの思い出を話す生徒や、宿題が終わっていないと半笑いで嘆く生徒たち。
その中に、桜木ノアの姿はなかった。
連絡は事前にもらっていた。部活のグループラインで『ごめん。体調崩しちゃって、しばらく休むかも』と言われていたのだ。
朝香と平田のいないこのクラスの中で、桜木が休みだと知っているのは俺だけだったのだが、しかし、クラスメイトたちは桜木の姿がないことなど気にも留めていなかった。そのことに不快感がなかったと言えば嘘になるのだが、俺は俺で普段関わりのない相手が休んだところで大して心配はしないため、人のことは言えない。
まぁ、実際のところ桜木はそれほど休んでいたわけでもないし、学校に来たときにはとっくに元気になっていたようなので、俺は安心した。
安心していた。
安心してしまった。
桜木らしくもなく成績を落としていたにも関わらず。
文化祭一週間前の部活の日、俺は桜木のことなんて何も分かっていなかったのだと知ることになる。
桜木ノアが、姿を消した。
唐突なことだった。部活の合間、休憩中に部室から駆け出していったのには違和感があったが、まさかそのまま帰ってこないとは思わなかった。下校時刻数分前。桜木はカバンを置いたままだ。俺は桜木を探すためにほんの数分ではあるが、部活を早退していた。
学校中を駆け回っていたのだが、桜木ノアは見つからない。もう下校時刻のチャイムは鳴っている。まさかカバンを置いたまま外に出たのだろうかと思ったところで、着信音が鳴った。
桜木からだった。
メッセージは簡潔。
「社会資料室に来て」
社会資料室へ向かいながら感心してしまう。確かにそこは盲点だった。資料室なんて普通の生徒は行かない。完全に見逃していた。
校舎の隅っこの資料室に着くと、桜木がドアを開けてくれた。内側から鍵をかけていたらしい。問い詰めたいことも怒りたいこともあったが、俺はそれをぶつけることは出来なかった。
桜木の頬を、涙が伝っているのを見てしまった。
社会資料室に篭っていた桜木は涙を流していた。
目の前で女子が涙を流しているというのに俺は何もできない。しばらくお互いに固まったままだった。
「……ごめん」
沈黙を破ったのは震え声の謝罪だった。
「……みんな心配してたぞ」
「……あ」
桜木は一段と申し訳なさそうな顔をして
「みんなのこと、忘れてた」
と言った。
正直、怒りたくもなったが、泣いている女子をさらに泣かせる趣味はない。ここはノータッチでいくことにした。いや、俺にはノータッチにしておくことしかできない。桜木がなぜここに逃げ込んできたのか、なぜ泣いていたのか、なんと声をかけていいのか、何も知らないのだから。
「ごめんね。自分のことでいっぱいいっぱいで」
啜り泣き程度に落ち着いてきたらしい桜木は、どこから話したものかと思案する表情を見せた。
「……聞いてくれる?」
「この状況で人を見捨てるほど薄情じゃない」
あはは、と笑うよりはそう言って。
桜木ノアは打ち明けた。
意味わからないかもしれないけど、と前置きして。
「私はね、日常的に日常生活ができないの」
日常的に日常生活ができない。
それは、どういうことなのだろう。
「なんかさ、身体が、動かなくて。いや、動くはずなんだけど、動かなくて。家に帰った後とか、うずくまったまんま動かなかったりする。1時間……とか。ご飯も食べずにお風呂にも入らずに、なんならイスにも座らないで、床にうずくまって膝抱えて」
桜木は、どこかここではない別の場所を見ているかのように見えた。
「声が、するときもあるんだよね。心の声が。『痛い、苦しい、嫌だ』って。ずーっと。いや、まあ3時間もすれば無くなるけどね。でも、その間はずーっと。言われるだけで結構苦しいんだよね。それで、いつもはそんなことないんだけど、部活中にそんな風になっちゃったから、つい……。まさか部室でいきなり泣くわけにもいかないしさ」
あはは、と言って。桜木は、またどこかを見る。
俺にはきっとその言葉の半分も理解できていないけれど、彼女が色んなものをこらえてきたのは分かった。
だから。
「言いたいこと、正直なこと、全部言ってみろよ」
その全てを、吐き出して欲しいと思った。
桜木ノアが抱えてきたもの全て聞きたいと、聞きたいというよりは外に出してほしいと思ったのだが、桜木は戸惑ってしまった。
「えっ……と、正直なことって言われても、よくわからないかな」
「……何もお前は嘘ついてきたわけじゃねーだろ。他にも何か、隠してきたことがあるんじゃねーかと思ってさ」
「隠してきたこと、か」
心当たりがあったのだろう。桜木は俺から目を逸らし、一呼吸の間の後に言った。
「みんなのことが、羨ましい」
そこからは、堰を切ったように言葉が溢れ出した。
「みんなさ、朝起きて、学校行って、帰ったら、めんどくせーなーなんて言いながら宿題したり……とかさ。そんな何気ないことを、何気ないものとして出来るのが、すごく羨ましい」
その意味を、完全に理解することはきっとできていなかった。だってそれは、桜木も当たり前にやっていることだと思ったから。
「きっと、みんなにとっては大したことじゃないんだよね。宿題は人によるところがあるとしても、歯磨きとか。歯磨きするまでに1時間以上かかったりしないでしょ? やっぱりそういうのは、煩わしいよね。毎日だし。余計に睡眠時間削られるし。そんなときにさ、『めんどくせー』なんて声聞いちゃうとさ……腹立つよね」
「わかってるよ。そりゃ。みんなにとってはこんなの悩むようなことじゃないし、ていうか言えないし。歯磨きができないんだけどどうしたらいいと思う?なんて、頭おかしいじゃない。……いや、頭おかしいんだけどさ。頭っていうか、たぶん、心が。精神が。でも、理解されないじゃない。言っても分かる人がいないじゃない。だったら……言っても意味がないじゃない」
あぁ、なぜだろう。申し訳ないことこの上ないのだが、しかし、これが俺の本心である以上、偽るわけにはいかない。
俺は、桜木ノアに対して、怒っている。
泣いている女子をさらに泣かせる趣味はないと言いつつ、結果的に桜木を泣かせてしまった俺だが、後悔はなかった。
桜木が、「泣いてもいい?」と言ってくれたから。
とっくのとうに泣いていた桜木に改めて許可を出すと、彼女は今までで一番の号泣を始めた。そんな彼女にどんな言葉をかけていたか、細かいことまでは覚えていないが、「今まで辛かったよな」とか「可哀想なんて思ってねーよ」とか、そんなことを言った気がする。
俺の声か、桜木の泣き声か……多分後者だろうが、それが教師を呼ぶ形になり、俺たちは怒られた。教師側からすれば、下校時刻もとっくに過ぎた後に、密室で男子生徒が女子生徒を泣かせているように見えなくもないのだから、まあ仕方ないだろう。
ただ、この時何と怒られたのかはまるで覚えていない。桜木に至っては「あの先生怒ってる時ずーっと眉がピクピク動いてて面白かったね」と言ってのけた。メンタルの切り替えが早すぎる。
ともあれ、桜木失踪事件はこうして幕を降ろした。
文化祭当日。
2日間の文化祭で、俺たちの発表があるのは1日目だ。(ちなみにクラスでは展示をやっているため、特に仕事はない)
桜木は『自分の体力を温存するため』と言って休憩所からほとんど動かなかった。俺はそれに付き合っていた。付き合っていた、というか、ただ桜木の望む物を買いに行っては帰ってきてを繰り返していたので、パシリと言えなくもない。まぁ、最初から最後までずっと一緒にいたわけではないので、付き合っていた、というよりは、様子を見ていた、と言った方が正しいかもしれない。
桜木が文化祭を楽しめたのかは謎だが、ひとまず部活の発表は無事に成功した。
そして、この文化祭を機に、桜木は行動を開始した。部活のメンバー、担任、家族に自分の現状を打ち明けたのだ。
頑なに隠していた苦しさを打ち明けるのは、桜木にとって簡単なことではなかった。本人が言うには家族に言うのが一番難しかったらしい。
けれど桜木はその試練を乗り越え、自分にとって一番やりやすい環境を手に入れた。
4月から半年ほど綴ってきた桜木ノアの物語も、次でフィナーレだ。
「私はここでどうにか生きてやるつもりだから」
4月。彼女は自己紹介の際に、そんな決意表明をしていた。
あの時はまるで理解出来なかったそのセリフも、今なら分かる気がする。
彼女は今も戦っている。
人から理解されにくいあれこれと。
けれど、電話越しに聞こえる彼女の声は、文化祭前後と比べれば随分柔らかくなっていて、安心した。
……さて、白状しよう。
俺は、桜木ノアのことが、好きになっていた。
そんなはずない、と自分の心の中を何度も確かめたのだが、桜木の存在が俺から離れることはなかった。『無理だ、勝てない』そう思って俺はこの気持ちを素直に認めることにした。
まぁ、そんなことはどうでもいい。
大事なのは桜木ノアという女子生徒が、今も、そしてこれからも、自分の中に折り合いがつくまで戦っているということだ。
そしてそれを、ほんの少しであろうと知っている人がいるということだ。
桜木ノアという女子の存在が、心の中に残っていることを切に願う。
(終)
自己満足のための連載が終わりを迎えました、333とかいてささみです。
4月から始めた連載が11月に終わりました。最初から最後まで読んでくれた方はいらっしゃいますでしょうか。オール0かもなのが怖くてスタンプを見てない私です。(スタンプ押してくださってる方がいらっしゃったらごめんなさい。いらっしゃる場合はレスをくれると反応できます)
桜木ノアのお話は元々文芸部の部誌に載っけたものを連載の形にしているので、まあ色々と無茶なことしてます。辻褄があってない。結局主人公は全てが終わった地点にいるのか、進行形で語っているのか最後まで謎。文章力の低さがうかがえる。まあ作品自体に大きな影響はありませんが。
私が伝えたいこと、というかぶちまけたかったことは8月、9月、10月(?)らへんに集中していると思うのでそこだけでも読んでいただけると嬉しいです。まとめも作ります。
どうか、桜木ノアという1人の女の子の生活がより多くの人に認知されますように。
ずっと読んでましたよ
連載、本当にお疲れ様でした!
なんて優しいんだ…
ささみちゃんありがとう…!!!