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サーカス小屋シリーズです 多分まだ増えますね、はい。

サーカス小屋    #玉乗りのグレース・ケリー

暖かい拍手、なんて、うそだった。
「失敗しても一生懸命やれば、大丈夫」
そう言う彼女たちは、みんな、失敗を知らなかった。
「失敗を怖がるな」なんていっても、失敗を恐れなければ
あの、糸をピンと張りつめたような緊張感は、味わえない。
固唾をのんで見守る観客
古ぼけたテントの外の闇
私だけを照らす一筋の光
それらが集まって初めて、私は「玉乗りのグレース・ケリー」になれる。
本物のシンデレラと呼ばれるグレース・ケリー。
彼女は失敗を恐れていたのだろうか。

とにかく。
私は、今を生きるだけ。
ほら、拍手が聞こえる。
ただ、胸を張って玉の上で美しく踊ればいい。

天から差し込むスポットライトを浴びて。

ねこの音楽隊
女性/14歳/滋賀県
2019-12-27 13:46

サーカス小屋  #猛獣使いのアンデルセン

もう手の届く距離にあるのに、手を伸ばせなかった。重い鉄の輪がはめられているように、指一本動かせない。腕を引きちぎって、口にくわえてでも手に入れたいと思った、あの栄光。一番になるには、ライバルたちを蹴落とし、それを踏んででも優雅に歩かなければいけない。
 トップに立つことは、決して容易ではない。立ち続けるのは、もっと難しい。そう思っていたけれど。「トップ」というステージに立って分かった。猛獣使いを目指す少女は星の数ほどいる。その中で「猛獣使いのアンデルセン」を襲名できるのは、たった一人。その「たった一人」になればいいのだ。1度そのステージに立てば、スポットライトの方が私を追ってくれる。私はただ、獣たちと戯れて、悲鳴のような歓声を浴びればいい。
 スポットライトの下でなら、私の最も美しい姿で死ねる。それが、今の目標だと思った。

口笛と拍手が近づいてくる。

ねこの音楽隊
女性/14歳/滋賀県
2020-01-24 17:27
  • 初期のころから読んでいますが、この文章、いちばん好きです。
    ところで13歳のセンスとは思えないのですが、本当に13歳ですか? 
    本当に女子ですか? 
    もしかしたら帰国子女?
    だからこんなエキセントリックな文章が書けるのかな。

    総合して考えた人物像
    40代の、外国文学好きなセレブの専業主婦!
    スミマセン、もちろん冗談です。

    ハバネロソーダ
    男性/16歳/栃木県
    2020-01-24 21:11
  • カッコいい‼️

    島根の守護神
    男性/15歳/島根県
    2020-01-24 23:50
一番好評でした。ありがとうございます

サーカス小屋 #歌姫のサン=テグジュペリ

私が少しメロディを奏でるだけで
涙を流して喜んでくれる人達がいる。
私が居酒屋であの歌を口ずさめば
コインを投げてくれる人達がいる。
サーカスの中で一番歌がうまかったから。
ただそれだけのことなのに
なぜこんなにちやほやされる?
私は聞かせたいわけではないのに
なぜ歌うだけで拍手が起こる?
本当は、誰にも聞かれたくなかった。
私がメロディに心をのせて歌っているところは
誰にも覗かれたくない。
心を覗かれるのはなによりも苦しい事だから。
私が1人になれるのは
心の中だけのはずだったのに。

それでも私はこのテントの中で唄う。
埃と蜘蛛の巣で霧のかかったテントで。

私の心は
貴方に届いていますか?
そのために歌っているのだから。
私が唄を聞かせたいのは
どこかにいる貴方だけ。
それでも私は拍手をもらう。

この大きな拍手だけでも
貴方に届いていればいいと願いながら。

ねこの音楽隊
女性/14歳/滋賀県
2020-05-18 15:31

サーカス小屋    #ピエロのカフカ

「生きていてよかった」「即死となりうる状況だったんだよ」
「もう、綱渡りは無理だけど……」そのあとの言葉を続けられる者は、誰もいなかった。
「本当に、運がよかった」本当に運が良ければ、こんなことにはならなかった。
あの日、私は「綱渡りのサン=テグジュペリ」の名をもらった。猛獣使いのアンデルセンと共に、ライバルたちからの、痛いほどに冷たい拍手を受けた。
 私は今、幸せの絶頂にいるのだと思った。襲名できなかった者たちの視線の矢でさえも、心地よく思えた。でも、人生はそう簡単なものではないらしい。
 真夜中に、私たちの瞭の部屋が燃えた。私は、ルームメイトで唯一の生き残りだった。
 理事長は、私を気の毒そうに気遣ってくれた。優しい言葉の方がきつく刺さるのだと、初めて知った。
 綱渡りは、我らがサーカスの花。美しい者のみが、その名を名乗れる。私のサンテグジュペリ人生は、一日足らずで終わった。顔の右半分が、ひどいやけどを負った。よりによって、観客の方を向いた右側。私は、見た目で役を下ろされるような、こんなサーカスにあこがれていたのか、と自分に落胆した。
 今、私は、二位の実力を持った「サン=テグジュペリ」の前座を務めている。
 顔を隠す、ピエロの仮面をかぶって。
 屈辱的だと思った。新たなサン=テグジュペリ」を、呪ってやりたいと思った。でも、現に今、私はジャグリングを披露している。心なしか冷やかしに聞こえる拍手を背に、ステージを後にする。
 サン=テグジュペリ」が私と入れ替わりにステージに立つと、大きな歓声が上がった。私はそっと、三面鏡の前でピエロの仮面を外す。醜いやけど跡に自然と目が行く。思わず化粧台を思い切り叩いた。
「誰が 助けてくれと 望んだ!」
なぜ、あのまま死なせてくれなかったのだろう。それは、人間の優しさであり、醜さなのだろうか。

ねこの音楽隊
女性/14歳/滋賀県
2020-02-04 18:06

サーカス小屋    #調律師のシューベルト

それらしい表情で
「音が外れているので直してくださいな」
という貴婦人。
わざと少しずらしたままにしたら、
「まあ、やっと治りましたわ」
だそうです。まあ、僕は完璧な音は嫌いなのですが。
人々は、不協和音をなぜか嫌います。自分の「音」が外れることを恐れ、その「音」を封印してダレカの「音」に合わせます。
本当は苦しいのに、その感情さえもねじ込めて感じなくします。
本当は、この世の中は不協和音だらけのはずです。全く同じ人間など、いるわけがないのですから。
調和することに何の意味があるのか、僕にはわかりません。ダレカと全く同じになりたいのでしょうか。
まわりに合わせることで安心感を得て、はずれた「音」を指さして嗤い、優越感を手に入れて満足する。でも誰でも、心のどこかに引っかかっているのです。
この優越感を得るのと同時に、罪悪感に心をくいむしられ、
安心感を抱くのと同時に、何かへの不安を覚えている気がしてならないと。

ねこの音楽隊
女性/14歳/滋賀県
2020-02-21 18:06