2

「ハブ ア ウィル ―異能力者たち―」4つ目のエピソード「フェアリー」前半戦、①~⑩のまとめ。

ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 4.フェアリー ①

席替え、といえば、学校のクラス内の小さいながらも不思議と存在感のあるイベントの1つだ。
嫌いな人が近くの席になったら落胆するし、仲の良い人が近くの席になったら歓喜する。
クラスの人々の様々なものが一気に浮き彫りになる、そんなイベントだ。
でも、わたしは誰が隣になろうと、誰が前になろうと後ろになろうと、あまり気にならない。クラスに仲の良い人なんていないのだから。
特別嫌いな人とかもいないから、わたしにとっては何も思うことのないイベントなのだ。
今日の6時間目は席替えで、クラス内は朝からちょっと浮かれ気味だった。
わたしはそんな人々を気にせずこの間買った本を読んだりしていたが、耳に飛び込んでくる席替えの話を聞きながら、時々こんなことを考えていた。
―”彼ら”は、自分のクラスのことを、どう見ているのだろう。
形式上の”友達”―と言うべきなのか少し怪しいけれど、この間なんとか仲良くなれた”彼ら”は、席替えで浮かれていたりするクラスを、どう思っているのだろう。
もちろん”彼ら”はみんな違う学校だし、尋ねてもきっと教えてはくれない。
―でも、”普通の人”である自分とはまた違った風に周りを見ているのだろう。

テトモンよ永遠に!
女性/20歳/東京都
2019-05-29 23:32
「4.フェアリー」開幕。

ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 4.フェアリー ②

”彼ら”って、よく分からない―わたしはそう心の中で独り言を言いながら、席替えのくじを引いた。
数分後、クラスの全員がくじを引き、中身を確認した後、座席の移動が始まった。
ちなみに、わたしの席は大体教室の真ん中らへんになった。
以前の席からそこまで離れてないから、慣れるのにあまり時間はかからなそうだ。
だが、わたしの1つ前の席になったは―
「あっ、よろしくね! 不見崎(みずさき)さん」
高い位置のツインテールがトレードマークの、クラスの人気者”笛吹 亜理那”。
わたしとは正反対の人物が、わたしの1つ前の席になった。
別に、誰が近くに来ようと気にするつもりはない、だが―
彼女は人気者で、いつも周りには仲の良い女子達が付いている。
…何か面倒なことに巻き込まれてしまいそうな気がした。
そもそも、こういう人はわたしみたいなのと関わること自体あまりないと思うから、別に良いのだけれど。
が、想定外のことが起こった。
「不見崎さんおはよ~」
席替えの翌日の朝、普段通りに学校に登校して、いつものように自席に座った。
ここまではいつもと何も変わらなかった。
だが、わたしが席についてから、少し後に登校してきた笛吹 亜理那は、今まで一度も関わったことがないはずのわたしに、声をかけてきたのだ。

テトモンよ永遠に!
女性/20歳/東京都
2019-05-30 23:46

ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 4.フェアリー ③

彼女はおしゃべりで社交的だから、そこまでおかしいことではない。
最初はそう考えた。しかし―
「不見崎(みずさき)さーん、次何の授業だっけ~?」
「あ! 一緒に理科室行こー」
「ねぇ、まじ眠くない…?」
どうしてだか、その後も彼女からの接触は続いた。
話しかけられてつい疑問に思うのは、彼女の話しかけ方がどこかあからさまに理由があるような気がすることだった。
彼女の席の周りには、わたしだけではなく彼女の友達が何人かいるのに…なぜわたしに?
理由なんか分からない。いや、そもそも聞く勇気すらない。
ただ、何かありそうな気がしていた。
まぁ、ある程度の理由をもってわたしに関わってきた人がいるから、そのせいで疑心暗鬼になっているだけかもしれないけど。
でも、わたしにこんなに話しかけてくるのは笛吹さんだけで、彼女の取り巻き達は何もしてこないから、彼女は自分の意志でこんなことをしているのだろう。
むしろ、彼女の取り巻き達は、わたしが笛吹さんと一緒にいると若干冷ややかな視線を送ってくるので、彼女らは、わたしのことはどうでもいい、というかなぜ亜理那と一緒にいる?、と思っていることは確かだった。

テトモンよ永遠に!
女性/20歳/東京都
2019-05-31 23:21
  • 嬉しいです!そういう風に言ってもらえると
    四人の物語を書いていて本当に良かったと思いました。これからも執筆頑張ります!テトモンさん、英検頑張ってください!

    イカとにゃんこ
    女性/17歳/埼玉県
    2019-05-31 23:49
  • レスありがとうございます!
    これからも、彼女らの物語を紡いでいってください! こっちも執筆とか、目の前に迫ってる英検とかも頑張るんで!

    テトモンよ永遠に!
    女性/20歳/東京都
    2019-06-01 00:07

ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 4.フェアリー ④

わたしはわたしで、なぜか話しかけてくる笛吹さんに戸惑いながら、とりあえずは平穏に過ごしていた。
が、この平穏がずっと保たれるわけはなく。

「…あれ?」
席替えから1週間ぐらいが経った日の、休み時間のこと。
たまたまトイレから戻ってきたわたしは、自分の机の上に、何となくどこかで見たような気がするペンが置いてあるのに気付いた。
もちろんわたしのものではない。
これって、確か…、わたしはそう思いながら、ファンシーなデザインのそれを手に取った。
どっかで見たような気がするけれど、イマイチ思い出せない。
多分なんか床に落ちていたから、近くにあったわたしの机に誰かが置いたのだろう。
ずっと自分の机に置いておくわけにはいかないから、誰のかはさておき、わたしはこれを教卓の上に置こうと黒板の方へ向かおうとした、が。
「あ、それ」
教室の入り口の方から、フッと知っている声が飛んできた。

テトモンよ永遠に!
女性/20歳/東京都
2019-06-03 23:20

ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 4.フェアリー ⑤

思わず声が聞こえた方向を見ると、そこにはわたしの前の席に座っている笛吹さんの取り巻き達がいた。
「…それ亜理那のじゃん」
取り巻きの1人が、そう言ってこちらに1歩近付く。
「何やってるん不見崎(みずさき)」
「あ、まーさーかーっ」
他の人たちも不審そうにこちらへ寄ってくる。…めちゃくちゃ嫌な予感がした。
「えっ、あっ、違うよっ、これはただ…」
「…まさかそれ亜理那から奪おうとしたとか」
近寄ってきた取り巻きの1人の言葉に、わたしは動けなくなった。
「え? ちょ、やばくね?」
「うーわー、ひっでー」
「てか亜理那とちょっと仲良くなったから調子乗ってんじゃね?」
「あ、ソレ思った」
「なに? アンタ亜理那の恩恵受けたいの? アンタみたいなのには無理よ、そんなの」
「つかさー、なんでアンタみたいな奴が亜理那と―」
めくるめく非難の数々。他の女子達はただ周りから静かに傍観し、男子たちは気まずそうにこの場から離れていく。

テトモンよ永遠に!
女性/20歳/東京都
2019-06-04 23:35
  • こういうのホント怖いですよねー………。

    何かが崩壊している者
    男性/21歳/埼玉県
    2019-06-05 18:34
  • レスありがとうございます。
    作者であるぼくが言うのもアレだけど、これホントに書いてていいのかなってちょっと躊躇してたんですよね。でもストーリーの進行上必要なシーンだから、ためらいながらも書いてました。

    今日もお楽しみに。

    テトモンよ永遠に!
    女性/20歳/東京都
    2019-06-05 22:43

ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 4.フェアリー ⑥

味方は誰もいない。どうこの場を切り抜ける―?
「あとで先生来たら言おー」
「てゆーか、早くそれ返せよ。この―」
そう言いながら、笛吹さんの取り巻きの1人がわたしに手を伸ばした―
「…何してんの?」
ふと聞き慣れた声が耳に飛び込んできて、わたしと笛吹さんの取り巻き達は、その声の主に目を向けた。
「…あ、亜理那」
わたしや彼女らの視線の先には笛吹さんが立っていた。
「ねー茉花、実柚子ー、何してんのー?」
「あ、いや…」
「亜理那亜理那、こいつがさー、亜理那のシャーペン盗もうとしたー」
取り巻きの1人がわたしを指差し言う。
「…不見崎(みずさき)さん、ほんと?」
笛吹さんはわたしの方を見て首を傾げる。
「い、いや、そういうのじゃないんです。たまたま机の上に乗ってて…」
わたしの言い分を聞きながら、笛吹さんは「ふ~ん」とうなずいた。
「…だってさ」
そして彼女はわたしの話を聞き終えると、彼女の友達たちの方を向いた。

テトモンよ永遠に!
女性/20歳/東京都
2019-06-05 23:57
  • 笛吹さんかっこいい!
    あ、レスありがとうございます。世界線はうちの子なら簡単に超えられますので、その点はお気になさらず。
    いやー、ほんっと笛吹さんかっこいい!素敵!こういう人たちこそが上へ行くべきなんですよね!取り巻きみたいな奴らじゃなく!
    というか、もしかしてこのフェアリーって笛吹さんのことだったりするのかな。今回まだ能力者出てないし。
    続きが楽しみです!

    何かが崩壊している者
    男性/21歳/埼玉県
    2019-06-06 05:59
  • レスありがとうございます!
    そうですね! 「ヨニヒト」の彼らなら、余裕で世界線ぐらい超えられるでしょうね(多分あの子の能力使えば十分いけると思います…)。
    サブタイトル「フェアリー」の意味は、まだ秘密です。読み進めるうちに分かってくると思いますが…

    今日も連載します!

    テトモンよ永遠に!
    女性/20歳/東京都
    2019-06-06 14:11

ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 4.フェアリー ⑦

「え、でもさ亜理那。、もしかしたら嘘ついてるかもしれないんだよ? あとさ、もしこいつの言い分が正しかったら、誰がそこに亜理那のシャーペン置いたの? ウチらこの教室にずっといたけど、そんな人見てないし」
「それな。周りの人だって見てないだろうし…そうでしょ?」
笛吹さんの取り巻きの1人が、そう周りに呼びかける。
この様子を見ているクラスの人々は、黙りこくっている。
「ほらね、誰も答えない。てことは見てないも同じよ。だから悪いのは―」
「でもそうかな?」
笛吹さんが、取り巻きの1人の言葉を手で遮る。
「あたしはそうじゃないと思うんだけどなー。本人は嘘ついてる感じしないし」
その言葉に、取り巻き達は愕然とする。
「亜理那まさか⁈」
「だ、騙されてるんじゃない?」
「ちょっと仲良くなったからって、すぐ信じるのは良くないと思うんだけど」
笛吹さんの取り巻き達が、ぐいとこちらに詰め寄る。
どう考えても大ピンチだ―もういっそ…
わたしは覚悟を決め、口を開こうとした―

テトモンよ永遠に!
女性/20歳/東京都
2019-06-06 23:43
  • 食い下がるねぇ取り巻きたちww

    何かが崩壊している者
    男性/21歳/埼玉県
    2019-06-07 00:00
  • レスありがとうございます。
    ええ、ええ。彼女らはそう簡単に引くような人たちじゃないんでねぇ…
    今日も連載します!

    テトモンよ永遠に!
    女性/20歳/東京都
    2019-06-07 19:04

ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 4.フェアリー ⑧

「まぁまぁみんな、そこまで疑わないの」
「でも…」
「―不見崎(みずさき)さんは何もしていない、なんにも、ね?」
笛吹さんは眼を細め、満面の笑みでそう言った。
すると、さっきまで敵意や嫌疑が滲んでいた彼女達から、それらが急激に薄れていった。
「…そう」
取り巻きのうちの1人がぽつりと呟いたところで、授業開始のチャイムが鳴った。
ちょっと前まで殺気立っていた彼女らは、何事もなかったかのように自席へと向かっていく。
「いやー、大変だったねー。何かゴメンねー、あの子たち…」
笛吹さんは笑顔でわたしの方を向いた。
「ねぇ笛吹さん―」
ふとさっき思ったことが、思わずわたしの口をついて出かけた。
「あ、先生来たから続きはあとね。…放課後、誰もいないときに話しましょ」
何かに気付いたのか、笛吹さんはわたしの言葉を手で遮った。
その顔は相変わらずの笑顔だ。
わたしは、モヤモヤした”何か”を抱えたまま自席についた。
さっき笛吹さんが友達たちを制止した時、その細まった目が微かに光ったのは、ただの見間違いじゃなかろうか―

テトモンよ永遠に!
女性/20歳/東京都
2019-06-07 22:56
  • うわあああ、笛吹さんやっぱりいいぃぃぃい

    何かが崩壊している者
    男性/21歳/埼玉県
    2019-06-10 22:23
  • レスありがとうございます。
    さーて、今日の彼女は一体何を見せてくれるんでしょうね~?

    今日も連載します!

    テトモンよ永遠に!
    女性/20歳/東京都
    2019-06-10 23:09

ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 4.フェアリー ⑨

「ねぇ、笛吹さん」
今日の授業が全て終わって帰りの学活も済み、クラスの人々が掃除し始めてから、わたしは、6時間目の授業が始まる前に「あとでね」と話を区切った笛吹さんに話しかけに行った。
「あー待って待って…、多分不見崎(みずさき)さんが今話したいことって、ここじゃできそうにないからとりあえずあっちで話そう」
笛吹さんは自分の鞄を背負いながら廊下を指差した。
「あ、うん」
「てか、今日この後暇? 部活とか…ないよね?」
笛吹さんはふと思い出したようにわたしに尋ねる。
「そうだけど」
まぁ部活は暫くの間行ってないから、別にいいのだけど、とわたしは心の中で付け足した。
「じゃ廊下で待ってて、あたしは茉花とかに先帰ってていいよって言いに行くからー」
彼女はそう言って、仲の良い友達たちがいる方へと行ってしまった。
わたしは、彼女の言った通りにとりあえず廊下に出ることにした。

テトモンよ永遠に!
女性/20歳/東京都
2019-06-10 23:43

ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 4.フェアリー ⑩

廊下には様々な人々がいつもと変わらず行き来している。
…きっとこの中にも、わたしが出会ってしまった”彼ら”のような人間がいるのだろうな、と廊下を行く人々を見ながら思った。
だって笛吹さんも…いや、まだ彼女も”彼ら”と同じような人間だと決まったわけじゃないし、そもそもあれは…
そう自分の中で考えを巡らせているうちに、笛吹さんが廊下に出てきていることに気付いた。
「あ、ごめんね、待たせちゃって…じゃ、あっち行こっか」
「え、あっちって…」
ちょっと戸惑うわたしに、彼女はにこりと笑った。
「東階段。あまり人がいない場所だから、ね?」
確かに、わたし達2人が考えていることが一致しているのであれば、これからわたしが話す内容的にも、人があまりいないところの方が良いかもしれない。
「…わかった」
わたしがそう答えると、笛吹さんはちょっとうなずいて、人の少ない東階段の方へ歩き出した。
それから暫くして、わたし達は東階段に到着した。
そして、そこからさらに階段を下りて行ったところにある階段の踊り場に辿り着いたところで、笛吹さんはわたしに向き直った。

テトモンよ永遠に!
女性/20歳/東京都
2019-06-11 23:53
今回はここまで。続きは後半戦のまとめで。