「ここなら多分誰にもバレないね…で、不見崎(みずさき)さん、何が聞きたい?」
彼女は笑顔で首を傾げた。
「あー、えーと」
急に話を振られたせいで、わたしは一瞬混乱した。
「…笛吹さんてさ、」
わたしが恐る恐る話し始めると、彼女はちょっとうなずいてこちらの目を覗き込んだ。
少しの間を置いて、わたしは質問の続きをした。
「…もしかして、”異能力者”?」
「もちろん!」
笛吹さんはにっこりと笑って答える。
「ていうか、ソレ言われるの分かってたんだ、あの時点で。そもそもあの時の能力発動は半分くらい意図的なものよ?」
半分予想通り、半分予想外の返答に、声が出なかった。
「まぁ、”力”を使わなくてもあの場はどうにかできたかもしれない。でも、時間なかったし…それに、不見崎さんなら分かってくれると思ってたから」
「え、どういう…?」
わたしは思わず呟く。分かってくれる、って…?
レスありがとうございます。
ええ、そうなのですよ… 彼女の言う通り。
今日も連載します!
「不見崎(みずさき)さんは特殊な存在。常人なのに”異能力”の存在を知ってしまった、例外中の例外…そうでしょ?」
彼女は笑顔で言い放った。
「え、ちょっと待って、なんでそんな事知ってるの??」
わたしは困惑した。別に笛吹さんに何も言ってないのに…なぜわたしが”異能力の存在を知っている”人間だと気付いているのだろう。
「…もしかして、知り合いに―」
笛吹さんがこの事を知っているとなると、どう考えてもわたしが”異能力”を知るきっかけになった”彼ら”とつながっているとしか考えられなかった。
「ううん、誰かから聞いたっていうか、風の噂みたいなもので流れてきたの」
「え?」
予想外の答えに、わたしはちょっと力が抜けてしまった。
「異能力者には異能力者のコミュニティみたいなのがあるの。異能力者間で起こったゴタゴタとかを共有したり、お互い困った時とかに協力したりするんだ。
へ~、とわたしはうなづく。
「異能力者は特別多いってワケじゃないからね~ 何か、同類とか、仲間とかいた方が良いでしょ? 安心できるし。だからこういうコミュニティが出来たりするんだけどね」
確かに、「異能力者は普通少ない」って、セレンさんも言ってたっけ。
笛吹さんはさらに続ける。
「まぁ…この街は普通よりちょっと異能力者が多いんだけどね。その分、情報とかはが伝わるスピードが速いし…あと、いわゆる”情報屋”みたいなのもいるから」
「”情報屋”…?」
わたしは思わず彼女の言葉を繰り返す。
「そういう感じのだね、その人は。寿々谷で起こった異能力にまつわる情報を、勝手に集めて他の異能力者に教えたりするんだ。もちろん、教えてもらうには、それ相応の”代価”が必要だけど」
彼女は階段を1段、トンっと下りた。
「”異能力”のことを知ってしまった常人がいるって言うのは皆がチラチラ言ってたから知ってたけど、名前はその人から教えてもらったんだ~。…そしたらビックリ、まさかそれは後ろの席の人だったとはね」
そう言って笛吹さんはわたしに笑いかける。
わたしは終始笑顔でいる彼女の話を聞きながら、ふと疑問が浮かんだ。
―なぜ”情報屋”は、わたしの名前を知っているのだろう。
「”異能力”を知ってしまった常人がいる」ことは、”彼ら”が周りに喋って噂になってもおかしくない。…でも、本名まで言うだろうか?
第一、わたしの名前を知っている異能力者は、あの4人と駅前で路上ライブをしているあの人ぐらいしかいない。
”情報屋”はわたしが今までに出会った異能力者たちなのか、それとも―
「…ねぇ、その”情報屋”って、誰なの…?」
わたしは、おずおずと尋ねてみた。
「あ~、それはね…教えられないな~ 『言うな』って言われてるし。多分不見崎(みずさき)さんに身バレしたくないからだと思うんだけど」
彼女はそう言って苦笑いした。
「でも一応その人は異能力者だからね? 寿々谷の… わたしが言えるのはこれだけかな、うん」
笛吹さんは一通り言い終えると、また少し階段を下りた。
正体は分からないけれど、”わたし”という、”異能力者”にとって特殊な存在を知っている”情報屋”。―もしかするとその人は、案外わたしの近くにいるのかもしれない…わたしはそう思った。
「あ、そうだ、笛吹さん」
「? 何?」
わたしの声に彼女は振り向いた。
「さっき…助けてもらった時から気になってたんだけど、何であの時能力使ってまで助けてくれたの?」
わたしはふとさっき浮かんだ疑問を、笛吹さんに投げかけてみた。
あの時、別にそこまで仲良くもないわたしを、どうして―?
やっと来た!情報屋誰なんでしょうね?
レスありがとうございます。
ふっふっふ。一体誰なんでしょうね… いずれ明かされるかもしれませんが…(笑)
今日も連載します!
「いや、別に、わたしは不見崎(みずさき)さんは何もしてないって思ったからだけど」
「あ~ それは分かってるんだけど… そもそも、あの時能力使って大丈夫だったのかな~って…”異能力”って、バレちゃいけないって言うし」
わたしはちょっと恥ずかしそうに尋ねた。
「あ、そこらへんは…大丈夫! あん時目細めたから多分バレてないし、それに、茉花達とかはさ、わたしの『自分の言う事を相手に信じ込ませる』能力の副効果みたいなので、多分能力の影響が及んでいる間の記憶が曖昧になってるからさ、少なくともバレてないよ?」
ま、後で何か聞かれてもどうにかして言いくるめるからさ、と彼女は笑う。
「はぁ…ていうか、『自分の言う事を相手に信じ込ませる』って、すごくない⁈」
結構強力な能力だよね、とわたしが言うと、笛吹さんははにかみながら言った。
「え…あーいやアレ、できるのは、『自分の言う事を相手に”強制的に”信じ込ませる』ことで、『相手を自分の意のままに操る』ことはできないんだよね~。言う事はきかせられても、絶対に特定の行動させられるワケじゃないし…だから、意外と使い道限られちゃうんだけど…」
「やっぱり、すごいよ…」
わたしは思わず呟いた。それに比べてわたしは…
この人はそれ系の能力者でしたかー。やっぱり精神に作用するタイプは怖いですねー。こんな良い人に渡って良かったですよ。ミズサキちゃんもそんな落ち込むな!相手は異能力者なんだから!
レスありがとうございます。
まぁそうですね… 前にセレンさんが「周りに影響与えるような能力は下手すると大変なことになる」的なこと言ってましたもんね…
今日も連載します!
「でも、不見崎(みずさき)さんもすごいと思うよ?」
「へ?」
意外な言葉に、思わず変な声が出てしまった。
「だって普通の人なのに”異能力”のこと知ってるんだよ? すごいと思わない? …だからわたしね、興味あるんだよね~」
ん?とわたしは思った。何か似たような発言どこかで…
「”異能力”を知ってしまった常人が、”異能力”を使っているところを見て、一体何思い、何をするのか」
いつの間にか笛吹さんは、わたしの目の前まで来ていた。
「…だからあの時、わたしは能力使っちゃったんだけどね」
彼女はいつもと同じようにニッコリ笑う。でもその笑顔に恐怖を感じるのは、気のせいだろうか。
「じゃぁ助けてくれた理由って…」
「まぁ…不見崎さんの前で異能力使ったらどんな反応するかな、っていう興味? ゴメンね、何かこんな理由で近付いて」
笛吹さんは申し訳なさそうにうつむいた。
「あ、いやそんなに気にしないで! …同じようなこと、前にもあったから」
だから謝らなくても、とわたしは言った。
2回目だから慣れてるってワケじゃないけれど…なぜかあまりビックリしなかった。
あの時は普通に友達だと思ってたから、興味の対象として見られていた事に気付いた時はショックが大きかったけど、今回は友達とかそういうのは考えていなかったから、意外と平気だったのかもしれない。
…もしかしたら、近くの席になったころからちょこちょこ笛吹さんが接触してくるようになったのは、シンプルに”興味”があったからなのかも…そう思った。
そう考えると、やっぱり異能力者って恐ろしい。
笛吹さんとか、あの”彼ら”とか、パッと見た感じは普通の人間とあまり変わらないのに、どこか”普通じゃない”ところがある―それは、彼ら”異能力者”は、過去の”異能力者”の記憶を引き継ぎ続けるからなのかもしれない。ずっと人々を見続けているのなら、ちょっとぐらい常識から外れていてもなんとなくおかしくないような気がする。
「…そうだ、不見崎(みずさき)さん」
ふと何かを思いついたように笛吹さんが手を叩く音で、わたしはフッと現実世界に引き戻された。
「…せっかくだから、友達になりましょ?」
「え、は、え、え⁈」
突然の発言に、わたしは状況を全く理解できなかった。
「…どういうこと?」
訝しげに尋ねると、彼女は明るく笑って答えた。
「今言った通りだよ。お友達になろう! ただそれだけ」
「いや全然意味分かんないんだけど⁈」
大混乱するわたしを気にせず、笛吹さんは続ける。
「だからね、普通に友達になろうって… ずっと”興味”の対象で見てたけど、もう…こう、いっそ友達の方がいいかな~って」
「…はぁ」
イマイチ話の内容が頭に入らない。でも”興味”があるから友達になりたいとかじゃなくて…?
「とにかく! 友達になってもいい?」
笛吹さんはわたしにぐいっと近付いた。わたしはそんな彼女に押され気味だった。
「…ちょっと待って、”興味”とかそういうのがあるから、友達になろうとかじゃないの?」
あの4人―というかあの”彼”なんかはそうだったけれど、笛吹さんはどうなのだろうか?
良かったなミズサキさん。友達できて。そうだよな、『興味』があるから友達になろうと思えるんだもんな。
レスありがとうございます。
…そうですね、よくよく考えたら、そうなんですよね…
今日も連載します!
「いや、そういうのじゃないけど」
彼女はキョトンとした顔で答える。
「まぁそういうのもあるけどさ、なんかもうそれでもいいかな~って。ほら、結構仲良くなってるし」
…そうなのかな、とわたしは彼女から目をそらした。わたしはそうとは思わないんだけど…
―でも、それでもいいかもしれない。
普段は話し相手はほとんどいなくて、割と退屈してたから、別に悪くないかも。
まぁ笛吹さんの取り巻き達がどう思うか分からないけれど、時間が経てば大丈夫かもしれないし。
そう考えると―純粋に、彼女と”友達”になってもいいような気がした。
一応、彼女は普通の人じゃないから色々気を付けなきゃいけないけど。
「…別に、それでももいいよ、別に」
「…ほんと?」
彼女はキラキラした目でわたしの目を覗き込む。
「うん、まぁ、お友達で…」
そう答えると、彼女は嬉しそうに笑った。
「ほんと⁈ 嬉しい! じゃあ不見崎(みずさき)さん今から友達ね!!」
いつの間にか、笛吹さんはわたしの手を握っていた。
「じゃあ、じゃあ、わたしのこと”亜理那”って呼んでいいよ! ずっと名字で呼ばれてたけど、こっちの方がいいし…わたしは不見崎(みずさき)さんのこと”サヤカ”って呼ぶからさ!」
「はぁ…」
普通友達ってこんな風にできるっけ…と思った。でも…いいのか、これで。
「あ、そうだ! 全然言ってなかったけど、わたしの異能力者としての名前は、”フェアリー”。能力発動時はこっちだから忘れないでよ?」
彼女はそう言って自身の目を桜色に光らせた。
これは、自分のもう一つの名前を忘れないように、わざと能力発動したのだろうか。
まぁ…いっか。当の本人はあまり考えずに能力使ったんだろうし。
笛吹さん―いや亜理那は、よーしじゃ帰ろー!と元気に言いながら階段を下りて行った。
わたしはそんな彼女に置いて行かれないように階段を下りだした―が、すぐにその足は止まった。
というのも、亜理那が階段を上って来た見知らぬ女子生徒と出会い頭に話し始めたからで。
笛吹…じゃなくて亜理那さん、交友関係広そうですもんねぇ。目は桜色に光るのか。素敵な色だ。
レスありがとうございます。
まぁ、亜理那は異能力者・常人双方に知り合いがいますからね~ 取り巻きとかそれなりにいますし。
今日も連載します!
「あら、だぁれその子、お友達?」
見知らぬ背の高い女子生徒は、どこかわざとらしく尋ねる。
「うん、友達、ついさっき友達になったんだけどね」
亜理那がそう答えると、誰かは知らない女子生徒は、チラとわたしの方を見やった。
「…面白そうな子ね」
彼女はそうとだけ言って笑うと、亜理那にじゃあねとだけ言って、階段を階段を駆け上がっていった。
亜理那は、うんじゃあね、と彼女を目で追いながら手を振った。
「…今のは…」
わたしは思わず呟いた。
「あ、あの人? まぁ知り合い的な? そういう感じ~」
亜理那は笑顔で答える。
「もしかして異能力者?」
わたしは間髪入れずにさらに聞いた。というのも、何となくそんな気がしたからで。
「あ~、そこらへんは言えないな~」
だが、彼女はそう言って笑うだけだった。
そして、ほらサヤカ、帰ろう、と言って階段をまた下りだした。
…どうして亜理那は、彼女が異能力者かどうかハッキリ言わないのだろう。そして今のは一体…誰?
わたしはさっきの女子生徒の事を気にしながら、亜理那に続いて階段を下りて行った。
〈4.フェアリー おわり〉
また謎の登場人物出ましたねー。まさか件の情報屋か!?
そういえば、前にうちの子をそっちに数人ほどぶん投げたいって話をほんのちょろっとしたんですが、今一度ご検討いただければ幸いです。
レスありがとうございます。
さぁ、彼女は一体誰でしょう⁇
そういえば「ヨニヒト」とのコラボですが、もう少し待っていてくれませんか? 未出の設定とか引っ張り出したいな~と思っているので…
「中身、何だった?」
よくスーパーのお菓子売り場に売っている、ウエハースがおまけに付いているカードの袋を開封しながら、友達が尋ねる。
「…これだよ」
うちはすっと彼女に袋の中のカードを見せた。
「The Fool…”愚者”、か。タロットカードの大アルカナの1番最初…」
「愚者?」
「そ、愚者。自由人。放浪者。このカードの絵柄の通り、道化師とも言う」
友達は自慢げに自らの知識―いや趣味を披露する。
「…うちにはさっぱりだなぁ」
うちはカードに描かれた愚者、いやむしろ道化師を眺めながら呟く。
「いつも自由にやってるあんたにピッタリだよ」
「そぉ?」
うちはちょっと首を傾げる。
「うち、これウエハース目当てで買ったんだけどなぁ」
「ホント、あんたらしい」
そう言って友達は自分のカードを見せる。
「あたしは…魔術師。どぉ? よくない⁇」
「さぁね…」
うちはカードのおまけのウエハースをかじりながら言う。
「にしてもあんたホントこういうの好きだね。集めてんの?」
「あー、お小遣いが許す限り、かな。まぁすでに何枚かダブってるんだけど」
「ふーん」
前々からそうだけど、こいつの趣味ってなんか変わってる。
変なカード集めてたり、変わった曲聴いてたり、オッドアイの変なぬいぐるみ連れてたり、ファッションだって個性的…ホント自由人、タロットの愚者、道化師そのもの。
「あんたって自由な人間ね」
ぽつり、と何気なくうちは呟いた。
「ふふ、ま、小さいころは周りに滅茶苦茶振り回されてきてきたからねぇ… 今は自分の意志で自由にやらせていただいてるよ」
彼女はそう笑って、ショッピングモールの屋上の柵から下界を見下ろした。
上から見える、ショッピングモールの入り口では道化師…いや大道芸人が芸を披露している。
彼女はそれをここから眺めているのだろう。
「なぁあんた、あれ…大道芸見たいんなら、下行けばいいんじゃない?」
彼女は長い髪を揺らしながら振り返る。
「ここからでも、あたしには十分見えるわ」
ああそうだったな、とうちは笑い返した。
フフフッ、とどこかわざとらしく笑う友達の瞳は、綺麗なネオンパープルに輝いていた。
ご参加ありがとうございます!!
女の子同士の会話の1ページを切り取った詩。
でも、どこか儚げな様子が感じられます!
こういうのもいいですね…!
レスありがとうございます。
儚い、ですかね…? でも読み返してみたら意外とそう感じるなぁ…(笑)
作者本人はただただ思いついたのを書いただけですが(笑)
やっぱりでしたかー……。