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「ハブ ア ウィル ―異能力者たち―」5つ目のエピソード「クラーケン」の前半戦、①~⑪までのまとめ。番外編「待ち合わせ中のお話」も収録。

ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 5.クラーケン ①

わたしが住む街、寿々谷の商店街は、立派そうに見えて正直ちょっとしょぼくれている。
ここがわりと田舎なこと、近くにショッピングモールがあること、などの理由で、商店街は少し寂れ気味なのだ。
まぁ小さいころからそんなのは知っているのだけれど。
とはいえ、外面はどこにでもありそうな商店街だが、一歩裏路地に入ると随分違う。
路地裏にはよく分からないお店や、古い家がひしめき合っている。
正直、慣れている人でないと歩きにくい。そもそも、慣れている人でないとそこへ行かないのだけれど。
ちなみにわたしは慣れているとも言い切れないし、慣れていないというワケでもない。
ただ、あまりそこらへんには行かないので、迷子になっても仕方ないような気がする。
…というか今まさにその状況なのだけど。
「…みんな一体どこ行ったんだろう」
人通りの少ない小道で、わたしは独り呟いた。
ついさっきまで、”彼ら”は近くにいたはずなのだ。

テトモンよ永遠に!
女性/20歳/東京都
2019-07-17 23:14
「5.クラーケン」開幕。

ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 5.クラーケン ②

でも気付いたらいなくなっていた。いやむしろ、わたしが”彼ら”とはぐれたと言った方が正しいか。
事の発端は20分ぐらい前、あのショッピングモールでのこと。
さっきまでわたしと一緒にいたメンバーの1人、ネロが、ココアシガレットなくなったから買いに行くー、と言い出したのがキッカケだった。
それで耀平が、んじゃ駄菓子屋行こー、と言って、あとの2人もそれに賛同して…
…で、わたし達は商店街の裏路地にある駄菓子屋に向かっていたのだ。
でも今はこの通り、わたしは置いてけぼりだ。多分今頃、彼らは目的地に着いているだろう。
…なんとなく、この状況は仕組まれたもののような気がした。
というのも、彼らと辿ったルートは無駄に回りくどくて遠回りのような気がして。
多分彼らは、最初からわたしとはぐれるつもりで、わざと遠回りしたのだろう。
もちろんわたしの考えすぎかもしれないけれど、正直彼ら―特にネロは、わたしの事をあまりよくは思っていないからこうしたのだろう。
今日だって、わたしがショッピングモールで彼らに会った時、ちょっと微妙な雰囲気になってしまったし。
こうなっても仕方がないのかもしれない、本当に。

テトモンよ永遠に!
女性/20歳/東京都
2019-07-17 23:58
  • すごい!一日中二回投稿!
    しかし今度はクラーケンかー……。これまでの生き物に比べてだいぶでかいのですね。どんな能力者なのか今から楽しみです。

    何かが崩壊している者
    男性/21歳/埼玉県
    2019-07-18 18:02
  • レスありがとうございます。
    そうですね…クラーケンは化け物ダコですからね… 一体どんな奴なのか、楽しみにしてくださいね…
    今日も頑張って連載します!

    テトモンよ永遠に!
    女性/20歳/東京都
    2019-07-18 22:53

ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 5.クラーケン ③

運がいい事に、目的地は分かっているので自力で行けそうだ。多分駄菓子屋まで行けば、彼らに会えるかもしれない。
だから大丈夫、そう自分に心の中で言い聞かせた時、後ろから聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「…あ、」
思わず振り向くと、自分のやや後方に見覚えのあるメガネの少年が立っていた。
「…美蔵(ミクラ)?」
「アレ、不見崎(みずさき)じゃん」
彼は久しぶりだな、と言いながらこちらに歩み寄ってきた。
「ここで何してんの?」
「あー…友達とはぐれちゃって。美蔵こそ何してんの?」
「え、僕? 駄菓子屋行くとこだけど」
「あ、わたしも!」
わたしがそう言うと、美蔵は怪訝そうな顔をした。
「…フツー駄菓子屋行くだけで友達とはぐれる?」
「い、いや、何か先行っちゃってさ~」
「ふ~ん」
美蔵はそううなずいてから、ちょっとわたしを小馬鹿にしたように言った。
「…まさか駄菓子屋への行き方が分からないとかじゃないだろうなぁ?」

テトモンよ永遠に!
女性/20歳/東京都
2019-07-18 23:54
  • ミクラ君、新しい登場人物ですか。これは彼が能力者か?

    何かが崩壊している者
    男性/21歳/埼玉県
    2019-07-19 14:39
  • レスありがとうございます。
    さぁて、どうなんでしょうねぇ?
    今日も連載します!

    テトモンよ永遠に!
    女性/20歳/東京都
    2019-07-19 22:01

ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 5.クラーケン ④

「さすがにそれは知ってるよ!」
わたしはとっさに言い返す。…やっぱり、相変わらず美蔵は性格が悪い。
「…だからこれから行くとこ」
「あっそ」
美蔵ははつまらなさそうに言った。
何なんだか、こいつ…わたしはそう自分の中でため息をついた。
―美蔵、美蔵 健司。かつてわたしと同じ小学校に通ってた人。
人が好さそうだけど、皮肉屋で変わり者。
そのため多くの生徒から、”変人”とか認定された、クラスの異端児のような存在。
でも別に悪い人じゃない。…ちょっと口は悪いけど。
1回同じクラスになって、何度か話した事はあるけれど、話してて割と楽しい人だった。
…まぁ、こちらが理解できない事をちょいちょい言ってたが。
お互い別の中学に進学したので、小学校卒業以来、ずっと会っていなかった。
…だからと言って、久しぶりに会えて嬉しいというワケではない。それでも彼は相変わらずだったのでなんか安心した。

テトモンよ永遠に!
女性/20歳/東京都
2019-07-19 22:57
あれ、美蔵の下の名前の表記って「健司」だっけ?って思ったので設定資料を確認したら、確かに「健司」だった…(笑)

ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 5.クラーケン ⑤

「…そういや不見崎(みずさき)」
「ん、何?」
何を思いついたのか、美蔵がわたしに話しかけてきた。
「さっき駄菓子屋行く途中で友達とはぐれたとか言ってたじゃん」
「うん」
「…もしかしてさ」
美蔵はニヤリと笑った。
「その友達に避けられてるんじゃね~?」
「…ちょっ…!」
何だか自分の中を見透かされたような気がして、わたしは思わず立ち止まった。
「…べ、別にそうと限ったワケじゃないし」
まぁ、その可能性も十分にあるかもしれないけど…
「は? てかそうと限ったワケじゃねぇって事は、そうかもしれないって事じゃん」
そう言いながら、彼は皮肉交じりに笑った。
「ぅぐ…」
「やっぱり不見崎は変わってねーなー。友達に避けられちまうトコとか。小学校の時からそうだろ?」
確かにそうかもしれない、でも…

テトモンよ永遠に!
女性/20歳/東京都
2019-07-22 23:21

ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 5.クラーケン ⑥

「でも、あの時は、あっちはあっちで用事があって…」
「いやぁ、僕知ってるんだよね~。お前の事ちょっと面倒くさいって言ってた人…例えば川畑とか」
「なっ…嘘でしょ? 初実が?」
あぁそうだとも、と言って彼は立ち止まる。
「前にさ、川畑が他の女子に、『何かいつも誰かと一緒にいたがるからちょっと鬱陶しい』とか言ってたぜ?」
「…まじか」
「ハハハ…マジなんだよねーこれが~」
がっかりするわたしに、美蔵はニヤニヤと笑いかける。
「だからそうなんだろう? その友達とはぐれたのも、単純にお前が面倒で一緒にいたくないからわざと置いてけぼりにしたんだろう?」
ま、あくまで僕の推測だけどな、と彼は付け足す。
多分…彼の言っている事は合っている、多分。
でもわたしとはぐれてしまった”彼ら”に聞かないと、本当のところは何も分からない。…実際そうでもないかもしれないし。
だからこう言い返した。
「…確かに、そうかもしれないけど…ちゃんと聞かないと分かんないと思う、そいうのは…きっと」
…ま、そうだけどな、と言いながら、美蔵はまた歩き出した。

テトモンよ永遠に!
女性/20歳/東京都
2019-07-22 23:51

ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 5.クラーケン ⑦

「…でもよ、いつも誰かと一緒にいなきゃいけないってワケじゃねぇからな。1人の方が楽な時もあるし」
…そうだね、とわたしはうなずいた。…でもやっぱり1人は怖いと思うのだけど。
「まぁでも人間はずっと集団の中で生きてるからな~ その分1人になるのは怖いだろうし。でも結局基本的には人間は集団の中にいるんだよな」
そう美蔵は平然と呟いたが、わたしにはその意味がさっぱり分からなくて聞き返した。
「…今のちょっと意味分かんないんだけど」
「…いや、単純に人は孤独になるのが嫌だけど、大体何かの大きな集団の中でそういうことが起こるじゃん。例えば学校とかさ。…そういう事が言いたかっただけ」
美蔵はちょっと面倒くさそうに淡々と答えた。
「そう…なの」
美蔵が言おうとしている事が理解できたような、できなかったような気がして、わたしはちょっとポカンとしてしまった。
…何でこんな事言うんだか。
一方の美蔵は、まぁそうなんだよ、1回で理解しろや…と不満げに言った。

テトモンよ永遠に!
女性/20歳/東京都
2019-07-23 23:46

ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 5.クラーケン ⑧

…相変わらず、美蔵は意味の分からない事を言う、そう思った。
多分、進学した中学でもそういう事を言っているのだろう。―そして周りを困らせているに違いない。
―やっぱり、彼は昔とそこまで変わっていないんだなぁ…
そう自分の中で呟きかけた時、不意に路地の角から飛び出してきた人物と目が合った。
目が合った瞬間、わたしは少し凍り付きかけた。
というのも、その人物の目は恐ろしく鮮やかな赤紫色をしていたからで。
「…!」
赤紫色の目の少女ネロ…じゃなくて”ネクロマンサー”は、わたしと目が合った瞬間、戸惑ったように目を丸くした。
「…やっと見つかっ―え?」
ネクロマンサーに遅れるような形で角から出てきた”コマイヌ”は、わたし、というか美蔵の方を見た瞬間にぴたりと動きを止めた。
「え、は?、なんで…」
コマイヌはこの状況が呑み込めないのか困惑しきっていた。

テトモンよ永遠に!
女性/20歳/東京都
2019-07-25 00:14
  • ミクラは能力者組と何か関係がありそうですね。

    何かが崩壊している者
    男性/21歳/埼玉県
    2019-07-25 22:30
  • レスありがとうございます。
    そうでしょうか?…まぁ話が進んでいけば分かりますよ(^_^)v
    今日も連載します!

    テトモンよ永遠に!
    女性/20歳/東京都
    2019-07-25 23:01
やっとこさ出てきたよネクロたち…

ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 5.クラーケン ⑨

わたしは、正直目の前で何が起きているのか分からなかった。
ただ1つだけ分かるのは、ネクロマンサーとコマイヌにとってかなりの異常事態が起きているということ。
2人がここまで驚いているのなら、かなりの状況に違いない。
一体2人は何にそんな驚いているのだろうか。
―まさか。
いや、さすがにそれは考えすぎかもしれない…でも。
もしやと思って、わたしは美蔵の方を見た。
「ねぇ美蔵…」
そう言いかけた時、ほんの一瞬だけ美蔵と目が合った。
―次の瞬間、不意に目の前が真っ暗になった。
意識を失ったとかそんなのじゃない、意識を保ったまま、周りが何も見えなくなったのだ。
その直後、何も見えない真っ暗な世界で声が聞こえた。
「―ずらかれっ!!」
え?、と声が聞こえた方に目を向けた数秒後、またさっきのように周りが見えるようになった、が。

テトモンよ永遠に!
女性/20歳/東京都
2019-07-25 23:47
  • 真っ暗になったとな?クラーケンが発動したか?ほんと、彼らの間に何があったのか……。

    何かが崩壊している者
    男性/21歳/埼玉県
    2019-07-26 19:05
  • レスありがとうございます。
    …一体、何があったんでしょうね…?
    今日も連載します!

    テトモンよ永遠に!
    女性/20歳/東京都
    2019-07-26 22:29

ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 5.クラーケン ⑩

―自分の周りに誰もいない。
隣にいるはずの美蔵も、目の前にいるはずのあの2人も。
痕跡一つ残さずいなくなっている。
「…どうして」
思わずわたしは呟いた。
ついさっきまで、確かに彼らはここにいたのだ。
なのにどうして―?
それに、なぜあの時視界が真っ暗になったのだろう。
今は真っ昼間だし、普通突然目の前が真っ暗になるなんてちょっとおかしいし…
「…まさか」
わたしは色々考えているうちに、ある1つの可能性に辿り着いてしまった。
「でも…」
いや、さすがにそんなハズはない、とわたしは首を横に振った。
その可能性も十分にあるけどちょっとありえない。
でもやっぱり…
とりあえず、わたしは向かっている途中だった駄菓子屋へ向けてまた歩き出した。
多分そこに行けば、分かるかもしれないから―

テトモンよ永遠に!
女性/20歳/東京都
2019-07-26 23:48
みんな、どこへ行ったのでしょうね…

ハブ ア ウィル —異能力者たち— 5.クラーケン ⑪

「…いたっ‼︎」
予想通り、駄菓子屋に先に着いていた”彼ら”を見つけた瞬間、わたしは思わずそう叫んで駆け寄った。
「あ、やっと来た…遅くね?」
まさか道に迷ったのかぁ?、と師郎は皮肉げに言う。
「迷ったっていうか、置いてかれたっていうか…」
「とりあえずはぐれたんだろ」
「うぐっ」
黎にしれっと突っ込まれ、わたしはちょっとうろたえた。
まぁ大体そうだけど…

テトモンよ永遠に!
女性/20歳/東京都
2019-07-30 22:52
この時はスマホからの書き込みだったので、短めになってしまった…      続きは後半戦のまとめで。

ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 番外編 待ち合わせ中のお話

みんなで集まるときの集合場所である、ショッピングモールの屋上は、遮るものがほとんどなく、今の時期は本当に暑い。
夏場に限らず人がたくさんいるような場所ではないので、同類同士で集まったり、普通の人に聞かれちゃいけないような話をするにはぴったり―
「…」
つつっ、と腕をつつかれて思わず隣を見ると、パーカーの袖にちょっと隠れた手がスッと棒の付いたアメを突き出してきた。
「…黎?」
「…やる」
さっさと受け取れと言わんばかりに、黎はアメを突き出した。
「…なんで?」
こいつが他人にモノをあげるのは珍しーなー…と思いながら、おれはそれを受け取った。
なんかのお礼のつもりか、それとも…
暫くの沈黙の後、黎は口を開いた。
「…誕生日」
「?」
「お前、こないだ誕生日だったじゃん」
「…あー、そうだったな。1週間前だけど」
確かに先週…21日はおれの誕生日だった。バースデーケーキを除けば、誰かから何ももらってないけど。
「…1週間遅れだけどはぴば」
なんかこの人にしては珍しいセリフを聞いて、おれは思わず吹き出してしまった。
「待って、今のちょっとだけかわいい」
「…」
当の本人は照れているのか、つっと向こうを向く。
おれは、ははは…と笑いながら、もらったアメの包装を剥いた。

「あっ、このアメ黄色だ」
何気なく呟くと、黎がちらとこっちを見る。
「…それお前の目の色と揃えたから」
「ん?」
何のことだかよく分からなくて、おれは首をかしげる。
「…だって”コマイヌ”の目は黄金色…大体一緒じゃん」
あ、そっか…と自分の手に目を落とし、再度隣に目を向けた。
「え、お前やっぱかわいい」
「…かわいかない」
また黎はぷいとそっぽを向いた。

テトモンよ永遠に!
女性/20歳/東京都
2019-07-28 22:35
  • 耀平君ハッピーバースデー!あと黎君久し振りに出てきたな。まさかこんな可愛げのある奴だったとは。

    何かが崩壊している者
    男性/21歳/埼玉県
    2019-07-29 14:59
  • レスありがとうございます。
    確かに黎は超お久しぶりですね〜 ただでさえ登場してもセリフがあんまりないのに…(笑)
    一応黎のかわいらしいトコについては、タイトルに「ハブ ア ウィル」の名がないところでも語られてるんですけどね。
    近いうちにまた黎は本編にも登場しますよ〜

    今日も連載します!

    テトモンよ永遠に!
    女性/20歳/東京都
    2019-07-29 21:40
番外編。今思えば何書いたんだろって思うけど、まぁいっか…         ちなみにメインキャラクターには一応誕生日の設定があります。いつか機会があったら公開したいところ。