「…これはこれで大変な事なんだよ。常人がこういう”モノ”を知ってしまったらどうなるか…分かってる? ねぇ」
鷲尾さんは少し強めの口調で言った。まるで人を責めるように。
「ちょ、ちょっとハルカ、強く言いすぎだよ。相手は年下なんだし…」
ネロに対して強めに喋っているハルカを、亜理那は苦笑いしながら諫めた。
その様子を見ながら、わたしはこの2人を”彼ら”4人に会わせるのは間違ってたのかな…と思った。
…この通り、目の前の鷲尾さんとネロは気まずい状況だし。
あとの男性陣3人は、警戒しているのか揃ってわざとらしく関係ないフリをしているし。
まぁ、ここはショッピングモールとはいえ、人気のない階段の踊り場だから、最悪修羅場みたいなことが起こっても被害は抑えられる…ハズだ。
「…とりあえず、どうなっても知らないわ。またいつかの時代みたいな事が起こっても、アンタたちのせいだから」
「…アンタ」
鷲尾さんが冷たく言い放ったところで、ネロが静かに口を開いた。
「何? 何か異論でも…」
そう鷲尾さんが言いかけた時―
「…お前ぇぇっ!!」
不意にネロが鷲尾さんに飛びかかりかかった。
レスありがとうございます。
まぁ、今の状況、これからどうなるのって感じですが…どうなるかはまだまだお楽しみです(^ ^)
今日も多分連載します!
(というのもいつも使っているパソコンが、パスワードを打ってもロック解除しなくって…今はスマホから打っているんですけど、もしかしたらあの長文打てないかもしれないし、打ててもいつもの半分以下になっちゃうかもしれないんで…そこらへんはごめんなさい)
「ちょ、ちょっとストップ!」
「おい—」
このネロの思わぬ行動に、さっきまで沈黙していた男性陣が慌てて止めにかかった。
「おいお前…とりあえず”ソレ”引っこめろ」
彼女の腕を思いっきり掴んだ耀平は、静かに、でもちょっとだけ怒りを滲ませて咎めた。
「う…」
彼女は少しの沈黙の後、しぶしぶと上がりかかっていた右腕をゆっくり下げた。
だがその手に握られているモノに、わたしは釘づけになった。
それは—
「ソレ…」
その手に握られていたのは、いつか見た黒鎌だった。
おぉうネロさん……。物騒だ。
レスありがとうございます。
あの子、初回っから物騒なモノ持ってますよ(笑)
…まぁ、若干これは自分の趣味なんですけど。
今日も連載します!
「…ネクロマンサー」
鷲尾さんは彼女の手にある黒鎌を見て、ぽつりと呟いた。
「え、鷲尾さん知ってるの?」
思わず聞くと、彼女はちょっとびっくりしたように答えた。
「…ま、まぁ、”ネクロマンサー”は”異能力者”の中でも有名な方だし…」
「マジか」
「まぁな。”ネクロ”はかなり強い能力だから、出会った事なくても噂とかで知ってること多いからな。あと異能力者って自分の能力の前の持ち主の記憶引き継ぐから、それで前の持ち主が出会ってたりして知ってるって事も多いし」
”ネクロマンサー”の名が意外にも知られている名前である事に驚くわたしに、耀平がさらっと解説する。
「そうなんだ…てか、ソレどっから出てきた」
そんなものさっきまでなかったよね?とわたしが聞くと、…コレ?と赤紫色の目を鎌に向けながらネクロマンサーは答えた。
「…”具象体”。”異能力”のどんなに引き継がれても変わらない”意志”が具象化したモノ。でもこんなモン出せる奴はごく一部だから勘違いすんなよ」
「…はぁ」
何か彼女にしては難しすぎる言葉の数々に、わたしは圧倒されてしまった。
具象体。良い言葉だ。ところで、ネロちゃんの達観しているようでときどき感情的にもなる年相応な感じがたまらなく好きです。
レスありがとうございます。
そこがネロのかわいいところなのです(*´ω`*)
そして作者のお気に入りポイント(笑)
次回もお楽しみに!
「…端的に言うと、”異能力”の”意志”が”幻影”というカタチでこの世界に実体化したものね」
イマイチ内容を理解できないわたしへの助け舟なのか、鷲尾さんは呟くように説明した。
「ま、そんな感じだな。ごく一部の強力な能力の持ち主のみが、能力発動時に呼びだすことができる、”幻”。ちなみにコレ持ち主以外が触ると消えるんだ、…こんな風に」
鷲尾さんから引き継ぐように話を続ける耀平は、不意にネクロマンサーが持つ黒い大鎌の柄に手を伸ばした。
彼の手が柄に微かに触れると、ソレは跡形もなく見えなくなった。
「あ、ちょっと勝手に消すなよ」
「いいじゃん別に…てかこんな所でそんなモン出すな。いくらここにおれらしかいないからって、ソレ自体が危なすぎるから感情に任せて引っ張り出すのはやめろ」
”具象体”を消されて文句を言うネクロマンサーに対して、耀平はあきれたようにたしなめる。
「…むぅ」
たしなめられた彼女は、不満げに頬を膨らませた。
「ソレの刃なんか他人が下手に触ると勝手に記憶をかっさらっていくからな。マジで気を付けろ」
耀平に注意されても、ネクロマンサーはむすっとした顔でそっぽを向いていた。
「…にしてもすごいね」
ちょうどわたし達の中に沈黙が流れたところで、亜理那がひょこっと話に入ってきた。
「”具象体”…わたし初めて見たな、ずっと噂程度にしか聞いてなくて」
「普通、生きているうちに見られるかどうか、ってモノなのよ? コレ常人にも見えるから、例え持っていたとしても出すことなんてめったにないし」
具象体に目を輝かせた亜理那に対して、鷲尾さんは淡々と言う。
「…大体、具象体って大きいし、変なモノのカタチをとるから目立つんだよな。コイツなんて、よく周りに他人がいないところで引っ張り出してるけど、知らない間に見られて”死に神”扱いされるもんな~」
それでこの女に異能力バレたんだろぉ~?と師郎はいつの間にか能力を引っ込めていたネロをからかう。
「ちょ、ソレ言うなよ…」
「あ、そんな経緯で異能力がサヤカにバレたんだ」
うろたえるネロに向かって、亜理那はくすっと笑った。
「何やってんのよもう…」
鷲尾さんはあきれたように額を手で押さえた。
「あの”悲劇”も、こんな風にちょっとした事で起こったのかしら…」
…”悲劇”? わたしは鷲尾さんの言葉にちょっと引っかかるモノを感じた。
「…ねぇ鷲尾さん、”悲劇”って…」
思わずわたしがそう尋ねかけた時、わたしの言いたいことに気付いたのか耀平が話に入ってきた。
「…例えば、”魔女狩り”。そこのハルカとかいう奴が言いたい悲劇はこういうのだろう」
「まぁそんなところね」
そう答えて鷲尾さんはちょっとだけ間を置く。
「…まだ魔法や神が、当たり前のように信じられていた頃の話よ。ふとした時に能力を使っているところを見られたり、常人とは違うような挙動を見せたりすると、色々疑心暗鬼になりすぎている時代だったから、”魔女”だとか”魔法使い”として狩られていったのよ」
「…え」
わたしは話の内容に絶句する。
”魔女狩り”という言葉は知ってたけど、まさかその裏に”異能力者”の存在があったなんて。
―それなら、鷲尾さんが常人に異能力がバレるのを嫌がるの事に納得がいく。
異能力者は前に同じ能力を持っていた人間の記憶を引き継ぐ。だから、その時代の事もよく分かっていたりするのだろう。
実際、”魔女狩り”っていうのは凄惨なモノだったらしいから、あれほどではなくとも、”異能力”のせいで痛い目に遭うのは1番嫌に違いない。
なるほど。魔女狩りの裏にも彼らの存在が。確かに言動が完全に異端ですもんねえ……。
レスありがとうございます。
彼らはとことん異端ですもん(笑)
一応この魔女狩り設定はわりと最初の方から考えていたものです。こうして出せてよかったよかった…
今日も連載しますね!
…そう考えると、やっぱり普通の人間である自分がこういうモノを知ってしまった事って、かなり大変な事だと改めて思った。
「…あの時代らへんだと、異能力者同士でも疑心暗鬼だった感じだよね」
不意にネロが呟いた。
「まーそうだな。同類だけど、自分にかけられた疑いを晴らすために他の能力者を売ったり、な…」
「それで巻き込まれた異能力者結構いるはず」
「…実際過去のレイヴンはそれで処刑されました」
「え、処刑とかあっさり言っていいモンなの⁈」
みんなががちゃがちゃ言う中、平坦な口調でかなりおぞましいことを言った黎に、わたしは後ずさる。
「…いや、実際にあったことだし」
言った張本人は、別に驚くわけでもなく淡々と答える。
「まぁ、マジメに考えればあの時代結構どうかしてたよな~」
「だよね。”魔女”や”魔法使い”だけじゃなくて、所によって異能力者は、”悪魔”やら”化け物”やら、すごい時は”神の化身”的なモノとか…」
「そもそも光る目や、能力発動時と非発動時で、同じ人格の別存在という感覚自体が普通の人間離れちゃってるから…」
「…やっぱり、世のオカルトな事って、かなり異能力者が絡んでるような気がする…」
鷲尾さんがそう言ったところで、がやがやと話していた一同はうなずいて沈黙した。
「…話変わるけどさ、」
場が沈黙し切った頃、ネロが思い出したかのようにわたしに向かって呟いた。
「お前…、この2人が異能力者って何で知った?」
ネロにちろと睨まれて、わたしは少しすくんでしまった。
「…えーと、」
一応年下なのにどうして彼女を恐ろしいと思うことがあるんだろう、とわたしは心の中で呟きながら、彼女の質問に答えた。
「なんて言うか、最初に亜理那が言ってきたんだよね。そのあと鷲尾さんも亜理那が”異能力者”って言ってきたし…」
「まぁね! ”ある人”が、サヤカは異能力の事を知ってしまったって言ってて、それでわたしが話しかけてったんだよね~ だからすべての事の発端はわたしって言うかぁ」
「…ホント、私にとってはいいお世話よ」
亜理那ののんきな発言に鷲尾さんがちょっとだけ文句を言った後、ふと何かに気付いたように耀平が言った。
「…”ある人”って、アイツ?」
え、とわたしは目を見開いた。”ある人”って確か…
「…もしかして”情報屋”の事、知ってるの?」
そう聞くと、耀平は知ってるも何も、と返した。
「…ソイツとはちょこちょこそこらへんで会うし」
「え⁇」
彼の発言に、わたしと亜理那と鷲尾さんは唖然とした。
「…え、マジで? ホントにちょこちょこ会うの?」
なかなか会おうと思っても会えないよね?と、亜理那は思わず身を乗り出して尋ねた。
だが尋ねられている側はポカンと顔を見合わせる。
「いや、なーんか知らないけどたまに干渉してくるってゆーか」
「なんか、出会いやすいというか…」
「うーん」
そこまでビックリする事?と彼らは首を傾げる。
…彼らにとって”情報屋”は、時々会う知り合いか友達みたいな感覚らしい。
「まーでも謎の興味持たれてることは確かっぽいよね~」
多分ボクなんだろーけど、とネロは言う。
「…だろうなぁ。ネクロは特殊な奴だしー…てか、なんで”アイツ”あの事知ってるんだ? 誰か…言った⁇」
おれは他の人に言ってないハズだけど?と耀平は他の3人に尋ねる。
「いや~俺も特に他の人に言ってないけど?」
「ボクは耀平たち以外に話す相手いないから言ってない、てか最近”アイツ”に会ってないし」
えーじゃ誰だよー言ったのは…と耀平があきれたように言った時、彼のそばでスッと手が上がった。
「…え」
人々は沈黙し、その視線はその手に集まった。その人物は―
「―黎?」
当の本人は微かにうなずいた。
「は? まじで?」
「うっそぉ…」
意外な犯人に耀平とネロは呆然とした。
「まー黎なら言っちゃってもおかしくないかもなー…いつもちょっとぼんやりしてるし」
あ、今のは悪口じゃないからな、忘れろよ?と師郎は嫌味にも聞こえるかもしれない発言に付け足しをした。
「てか、何で言った? 何かと等価交換?」
なぜに?とネロは黎に尋ねた。
「…別に、『何か面白い話ない?』って言われて、最初は喋る気なかったから無視しようとしたけど、しつこいから仕方なく言っただけ」
本人は悪気もなさそうにさらっと言った。
「仕方なく、ねー…」
ネロはぽつりと呟いた。
お前だったのか!まあ、黎なら何か何やってても納得できるな。底知れない感じがするし。
レスありがとうございます。
まぁ、彼なら、ねぇ…(笑)
「…にしても随分あっさりと言ったわね」
「ん、何か文句でも?」
鷲尾さんの何気ない言葉に、ネロが反応した。
「文句って…てか、そこアンタが反応するトコ? 関係ないんじゃ…」
「…関係なくねぇよ…」
不意にネロの声色が変わった。
「…確かにボクが突っ込むところじゃないけどさぁ…でもよぉ…」
ネロは静かに言葉を続けながら鷲尾さんに近づく。
「でもそれはボクの勝手で―!」
嫌な予感を察したのか、耀平が身じろぎした。
でもその頃にはもう―
「―ストップ」
急に鷲尾さんがネロの腕をつかんで言った。
「…私をなめないでよね」
そうニヤリと笑った彼女の目はいわゆるベビーピンク色に光っている。
「―っ」
「私の”ハルピュイア”は『触れた生物の思考を停止させる』ものなの。こうなれば”ネクロマンサー”の鎌も引きずり出せないわね」
悔しそうな表情をするネロを見ながら、彼女はその腕をぐいと引っ張った。
うわあ、この作品の中でトップクラスに物騒な能力来ましたねー。ネロさんの鎌が可愛く思えるレベル。……うちに招き入れたいくらいだ。
思考停止か。面白そう。いっそうちにも一人作ってしまおうかしらね。
レスありがとうございます。
いやいや、まだまだこういうおぞましい能力者がわちゃわちゃ出てくる予定ですよ~? だから、楽しみにしておいてくださいね。
今日も連載します!
「…鷲尾さん、それはちょっとやりすぎなんじゃ…」
わたしが諫めようとすると、”ハルピュイア”はぴしゃりと返した。
「やりすぎって言ったって一応正当防衛になるから別にいいのよ。こうやって他の能力者が抑えていかないと、みんな大変なことになるし…」
そう言いながら、彼女はネロの腕をちょっと乱雑に離す。
”ハルピュイア”の能力から解放されたネロは何も言わずに相手を睨みつけた。
「…抑止力、か」
ぽつり、と黎が呟いた。
「…”抑止力”?」
わたしが思わず聞き返すと、さっきまで黙って場を見ていた亜理那が話し出した。
「他の能力者の暴走を抑える異能力者のことよ。まぁ、どの異能力者も、他の能力者の抑止力であることには違いないんだけどね。世界の秩序とかを崩さないようにするために」
「特に”ネクロ”なんかの強力極まりないのとかは、おれらとかで抑えてかないとダメだ。ついでに言うとコイツは感情任せになりやすくて危なっかしいし」
耀平も亜理那の言葉にうなずく。
「―秩序や秘密を守るためなら、最悪の場合自ら手を下すことだって構わねえよ」
くすりと笑う耀平に、わたしは背筋が凍り付いた。だが少し引っかかるものがあった。
「…でも、」
でも、最悪の場合、自ら手を下すのなら―とわたしは彼に浮かんだ疑問を投げかける。
「それでも友達?」
ネロがぴく、と反応したような気がした。
「…まぁ、な」
彼はくく、と笑って続ける。
「例えそうなろうとも、友達だし…いやだからこそ、か」
そしてちらと斜め後ろに目をやった。
「…あとそれを望んでる人がいるし」
耀平の視線に気づいたらしき黎が、慌てて目をそらした。
「確かにねー…黎ってボクら以外にあんまり友達いないし」
「いやお前も基本おれら以外にに友達いないだろ」
…が、学校行ってねぇからしゃあないだろ、とネロは自分をいじってきた耀平に対して口を尖らせる。
「…そうなんだ」
「…何か悪い?」
わたしの何気ない言葉に、珍しく黎が反応した。
「あ、いや…別に」
「ならいいけど。…別に、こっちは最初ただの抑止力のつもりだったから。それがいつの間にか…」
話の途中で、何か言いにくいことでもあるのか彼の言葉が途切れた。
「いつの間にか…⁇」
その続きは?と言わんばかりに耀平はうつむいている彼の顔を覗こうとした。
「…耀平、それ以上やると軽く首絞められるぞ」
黎が言いたいことに気付いているのか、師郎は苦笑いしながら耀平をとがめた。
え~と笑いながら、耀平はネロと一緒に黎の顔を見ようとしていた。
…わたしは、異能力者はやっぱり只者じゃないんだと思いながら、彼らの平和な光景を眺めているばかりだった。
〈6.ハルピュイア おわり〉
この人らみたいな仲の良さ大好物です!
レスありがとうございます。
ええ、作者もです!!
よっしゃ9月初ハブアウィル来たぁッ!そしてネロさぁん!?