「ねぇねぇ。このままどっか行かない?」
遥は私の前に立って、満面の笑みで言った。
「え、どういうこと?これから学校だよ」
「だ~か~ら~これから学校行かずにどっか行くの!」
「はっ?何で?学校は?」
「まあ無断欠席ってやつだね。なんかワクワクしない?」
相変わらず満面の笑みで見つめてくる。ワクワクって…。
「もう私の部屋の机にね、置いてきちゃった。手紙。『学校を休みます。心配しな いでください』って」
嘘だろ。何でそういうことすんのよ。
「どうすんの。どこ行くの」
「あ、じゃあ行くってことだね!行き先は決まってないよ。お金いっぱい持ってきたから、乗り物にも乗れるよ!」
お~い。行き先決まってないでどうするんだ~い。っていうか行くとか誰も言ってないし。それでも彼女は満面の笑み。
正気かよ。
「君、少しは頭で考えなさい。それだから数学のテスト15点なんだよ。そんな馬鹿げた気持ちじゃ通用せんぞ。ちゃんとどこ行くか決まってからにしなさい」
私はいつもこういう風に彼女を叱る。
「ごめん」
おう。こういう所は素直でいい奴だ。
「決めた。東京へ行こう!」
お~~~~い!…お~~~~い!何を…。やっぱり馬鹿だなこいつは。
初めまして!これからの展開がすごく気になります!私も小説書いているのですがこんなに上手に書けません!同い年の方なのにすごいです!不定期でもいいので、私の作品のように自然消滅だけはしないように頑張ってください!これから楽しみにしています!
「何言ってるの⁉私たちで行けるわけないじゃん」
「だって美咲ちゃんが行き先決めてって言うから…。私、本気だよ」
私は考える。本気とは何か。0,11秒で答えが出た。
「あんたそれ本気っていうんじゃないよ。本気っていうのは何から何まで全部決めて、冗談抜きの気持ち」
「じゃあ、行き先は東京。手段は新幹線。時間は今から。帰ってくるのは今日の夜。で、どう?」
おい。おい。そんな真剣に返してくるんじゃないよ。
「帰ってくるの今日なの?日帰り?じゃあ休みの日とかでもいいんじゃないの?」
「いやぁ。学校面倒くさいなぁって思って」
そんな理由…。
「そうか。ほんじゃ分かった。ジャンケンをしよう。それで私が勝ったら今日は行かない。君が勝ったら行く前提で考えよう。それで良い?」
「うん。分かった。私が勝てばいいんだね。そんなの楽勝」
私も勝ってやる。
『最初はグー、ジャンケンぽん!』
遥はグー。私はチョキ。…負けた。
「やったあ!!東京行ける!」
いつもの遥に戻った。
「まだ行くって決まったわけじゃないからね。行く"前提で”って言いましたからね」
「え~。でも行く可能性の方が高いってことでしょ?それなら行くってことだよ!」
どうしよう。彼女はもうその気になってはしゃいでいる。幼稚園児みたいに。
「お~い、何勝手に…。はぁ。…まぁいっか」
「えっ。えっっ!いいの⁉やったあ!!」
う~ん。そういう意味じゃなかったんだけどな~。
私はもう8割諦めている。どうしよ。
でも、私はふと思った。なんでここまで彼女は東京へ行くのか。ここまで喜ぶのか。嫌気が差した。
「ねぇ。なんでそんなに行きたいの?何かあった?」
「え?だからただ学校が面倒くさいだけだよ~」
「そっか」
「それより早く行かない⁉色々大変そうだから早く行っちゃえばこっちの勝ちだ!」
突然襲ってきた不安はどこかへ逃げていった。
「分かった。行こう!」
「うん!フフッ。嬉しいな」
こうやって私たちは歩き始めた。と、さっきとは違う不安が襲ってきた。お金とか、私たちだけで大丈夫なのか…。お金は持ってきたって言ってたけど。まぁその時はその時か。
私たちはスマホと修学旅行の記憶を頼りに駅に着いた。人が多くいる中、完全に浮いている。スマホで色々調べた通りに進んでいき、ついにホームまで来た。はぐれないように。はぐれないように。
途中大人に声をかけられたらどうしようかと思ったが大丈夫だった。
何分か待って、やっと新幹線が来た。この何分かは今まで以上に長く感じた。
大勢の大人に紛れて乗り込む時、遥がぼそりと呟いた。
「さよなら、大阪」
いや、今日帰ってくるんだけどね。心の中でツッコミ、心の中でクスリと笑った。
新幹線に乗っている間は簡単に言えば無言。
遥はずっと窓の外を見て、私はそんな彼女を見る。段々と知らない景色が広がるとスマホを確認。目的地まで近いようで遠いそうだ。13歳の少女たちがポツンと居座る中、そんなの関係ないと言わんばかりに新幹線は進む。
長く長く続いた道のりは終わりを告げようとしていた。私たちだけ緊張が漂う。
駅に着いた。イコール東京。
「ふわぁ~」
あくびではない。感嘆の声だ。遥が目をウロチョロし、口を開け、何とも言えない表情をしている。
「ここ、東京?本当に東京?」
「そう、東京。ここ、東京」
パッと遥の顔に花が咲く。微かに目に光るものも見えた。
「人、多いね。ビル、高いね」
「そうだね。いっぱいだね。どこ行こうか」
「う~ん。そうだなぁ」
「行きたいところあるの?」
「ううん。無い。でもとりあえず東京を歩きたい」
そうだな。東京を歩くってなかなか無いもんな。
私たちは果てしない東京を歩いている。美味しそうなお店に寄ったり、どこを歩いていいのか分からなくなったり…。
それでも私たちは楽しんだ。それは彼女の顔からよく伝わる。
嬉しそうで、楽しそうで何よりだ。
しばらくウロウロしていると、だんだん疲れてきた。それは彼女も同じだったそうで近くの人通りが少ない公園で一休みした。
「楽しいね~。こんな日が来るなんて…」
「うん。そうだね~。私も思ってなかったよ。君がこんなこと言うから」
「怒ってる?」
「ううん。怒ってないよ。意外と楽しいな~って思って」
「良かった」
…。向こうもこっちも話すことがなくなった。何となく黙った方がよさそうだった。なぜだか分からないけど私は彼女が喋り出すまで黙っていようと思った。
「あのね、暗い話していい?」
「ん?いいよ」
やっぱり。
「なんか、私嫌われてるみたい。部活で、物がなくなったり、無視されちゃったり」
「…」
「やっぱり私ってそういうタイプなんだよね。だから嫌われるんだよね」
最後の方は声が震えていた。横並びだから顔は見えないけど、何となく、分かる。彼女は下を向いて涙が出ているであろう顔を手で覆った。私はそんな彼女が落ち着くまで待った。
「ありがとう。話してくれて。分かったよ。…君、今、辛いか?」
「…うん」
「そっか。じゃあ、私が守ってあげる。大丈夫だよ」
私は彼女の肩をそっと抱いた。
「大丈夫。大丈夫」
「ありがとう…」
やっぱり私は合っていたんだ。遥に何かあったこと。それは何であろうと彼女自身辛いものだったと思っていた。でもこれまでは気づけなかった。少し考えてから言った。
「私、君と一緒になれて良かった。私もなんていうか好かれるタイプじゃないのよ。私へ直接ってことはなかったけど陰で色々言われてたみたい」
「そうなの?知らなかった」
「私も君のことをよく知れてなかった。ごめんね」
「ううん。全然。私こそこんな暗い話してごめん」
「大丈夫だよ。私がついてる。は~あ。もう1回言うけど私、遥と友達になれて良かった。君がいなかったらどうしていたか…。学校で真面目に勉強していたかな?」
「ふふっ。そうだね。私も美咲ちゃんと友達なれて良かった~」
お互い目を見合って、ぐちゃぐちゃになった顔を笑った。
それからはたわいもない話をした。その時間は長いようで短く、短いようで長い、持って帰りたいほど宝物のような時間だった。
「ありがとう」
「ありがとう」
「そろそろ行こっか」
「うん!」
「…」
「…」
「…えっと、ここ、どこだっけ」
「…えっと、東京」
「…東京の…どこ?」
「…分かんない」
ピンチ!道が分からない!どうしよう!携帯もバッテリーが…!
人のいない道路を歩くが歩いているだけ。目的地がない。
「すいません、私たち遠くから来たんですけどここ、どこですか?」
開いていたお店に入って、店員さんに声をかけた。
「ここは○○だよ。君たち大丈夫?」
「○○ですか。私たちは全然大丈夫なんですけど道に迷ってしまって。あと××駅の行き方を教えてくれませんか」
「あそこは」と言いながら簡単な地図を作ってくれた。丁寧に教えてくれて地図もくれた。お礼を言って出ると、早足で向かった。とりあえずは安心。
「優しい人で良かったね。私ずっと黙ってちゃった。ありがとう」
「全然。話すの得意だし」
2人で夕焼けを見ながら、東京の景色を目に焼きつけた。
新幹線の中でもたくさん喋った。そして言った。
「楽しかったね。今度は君のことを悪く言う奴らがいなくなってから来よっか。それまで私が守って、笑顔にするよ」
あ~こういう展開めっちゃ好き~~~!!!(/ω\)